展開はあまり動きません
「国際グレードか……。」
シンボリルドルフが言っていた単語が耳から離れない。
脚の状態はすぐに良くなり、歩行は問題なく行えるようになった。それでもトレーナーさんはいつも決まった時間に現れて、タオルと着替えを置いていく。下着は分けて、ルナちゃんが持ってきてくれることになった。
シンボリルドルフはメイクデビューで快勝した。1000mという距離は彼女の歩幅には短すぎたようだ。悠々と走るその姿はまるで勝つことが決まっていたかのようだった。
勝負に怯えるルナの姿はターフの上には無い。シンボリルドルフという皇帝の名を持ったウマ娘が、その神威を持って覇道を往く。
シンボリルドルフの走りは私の走りとは対照的だ。好位を追走し、最終コーナーで抜け出す。安定した走りであり、どこにも非をつけられる場所がない。
3コーナー前から仕掛ける私の『シービー戦法』に対応するかのように、シンボリルドルフの走りは『ルドルフ戦法』と呼ばれ始めていた。
好位追走型のレースは主に欧州シリーズでよく見られる。欧州の馬場は柔らかく、日本よりも遥かに重い。スタミナとパワーを温存して、最終直線で全身全霊の力比べとなるのだ。
きっと彼女が歩む道の先には世界があるのだろう。彼女の走りこそ、その証左だ。
日本のトゥインクルシリーズは世界から見ると格が落ちる。IFHGA *1の格付けにおいて、アメリカ、フランス、イギリスなどがパートⅠ国であるのに対して、現在の日本はパートⅡ国である。国内レースの格付けも曖昧だ。
もしも日本がパートⅠ国になり、国際グレードに基づいてレースのグレードが整備されたのならば、海外からウマ娘が参戦することが多くなるだろう。
その逆もある。日本のウマ娘が海外のレースに参加しやすくもなる。私はそれが少しだけ楽しみだ。
トレーナーさんは私が走るために、いつも面白いものを見せてくれた。今度は私がトレーナーさんを世界に連れ出して、面白いものを見てもらおう。あと、いっしょにケーキも食べたい。
トレーナーさんと高級ホテルのスイーツ食べ放題に行ったときに食べたフレジエが忘れられない。フレジエはイチゴを使ったフランスのケーキである。
そして、『ショートケーキ』を頼んだら、クッキーのようなものも出てきた。トレーナーさんはそれを「本格的」とも言っていた。本場のショートケーキも食べてみたい。
イギリスには『
入院してから、少し食いしん坊になったのかもしれない。一日の楽しみは決まった時間に現れるトレーナーさんと話すことと、病院食を食べることくらいだ。
たまにルナちゃんが来るときは、ついつい喋りすぎてしまう。
病院を出たら、真っ先に走りたい。私はトレーナーさんといっしょに走っていたい。
ちゃんと脚を治せばまた走ることができる。これからがあるということは幸せなことだ。
菊花賞だけは負けられない。三冠ウマ娘になれば世界への道も拓ける。
「ミスターシービーさーん、リハビリの時間ですよー。」
看護師の間延びした声が聞こえる。
「今日はちょっとデータも取りますねー。」
データを取るという日はいつも待たされて退屈になる。ウマ娘の体にはまだ謎が多い。その解明のために、怪我をしたウマ娘などは研究の対象になる。
だが今日はちょっとガマンしよう。
私の怪我も後輩ウマ娘のために活かされていくのかと思うと、ちょっとだけ誇らしく思えた。
「なんだか嬉しそうですね、いいことでもありましたか?」
車椅子を用意しながら、看護師が言う。
「そうですね、イチゴといっしょに
「でも、今日は脱走しないでくださいね、まだ安静ですよ。」
「わかってますって、この前はごめんなさい。」
国際ウマ娘競争統括機関連盟の略称。URAをはじめとした各国のウマ娘競争機関が出資し、競争の向上のために相互援助・共同研究を行う機関。
書くのが辛くなってきた。