「始まったわね。」
場内実況が鳴り響く。手元のスマートフォンから中継映像が流れ、その音と重なった。
まずまずのスタート。それでも、シービーは後方に位置を取る。
彼女は今、確かに走っている。その二本の細い脚で大地を蹴り上げる。
俺は夢の中でその脚を探していた。彼女が居なくなったあと、毎日シービーが入院していたときのことを夢に見ていた。
夢の中でベッドに横たわったシービーが消炎剤を塗ってほしいと言う。
俺は布団をまくり上げて彼女の脚を探す。
どれだけ探しても、脚が見つからない。
脚を出してくれと言ってもシービーはただ優しく微笑むばかり。
ひとこと、彼女の声で「さようなら」と聞こえて、目が覚める。
悪夢だった。
「俺はずいぶんと嫌われたみたいだな。」
「そうでしょうか。」
シンボリルドルフが俺の言葉を遮るようにして言う。その目は、シービーの動きを追うようにゆっくりと動いていた。
「先行せずに『シービー戦法』で行くようね。」
淀の坂を越えて正面スタンド前に差し掛かる。歓声と拍手がウマ娘たちに惜しみなく贈られる。
各ウマ娘はかかり気味に速いペースで走り去る。
ミスターシービーはシンガリだ。
シービー戦法は俺に対する否定に他ならない。消耗の激しい長距離レースで最後方からマクリ上げることは不可能に近い。
3コーナーで仕掛けることは坂があるため不可能だ。直線に向けば、誰もがスパートを始める。
シービーがこのレースに出たのも、これを俺に突きつけるためなのだろう。
それでも俺は、再び走る彼女に喜びが隠せない。
勝ち負けはもうどうでもいい。ただ無事に帰って来さえすればいい。
走ることは辛いだろう。脚は痛むだろう。呼吸をすることすら難しいほどに、胸は苦しくなるだろう。
俺にはわからない苦しみを抱えてシービーは走る。俺はただそばに居ることしか出来なかった。これからは、それすらも出来なくなる。
ケーキなど、ただのご機嫌取りに過ぎない。遊びに行ったこともそうだ。
シービーはずっとひとりで走っている。俺はその後ろで眺めているだけだった。影を踏むことすら許されない。それはウマ娘とヒトという生まれの違いから決まっていた。
俺はミスターシービーに憧れている。俺も彼女のように自由にターフを駆けられれば、どれほど良かっただろうか。
俺が居なくとも彼女は戦える。ミスターシービーには何者にも縛られない『自由さ』がある。
1コーナーを抜けて2コーナーに入る。
シービーの様子がおかしい。上体が揺れ始め、
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シービーかわいいよな!
な!