蝋燭にライターで火が灯される。そこに火薬の入った房を近づけるとパチパチと小さく火花が散り始めた。
「おまえ……、真っ先に線香花火かよ……。」
「いいじゃん、花火に順番なんて決まってないよ?」
小さな火種は燃え尽きるまで力いっぱいに火花を散らす。だけどそれは器用な人が持ってこそだ。
「あっ……。」
私が持っていた線香花火はすぐに種火が落ちてしまった。
地面に落ちたあと、最後の力を振り絞るかのようにひとつ、ふたつと小さな火花を散らして、黒く萎んでいく。
「種火が落ちない線香花火があればいいのにね。」
私は線香花火があまり好きじゃない。どちらかと言えば好きな部類に入るのだろうけど、最後まで種火を落とさずに居られたことがない。
ふつふつと沸騰しているかのような姿は愛嬌がある。大きくなろう、大きくなろうとたくさんの火花を散らすのは、きっと彼らの夢なんだろう。
でも私が線香花火を持つと、すぐに種火を落としてしまう。これから大きくなるはずだったのに、これからもっと華やかになるはずだったのに、私のせいで彼らはその夢を追うことが出来ずに力尽きてしまう。
地面に落ちて黒く萎んでしまう種火の姿はどこか物悲しい。楽しいはずの花火が、私のせいでどこか白けたものになってしまう。だから私は最後に線香花火をすることがあまり好きじゃない。どうせなら、最後に大きな吹き出し花火をして明るい気持ちで終わりたい。
「質の良いものは落ちにくいとは聞いたことあるが、それは無理だろうな……。」
トレーナーさんが買ってきた花火は、夏になればどこにでも売っているような手持ち花火と吹き出し花火のバリューパックだ。ひとつで500円もしない。花火業界にとって夏は稼ぎ時だ。その体制を批判するわけではないけれど、これでは質が良いと言えるものは入っていないだろう。
「トレーナーさんは器用だね。」
「いや、そうでもないぞ。」
トレーナーさんが持っている線香花火は大きく大きく火花を散らしていた。彼岸花のような眩しい花びらがとても綺麗だ。
「ポイントは種火の近く持つこと!線香花火の火花はあんまり熱くないからな。」
だがそれも数秒すれば小さくなる。やがてひとつも火花が出なくなり、穂先で黒くなって萎む。
「花火ってさ、消えるとき…、少し悲しいよね。」
種火を落とさずとも彼らの命は短い。だからこそ花火は美しいのだろう。
「なんだ?やけにしおらしいじゃないか。」
「ちょっと感傷に浸りたい気分なの。」
「そういうモンなのかな、花火って。」
トレーナーさんは気まずそうに頬を掻く。花火は好きだけど、やっぱり私のせいで華やかさも白けてしまう。
「そうだ、シービー。面白いものを見せてやろう。」
少しの沈黙のあと、トレーナーさんが何か思いついたかのように話し始める。
「どれが良いかな〜っと。おっ?コイツならイケるな!」
トレーナーさんはガサガサと花火を漁る。吹き出し花火をひとつ手に取ると、水の入ったバケツを持ってきた。
ゆっくりと花火を蝋燭に近づける。目の前で鳳仙花のような眩しい光が咲いた。
「何するの?」
「良いから見てろって。」
トレーナーさんはその花を水面に近づける。反射した光も綺麗だ。
花はさらに水に近づいていく。
「ほら、見えるか?シービー。」
手持ち花火は水中に沈んだ。それでも穂先の花は美しく咲いている。
「花火は儚くなんかないさ。こうして力強く咲いているんだ。」
驚きに言葉を失う。それでもトレーナーはゆっくりと続けた。
「ウマ娘だって同じだろう?短い全盛期を力いっぱいに走り抜けるんだ。その美しさは花火なんかの比じゃ無いさ。」
「トレーナーは特等席でそれを観られる、いやー贅沢なもんだねぇー」
「俺はそんな風に生きてみたいって思うよ。」
彼はどこか遠い目をした。
数秒、水中に咲く炎に見惚れていると、彼がまた悪戯っぽく笑う。
「しんみりしててもしょうがねえ!コツは教えた!次は線香花火で競争といこうぜ!」
「うん、いいよ。競争だったら、負けられないね。」
また線香花火に火をつける。
「よっしゃー!!俺の勝ち!!」
「もう一回、次は負けないから。」
何度火をつけても、やっぱり種火を落としてしまう。
でもその光はいつもより華やかで、少しだけ眩しい気がした。