無理をするなとは、なかなかにひどいことを言ってしまったと後悔の念に苛まれる。ここに集まったウマ娘たちは血の滲むような研鑽を積み重ねてきた者たちだ。
1番人気はシェイプオブユーだった。だがそれはレースの結果に比べれば些細なことに過ぎない。
彼女たちには、涙に暮れた日もあるだろう。誰かの才能を羨みながら、自らの至らなさを噛み締めたこともあるだろう。
シェイプはまだ、どちらも知らない。連戦連勝、まさに最強と呼べる彼女は、未だ敗北を知らない。
世界最強という夢はすぐそこにある。彼女たちは無理など承知の上で死に物狂いでシェイプに敗北を味わわせに来る。能力が落ち始めた彼女を討ち取り、私が最強だと名乗りをあげるには絶好の機会だ。
半端な覚悟では挑むことすら許されない。ひとつの勝利で人生が変わる。シービーもそうだったようにこの地を踏めずに涙を呑んだウマ娘も多い。
世界最高峰の舞台、そこに名を連ねるのは世界一の優駿たち。KGⅥ&QESとはそんなレースだ。
シービーをこの舞台に連れて来ることはできなかった。それに後悔がないわけではない。
足が砕けるほど走ろうとも、筋が裂けるまで足掻こうとも、弱者には触れることすら許されない勝利の栄光。それが俺たちの目の前で凛然と輝いている。王の名を冠したこのレースで、最強の女王がまた歴史を紡ぐのだ。
妙な静けさが場を包んだ。ひとり、またひとりとウマ娘がゲートへと入っていく。その度に観客たちの口数が減っていく。
じわりと汗が染み出してくる。緊張と焦りが静けさのなかで浮き彫りになる。それは周りの観衆も同じようだった。
ひりついた空気の中で観衆の視線がゲートへ釘付けになる。静けさのなかで彼らは確かに熱狂していた。
静寂は突如として破られた。歓声とも悲鳴ともつかない声がこだまする。
いや違う、これは生誕を祝う讃美歌だ。新時代の最強が産声をあげようと駆け出したのだから。
11番のパノプリアが好スタートを切る、しかし1番のウインドアンドファイアがハナを主張した。
そのまま先頭は2バ身、3バ身と後続を突き放す。縦長の展開、スタミナの削りあいになった。
シェイプは先頭から6バ身ほど離れた5番手、余裕を持って好位を獲得する。すぐ後ろには日本のシリウスシンボリが居た。
一団はそのまま第1コーナーを目掛けて駆け抜ける。このコーナーの攻略がレースの勝敗を左右するだろう。
アスコットレース場の11
最大高低差は約22mにも及ぶ。日本のレース場など比ではない。最終直線に至るまで、ご丁寧に2段坂まで設けられている。コーナーは全て鋭角であり、スタミナだけではなく侵入時と再加速時に足腰の強さも求められる。
コーナーを抜け、先頭はさらに差をつける。3名がそれを追い、残りは一団となって固まっている。
シェイプは集団の先頭でじっくりと好機をうかがっていた。そして今まで彼女の後ろに位置取っていたシリウスシンボリは最後方にまで位置を下げてしまった。
長い直線、先頭は快調に飛ばし逃げ切りを図る。1段目の坂を越えバ群には焦りが見て取れた。
このまま追いつけるのか、逃げ切りを許してしまうのか、観客たちも大声でがなり立てる。
2段目の坂に差しかかった。この後に待ち構えるのは最終コーナーと500m余の最終直線。バ群は圧縮され、進出を開始する。
坂を超え、最終コーナーを迎えようとしたそのとき、罵声は歓声に変わった。赤いドレスが風にはためきながら前へ、前へと進んで行く。
私こそが勝者だと、未だ私は最強なのだと、そう名乗りを上げて先頭に食らいつく。
先頭は飲み込まれぬように必死に逃げる。背後から迫るのは最強の名をほしいままにする赤だ。負けられない。負けたくない。懸命に走る姿からはそんな声が聞こえてくる。
シェイプオブユーがスパート体制に入ったのだった。
時間や環境のせいじゃなくて…
俺が悪いんだよ
更新できないのも
チャンミで勝てないのも
全部俺のせいだ