『3コーナーを回ります。カツラギエースが先頭ですが、外に半馬身差2番手はシンボリルドルフ、シンボリルドルフです。3番手集団は固まっています!』
体が重い。思うように走れない。踏み込む脚に勢いをつけてもどこか力が抜けていってしまう。
『外からぐんぐんとサクラガイセン!ミスターシービーはバ群の中!まだ動かない!』
内を突いたのは失敗だった。コーナーでは進路が絞られて前へ抜け出せない。こんなミス、いつもならしなかった。無理矢理にでも外を回せば勝ち目があったかもしれない。
『4コーナーのカーブから直線に向きます。さあ!先頭はこのあたり!シンボリルドルフか!内から懸命にカツラギエースか!外をついてぐんぐんとサクラガイセンも来る!サクラガイセンも来る!」
前が開いた。仕掛けが遅れたぶん、それを取り戻さなくてはいけない。
芝を蹴ると、靴の中でずるりと足が滑った。
今日のレースはできるだけ前につけたはずだった。ルナちゃんだって、ずっと前につけてカツラギエースをマークしていた。
そのふたりは私のずっと前で競りあっている。
今の私の姿は、きっとひどい有り様なのだろう。脚は傷だらけで、
顔が歪んでしまうのは、脚を使い果たしたわけでも、砂を被ったわけでもない。
もう追いつけないと分かってしまった。そんなことを思ってしまう私が憎くて、悔しくて、だから必死に歯を食いしばって、込み上げてくる何かをせきとめている。
『中からミスターシービー!!中からミスターシービー!!』
私の名前を呼ぶ声がした。
意識は前に進んでいるのに、体が言うことをきいてくれない。
その声には応えられそうにない。
私の限界がもっと先ならばよかった。
全盛期は既に過ぎてしまっている。ジャパンカップの際に確信した。空を飛ぶかのような足取りは既に失われた。
私はもう、彼の知っている私ではない。
思い出して欲しいのはいつだって私の綺麗な姿だ。
こんな私を、また彼は愛してくれるだろうか。
『先頭はシンボリルドルフ!!シンボリルドルフ!!』
目の前で先頭が入れ替わった。
長いストライドに揺れる三日月が中山の坂を昇っていく。
どれだけ憧れても、触れることすら叶わない。
翼を捥がれた私は、ただ眺めることしかできなかった。
『シンボリルドルフ先頭だ!!2番手はカツラギエース!!』
『先頭はシンボリルドルフ!!シンボリルドルフ先頭でゴールイン!!!!』
『日本一は三冠ウマ娘!!シンボリルドルフです!!」