最も不器用な三冠ウマ娘   作:Patch

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今回もネタ回ではありません

ネタ回書こうとしたら長くなっちゃった。
次こそは本当にネタ回です


嘘だったらユーザーネームをエタり王に変えます


立ち上がり、駆ける。

 到着と同時に驚きの声と溜め息が聞こえた。

 

「なにこれー!?すごーい!!」

 

「遊園地じゃないのか……。」

「なんだシービー、遊園地に行きたかったのか?」

 

「そういう訳じゃないけどさ、あんまり行ったことないし。ここよりは楽しいと思って。」

「まだわからんぞ。」

 

 

「なんか、練習コースよりも殺風景だね。」

 

 シービーがひとこと呟く。彼女達は普段芝とダート、あるいはウッドチップの上を走っている。それに比べれば蹴り上げても凹まない無機質なアスファルトはつまらないものに思えるだろう。

 大欅も無い、東京や中山のレース場に比べればかなり小さい観覧席と灰色のセーフティマットだけが見える。

 

 

「よし!シービー、スインギー、お前らには今からレーシングカートに乗ってもらう。」

 

 俺たちは遠路はるばる小さなサーキットにやってきた。

 

「トレーナー対ウマ娘。負けたチームは勝ったチームの言うことをひとつ聞く!以上だ!」

 

「トレーナーさんと走れるの!?シーちゃん!頑張ろうね!」

「勝負となったら負けられないね。またスイーツでも奢ってもらおうか。」

 

 

 最初は乗り気ではなかったシービーにも少しだけ笑顔が見える。スインギーのおかげだろう。彼女の無邪気さはシービーの気分屋なところをうまく御してくれている。

 

「ほらほら、さっさと着替えてこい。」

 

 

 

 

 

「ちょっと先輩、そんなの聞いてませんよ……」

 小さな声で南坂が耳打ちしてきた。

 

「心配すんなって、今日は貸し切りにしてもらったしカネなら俺が払う。」

「そういうわけじゃなくてですね……。」

 

「お前車の運転したことあるだろ?」

「はい、豆腐屋のバイトで少し……」

 

 

「豆腐…?まあ大丈夫だろ。」

 

 なぜ『運転免許』のことではなく『豆腐屋のバイト』の話が出てきたのだろうか。よくわからないが、運転経験があるならば、カートの運転も容易いだろう。

 

 

「負けても知りませんからね。」

 

 

 ウマ娘は普段時速70kmを超えるトップスピードで駆けている。高速道路を走る自動車並みの速度だ。スピードを出すことへの恐怖感は薄いだろう。レーシングカートの最高速度は時速60kmほどだが、地面スレスレを走るため体感速度は時速200kmを超える。

 

 スピードに対する恐怖感が薄いことは大きなアドバンテージになる。彼女達は早ければ12歳という年齢からレースに出走する。18歳でようやく車に乗り始める人間には無い感覚を持っているのだ。

 

 おそらく、カートのレースでも彼女たちには勝てない。

 そんなことはどうでもいい。ここに来たのは気分転換のため、そして、速さに劣る俺たちをいかにパスするかという感覚を掴ませるためなのだ。

 

 

 だが、南坂の声は妙だった。どこか過去を懐かしむようなもの寂しさがあった。

 

 

 

 

 

 

「この装備、狭苦しくて嫌なんだけど……。」

 ヘルメットとプロテクターを着込んだシービーが話しかけてきた。

 

「わがまま言うな安全のためだ。オリエンテーションを受けたら好きに走ってこい。」

 

 そう言うと、とぼとぼと足を進めて歩いていく。タヌキのようにしっぽが丸まっていた。

 

 

「南坂、そろそろ俺たちも着替えるぞ。」

「はい」

 

 

 

 

 

  §

 

 

 

 

