最も不器用な三冠ウマ娘   作:Patch

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秋の空

 厄介なことになった。入院中にシービーが『もっちり』することは折り込み済みであった。だが、プールに行きたくないと言うのは話が別だ。

 

 個人的な感想だが、普段のシービーは痩せすぎている。今くらいのほうが健康的かつ標準的にも見える。入院前の肉体美も素晴らしいものではあったが、それこそ彫像のような現実離れしたスタイルだった。

 

 しかしながら、減量はしなければならない。菊花賞は長距離レース、国際的なレーティング基準で言えば3000mは”Extend(超 長距離)“である。そもそも、彼女のキレがある末脚はスプリンター傾向が強い。体重を減らし、体力の消耗を抑えることは必要不可欠である。

 

 挫跖した脚を酷使することは避けたい。だが、最も脚に負担のかからない練習がプール練習なのである。

 菊花賞トライアルの京都新聞杯までに体重を落とすとなると、少し厳しい面がある。

 夏を全て休養に使った以上レース感覚は失われてしまっているだろう。レースに出ないという選択肢を取るわけにもいかない。

 

 カート練習も効果が薄い。アレはウマ混みをさばくための練習だ。3000mという距離ではバ群が縦長になる。ダービーほど多くのウマ娘が出走するわけではないため、そもそも混戦になりにくい。

 

 

 とりあえずスタート練習と軽い速歩(ダグ)で体重を減らしていこう。追い切りと脚質改善はその出来次第だ。

 

 まずはあの中敷きと靴も交換しよう。血だらけの脚では勝てるものも勝てない。

 そして、あとはシービーのやる気をどれだけ引き出せるかにかかっている。これが一番難しい。

 

 そろそろ秋も近い。秋と言えば紅葉だ。ハイキングに行って紅葉を楽しむのはどうだろうか。足首が鍛えられ、坂路にも強くなる。

 だがシービーはいまをときめくティーンエイジャーだ。こんなジジ臭いことをしてくれるのだろうか。なんとなく拒否される未来が見える。

 自転車はどうだろうか。去年の夏に同じことをした。その時はなかなか楽しんでくれていた。だが、彼女は怪我からの復帰明けである。スピードの出る自転車で転倒でもしたら目も当てられない。それに、飽きられていたら逆効果にもなる。

 

 

 トレーナー室でウンウンと唸っていても始まらない。こういうのはシービー本人に聞くのがいちばんいい。

 

 

 部室に向かう前に少しだけ一服しよう。こんがらがった頭をスッキリさせるにはやっぱりコイツだ。

 一本口に咥え、安物のガスライターのヤスリを回す。

 

 

 すると、けたたましい足音がした。速い4ビートの音に長い空白、誰かが襲歩(ギャロップ)で走っている。だが、やけに一完歩が長い。

 シンボリルドルフだろうか。彼女の一完歩は現役ウマ娘の中で最長だと言われている。しかし、生徒会執行部所属の彼女が校則を破るとは思えない。

 この音はどこかで聞き覚えがあった。俺がスクールに居た頃に見たダービーウマ娘の足音にそっくりだ。

 足音はこの部屋の前で止まり、その代わりに扉のドアが3回鳴った。

 

 

 慌ててタバコを胸ポケットに押し込む。火をつける前でよかった。

 トレセン学園は中学校から高校にあたる教育期間である。敷地内での喫煙は法律によって禁じられている。

 彼女のような逸材を逃す訳にはいかない。一応窓を開けてから、声をかける。

 

 

 

 

「トレーナーさん!!大変なことになりました!!」

「たづなさん!?一体どうしたんですか!?」

 

 

 先ほどの足音はたづなさんのものだった。ウマ娘とも思えるかのような大きな足音は、それほどまでに喫緊な自体が起きているということなのだろう。

 

 

 たづなさんは息も絶え絶えに封筒を差し出してきた。金色の箔押しでURAとそのロゴが印字されている。

 これはURA本部が発行する重要書類にのみ使われる封筒だ。

 

 

「これは……?」

 封筒を受け取り、中を広げてみる。

 目を疑った。これからシービーにとって大事な時期だ。菊花賞の後にはジャパンカップや有馬記念もある。どうしてこんなことになったのだろうか。

 

 

 

 たづなさんが震えた声で話し始める。

 

「あなたに、出向命令の内示が出されました。」

 

 

 

「行き先は英国ニューマーケット、BHGAのトレセン学園です。」

 

 

 






























展開が辛すぎて吐きそう
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