最も不器用な三冠ウマ娘   作:Patch

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トレセン学園 第11R 芝1600m 選抜レース

 シンボリルドルフは快勝した。1000mという短距離レースではあったが、距離延長があったとしても勝てると確信するほどの力強い走りであった。

 これが本格化前の走りと言えるのだろうか。コースの取り合いや駆け引きが目まぐるしく行われるため、忙しい短距離レースであったからか入着後に疲れが見える。だがそれでも膝に手を付いたりせず、堂々と歩く姿はその名に違わぬ『皇帝』のような威厳があった。惜しみなく送られる拍手と歓声に決して傲り高ぶることはなく、深々と礼をして彼女はターフから去っていった。

 

「すごいよね、ルナちゃん。」

「そういえば、どうしてアイツをルナって呼んでるんだ?」

 

「ああ、それはね。」

 そう言ってシービーは前髪を引っ張って指し示した。

「額の流星。あのコのヤツは三日月みたいでかわいいでしょ?だから小さいころはルナちゃんって呼ばれてたらしいの。」

 

「アタシの流星は消えちゃったんだよね。だから、そろそろ『本格化』が始まる時期なの。」

 

 ウマ娘の体には謎が多い。『本格化』もそのひとつだ。

 本格化が始まるとウマ娘の身体能力は飛躍的に向上する。その兆候はウマ娘によってそれぞれ違う。シービーのように流星が消失することもあれば、流星が発現する例もある。髪や体毛の色がすべて変わるなど、大きく変化することもあれば、単に競争成績や走りが良くなったり、食欲が増大したりと、軽微な変化をすることもある。

 トレーナーはその兆候を見抜き、チームにスカウトする。ウマ娘はトレーナーの元でトレーニングを重ねてようやくメイクデビューを果たすのだ。

 

 

「ミスターシービー、発走準備を済ませなさい。」

 

 後ろからハナの声がした。

 

「おハナさんもここで見て行ったら?カップルにはお似合いの特等席だよ?」

「意味のわからないことを言ってないで、早く準備をしなさい。」

 

「じゃあ、行ってくるね。トレーナーさん。」

 そう言って、シービーは弾む足取りで駆けて行った。

 

 

「貴方、ミスターシービーをスカウトするつもり?」

 ハナは俺の横に立って、そう呼びかけてきた。

「いや、本命はシンボリルドルフだ。」

 

「ルドルフなら、もうウチのチームに入ったわよ。2つ返事で許可してもらったわ。」

 

「じゃあ、ズタ袋でも被せて拉致するしかないな。」

 

「貴方ね、そんなことが許されると思ってるの?拉致してチームに所属させるなんて上層部が黙っていないだろうし、そもそもそれは犯罪よ?」

「しないって、冗談だよ。そもそも俺がそんなヤツに見えるか?」

 

「貴方のことだから、やりかねないわ。まあ、蹴られて終わりでしょうけど。」

 思わずため息が出てしまう。俺はそんなにも人望が無いのだろうか。

 

「じゃあ、体も鍛えるとするか。」

「本当に貴方って人は……」

 ハナも頭を抱えて深いため息をついた。

 

 

 

 

「ミスターシービー、アイツはどんなウマ娘なんだ?」

 返事は期待できないが、話題を変えるためにシービーについて訊いてみることにした。

 

「私の出走表、ちゃんと見たの?あの子はおそらくスピードに恵まれたマイラーかスプリンターよ。でも、それ以外はまだわからないわ。」

 

「どうしてわからないんだ。」

 そう言うとまたハナは頭を抱えた。

「ほら、始まるわよ。理由は見ていればわかるはずだから。」

 

 ファンファーレが鳴り、ゲート入りが開始される。シービーはと言うと、そわそわ、ウズウズと落ち着きが無い。

 

「まさか……」

 ゲートが開いた。

 

「あの子の弱点は出遅れ癖。スピードには恵まれているけれど、あれではまともに戦えないわ。」

 

 ミスターシービーは盛大に出遅れ、ポツンとひとりだけ最後方に取り残された。

 いくらスピードに恵まれていたとしても、相手は同じウマ娘だ。マイルや短距離では駆け引きをする一瞬のためらいが敗北に繋がる。ただでさえ忙しいマイル以下のレースでの出遅れは、すでに敗北が決まったようなものなのだ。

 

 天気は晴れているが、今日の馬場は長く降り続いた雨により重か稍重と言ったところ。加速するとしても、これでは力が抜けてしまう。追い込みには不利なバ場状態なのだ。ここから巻き返すことなど圧倒的な実力差が無ければ不可能だ。

 

 レースは淀みなくハイペースで進む。先頭は集団となって固まり、シービーまで15バ身ほど離れていた。

 先頭が3コーナーに差し掛かる。だが、様子がおかしい。先頭のウマ娘がしきりに振り向き、後ろから来る誰かを警戒している。

 コーナー中間で先頭のウマ娘はバ群に飲まれかけた。それでも後ろを振り向くのをやめなかった。

 

 ようやくシービーがコーナーに入る。

 そのとき、目が合った。彼女の薄い唇が微かに動いた。

 「見ててね、トレーナーさん。」そう言ったようにも見えた。

 

「それでも善戦をするのが、ミスターシービーの恐ろしいところよ。」

 ハナがひとりごとのように呟く。だがそれは見当違いなものだ。

「いや、あいつは勝つ気でいるらしいぞ。」

 シービーの脚に力が入るのがわかる。先頭集団はそれに合わせるかのように速度を上げた。

 

 

 足音に重厚感が増す。直線を向いた。

 ここから全員がスパートする。

 

 

 

 

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