 着替えて外に出てみると、惨状が待っていた。

 シービーはブレーキ操作がおぼつかず、なんども白煙を上げながら車体をスピンさせている。そのせいでスタッフは大忙しだ。

 カートにバックする機能はない。後ろを向けばスタッフの手を借りて向きを直すしかない。何度も向きを変えて切り返せば衝突事故が起きる可能性があるためそういう規則になっている。

 

 スインギーはというと、良く乗れている。だが、アクセル踏みっぱなしでブレーキをあまりかけないためにシケイン*1ではコースアウトする。

 

 

 

「お前ら!少しミーティングだ!!」

 

 拡声器を使って呼びかけるとまたシービーがスピンする。スインギーが難なく到着し、幾分か待ってようやくシービーがこちらにたどり着いた。

 

 

 

「お前……不器用過ぎないか……?」

「そうかな……。」

 何度もスピンしたせいかしょぼくれた顔をしている。

 

「ブレーキを強くかけ過ぎだ、タイヤがロックしてる。ドリフトでもするつもりか。」

「好きに走っただけなんだけど……。」

 そう言って、シービーが膨れる。失礼しちゃうな、と言いながら尻尾を揺らす姿はいつもよりも幼く、歳相応の姿にも見えた。

 

 

「スインギー、楽しかったか?」

「うん!」

 シービーとは違って眩しいほどの笑顔だ。だが、このままでは成長は見込めない。アドバイスをして気分を害さないか心配だ。どんなことであれ、自分の弱点を突かれることにいい気はしない。

 コーナーではスローイン・ファストアウトが基本。スインギーの場合はファストイン・コースアウトと言ったところだろうか。

 

 

「スインギーさん、すごい速くて驚きました。素晴らしいですね!」

 

 そんなことを思っていると、南坂が言葉を発した。

 

「ありがと!みなみん!」

「今度はちょこっとだけブレーキも使ってみてください。レースと同じで、コーナー入口は少しだけ抑えて、コーナー出口でビュン!ですよ。」

「わかった!」

 

 

「よし、じゃあ4人でじっくり練習して、最後にタイムを計ろう。それでいいな?」

 

 元気な返事とふてくされたやる気のない返事が聞こえて、すぐにエンジン音にかき消された。

 ふたりがカートに乗ってから南坂に声をかけた。

 

「なあ、南坂。さっきはありがとうな。」

「何のことですか?」

 

「いやあれだよ、スインギーへのアドバイス。」

「そんな、大したことじゃないですよ。」

 照れる様子も、鼻にかける様子もない。それはただ当然のことだと受け流される。

 

「僕は、スインギーウォークの専属トレーナーになりましたから。」

「そうか……、いや、そうだな。」

 

 

 スインギーウォークはチーム『カノープス』に所属している。現在でも書類上は専属契約ではない。

 カノープスのメイントレーナーは身体と精神の成長が見合わない彼女を見放し、サブトレーナーの南坂に世話を押し付けた。

 南坂も最初は手を焼いていた。俺に泣きついて、移籍の話まで持ち出した。トレーナーがウマ娘を見放すことも、移籍させることも珍しいことではない。

 だが、彼は自らスインギーウォークと共に歩んでいくことを決めたらしい。

 

 

 

 スインギーウォークは幼い。トゥインクルシリーズという熾烈な戦いの中では、まだ生まれたての小鹿のように幼い。それは連敗という記録として証明されている。

 小鹿が立ち上がるのはいつになるだろうか、歩き出すのはどれほど先か。それは誰にもわからない。いつか()()()()()()()時をトレーナー(俺たち)は夢に見る。

 

 

 

「なあ、南坂。」

「なんですか?」

 

「スインギーのために、本気で走ってやれよ?」

「言いましたね?」

 

 

 ヘルメットのシールド越しに南坂が笑う。

 

 

「負けても知りませんよ?」

 

 

 

*1
意図的に作られたコーナー。速度を落とさせることを目的とし、安全への配慮やブレーキング勝負を誘発する目的がある




スインギーウォークのモデルがわかった人はコメントでそれっぽくぼかして書いておいて欲しいなって。
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