『バ群を割ってミスターシービー!バ群を割ってミスターシービー先頭だ!!!!」
行ける。
『真っ黒になっている!!勝負服が真っ黒だ!!』
行け。
『大外からメジロモンスニー!!メジロモンスニーが追う!!ミスターシービー苦しいか!!』
行け!
『半バ身差!!ミスターシービー粘る!!ミスターシービーだ!!ミスターシービーだ!!!』
「行け!!」
『メジロモンスニーは届かない!!』
「行けぇぇッ!!!!!!!」
『ミスターシービー!!先頭でゴールイン!!!!』
『三冠の第一歩目は単枠指定ウマ娘のミスターシービーだッ!!!!』
やってくれた、シービーが勝ってくれた。
地響きを起こして地面が揺れる。熱を持った歓声がレース場を包み込んだ。
シービーは腕を広げて芝の上へと寝転んだ。くしゃくしゃになった顔にはやり切ったという充実感が現れている。
彼女の体はウマ娘が蹴り上げた泥に塗れ、白い勝負服が茶色に染まっている。唯一綺麗だった背中も、寝転んだせいで泥だらけだ。緑に黄色のラインが入ったビスチェも色がわからないほどに泥水を吸っている。
ただ、勝負服が汚れることは嫌だと言っていたはずだ。勝利を掴み取った彼女にはそんなことは些細なものになってしまったのだろう。
この泥は彼女が走ったという
だが、しっかり綺麗にしてやらないとな。これから、あと2回は着ることになる。
シミひとつ残せない。彼女はこの泥水の中の死闘から這い上がってきたのだ。
何度でも曇りない勝利を。何度泥まみれになっても、その先の勝利を。
綺麗な勝負服はそのためにある。
彼女はゆっくりと立ち上がり、手を振って歩き始める。
春の雨は冷たい。容赦なく体に叩きつけられる雨の中で彼女はひとりで戦っていた。
ひとりは心細いだろう。迎えに行こう。シービーが泥だらけの手を差し伸べてきたときのように、今度は俺が泥だらけになった手を取ろう。
地下バ道へと走った。
水たまりを踏みつけて、誰よりも速く走ろう。
でも、シービーには負けるかな。
「トレーナーさんっ」
弾む声が地下バ道に響いた。
「えっ、何?」
手を差し伸べたら、困惑された。
少しして、俺の手が泥と一緒に優しく包み込まれる。
「ケーキ、無駄にならなくてよかったね。今すぐ食べたいな。」
「その前に勝負服ごとシャワー浴びなきゃな。ライブもあるんだから、真っ先に泥は払わないと。
「いや、真っ先にするのはトレーナーさんだよ。」
「どういう意味だ?」
「せっかく勝ったんだから、泣かないでよ。笑ってたほうがかっこいいよ。ハッピーエンドなんだからさ。」
「これは雨だよ。それに、まだ終わってないだろう。」
「そうだね。」
シービーの目は、泥が入ったのか充血していた。
黒く大きな目は少しだけ潤んでいる。
やっぱり痛いのだろうか。
地下バ道にまた雨が降り始めた。