最も不器用な三冠ウマ娘   作:Patch

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entr‘acte

 英国から届いた荷物には、“the British Museum(大英博物館)“と書かれていた。中にはブリティッシュスカルを模したオーナメントとキャンドルが入っている。

 

 彼らしいクリスマスプレゼントだ。ツリーもケーキもない、そしてトレーナーもいない病室にはぴったりだろう。

 

「全くアイツは……。」

 

 荷物を届けてくれたおハナさんは呆れたようにため息をつく。

 

 

「もっとマシなもの寄越しなさいって言っておくわ。」

「いえ、まあ……彼らしいと思いますよ。」

「火災報知器が作動するから、火はつけないようにね。」

 

 おハナさんが窓際に置かれたオイルライターを指差して言う。これは彼から奪ったものだ。そのライターにはオイルが入っていない。火を灯すことすらできないキャンドルは、目の入っていない眼窩で私をじっと見つめていた。

 

 ぽっかりと空いた目で一体何が見えるのだろうか。盲目となった髑髏(されこうべ)の主に私の姿は見えないはずだ。しかしその視線は私の心を見透かしているようでどことなく嫌らしい。火を付ければ溶けてなくなるだけの消耗品のくせに、私の心をかき乱すな。

 

 

「彼を許してあげて、アイツは女心ってモンが分かってないのよ。」

「それは重々承知しています。」

 

 近寄れば拒み、離れれば求める。心を御すというのは随分と難しい。私はそれに振り回されて、彼すらも袖にした。

 愚かと言うより他に無い。『行かないで』とひとことでも言えさえすれば、こうはならなかった。

 もう私を理解してほしいなどという贅沢は言わない。私が海外に追いやったくせに、そばに居てほしいと言うのは都合が良すぎる。

 私はどうしようもなく女だった。そして、良い女(fairlady)であろうとした。だから私は“俳優”ではなく“女優”として笑った。

 

 

「これ、置いて行くわね。アイツから貴女の好物だと聞いたから。」

 

 『eclipse』と箔押しされた、小さな白い箱が目の前に差し出される。トレーナーがいつもケーキを買っていた駅前の洋菓子店のものだ。

 

「貴女も苺が好きなのね。」

 

 中には見慣れた苺のショートケーキと、プラスチックのフォークが入っていた。

 だが私はあまり食べる気にはなれなかった。

 

 

「本当は、あまり苺が得意じゃなかったんです。」

「それはどうして?」

 

「酸っぱくて、見た目も少しグロテスクで。でも、誕生日とかのお祝いのときはいつも苺のショートケーキがあって……」

 

 

 おハナさんは何も言わず、私の声に耳を傾けている。だからそのままゆっくりと続けた。

 

「お祝いのときはショートケーキを食べるものだと思ってました。だから、メイクデビューを勝ったときに大きなホールでトレーナーに買ってもらったんです。それがなぜかすごく美味しくて、忘れられないんです。」

 

 

「それがすごく不思議で……、何故か分かりませんか?」

「わからないわ。」

 おハナさんは首を横に振る。

「わかったとしても、それを言うのは野暮ってものよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、私は行くわね。高かったんだから、好き嫌いせずに食べなさいよ?」

 

 微笑みながらチクリとトゲを刺す。そのやりとりは彼と軽口を叩き合ったときを思い出させた。

 

「すみません、そういうわけじゃなかったんです。」

「わかってるわよ、トレーナーを甘く見過ぎ。」

 

 

 おハナさんは背を向けて歩いていく。だが彼女は病室の扉の前で立ち止まった。

 

 

「ジャパンカップ、彼がイギリスで担当しているウマ娘が出走登録を行うそうよ。出るかどうかは、貴女が決めなさい。」 

 

 

 扉が開き、病室には静寂だけが取り残された。

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