ドンカスターは平坦なコースだと言われている。確かに、エプソムやニューマーケットのような大きな坂はない。すでに能力に翳りが見られるシェイプにとってはむしろ好都合なものである。
だが、セントレジャーステークスに至ってはコーナーが2つある左回りワンターンのコースレイアウトとなっている。そのため前半から中盤のリードが終盤にも大きく響く。
そしてこの距離はシェイプとっては未知の領域。最後には意地と根性での競り合いになる。他の彼女たちにとっては違うかもしれないが、シェイプとってはきっとそうなる。
脚を余すことなどできない。全てを出し切らねば、勝ち筋など見えはしない。序盤・中盤・終盤、その全てで優位を取らなければシェイプは負ける。3分にも及ぶこのレースで一瞬たりとも気を抜くことなどできない。
ゲートにウマ娘たちが入っていく。その様子に誰もが唾を呑む。
息が切れるほどの緊張が辺りを覆っていた。私の手が震えるのも、老いだけが理由なわけではないだろう。
未だ残暑が残る時期ではあるが、私は嫌な寒気に襲われていた。
恐ろしい考えが、何度も私の脳裏をよぎるのだ。言葉にすることすら憚られるそれが浮かんでは消えてを繰り返している。
だがそんなことはあり得ない。あり得てはいけない。私はクソったれな運命とやらにそれをさせないためにここに居る。
震える手を強く握り込む。軋む関節が鈍い痛みをもたらすが、そんなものはどうでもいい。
想像するのは、最高の結末だけでいい。私は彼女の勝利だけを信じている。
体制が整い、一瞬の静寂が訪れる。次の瞬間、レース場がうなりを上げる。
シェイプは絶好のスタート。力強く芝を蹴り上げ、先頭に立った。
だがそれを許さぬ者が居る。内枠から2名、猛然と彼女を抜き去って行く。
シェイプはそのまま位置を変えず3番手を追走する。やはり好位抜出を狙うつもりのようだ。
これまで全てのレースで、彼女はこの好位抜出を行い勝利を収めてきた。シェイプにとっては絶対の自信がある、王道の勝ち筋と言えるだろう。
だが裏を返せば、それは手の内が知られているということである。無論、相手もバカではない。そして、シェイプはこのレースに至っても1番人気。もちろん彼女の勝機を摘み取るために策を張る者も居る。
2名の逃げウマ娘が後続を突き放す。全体のペースが上がり後方の4名のバ群がどんどんと縮まっていく。
「くそっ……。」
シェイプの左、半歩ほど後ろが塞がれた。
これでは内に入ることもできず、ペースを落として息を入れることもできない。
後ろから押し出されるままにバ群の先頭を走らされ、ただいたずらにスタミナが削られていく。
そのままコーナーへと入った。
シェイプは上体を振りながらも懸命に走る。
ただ純粋に、走ることが好きだったシェイプが。
あどけない夢を語っていたシェイプが。
もがくように、しがみつくように、懸命に走っていた。
死ぬほど難産だった(没稿いっぱい)
そのわりに全然気に入ってないから変えるかも