最も不器用な三冠ウマ娘   作:Patch

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お前だけには

「くそッ……!!!!!」

 

 凱歌のように、歓声が上がった。

 彼女の登場を皆が待ち望んでいた。

 

 倒されるべき怪物(シンボリルドルフ)にとって、それは絶望への序曲だった。

 

『先頭は!!』

 

 私がいくら倒そうとも、その名を呼ぶことは止められない。

 彼女は何度傷を受けようとも、ここまで立ち上がってきた。

 勝利の栄光も、絶対の強さも、彼女の元に霞んでいく。

 

 彼女の勝利は、観客の夢そのものだからだ。

 

 

『先頭は!!ミスターシービー!!』

 

 

『坂の登りで仕掛けました!ミスターシービー!!』

 

 

 

 淀の坂を登ってゆく背中は、春の日差しを反射する。

 まるで白い翼が生えているかのようだった。その輝きが私の目に刺さる。

 

 

 私は叫んだ。

 お前だけには負けられない。

 お前の勝利だけは、絶対に許さない。

 

 

 お前さえいなければ、私は悪役となることはなかった。

 何度打ち負かそうとも、お前はずっとヒーローだった。

 

 私は全てのウマ娘のために走っている。全てのウマ娘が、かつてのお前のように楽しげに走ることができればと、そう願っていた。

 私は悪役でも良かった。この走る苦しみがウマ娘のためになるのであれば、全てを受け入れるつもりだった。

 

 だが私は、私のようなウマ娘を後の世代に生み出すわけにはいかない。

 

 勝利の栄光は揺るがない。どんな夢さえも侵すことはできない。私はそれを確固たるものにするため、お前に勝たなくてはならない。

 ヒールも、ヒーローもない。ただ身命を賭して駆けるものたちに、ただのひとつも違いは無い。

 勝利してもなお、悲しみしか与えられないというのであれば、誰も夢など抱けない。

 

 全てのウマ娘の幸福のため、この覇道は誰にも邪魔させない。

 だから私は、お前には負けられない!!

 

 

 私はグッと脚に力を込めた。策などは無い。

 全力の走りで、お前を超える。

 お前との叩き合いを、ここで演じてみせる。

 

 

 単騎で3番手まで上がった。

 前方にはミスターシービー。そして彼女に併走するようにリョウゼンエボシ。

 

 まだ遠い。だが、ここからだ。

 お前と私で、最高の舞台にしよう。

 

 

 4コーナーを回って、直線に向いた。

 あと少しだ。あと少しだ!!

 

 お前と私で、夢のその先へ行こう。

 誰もが望んだ、三冠ウマ娘同士の叩き合いだ!!

 

 

 

 

 飛び散る汗が、日差しにきらめいた。

 キミの背中を追うことは、私の夢でもあった。

 

 この時間を、永遠に味わっていたい。

 だが運命は、それを許してはくれなかった。

 

 

「シービー……、キミは…………!」

 

 

 彼女が見せたあの輝きは既に失われていた。

 もう燃え尽きていた。

 

 乾坤一擲の追い込み、そこに全てを賭けていたのだろう。

 体制が崩れ、ふらついている。

 脚色も悪く、彼女に勝ち目が無いということは明らかだった。

 

 それでも、彼女の目に私が映ることはない。

 ただまっすぐ、ゴールの先に見える青空を見つめて走っていた。

 

 

 死にゆく星が見せる最後の煌めきのように、彼女は再び輝いて見せたのだ。

 勝ちたい、勝ちたい、と彼女の燃え尽きた魂の残滓が叫んでいる。

 勝利にかける悲痛な思い。それは競争ウマ娘であれば誰しもが経験するものである。

 だがキミだけは、違ったはずだった。

 最も自由なウマ娘であるキミは、いつもレースを楽しんでいた。何者にも縛られず、ただ自分の走りで勝負を掴む。私はその姿に憧れていたんだ。

 

 彼女の頬に伝うものは、汗だけではなかった。

 それでも私は、彼女の夢を摘み取らなくてはならない。

 

 

 

 

 

 

『体を併せた!!シンボリルドルフ!!ミスターシービーはやや後退した!!』

 

 

『内からはニシノライデン!!外を突いてサクラガイセンも来た!!』

 

 

『シンボリルドルフだ!!先頭はシンボリルドルフだ!!五冠のゴールまであと100mを切りました!!』

 

 

 私は駆けた、力一杯に。

 押し寄せるこの感情から逃れるように、ただ無心に駆けた。

 

 

 

『シンボリルドルフだ!!シンボリルドルフ先頭でゴールイン!!』

 




春天のレース内容書くかどうか死ぬほど悩んでました

結局書くことにしたのでその他いろいろ調整していきます
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