「来い!!ミスターシービー!!」
その想いは声にはならない。
最終直線、命を削るかのような激しい追い比べに、声を上げられるだけの余裕などありはしない。
これから、あのミスターシービーがやって来る。凄まじい切れ味を持った末脚で、私を打ち倒さんとしてやって来るのだ。
この昂りを抑えられるわけがない。ジャパンカップでは海外勢に封じ込められてしまったその刃が、私の首を刈り取ろうと閃くのだろう。
私は、彼女の末脚に恋をした。
最後方から全てを撫で切る。勝てないかもしれない、負けてしまうかもしれない、そんな不安を他所に我がままに駆け抜ける。
ターフの上で彼女は最も自由だった。常識も、セオリーも彼女を縛る鎖にはなり得ない。ただ遊ぶように、ただ笑うように彼女はただ走っていた。
そんな走りは全てを忘れさせてくれていた。
積み上がる生徒会長としての職務、怪我による海外遠征の中止、生徒への理解が無い学校上層部、多忙により削れる練習時間、交友関係、私が描く理想との乖離。そして、私はまだ『ミスターシービー』ほどには至らないという現実。
胸がすく思いだった。何もかもを投げ捨てて走りたいと思わせるほどに素晴らしい走りだった。
だから人々は『ミスターシービー』を主役に選んだ。このグランプリの舞台でもそうだ。
どんな苦境でもそれを乗り越えたいと思うのが心理の常である。それは『夢』であり『希望』、あるいは『理想』というのだろう。彼女の追込という戦法にそれを重ね合わせているのだ。
キミは
だが、私も夢を譲るつもりは無い。
私が名前で呼ばれなくなったのはいつからだろうか。親しかった友人も、生徒会の仲間達も、今では誰もが私を『会長』と呼ぶ。
強さは私を孤独にさせた。私はただ、全てのウマ娘の幸福のために走っていただけなのに。
辛くないわけがない。それでも私は勝たねばならない。勝利の先に描く『理想』は、私と私が摘み取ってきた全ての『夢』の救済なのだから。
キミは学園を去ったウマ娘の名前を覚えているか。キミはキミに負けたウマ娘がどんな顔をしていたか思い出せるか。
彼女達は決して
私は彼女達にもう一度笑ってほしい。もう一度走ってほしい。だから私は勝たねばならないのだ。
キミとは背負っている物が違う。
キミが主役なら、私はウマ娘の
『中からミスターシービー!!中からミスターシービー!!』
歓声が一層強まり主役の登場を知らせる。
風を切り裂く足音が、私を追う。
誰もがその登場を待ち望んでいた。私だってそうだった。
私はキミを超えなければならないのだから。
『シンボリルドルフ先頭だ!!2番手はカツラギエース!!』
『先頭はシンボリルドルフ!!シンボリルドルフ先頭でゴールイン!!!!』
『日本一は三冠ウマ娘!!シンボリルドルフです!!」