サクサク書いて終わりに繋げていきたいです
「シービーの容態はどうでしたか。」
「かわいそうね、トレーナーさんが居なくなった上に、ここまで批判されるなんて。」
リギルの部室に戻るとシンボリルドルフとマルゼンスキーのふたりが声をかけてくる。
ミスターシービーの休養はさまざまな論争を生んでいた。これから年末にかけて、トゥインクルシリーズは更なる盛り上がりを見せる時期となる。その中心に据えられているものが有馬記念とジャパンカップである。
有馬記念はその年にクラシックで活躍したウマ娘と歴戦のシニアクラスウマ娘がぶつかり合う一年の総決算とも言えるレースである。ジャパンカップは世界からウマ娘が集う国際招致レースであり、未だに日本所属ウマ娘は勝てていない。
ミスターシービーはクラシック三冠を制覇し、揺るぎない実力を見せつけた。唯一無二の常識に囚われない危機感さえ孕んだ豪快な追い込みは人々の心を鷲掴みにした。彼女が出走し、勝利することを期待するのは観客としては当然の真理だ。
しかしその期待が裏切られたとき、観客の想いは失望へと変わる。国際的にも三冠ウマ娘の誕生は注目されている。批判は国内のみならず、海外の競争関係者からも行われていた。
「何も変わりは無いわ。ただ、復帰は秋ごろになりそうね。」
「長期ですね……。私にできることがあれば申し付けてください。」
「そうね!シービーちゃんがトゥインクルシリーズをアゲアゲにしてくれたんだから、アタシ達も一肌脱ぎましょうか!」
ふたりの会話はあらぬ方向へと進んでいく。入院している限りは私たちトレーナーであってもできることは少ない。無論それはウマ娘でも同じことだ。
「ルドルフ、貴女にできることは復帰したシービーを全力で倒すことだけよ。マルゼンスキー、貴女はリハビリに励みなさい。ドリームトロフィーリーグは今の貴女の脚で闘えるほど甘くはないわ。」
彼女たちにとっては友人であり、共にターフを駆ける戦友であり、そして打ち倒すべき敵でもある。憐憫という斤量は足元を掬われる材料になるだけだ。
「ええ、そのつもりです。」
「貴女に関してはそんな心配は無用のようね。」
シンボリルドルフの目つきが変わる。獲物を狙う獅子のような鋭い目つきはきっとミスターシービーに噛み付いてくれるだろう。
相手にどんな痛手があろうとも、獅子はただその獲物を喰い殺すのみなのだから。
「いいわね、ギラギラしちゃって。そういうのアタシも憧れちゃうな。」
ひょうきんな口調でマルゼンスキーが言う。その言葉に獅子の目が光った。
「マルゼンスキー、君はDTLで待っているがいい。土の味も案外悪くは無いかもしれないよ。」
「言うじゃない。じゃあアタシは貴女が土を食べている横で、イタ飯でもいただこうかしら。」
「ふたりとも、やめなさい。」
「冗談が過ぎた。だが、君には負けないよ。マルゼンスキー。」
「ええ、アタシもそのつもりだから。」
ふたりに柔和な笑みが戻った。
ウマ娘のレースにかける情熱は私たちの想像を超えていく。その執念があるからこそ、時に予想を超えた結果を見せてくれる。
レースに絶対は無い。だが、絶対に負けられない。
「ルドルフ、明日のレースは絶対に勝ちなさい。ジャパンカップを見に来た連中にも、海外の連中にも、ミスターシービー以上の逸材がここに居ると見せつけるのよ。そうすれば、あの子の悪評も消えるわ。」
「承知しました。」
微笑むシンボリルドルフの目がもう一度だけ光った。