スインギーウォークとミスターシービーがコースの上を縦横無尽に走り回っている。今日はカノープスが利用申請を出しているため、『スインギーウォークとの併走トレーニング』という名目でシービーも利用させてもらっている。
側から見ればその様子はただの鬼ごっこだ。
「なあ、南坂。条件戦のことは考えてくれたか。」
「はい、スインギーさんに関しては私が一任されているので、出走許可をいただけると思います。」
「そうか。」
シービーがスインギーウォークを追う。
必死に逃げているが、まだ彼女に逃げ切るだけの脚はない。
「タッチ!スインギーが鬼ね!」
「まてー!!」
本当にただの鬼ごっこだったようだ。
黒鹿毛のふたりがはしゃぎながら駆ける姿はまるで姉妹のようで微笑ましい。だが、その裏にどことなく悲しさを覚える。
「もっと遊びたい歳頃だろうになぁ……。」
「そうですね……。」
学園に所属するウマ娘は中学生から高校生まで。この学園に入っていなければ、友達の家で遊んだり、化粧を覚えてみたり、恋をしてみたりといろいろできたはずだ。
それでも彼女達は、ここで走ることを選んだ。
自由にのびのびと駆ける姿はレースとはまた違ったものだ。止まりたい時に止まり、休みたいときに休む。前にも、横にも、後ろにも進める。ぴょんぴょん飛び跳ねてみたり、転がり回ってみたり。
スインギーがふらふらとよろけて、ぱたりと転んだ。泥だらけになっても彼女は笑顔だ。
「スインギー!シービー!話がある!こっちに来てくれ!」
呼びかけると、ふたりはとてつもない勢いでこちらに向かってきた。
「楽しかったか?スインギー。」
「うん!楽しかったよ!おじちゃん!」
「おじちゃんって……。」
「おじちゃんのトレーニング、楽しいよね。」
「シービーまで……。」
シービーはからかうように笑う。
元気で、少し生意気で、愛嬌があって、そこだけは同年代の他の女の子たちと変わらない。
「よし、遊びはここまで!真面目な話だ。シービー、来週は共同通信杯だ。前回負けた相手、ピーチシャローも出てくる。直線での根性勝負、負けるなよ。」
「うん、了解。」
「シーちゃんレースに出るの!?見に行っていい!?」
「ダメだ。」
スインギーの耳が垂れ下がる。あれほどまで元気だった姿がみるみるうちに小さくなっていくようだ。
少しいたずらをしすぎたな。
「そのかわり、スインギーにもレースに出てもらう。ダートの1600、条件戦。場所は東京レース場。」
「あれ?それってアタシの出る共同通信杯と同じ日程じゃない?」
「そうだ。だから、見に行くんじゃない。走りに行くんだ。」
「頑張って走って、シービーの応援をしてやろう。な?」
「うん!」