「ねえ、トレーナーさん。この『スコアー』っていうのがトレーナーさんのチームなの?」
目の前にあるプレハブの小さな小屋には『
「ああ、そうだ。」
「じゃあ、ほかのチームのコたちは?」
「その話は中でする。冷房も付いてるからな。」
「良い部室だね。今のトレーナーさんには似合わないくらい。」
「そうだな、さあ、入ってくれ。」
扉を開けると、あの頃から何ひとつ変わらない風景があった。
出しっぱなしの紙コップ、傾いた椅子、忠臣の如く次の手を待つ将棋の駒に、崩れて散らばったジェンガ。
冷房の電源を入れると、来客を歓迎するかのように元気な電子音が鳴った。
「シービー、チームのことなんだが」
「わかってる。解散したんでしょ。」
シービーの発言に虚を衝かれる。いつもの宙に浮いているような、くだらない冗談を言う
「どうして、それを知っている。」
「少しくらい、片付けていけばいいのにね。」
シービーは崩れたジェンガを手に取って、ひとつづつ積み上げはじめた。
「嫌だったか?」
シービーは無言でジェンガを積み上げている。
「今ならまだリギルは受け入れてくれるだろう。俺からもおハナさんに口利きしてやる。」
「きっとこの『
俺の言葉を無視してシービーが話し始める。俺はその言葉を黙って聞いていることしかできなかった。
「部室にエアコンなんか付いててさ、こんな良い部室、そうそう無いよ。きっとスクールの成績も良くて、トレセン学園からすごい期待されてたんだろうね。あとこういうおもちゃまで買ってくれるみたいだし。」
「チームの名前が『
「ああ、そうだ。」
チーム『
さそり座AH星は赤色超巨星である。さそり座の一等星『アンタレス』よりも大きく、光度階級で言えば光度が高い。
しかし、地球から遠く離れたその星は肉眼で見ることは難しい。ほかの星の輝きの中に紛れてしまう。
ウマ娘の才能も同じだ。どれだけ素晴らしい才能を持っていたとしても、他のウマ娘の才能に隠れて見えないことがある。それを見つけ出せるようにと、俺はチーム名に『
「トレーナーさんは悪くないよ。ウマが合わなかっただけ。ウマ娘だけにね。」
シービーはひとりで小さく笑った。
「トレーナーさん、『
「どんなって、普通の練習だ。」
俺は練習内容を言うのを憚った。俺の考えたトレーニングメニューは部員に不評であったし、それがチーム解散の原因であると自覚している。
「でも、他のチームはツイスターゲームなんてやってないよ?あと、棚に置いてあるインラインスケートもね。」
しかしそれは、シービーの目を欺くことは出来なかった。諦めて白状することにしよう。
「ツイスターゲーム、インラインスケート、テレビゲームでレースゲームもした。他にはしっぽ鬼やむかで鬼、休みにはミニサーキットに行ってミニバイク、自転車に乗れないヤツはレーシングカートに乗った。冬はアイススケート、アイスホッケー、スキーもした。もちろん、基礎練習もするし、コースも走る。」
ツイスターゲームは体幹を、インラインスケートとアイススケートはバランス感覚と下半身を、レースゲームはコーナーで斜行にならないブロッキングを教えるため。しっぽ鬼とむかで鬼はマークされた場合の切り抜け方を、ミニサーキットに行ったのは、まだ体ができていないウマ娘に遠心力の感覚を掴ませるため。アイスホッケーはレースでの接触を見越してのため。
「流石だね、トレーナーらしくなくて、すごく面白そう。」
シービーがまた笑う。ニヤリと嫌な笑みは何かを企んでいるに違いない。
だが俺は、彼女の言葉が何よりも嬉しかった。
「『ScoAH』に入ってくれてありがとう、これでまた
「違うよ、トレーナーさん。これは
「これは『ScoAH』じゃない。もう一度新しいチームを組むの。さそり座の次の、てんびん座。チーム『カマリ』なんてどうかな。」
「良い名前だ。」
てんびん座の最輝星。名前をズベン・エス・カマリと言う。彼女はきっとその輝きにも負けないくらいに輝くだろう。
「ほら、トレーナーさんの番だよ。」
シービーはジェンガのブロックをひとつだけ持ち、無邪気に笑っている。
あのときから崩れたままだったジェンガは今、高く積み上がっている。
俺はそれを壊さないように、ゆっくりとブロックを引き抜いた。