東京1800m、日本ダービーと同じ府中のコース。この世代の誰かが今年のダービーを獲る。
トレーナーとしても、観客としても魅力的なコースだ。クラシック期の嚆矢となる重賞。コースは広く、まぎれも少ない。最後に迎えるのは長い直線と坂。ウマ娘の実力を見定めるには最も効果的なコースだろう。
「今日もよろしくね。」
前走で一緒になったヤツが言葉をかけてきた。なんと言えばいいのだろうか、こいつは腹が立つほど爽やかだ。
この余裕、この表情。私は必死になってここまでたどり着いた。細くて長い脚も、黒くて大きな丸い目も、私にはない。何度も砂を被って充血した目に、太くなった脚しかない。でも、これは勝負に必要なものだ。
ゲート入りが開始される。こいつの弱点はゲートだ。府中の最終直線は長いけれど、近年は先行ウマ娘の勝ちも目立ってきている。ここで勝てれば、皐月もダービーも夢じゃない。
閉塞感がある。鼓動がうるさい。その音の中からわずかに聞こえる金属音を探り出す。その音とともに、芝を蹴り上げた。
絶対に負けられない。
ダービーは最も運のあるウマ娘が勝つという。大外枠に入って勝ったものは居ない。最終コーナーを10番手以内に回らなければ勝てないというジンクスもある。
それが何だって言うんだ。
「くそッ……!!」
大外の不利はやはり大きい。内側へ入れない。外を回れば回るほどスタミナを浪費してしまう。
だが、減速するわけにはいかない。先頭では逃げるふたりが争っている。距離にして8バ身ほど。
そして、あいつは最終直線で『飛んで』来る。
逃げを打ったふたり、ボールドライツもツルノヨイチもそれを恐れているのだろう。
まともにやり合えば勝てるわけがない。そう言った絶望から私は逃げなければならない。
向正面、ここではじりじりとポジションを伺いながら、脚を貯める。
「!」
外から誰かが私の前に出た。
こいつはポリスカレージだ。私のすぐ後ろにつけていた。
だが、なぜここでポジションを上げた?
まだ向正面の直線だ。
胸の中に冷たいものが走る。
なんだ、そういうことか
私の半バ身後ろにヤツが迫ろうとしていた。
後ろからグイグイと押される。
それに合わせて、隣のウマ娘が加速し始めた。
コイツを抜け出させてはいけない。そうすれば、勝ち目は無くなる。
気合いを入れろ。
気合いを入れろ、ピーチシャロー。
脇を締める。そして肘で脇腹を強く打った。
負けるのが怖い。痛い。痛い。
全員がスパートに入る。
ダービーを獲りたい。ダービーウマ娘になりたい。そうなるためには脚を止めてはいられない。
ただ真っ直ぐに、ただ一番にゴール板を駆け抜ければいい。
誰にも邪魔はさせない。誰にも、誰にもだ!
コーナーを抜ける。逃げたふたりはもう一杯だ。
根性なら、根性なら負けない。
ついてくるな、ついてくるな!!
残り300、ポリスカレージを競り落とした。
いける、いける。
だが、必ず最後にヤツが来る。
直線では観客の歓声がこれでもかと浴びせかけられる。ダービーなら、これよりも大きくて、もっと派手な歓声が上がるのだろう。
だがその声は、私に向けられたものではないのだと思い知る。
半バ身、手を伸ばせば触れられる1.2mという距離は、どんなものよりも遠かった。
うーん、書き直すかも
今回はピーチシャローちゃんの視点でお送りしました。