最も不器用な三冠ウマ娘   作:Patch

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雪月花

『一年の計は金杯にあり、金杯(東)スタートしました!』

 

 有馬記念は無事に終わり、年が明けた。

 私は正月気分も早々に仕舞い込んでこうして机に向かう。生徒会長として文武両道はもちろん、さまざまな職務をこなさなくてはならないため休める期間は限られている。

 

 この時期になると業務は逼迫する。年が明けたということは世間一般でも大きな変化の節目になることがあり、それはトレセン学園も例外では無い。

 その理由として浮かび上がるのが、人の移動。つまりは退学届と転属願に生徒会の判を押す、ということだ。

 業務としては簡単な部類に入る。学園職員の押した判の隣に、ただ判を押すだけでいい。しかし、他の誰かに任せるわけにはいかない。この書類の山は私の至らなさであり、私の罪だ。

 

 

 

『……先頭でゴールイン!勝ったのはクロシェットマーチ!!ツルノヨイチは連覇ならず!!』

 

 

 気を紛らわせるために付けていたテレビが、レースの勝者の名前を謳う。

 クロシェットマーチは私と同期でデビューしたウマ娘だ。弥生賞、皐月賞、日本ダービーで対戦している。

 ツルノヨイチはミスターシービーと同期であり、共同通信杯、弥生賞、京都新聞杯、菊花賞で対戦していた。

 彼女達の名前はこの書類の上には無い。

 

 深いため息をつき、もう一度書類に目を向ける。すると部屋の扉が3回鳴った。

 

「あけましておめでとうございます、会長さん。」

 

「キミは……。」

 

 

 扉が開き、入ってきたウマ娘が時候の挨拶とともに深々と礼をする。その姿は品の良さを感じさせた。

 彼女のことを忘れるわけがない。私と彼女はクラシック戦線で激しくぶつかり合った仲だ。

 

 

「脚はもう、いいのか……?」

「はい、おかげさまで。」

 

 皐月賞では私と彼女で人気を二分した。ダービーも同様だったが、距離適正から大敗し、私が菊花賞に足を進めた裏で、彼女は今年から新たに整備された短距離路線へと進んだ。

 そして、そのレースで彼女は故障した。

 

 

「有馬記念、優勝おめでとうございます。共にクラシックで争った友人の勝利は、わたくしとしても鼻が高いです。」

 

「お世辞はよしてくれないか。キミに言われると、なんだ……、その………。」

 

「その?」

 

 彼女は微笑みながら私を見つめ直す。その顔を見て私は後悔に苛まれた。

 

 

「私を……、恨んではいないだろうか……。」

「なぜ、わたくしが貴女を恨むんですか?」

 

「皐月賞だ……。」

 

 

 私は皐月賞で彼女と衝突した。コーナーの外を回る際に遠心力に振られ、彼女の進路を妨害した。

 結果は私の勝利で確定した。だがもしも衝突していなければ私は勝者ではなかったかもしれない。

 

 

「わたくしも、弥生賞で貴女の脚を蹴ってしまいました。今ではちょっと懐かしいですね。」

 

 口元を押さえて彼女が笑う。あのときから彼女は変わらない。どこまでも優しく、そして彼女は強かった。

 

 

「今年はキミとも走りたい。やり残したことが、沢山あるんだ。」

 

 

 

「ごめんなさい。わたくしに今年は無いんです。」

 

 微笑んだまま彼女はそう言った。

 

 

 

 

「歩くことはできても、競争能力までは戻らなかったんです。だから、今日はこれを。」

 

 

 先ほどまで眺めていたものによく似た書類が、なぜか一枚だけ彼女の手元にある。

 唯一の違いは、そこに彼女の名前が記されていることだった。

 

 

「では、わたくしはこれで。」

 

「待って!待ってくれ!!()()()()()()!!」

 

 

「わ……私はっ!!私は────!!」

 気がつけば私は叫んでいた。

 何を叫んでいたかは、覚えていない。

 

 

「もう、その名前で呼ばないでください。諦めきれなくなりますから。」

 

 

「バイバイ、ルナちゃん」

 

 

 

 彼女がそう言ったことだけは覚えていた。

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