部室の扉を開けると大きな破裂音とともに出迎えられた。
「チーム『カマリ』ダービー制覇おめでとう!!」
3人の大声は遠くの雷鳴よりも大きく、雨の音をかき消す。紙吹雪と拍手が絶え間なく降り注いだ。
「おめでと、トレーナーさん。」
シービーは椅子に腰掛け、どこか他人事のようにそう言った。
「いや、お前が勝ったんだろ?」
「そうとも言うね。」
「アタシは、自分のために走っただけだからさ。頑張ったのは、トレーナーさんでしょ?」
シービーは気づいているのだろう。実のところ、最近財布の中が少しだけ寂しい。気まぐれな彼女が飽きないようにといろいろなところに連れて行ってトレーニングを行ったためである。貯金も少しだけ切り崩した。
だがこれはトレーナーとして当然のことである。頑張りなどではない。
チーム『リギル』のように既に結果を残しているのならばともかく、『カマリ』には実績がなかった。所属しているウマ娘はミスターシービーのみだ。そのためチームに付与される予算も少なく、練習コースの時間割り当ても少ない。それを解消するために俺が『自分のために動いている』というだけだ。
シービーには苦労をかけてしまっている。彼女は以前から気まぐれに外に走り出すことがあったが、最近はその頻度と時間が増えていた。
オーバートレーニングにならないように、気分を害さないように、と陰ながら見守っていたが、彼女は自らトレーニングメニューを考え、実践に移していた。
俺はまだ、シービーに何も与えられていないのではないのだろうか。だが、自由に走ることを求める彼女に何を言えばいいのだろうか。そういったジレンマに悩みつつもあった。
「頑張ってなんかないさ。これは正真正銘、ミスターシービーの勝利だ。外を走るの、増やしてただろ?」
「なんだ、知ってたんだ。」
シービーは照れ臭そうに頭を掻いた。
菊花賞こそ彼女と勝ちたい。距離適正という壁を乗り越えて彼女を史上3人目の三冠ウマ娘にしてやりたい。彼女の隠れた才能を引き出してこそ、トレーナーだ。
「先輩、先輩。」
小さな声で南坂が耳打ちをしてくる。振り向くとクラッカーを押しつけられた。
その様子を見てスインギーがニヤニヤと笑っていた。そういうことか、と納得する。
3人で目配せをする。
「トレーナーさん?どうかした?」
思いっきりクラッカーの紐を引っ張った。
「きゃっ!?」
『ミスターシービー!ダービー制覇おめでとう!!』
紙吹雪が舞い上がる。カラーテープがシービーにかかる。
また破裂音が鳴った。スインギーが面白がって余ったクラッカーを全部鳴らしている。
「もう、びっくりさせないでよ。」
カラーテープまみれになったシービーは困ったように笑っていた。
「よーし、じゃあみんなで乾杯するぞ!今日はケーキを2個買ってきた!!」
「2個も食べていいの!?やったあ!!」
「スインギーさん、今度はお行儀良くしましょうね。」
飛び跳ねるスインギーを南坂が制止する。おてんば娘の扱いも手慣れたものになってきたようだ。
「ねえ、トレーナーさん。」
「どうした?シービー。」
「もしかして、次は3つ買ってくるの?」
「よくわかったな。」
「呆れた。」
シービーはまた困ったように笑った。