蹴り上げる脚に力を込める。体が置いていかれぬように重心を低くして一気に加速する。
目の前には何もない、もうすぐ直線だ。
突如として私の視界が塞がった。
パインスワローが右側にヨレ始めた。
このままでは彼女に激しく衝突し、転倒する。
スパートに入った状態で転倒すれば、命は無い。
「くっそぉぉおお!!!!!!」
体をねじり、無理矢理右へと進路を取る。
選択の余地は無かった。
大きくバランスを崩し失速する。進路もままならない。それでも、走ることは止められない。
その時、誰かと肩がぶつかった。
カツラギエースだ。
私と体を併せるようにして、前を狙っている。
ロトディタリアとメジロモンスニーも追ってきた。
ここで抜かれる訳にはいかない。これは、私が勝つべき舞台だ。
2400m、1200の2倍。短距離2本なら、いつも通り走り抜けられる。
上がり始めた息も、気のせいだ。
足の裏が痛いのだって、たぶん気のせいだ。
だってこんなにも楽しいんだから。
苦しくなんかない。脚も痛くなんかない。
辛くなんかない。負けたりしない。
いつもと同じだ。いつもと変わらない。いつも通りの大逆転で、帰ったらまた、いつも通りトレーナーとケーキを食べよう。
チョコプレートだけはちょっと特別で、『ダービーウマ娘 ミスターシービー』って書いてもらうんだ。
強がりなんかじゃない。だって、だって私は、『最強の三冠ウマ娘』で、『すごくつよい』ミスターシービーだ。
祝勝会にも出ないといけない。『超御出席』だ。
また、遊園地にも行きたいな。
トレーナーさんと、もっともっと楽しいものを見てみたい。この舞台に立てたことだって、トレーナーさんのおかげだ。
このレースだって、すごく楽しい。
『ミスターシービー!!ミスターシービー先頭だ!!』
遠くからアナウンスが聞こえた。
目の前が霞む。何を言っているのかよくわからない。
『ロトディタリアが追う!!メジロモンスニーも飛んできた!!』
ふたりが先頭争いをしているのかな。
『2位争いはメジロモンスニーだ!!』
速いもんな、メジロモンスニーは。じゃあ、1位は誰なんだろう。
やっぱり苦しいや。脚もすごく痛い。
辛いなぁ。
『ミスターシービー!!先頭でゴールイン!!皐月に続いて二冠目を手にしました!!!!』
ゴール板を駆け抜けると、身体から力が抜けていく。疲れきった脚では、自分の体重も支えられなかった。
「いい天気だなぁ……。」
日差しはぽかぽかと暖かい。春先の中山と比べると芝が長く伸びてふかふかで気持ちがいい。まるで緑のベッドだ。
寝転がって、うんと伸びをする。こんなに素敵なものを見つけたんだ。ただで起き上がるのはもったいない。
負けていたとしても、ケーキは食べたいなぁ。トレーナーさんは優しいから、おねだりすれば買ってくれるかな。
「審議かぁ……。」
掲示板を見ると、1位は12番。それ以下の数字全てが点滅していた。
気の毒だなぁ
12番って、誰だっけ……
あぁ、私か。
「んぅー………っ」
もう一度大きく伸びをして、地下バ道に向かうことにした。