「三冠ウマ娘がふたりか……。ミスター、やはりキミの目は素晴らしいな。」
「いえ、ただ貴方の予想こそ恐ろしい。」
「歳の功というものさ、気迫が写真からも伝わるようだったからね。しかし問題は──。」
「シーツが勝てるかどうか、ということですね。」
「その通りだ。」
シンボリルドルフはドンの予想通りジャパンカップに出走を表明した。中一週の強行である。ミスターシービーとシンボリルドルフ、2年連続で誕生した三冠ウマ娘同士の直接対決はここブリテンでも話題になっていた。
ジャパンカップに参戦するウマ娘は14名、どれも最上位級レースであるG1を勝てるだけの実力を持つウマ娘ばかり。
その中で日本所属ウマ娘は4名、ミスターシービー、シンボリルドルフ、カツラギエース、ディアナトロイのみとなった。
今年の春から日本では独自のグレード制が導入されている。欧州に比べれば格こそ落ちるが、日本にしか無い超高速馬場での勝利は大きい。そしてGⅠとなれば耳触りも良い。
だがそれはその場に居るふたりの三冠ウマ娘を倒すことが出来ればの話だ。
「ミスター、キミはどう見る。」
「そうですね。ふたりも重要ですがもうひとり、カツラギエースも警戒しておくべきでしょう。」
「その心は?」
ドンは机に置いてあった棒付きキャンディーをマイクのようにして俺に向けた。
「シービーは二度にわたって逃げ切られています。」
警戒するべき相手はカツラギエース以外にも居る。ディアナトロイは独自グレード制導入後初のGⅠ勝者であり、桜花賞1着、オークス2着、エリザベス女王杯3着とティアラ路線*1で堅実な成績を残している。
アメリカの硬い馬場を走り慣れたビクティムメイカーとマグナスロイヤルは、日本の芝へ難なく適応することだろう。
だが、ミスターシービーとシンボリルドルフという三冠ウマ娘が居ることを踏まえれば、最も警戒するべき相手は逃げウマ娘だ。
「おそらく本番では後方のミスターシービーと好位を追走するシンボリルドルフを警戒してスローペースとなるはずです。カツラギエースを大逃げさせてしまえば勝ち目はありません。」
「しかし苦手とする相手が出るのであれば、ミスターシービーは先行策を取るのではないかな?」
「いえ、ジャパンカップだからこそ、彼女は後方待機を取るでしょう。なにより、僕が見ていますからね。」
そこまで言うとキャンディーのマイクはドンの口の中に収まった。
「食えない奴だね、キミは。」
「全力で挑まねば、シービーにも失礼というものです。」
「このキャンディーとは大違いだ。苦くて辛くて、それでも人を惹きつける。葉巻のような男だ。」
「生憎ですが、もうタバコは辞めました。」
「そうか、だからキミはいつもキャンディーを口にしているんだね。」
「そんなところです。高いんですよ、こっちの煙草は。」
「やはりキミは面白い。本番、楽しみにしているよ。」
ドンは俺の肩を叩いて笑った。