最も不器用な三冠ウマ娘   作:Patch

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第五幕 Unchained melody
Cocktail


 春は激闘と波乱が渦巻く様相であった。

 三冠ウマ娘同士の直接対決となった天皇賞・春、グレード制導入によって整備されたマイル・スプリント路線の拡充と「マイルの皇帝」の誕生、圧倒的な強さを見せた皐月賞ウマ娘の骨折とダービー回避、シンボリによるダービー連覇と当事者であるシリウスシンボリ・シンボリルドルフ両名による長期海外遠征計画の発表、シンボリルドルフの故障による宝塚記念出走取り消しと遠征計画の頓挫。そしてミスターシービーの引退。

 やりきれない思いはいくら数えてもキリがない。だがこれから秋のG1シーズンが始まっていく。やることは山積みであり、どうにも手が回らないと感じることが多くなってきた。私の教え子であるシンボリルドルフとの関係もうまくいっていない。

 ルドルフは故障の後、全身の痛みに襲われていた。跛行とは因果関係の無い原因不明のものであり、治療は難航していた。あらゆる治療の甲斐もなく引退も視野に入ろうかと言うとき、民間療法のひとつである笹針が功を奏し、なんとか回復に至った。

 今のルドルフは病み上がりで本調子では無いものの、気合は十分に載っている。トレーニングメニューに意見をすることも増えた。柔和な口ぶりではあるが、その目は妖しく光り輝いていた。

 だがそれが、空回りしているように思えてならない。トゥインクルシリーズを率いていくという義務感によるものなのか、今の状態に危機感を覚えているのか。それは彼女さえも知るところにはないのだろう。

 今のルドルフには既にライバルと言えるような存在はない。こう言えば、ルドルフは否定するだろう。だがそれは確かな事実である。

 同じ三冠ウマ娘として並び称されたミスターシービーは一度も先着することが叶わず登録が抹消された。ジャパンカップで土をつけられたカツラギエースには彼女のラストランできっちりと借りを返した。そして同じくジャパンカップで先着されたイギリスのウマ娘、ビトウィーンシーツは休養に出されている。

 わからない。トゥインクルシリーズを率いるというのであれば、それは既に達成されていると言ってもいい。誰もが口を揃え、『最強はルドルフだ』と言うまでにもなったのだから。だがそれすらも越え、ルドルフは何を生み出そうと言うのだろうか。

 だがそれはきっと知らなくてもいい。知ろうとすれば出ることのできない思考の迷路に迷い込むことになる。

 そこに一抹の悲しみを覚えないわけではない。しかし私はウマ娘でもなければ、シンボリルドルフでもない。私はトレーナーであり、東条ハナである。

 これは思考停止に他ならない。しかしそうでもしなければ、この不和はますます大きくなるばかりだ。

 心には誰にも触れられたくないものがある。私はきっとその直前にいるのだろう。そこに踏み入ってはならない。ただ踵を返し、背を向ける。私はそうするべきであり、それしかできないのだから。

 人付き合いは、得意ではない。人の気持ちを読み取ることも、自分の気持ちを伝えることも、私は苦手だった。だから机に向かい、ラップトップのキーボードを叩き続ける。この形で私はルドルフと向き合うしかない。

 

「はぁ……。」

 

 思わずため息がでてしまう。眼鏡を外し、眼頭を抑えるとじわりと涙が滲み出して、乾燥した目に行き渡る。

 今日は少し、呑んで帰ろう。そう思い荷物をまとめ、席を立つ。以前とは違って話相手はいないけれど、今の私にはきっとその方が都合がいい。

 アイツの前では言いたくもないことを言ってしまう。互いに嘘だってつけない。自然体とでも言うのだろうか。良いこともあるのだろうけれど、一度綻びが生じれば、それを繕うことのほうが難しい。

 彼に対するような態度で、教え子に接するわけにはいかない。彼との関係だって、昔とは違う。今では追うべき存在であり、ライバルなのだから。

 

 

 バーに着き、重い扉を押す。暖色の間接照明の色が隙間から漏れ出してくる。

 中に入るとひとり先客がいた。私がいつも座る席の隣でグラスを静かに傾けていた。

 

「どうして、ここにいるの……?」

 

 

「イギリスは、冬の終わりまでオフシーズンなんだ。」

 

 私が尋ねると、男はそう言って寂しそうに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 












アニメ版の登場人物ではおハナさんがいちばん好きかもしれん
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