最も不器用な三冠ウマ娘   作:Patch

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crush (on)

 あともうひと伸び。足りなかったのはそれだけだ。以前ならば得意な11f(ハロン)211yd(ヤード)(≒2400m)の距離でふらつくこともなかった。

 はじめての敗戦。不思議と涙は出なかった。だが、胸にぽっかりと穴が空いたようで、どこか夢見心地である。どうにも現実として受け入れることはできない。

 明日目覚めて練習場に向かう時には、また変わりなくチームのみんなが明るく話しかけてきてくれるのだろう。何も変わらない。それでいい。そうであってほしい。

 

 ベッドの中で丸まりながら、私はただあのときのことを思い返していた。

 私の名前は呼ばれなかった。噴き出る汗も、顔についた泥も拭わずに、勝利に沸くスタンドを眺めていた。

 叫ばれる誰かの名前が何度もリフレインする。控室に戻る際も、その名前が遠くで響いていた。

 音がしているというのに、通路はむしろ空虚で、静けさが際立っていたように思える。

 それがとても寂しくて、切なくて、心細かった。

 

 ふらふらとその通路を歩いていると、突然私の名前が呼ばれた。彼が、通路で私を待っていた。

 久しぶりに聞く私の名前は、私を妙な気分にさせた。

 

 私は負けた。

 競り合うことも許されないその一瞬で、差し切られた。

 それなのに、彼は私の名を呼び、優しく抱きしめた。

 

 

 汗の匂いと、キャンディーの甘ったるい匂いがした。

 不思議と、嫌ではなかった。

 

 

 彼はぎこちない微笑みを浮かべながら、帰ろうか、と優しく声をかけた。私は彼に手を引かれて控室に向かった。

 

 

 

 もう一度、私の名前を呼んでほしい。

 もう一度、勝ったときに、私の名前を呼んでほしい。

 

 

 偽りの微笑みではなく、心からの喜びを与えたい。

 そう思った。

 思ってしまった。

 

 

 

「オレ……負けたんだな…………。」

 

 独りごちても、それは宵闇に飲まれて何処かへと消える。ここにあるのは、握りしめられ、皺になったシーツだけだ。

 

 

 偽りの微笑みは、優しさだった。

 私はそれに報いることすらできない。

 

 たくさんのものを受け取ったのに、私が欲しがった栄光を掴むチャンスをくれたというのに、報いることはできなかった。

 

 

 失った相棒(ミスターシービー)にも、報いることができなかった。

 

 

 私が、また台無しにしてしまったのだ。

 夢などではなかった。全て、私がしてしまったことだった。

 

 

 視界がぼやけ、シーツを握る手に血が滲む。

 優しさに報いたい。それでもきっと私はかなわない。

 

 私の能力は、既に落ち始めている。

 このレースの結果が、何よりの証拠だった。

 

 

 

 

 




更新遅れてすみません


今更ですが
辛すぎて吐きそう

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