俺が言葉を発すると、貼り付けられたような笑顔の仮面が消え失せる。
これだけはどうにもならない。弱々しい少女の顔は俯き、暗い陰に隠れてしまう。
「すまない、シービー。」
「いいよ、大丈夫。アタシも薄々わかってたから…。」
少女が顔を上げ、そこに光が差す。陰から現れたそれはまた笑顔の面を被り直していた。
しかしながらその面は脆かった。唇が震えていた。
「今日はミーティングにしよう。練習メニューについても話がしたい。」
そう言うとシービーはゆっくりと椅子を引きそこに座る。だが、そのときに起きたわずかな振動は机の上にそびえ立つ塔の先端を揺らし、崩壊の一因となってしまった。
大きな音を立ててジェンガが崩れていく。先ほどの姿は見る影もない。均衡を保っていたはずのものがわずかにバランスを崩しただけで一瞬にして崩れ去っていく。その姿を見るのはやはり物悲しいものがある。
俺たちの間柄も、そういったものなのかもしれない。思えばあのとき雨が降っていなければ、俺は彼女に出会えていたかもわからない。
全ては雨のせいだ。雨が降っていなければ、こうしてジェンガが再び積み上げられることはなかった。もう一度崩れ去ることもなかった。そして、再びこんなにも悲しい思いをすることも無かった。
ただ
3000mという距離はただ歩くだけならばどうということはない。それでも、俺はその上に立つことすら許されない。その舞台を踏むことができる者はウマ娘のみ、ミスターシービーであるからだ。
俺にとってその距離はなによりも遠く、果てしない先にある。彼女に背負って貰わなければ望むことも、夢を見ることも叶わない。
その重荷を背負わせることは残酷なことである。ためらいが無いわけではない。それでも俺はその背中に賭けるしかない。
俺のすることが、積み上げてきたものを壊してしまうことになっても、彼女の将来のためには必要なことだ。彼女の脚は先行してこそ活きる。その結論は変わらない。
「アタシは、なにをしたらいいのかな。どうしたら勝てると思う?」
仮面の内から少女の顔が見え隠れする。見え透いた本心を隠すことができていないというのに、彼女はそれでも仮面を被ろうとする。
思えば、シービーの飄々とした態度はこの仮面によるものだったのかもしれない。
俺はその演技にずっと助けられてきた。彼女は恐ろしい奴だ。
「これから……、100m走とウッドチップコースの併走を主軸に置いてトレーニングする。」
「100mって、アタシを陸上選手にするつもりなの?」
「違う。」
不満そうに尻尾が揺れる。
「併走相手は?スインギーなの?」
「そうだ。」
耳が後ろに絞られた。
「いつもの追い切りと変わんないじゃん。」
「ああ、だがシービー、お前は内を走れ。スインギーが外から追う。」
「ねえ、トレーナー。あんたなに言ってるかわかってんの?」
普段であれば追い切りをするウマ娘が外を走り、併走相手は内を走る。力をつけるためにはできるだけ不利な状況であったほうがいいからだ。
「わかってるさ。わかってる。」
「じゃあどうして?」
「シービー、お前には先行策を取ってほしい。」
「スタートを決めて最初の1ハロンで好位を取れ。追われる感覚を意識しろ。」
「無理だよ、そんなの。」
小さくひとことだけシービーがつぶやく。俯いたその顔には不安が現れていた。
「シービー……。」
俺が名前を呼ぶと、顔を上げた。口角を上げてまだまだ余裕ありといったような笑顔が張り付いている。
「でも、できるとこまでやってみるよ。」
震える声だけは隠せてはいなかった。
名作少女漫画の金字塔からタイトルを勝手にいただきました。
展開進まないしのびのびなのがそっくりですね!
それでもアッチ側はとんでもなく面白いけどさ……