後ろからのレースも検討したほうがいいのだろうか。だがシービーのことだ。型にはめられるようなトレーニングをしてもいいのだろうか。
メイクデビューこそ、良いスタートを切ることができた。だが、続く黒松賞では出遅れた。向こう正面で追い込みをかけ、先行するイブニングスノウとの叩き合いの末にクビ差の辛勝という結果だった。
そして、ひいらぎ賞では敗戦する。
1着はピーチシャロー。クラシックへと名乗りを上げているウマ娘だ。
入れ込んで大きく出遅れたシービーは焦りからか本来の走りが出来なかった。直線では彼女を捕らえるものの、最後の根性勝負で競り負けるという結果だった。
シービーが持つ足の一瞬の切れ味はスプリンターやマイラー向けだ。そのことを考えると、彼女の適正は1600のマイルから2000までの中距離、行けて2400、といったところだろう。
体力を温存し、コーナーで前に取り付く。直線で末脚を爆発させ抜き去っていく。そういった走りもできないわけではない。むしろ、ゲート難のある彼女には合っているかもしれない。
だが、レースを走るのは彼女、ミスターシービーだ。俺がとやかく言うことではないのかもしれない。彼女の信念を歪め、信頼関係に亀裂が入るようなことは避けたい。
「三冠ウマ娘ねぇ……。」
クラシック三冠、皐月賞・日本ダービー・菊花賞の3レース。それぞれ2000・2400・3000の中長距離レースとなる。シービーの距離適正を考えると厳しいレースだ。
シービーの走りは素晴らしい。それは疑いようのない事実だ。既にシービーのクラシック制覇を期待する声もある。だが、距離適正を越えるということは、想像以上に難しい。
3000mは超長距離レースに分類される。そして会場となる京都レース場外周りには3コーナーに『淀の坂』。向こう正面で追い込みをかけたとしても、失速すれば意味はない。下りで加速したとしても、脚の負担が増すだけだ。
「ハナにあんなこと言わなきゃ良かったなぁ……。」
菊花賞は11月。考えていてもしょうがない。まずは出走が決まった共同通信杯と、皐月賞トライアルの弥生賞に専念するべきだろう。
一息つくために胸ポケットからタバコを取り出す。だが、ライターが見当たらない。代わりに入っていたのは、ジェンガのブロックだった。
「あいつ……。」
仕方なく、キャンディーを舐めることにした。袋を破いて口に咥えたときに、スマートフォンがけたたましく鳴った。