最も不器用な三冠ウマ娘   作:Patch

52 / 152
紺碧の霹靂

 秋の空は急速に姿を変える。その様はわがままな女に例えられることもあり、シービーの振る舞いにもよく似ていた。

 

 彼女の好きな雨が、パラパラと振り始める。

 秋雨は、春の雨よりも冷たい。

 

 

 

「どういう……、ことなんですか……。シービーには、あの三冠がかかっているんですよ……?」

 

 

「あの『神に讃えられたウマ娘』を超えるかもしれない逸材なんですよ……?」

 

 

「URAのスローガンにだって、『あいつを超えろ』ってあったじゃないですか……。」

 

 

 

「俺は、あいつと一緒に走ってきたんです……、あいつのおかげで、立ち直れたんです。ゼロからのスタートを切って、ここまで来たんです……なのに……なのにどうして!!」

 

 

 女心はわからない。俺はいつだってシービーに振り回されていた。ケーキも買ったし、遊園地にも行った。寂しくないようにと、毎日見舞いにも行った。

 それもこうして、全てひっくり返されてしまう。

 

 

 

「私にも、知らされていませんでした。これが出た際に反対したのですが、そういった権限もなく……。」

 

 

 たづなさんが伏し目がちに答える。

 たづなさんはひとりの秘書でしかない。決定権が無いのも、当然のことだ。

 

 

「これをお請けすることはできません。理事長にお返ししてきます。」

「私にも同行させてください。」

 

 

 

 

 理事長室の扉は重く閉ざされている。ノックをしても響くような音はしない。

 乾いた樫の木が3回鳴ると、その内側から声がした。

 

 

 

 壮齢の女性が大きな机を前にして座っている。彼女がこのトレセン学園の理事長であり、名前を秋川と言う。

 

 

「ようこそいらっしゃいました、トレーナーさん。ごゆっくり、くつろいで行ってください。」

 

 そう言った彼女の前髪は過労からなのか、ウマ娘の流星のように一部が白くなっていた。

 

 

「まずはグレード制の導入の可決、おめでとうございます。」

 

 

 威圧感に体が震える。理事長は今でこそ柔和に笑っているが、トレセン学園の舵取りを先頭に立って行ってきた女傑である。

 彼女の決定ひとつで、俺の首が飛ぶことすらあり得るのだ。

 

 

「トレーナーさんにお褒めいただくことではございません。ウマ娘が走り、トレーナーが支える。私どもはその環境を善くしていくことこそが使命であり、グレード制の導入は私の悲願でもありました。生徒会の後押しもあり、実現に至ったということです。これからは興行、技術ともに更なる飛躍を遂げるでしょう。」

 

 

「では、この決定はどういった経緯なのか、ご説明願えますか。」

 

 

 封筒を差し出すと、理事長はそれを予期していたかのように、小さく笑った。

 

 

「日本は未だIFHGAの格付けにおいて、パートⅡ国となっています。グレード制と言えば聞こえはいいですが、国際グレードではなく、当面の間は独自グレードによる格付けが行われます。」

 

「そこで、優秀なURA職員を海外に派遣し、得られたデータをもとに早急に国際グレードの獲得を進めるということが決定致しました。」

 

 

「我が学園からはあなた、そしてもうひとり、カノープスの正トレーナーがアメリカへ渡ることが決定致しました。栄誉ある職務にふたりも選出されたことを、私は誇りに思っています。」

 

 

「お褒めの言葉、誠に恐縮ですが、これをお請けすることはできません。」

 

 

 

 腹に力を込めて言葉を発する。すると、強風が吹いたかと見紛うほどの威圧感とともに、紺碧の眼光が俺を睨んだ。

 

 

(わたくし)には、ミスターシービーという担当ウマ娘がいます。彼女を置いて海外には行けません。ご容赦ください。」

 

 

 

「いいえ、彼女(ミスターシービー)に貴方は必要ないわ。」

 

 

 柔和な笑顔はそのままで、理事長がそう言った。

 

 

 

 

 

 

 




















なんか最近すごいUAとお気に入り増えるけど何があった?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。