最も不器用な三冠ウマ娘   作:Patch

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運命的なもの

 脚はまだ痛む。私は足の裏にマメができやすいけれど、アレは動かせないほどの痛みじゃない。

 地面に足をつけるとそれだけで鈍い痛みが広がっていく。幸いなことに、今日の祝勝会まではしばらく時間がある。それまでに痛みが引けばいい。

 

 

「それにしても、シラオキ様には感謝してもしきれませんね!」

 

 目の前に居るマチカネフクキタルが何か良くわからないことを言っている。シラオキ様とは誰なのだろう。

 

 

「ねえ、マチカネフクキタルさん。シラオキ様って誰?」

 

「そんなそんな、フクキタルで良いですって!ミスターシービーさんが(わたくし)のフルネームを、しかも『さん付け』だなんて!恐れ多くてシラオキ様にも叱られてしまいますっ!」

 

「じゃあ、アタシもシービーって呼んでよ。」

 

 

「ひゃぁぁぁ……!せめて『シービー先輩』でご勘弁を……!そんなことを口にしたら地獄の閻魔様に舌を抜かれてしまいますよッ!!なにとぞッ!!なにとぞぉ゛〜!!」

 

 

 フクキタルは深々と頭を下げた。おでこが机に当たっているがそこからジリジリと擦れる音がする。

 これでは話が進まない。気を取り直して、もう一度聞いてみることにしよう。

 

 

「それで、シラオキ様って?」

 

 『シラオキ』と言うとフクキタルの耳が跳ねるように動いた。

 

 

「シラオキ様はですね!!えっと……、その……、なんなんでしょう?夢の中とかで、ありがた〜いお告げを授けてくださるのですが、何かと言われると……その〜……。」

 

 

「神様、みたいな?」

 

 

「そう!それです!!私の夢の中にだけ現れるありがた〜い神様です!!」

 

 

 

 なんとなく、危ない香りがする。幸せになれる壺を売りつけられそうだ。出ようにも、脚が痛むために出られない。適当に話を逸らして逃げるとしよう。

 

 

「じゃあ、ここでシラオキ様のお告げをみんなに知らせてるの?」

 

「いえ!私はここで『みんなの助けになれば』と思い、占いをしてるだけです!」

 

 

「雨、なのに?」

 

 

 彼女のテントは薄い合板を打ちつけ、その上に布を張っただけの粗末なものだ。装飾はしっかりとされているため、見た目はそれらしくはあるが、ところどころ水が染み出している。

 特に今日は練習コースの馬場状態が悪い。こんな日は誰も外に出ない。ミーティング、あるいはダンス練習などの室内トレーニングが行われることが常である。

 

 

「いやぁ、それはまあ、そうなんですが……」

 

 フクキタルは恥ずかしそうに頬をぽりぽりと掻きながら続けた。

 

「今朝方、シラオキ様のお告げがありまして、『今日から貴方は転ばぬ先の杖となりなさい。』と。『転ばぬ先の杖』と言えば占い!そして!一応ですが!私物の『開運☆金剛杖』を持ってお客様をお待ちしておりました!」

 

 

 フクキタルが叫ぶと、遠くで雷が鳴った。

 

 

「ま、まあ、この雨じゃ、ダレモ来ナイデスヨネー……。」

「そうだね……。」

 

 

 

「あの〜、誠に恐縮なのですが、どうしてシービー先輩は外に?あと、先輩がかけていらっしゃるその立派なタスキは……?」

 

「ああ、これはね。」

 

 

 今日はチームでダービーの祝勝会を行うこと、タスキはトレーナーが私にかけたものであること。

 ケーキを取りに行ったトレーナーがライターを忘れて行ったこと。それを追いかけている途中で、何かを踏んで転倒してしまったこと。

 

 

 全てを話すと、フクキタルが首を傾げた。

 

 

「先ほど濡れたライターを拭いたときに壊れていないか確認したのですが、オイル切れてますよ?」

「そうなんだ、知らなかったな。」

「きっと別のライターをお持ちになっているはずですから、大丈夫ですよ。」

 

 フクキタルは私を安心させるためにその言葉を言ったのだろう。だが私はなぜかとても嫌な気分になった。

 

 

 

「じゃあ、私は行くね。」

「ああああ!待ってください!」

 

 

 地面に足をつけるとまた鈍く痛む。足の裏が腫れ、熱を持っている。

 

 

「いッ……!」

 

 体重をかけると、その痛みがさらに増した。

 

 

「いくらシービー先輩と言えども無理しちゃいけませんよ!、挫跖(ざせき)*1している場合もありますから!」

 

 

「そうだね、ごめん。」

「もうちょっとお休みになってください。それでも帰るとおっしゃるならばこれを。」

 

 

 フクキタルが神妙な面持ちで長い木の棒を差し出してきた。これが先ほど言っていた『開運☆金剛杖』なのだろう。焼印で『開☆運』と書かれている。なんとも胡散臭い。

 もしかしたらフクキタルは『幸せになれる壺』を『売る側』ではなく、『売りつけられる側』なのかもしれない。

 

 

「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね。」

「はい!」

 

 

 雨はまだ降り続く。祝勝会までの時間もある。彼女と話す話題も尽きてしまった。

 

 机の上には水晶玉がある。なんともそれらしいものだが、何が見えるのだろうか。

 

 

「ねえ、フクキタル。その水晶玉からは何が見えるの?」

「水晶玉、ですか?」

 

「アタシが覗き込んでも、何も見えないからさ。」

 

 

 水晶玉を通してフクキタルの顔を見ると、像が二重に重なって見える。どうやらこれは本物の水晶らしい。これならば、占いの結果も期待できるだろう。

 

 

「アタシを占ってみてよ。」

「えーっ……。」

 

 

 

 

 

 

*1
ウマ娘に起きるケガ。硬いものを踏みつけたり、ぶつけたりしてしまうことで、足の裏に内出血を起こす。軽度のものから重度のものまで治療の幅が広く、診断が難しい。




フクキタル回はもう1話続きます。


お気づきかもしれませんがシービーの一人称は、地の文では『私』会話文では「アタシ」となっています。
表記揺れがあったら誤字報告お願いします。
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