「どうだった?スインギー。」
「楽しかったよ!……負けちゃったけど……。」
「そうか。楽しかったなら、ひとつ儲けだな。」
スインギーウォークは8着だった。
レースでは力いっぱい走っていたが、直線で伸びを欠いてしまった。追ってくる群れに飲まれて抜け出せなくなり、そのまま順位を下げてしまったのだ。
レース内容こそもの足りないものだったが、今日は南坂が不在のため、心細さもあっただろう。それでもこうして無事に走り終えて、楽しげに戻ってきた。そこだけはしっかり褒めてあげなければ、彼女の努力は報われない。
スインギーウォークが走った府中1600のダートコースは芝からスタートする。
スタート直後は直線で、芝が斜めに切れ込んでいる。外枠に行けば行くほど長く芝を踏めることになるため、外枠が有利だ。
現に今回の勝ちウマ娘は7枠、スインギーは6枠だ。ダートが得意なウマ娘だとしても、足に負担なく走ることができるアドバンテージは大きい。
「次はシービー、お前の番だ。ここで勝てばクラシックへの期待値も高まるだろう。存分に楽しんでこい。」
「わかった、じゃあこれ。」
シービーは棒付きキャンディーを俺に向かって差し出してきた。
「いいよ、今日は自分で持ってきた。スインギーにやってくれ。」
「わーい!おじちゃんありがとー!」
「行ってくる。スインギーはいい子にしててね。」
共同通信杯はクラシック期の先駆けとなる重賞レースである。
芝1800m、前走から200mの距離延長と、スタート直後の2コーナーが勝負の命運を分ける。
ミスターシービーは5枠8番。そして、前走で競り負けたピーチシャローは8枠14番の大外枠に入った。
大外枠は最初のコーナーで外を走らされることになる。そして、ゴール前には長い直線と2mの坂が待ち受ける。
断然、シービー有利な状況にある。ピーチシャローは先行ウマ娘。シービーの出遅れ癖を考慮しても、差し・追い込みがハマりやすく、後方待機が強いコースとなっている。
あとはシービーのレース感覚を頼るしかない。
彼女のスピードは先行してこそ活きるということに間違いはない。だが、それは使いどころを理解してこそのものだ。
無理に飛ばせば直線で捕まる。出し遅れれば、突き放される。彼女に至ってはそんなことはないだろうと思うが、やはり不安なものは不安だ。
レースに絶対は無い。走った後に残る結果のみ。
「シーちゃん頑張ってー!」
元気に叫ぶ声とともにファンファーレが鳴り始めた。
全てのウマ娘がウォーミングアップをやめ、ゲートへと歩いていく。
少しの静寂のあと、ゲートが開いた。
出遅れもない、いいスタートだ。
ボールドライツ、ツルノヨイチが激しい先行争いを繰り広げる。ピーチシャローは3番手だ。
だが、ミスターシービーは11番手。するりと内側に入り、前を伺う体制となった。
15話「蹴りたい扉」の一節『ゲートはアメリカで開発された。日本の発明品ではない。」に「ここすき」が入っていたので読者の中に元コマンドー隊員が居ると判明した。