ついにここまで来てしまったか、と半ば諦めに近い覚悟がある。
私は走ることが好きだ。だけどレースに向けてトレーニングなんて、なんだか退屈そうだと思っていた。
決められたメニューをこなして、狭いゲートに押し込まれて、いい位置を取って、駆け引きをして……、
私はとにかく走りたいだけだった。とにかく自由に走りたいだけだった。そんな吹けば飛ぶようなふんわりとした理由でここまで来てしまった。
クラシックは一生に一度。確かに格も高いし、これに勝てば未来永劫語り継がれるウマ娘になれる。それもちょっといいかもしれない。
負けたらどうなる?
負けたら、チョコプレートに書かれたメッセージがちょっとおかしなことになるだけだ。それはそれで面白いかもしれない。
なんだ、開き直れば、思ったよりも怖くないじゃないか。
ポツポツと雨が勝負服を叩く。ひとつひとつが衣装に水玉模様を描き、次第にそれは一様に塗りつぶされていく。
白い勝負服は失敗だったかもしれないな。これだと下着まで透けちゃいそうだ。そういう騒がれ方はやっぱり気持ちいいものではない。
でも、どうせ泥まみれになるから関係ないかな?
ゲートへ向かって足を進めれば、芝から泥水が滲み出してくる。
いい天気だ。きっと今日もいい日になる。走り終えれば、ケーキだって食べられる。
こんな雨の中で、綺麗な服を泥だらけにして、体をぶつけあって、めちゃくちゃになって走る。
ああ、なんて言えば良いんだろう
なんて、最高なんだ。
視界が開ければ、恐怖も緊張も、もうどこにもない。
雨の下で、私は踊る。
この舞台は私のものだ。私だけの、私のためだけの自由な世界なんだ。最高のクライマックスを演出しよう。
まずは伏線を張らなければいけない。筋書きはいつもの大逆転でいい。私にはそれしかできない。
八大競争で追込による大逆転はそうそう起こらない。だから一番面白くて、一番望まれる。だから、私が起こしてみせよう。
先頭はトライアンクレスト、カツラギエース、ニュービーキングと続く。
「くッ…!!」
四方八方から泥水が飛ぶ。不良バ場では体力の消耗が激しい。多くのウマ娘が位置を下げて末脚勝負をかけてくる。あっという間に囲まれ、体が激しくぶつかり合う。
そうだ、それでいい。難しくなければ、面白くない。苦難が無ければ主人公じゃない。
私はそれを今から乗り越える。
「あはははっ!!」
残り1000m。強く蹴り上げれば笑みが溢れる。開いた口にすかさず泥が入ってきた。
やっぱり今日は最高の日だ。