最も不器用な三冠ウマ娘   作:Patch

14 / 152
秋雨と彼女

 芝は少しだけ黄色味を帯びてくる。たくさんのウマ娘がその上を走るため、だんだんと短くちぎれていく。

 風は冷気を纏い、雨と晴れを繰り返す。これでは外でトレーニングができない。コロコロと様子を変える秋の空はどこかシービーと似ている。

 

 

「おいシービー、ポヨンポヨン弾むだけがバランスボールのトレーニングじゃないぞ。しっかり重心を落として、膝で挟んだ状態で止まってみろ。」

 

「はーい。」

 

 シービーがバランスボールに座り直す。膝で挟んで静止したかと思うと、ずるりと左側に転げ落ちた。

 

 

 

「おい、大丈夫か?」

「結構難しいね……。」

 

「どこもぶつけてないよな?捻ったりもしてないよな?」

「大丈夫だって、トレーナーさん、この夏でやけに世話好きになったんだね。」

 

「ああ、そろそろデビュー戦も考えなくちゃいけないからな。」

「もう、そんな時期なのかぁ。」

 

 

 

 春はクラシック級とシニア級が分かれて争う春GⅠレースのシーズン、夏は1000mを始めとする短距離から2000mまでの中距離重賞が中心に行われるサマーシーズン。秋はクラシック級で名を挙げたウマ娘と歴戦のシニア級がぶつかり、その年の最強ウマ娘を決める秋GⅠレースのシーズンが続く。

 

 ジュニア級のメイクデビューは初夏から冬にかけて行われることが多い。これにはウマ娘の『本格化』という要素が絡む。

 ウマ娘の『本格化』は非常に大きな個人差がある。流星や体毛の色、食事量の変化など発現した際の症状なども様々だが、『本格化』する年齢も様々なのだ。小学生の時期に『本格化』の兆候が現れてしまい、トレセン学園に飛び級で入学する者も居れば、『本格化』に至らずにヒトと変わらない生活を送り、一生を終えるウマ娘も存在する。

 そして、ウマ娘は冬から春にかけての出生率が高いというデータもある。そのため、出来るだけ多くのウマ娘がレースに出走できるようにと、メイクデビューは初夏から冬という長期間にかけて行われるのだ。

 

 

「俺の見立てでは10月末から11月を目処にデビュー戦を組みたい。異論はないか?」

 

「ちょっと遅めだね、大丈夫なの?」

 シービーは首を傾げて言う。もちろん遅めのデビューには理由がある。

 

 

「これまでずっと体作りのトレーニングを行なってきた。よく考えてみろ、まだ少ししかコースを走ってないだろう?」

「確かにそうだね。」

 

 これまでチーム練習でやってきたことは、基礎トレーニングに水風船にツイスターに自転車、雨の日はバランスボールとゲームと将棋。休みには外に出かけて様々な体験をした。

 これはシービーが気まぐれに外を走ることを見越してのことである。雨の日も晴れの日も、気分が乗れば彼女は外に走り出す。

 どれだけ速くともまだ彼女はデビュー前である。重いトレーニングを課すことは怪我の原因になる。それだけは避けねばならない。

 

「これから、本格的な練習になる。デビュー戦に向けてしっかりと追い切っていこう。」

 

「わかったよ。じゃあ、外を走らなきゃね。」

「おい待て!外は雨だぞ!!」

 

 静止を振り切って、シービーは外に駆け出していく。

 

「ほら!こんなにもいい天気だよ!!」

 彼女は大きく手を広げて、その身で雨を受ける。

 

 

 秋の雨は春よりも冷たい。それでも彼女は無邪気に笑っている。

 レースは時として、その雨よりも冷たく、冬の雪よりも冷酷になる。彼女はまだそれを知らない。

 だが冷酷な冬を知るからこそ、花開くものがある。実るものがある。

 俺は彼女が実りをつけるまで、それを暖かく見守ろう。

 

 

 

 

 




みんなー!オラに高評価を分けてくれー!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。