雨が降り出した。コースを走っていたウマ娘はそそくさと退散する。西側には黒い雲がかかり、昼までの天気は幻であったかのように荒れていく。
トレーニングの時間になっても、トレーナーは姿を現さなかった。とは言っても、この天気ではトレーナーが走ることを禁止するだろう。雨の日に挫跖したことは彼に相当なショックを与えており、それは今の今まで尾を引いている。
彼からトレーニング以外で走ることを禁止されてしまった。だから私は部室でバランスボールに乗りながらひとりでジェンガをする。
寂しさを紛らわせるために、テレビもつける。ちょうどセントライト記念の特集が組まれていた。
思いつきではじめてみたけれど、なかなかにスリリングだ。バランスボールを膝で挟み、ゆっくりとブロックを押していく。
お腹が引きつりそうになってきた。なかなかハードなトレーニングだ。これならば『もっちり』の解消にも効くだろう。
お腹の『もっちり』は致命的だ。へそ出しの衣装では特に目立つ。やっぱり、トレーナーに見てもらうならいちばん綺麗な私がいい。
この状態だと、ブロックを引き抜くときよりも、乗せるほうが難しい。腕を上に伸ばさなければいけないために、重心が高くなる。グラグラと揺れる視点とともに、ジェンガもタワーも少しだけ揺れる。
ひとつ目、ふたつ目は難なく取れた。だが三つ目となると厳しくなってくる。主にお腹周りが。
体が重い、苦しい。全ては『もっちり』のせいであり、私のせいだ。この悲しみは海よりも深い。その中に私は沈んでいる。
あれ?『もっちり』は水に浮くんだったっけ?でも悲しいのは事実なので、沈むということにしておこう。
だが、浮き上がらなければ陸へとは上がれない。浮き上がったあとは、4.3mの坂を走り抜けなければならない。
その後は、『天馬』にでもなって、空を飛ぼう。彼の手を引いて、世界の面白いものを見て周ろう。
アメリカのダートで砂だらけになってみたい。欧州の柔らかいバ場は寝転ぶのには最適だ、昼寝をすれば気持ちいいだろう。
ゆっくりと手を伸ばす。
その時、扉が大きな音を立てて開いた。
「ウワーッ!!!」
バランスボールの上から転げ落ちる。机にぶつかり、ジェンガが顔に降り注いできた。
雨ではないので、結構痛い。
「トレーナーさん……?」
「シービー、お前は何してる。」
扉の先にはトレーナーが立っていた。恥ずかしいところを見られてしまった。呆れるのも当然だろう。
「タバコ吸ってたの?」
彼の髪は濡れていた。雨に打たれて火の消えたタバコを咥えたまま、彼は静かにこちらを見る。
「靴を見に行くぞ。」
そう言った彼の顔は、どこか見覚えのある悲しげな顔をしていた。