最も不器用な三冠ウマ娘   作:Patch

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中山 第10R 芝2500m 有馬記念

『3コーナーを回ります。カツラギエースが先頭ですが、外に半馬身差2番手はシンボリルドルフ、シンボリルドルフです。3番手集団は固まっています!』

 

 体が重い。思うように走れない。踏み込む脚に勢いをつけてもどこか力が抜けていってしまう。

 

『外からぐんぐんとサクラガイセン!ミスターシービーはバ群の中!まだ動かない!』

 

 内を突いたのは失敗だった。コーナーでは進路が絞られて前へ抜け出せない。こんなミス、いつもならしなかった。無理矢理にでも外を回せば勝ち目があったかもしれない。

 

 

『4コーナーのカーブから直線に向きます。さあ!先頭はこのあたり!シンボリルドルフか!内から懸命にカツラギエースか!外をついてぐんぐんとサクラガイセンも来る!サクラガイセンも来る!」

 

 

 前が開いた。仕掛けが遅れたぶん、それを取り戻さなくてはいけない。

 芝を蹴ると、靴の中でずるりと足が滑った。

 今日のレースはできるだけ前につけたはずだった。ルナちゃんだって、ずっと前につけてカツラギエースをマークしていた。

 そのふたりは私のずっと前で競りあっている。

 

 今の私の姿は、きっとひどい有り様なのだろう。脚は傷だらけで、浮腫(むく)んでいて、血と消毒液の匂いがして。顔だって多分醜く歪んでしまっている。

 顔が歪んでしまうのは、脚を使い果たしたわけでも、砂を被ったわけでもない。

 もう追いつけないと分かってしまった。そんなことを思ってしまう私が憎くて、悔しくて、だから必死に歯を食いしばって、込み上げてくる何かをせきとめている。

 

 

『中からミスターシービー!!中からミスターシービー!!』

 

 私の名前を呼ぶ声がした。

 意識は前に進んでいるのに、体が言うことをきいてくれない。 

 その声には応えられそうにない。

 

 私の限界がもっと先ならばよかった。

 全盛期は既に過ぎてしまっている。ジャパンカップの際に確信した。空を飛ぶかのような足取りは既に失われた。

 私はもう、彼の知っている私ではない。

 

 思い出して欲しいのはいつだって私の綺麗な姿だ。

 こんな私を、また彼は愛してくれるだろうか。

 

 

 

『先頭はシンボリルドルフ!!シンボリルドルフ!!』

 

 

 目の前で先頭が入れ替わった。

 長いストライドに揺れる三日月が中山の坂を昇っていく。

 どれだけ憧れても、触れることすら叶わない。

 翼を捥がれた私は、ただ眺めることしかできなかった。

 

 

 

 

『シンボリルドルフ先頭だ!!2番手はカツラギエース!!』

 

 

『先頭はシンボリルドルフ!!シンボリルドルフ先頭でゴールイン!!!!』

 

 

 

『日本一は三冠ウマ娘!!シンボリルドルフです!!」

 

 

 

 

 

 

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