三冠ウマ娘同士の直接対決。史上初のレースに観客が沸き立ち、会場が揺れる。
しかし1番人気はミスターシービー、2番人気はビトウィーンシーツ、3番人気はマグナスロイヤル、シンボリルドルフは4番人気に甘んじた。
「不服かしら。」
「いえ、全く。」
彼女は眉ひとつ動かさない。顔そのものは堂々とした『皇帝』の名にふさわしい威厳がある。しかし、いつも通りの体調ではないということだけは理解できた。
「レースが怖い?」
私が手を取ると、ルドルフは安心したかのように少しだけ笑う。彼女の手は凍りついていた。血色を失っており、指先は白い。爪に至っては青く、まるで生き物のものとは思えない。
冷たくなっているというのに、じっとりと汗をかいている。私はそれを両の手で挟み込み、温めることしかできない。
「怖くないレースなどありません。勝ちたいという執念は、誰もが同じはずです。私はその夢を幾度となく摘み取ってきました。」
彼女の同期にも、既に退学が決定してしまった者が居る。2年目の秋までに勝ち星を挙げることが出来なければ、この学園には居られない。
夢破れた彼女たちは地方に行くのか、それとも競争そのものを辞めてしまうのか、それはわからない。
シンボリルドルフは全てのウマ娘に幸福を願っている。勝利こそがその願いに近づく手段であると信じて戦ってきた。生徒会からこの学園を変えるという野心は入学当初から変わらない。
その願いと自らの勝利との間でシンボリルドルフの心が揺れ動いていた。
「何も恐れる必要は無いわ。貴方の名は伊達じゃない。『皇帝』となるべくして、貴方はその名前を貰ったのよ。」
「王権神授説ですか……。それでは、私は倒されてしまいますね。」
「違うわ。そういう意味じゃ──」
「冗談ですよ。」
「皇帝でさえも倒されずに残っている国があるんです。ご存知ですか?」
ルドルフは気丈にも笑う。流星はゆらりと動き、目には輝きが蘇った。
「ここ、
「日本のウマ娘が勝てば歴史が動きます。海外のウマ娘には、絶対
この府中に集まったウマ娘は誰もが実力者ばかり。相手に不足はない。
「楽しみなさい、憧れのミスターシービーとの直接対決よ。」
「言われなくとも、承知しております。」
皮肉めいた私の言葉も彼女には届かない。シンボリルドルフとミスターシービーは走りも、それに懸ける想いも対極にある。
だがふたりは惹かれ合っている。
その理由はわからない。同じ三冠ウマ娘だからか、ただ自分にないものを求めあっているのか。
もし運命というものがあるのならば、これは定められたものなのだろう。その名前に刻まれた魂が、ミスターシービーとの対決を望んでいる。