恋人キャルちゃんといちゃつく話   作:ゆうたんたん

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 筆者のいる世界線ではまだ2日なのでセーフです。



お誕生日キャルちゃん

 グラスの中の氷が崩れて、カランと高い音が鳴った。

 キャルはストローでくるりとアイスティーを混ぜてから、一口含んだ。

 

「にしても、あんたがこんなお洒落なところ知ってたなんてね」

「う、うん」

 

 どこか曖昧な返事にキャルは小首をかしげると、

 

「えっと、実は昨日雑誌で見て……知ってたわけじゃ……」

「あはは。まあ、そんなところでしょうね。別に見栄なんて張らなくてもいいのよ」

 

 今日はキャルの誕生日。

 美食殿の仲間たちが朝から祝福してくれて、夜には誕生日会を開いてくれるらしい。

 今は、約束していたユウキとのデートの真っ最中。

 

 

 キャルがユウキに連れられてやって来たのは、お洒落な喫茶店だ。

 レコードから流れる、穏やかで落ち着いた調べ。その曲調に影響されて、この空間の時間すらもゆったりと流れているように感じられる。

 暗い色合いの煉瓦の壁は、まるで隠れ家のような印象を持たせてきて、この喫茶店に特別感を与えている。それだけでは店内が暗くなってしまいそうだが、アーチ形の窓から取り入れられる外光によって、むしろとても明るい。

 テーブルの横の壁に取り付けられた、どこかアンティークな雰囲気のあるランプは、夜になれば灯るのだろう。

 きっとその時は、この店はまた違った魅力を見せてくれる。訪れたばかりだというのに、またユウキと来たいなとキャルは小さく微笑んだ。

 

 客層によるものか、それとも単に一人で利用している人が多いからか、とても静かな空間だ。レコードから流れる音楽と、目の前のユウキの発するささやかな音、たまに他の客のコーヒーカップがソーサーに置かれる時のカチャリと鳴る音。たったそれだけ。

 

 先ほど、おすすめだというオムライスをユウキと二人で注文したのだが、それができるまではまだしばらく時間がかかるだろう。

 普段なら注文した料理が届くまでの間は、ユウキと談笑しているのだが、喫茶店の静かな空気に当てられて、今日はお互いに沈黙したまま。

 けれど、決して気まずくはなかった。

 

 あっという間に気に入ったお洒落な喫茶店で、とても大切な人と、それも特別な日に。

 

 ユウキも自分と同じ気持ちでいてくれたら、いいなぁ。なんて思いながら、キャルはユウキを見つめた。目が合った。

 どうやらユウキの方もこちらを見つめていたらしい。

 キャルは慌てて目を逸らそうとして、けれど、今日はそれをぐっとこらえた。そして、いつもユウキが自分にしてくれているのを真似して、キャルの方から笑いかけてみた。

 

 今がとても幸せなのだと伝えるつもりで。

 

 

 昔は叶いっこないと思っていた。けれど願い続けなければ辛くて、願い続けるのが苦しくて。

 そんな遠い夢だと思っていたモノが、確かなものとして、今ここに。

 

 

 

 しばらくして、注文してたオムライスを店主が持ってきてくれた。

 もしかしたら無言でずっと見つめあっているところを見られたかもしれないと、キャルは赤面するが、初老の紳士然とした店主は特に気にした素振りを見せないので、見られていないのだと思い込むことにした。

 

 二人の前に運ばれてきたオムライスは、見ただけでもふわふわとした柔らかさが伝わってくる。店主自らそれに切れ込みを入れると、とろりとした半熟の卵が滝のようにこぼれ出てきて、豊かな香りが溢れる。

 卵のそれと、バターの匂い。食べる前から美味しさが感じられるような気がして、キャルはごくりと喉を鳴らした。

 

「それではごゆっくり。お好みでソース、ケチャップなどもお使いください」

 

 容器に入れられたソースとケチャップを差し出しながらそういって、店主は下がっていった。

 お礼を言うユウキに遅れて、キャルも少したどたどしくお礼を言う。

 

「おいしそうだね」

「そ、そうね。まだ食べてないけど……すでに期待以上だってわかるわ」

 

 二人そろって頂きますを言って、少し悩んでからキャルはソースをかけることにした。

 はやる気持ちを抑え、スプーンで一口分すくい――

 

「!! おいしい……!」

「うん!」

 

 とろとろとした味わい深い卵はもちろん、チキンライスも絶品だ。鳥肉のうま味と、適度な濃さのケチャップライスは、卵の味に負けること、勝つこともなく。絶妙な調和を生んでいる。

 

「ねえユウキ、ユウキ! また来ましょうよ! 二人きりでも、美食殿のみんなとでも!」

 

 

 

 

 

 オムライスを食べ終えて、少し休憩しているときに、キャルはふと先程のユウキとの会話を思い出した。

 

「ねぇ、あんたさっき雑誌でこの喫茶店を見たって言ってたわよね。他にもどんなことが書いているのか気になるから、帰ったらちょっと見せて?」

「雑誌持ってきてるよ?」

「え? ホント?」

 

 ユウキは荷物の中からごそごそと、雑誌を取り出して手渡してきた。

 『恋人とのデート特集号』と、なかなかストレートなタイトルに少し照れてしまうが、それよりも。

 

「あんたこれ女性誌じゃないのよっ」

 

 首をかしげるユウキに呆れる。呆れはするが、男性向けであれ女性向けであれ、デートを楽しむのに差はないだろうから構わないのかもしれない。

 ぱらぱらと中身を確認してみる。今いる喫茶店の紹介記事はもちろん、人気のデートスポット特集など。

 ふと、恋人へのおすすめの誕生日プレゼントがランキング形式で紹介されているページで手が止まった。

 ユウキの誕生日にお返しをするとしたら、この記事が参考になるかもしれないと思ったのだ。

 

 『プレゼントは私』なんて言うふざけたものが番外として載っていて、それ以外は『アクセサリー』『手料理』『時計』と言ったまとものモノが書かれているのだが――

 

「あっ……」

 

 『アクセサリー』に丸印が書かれていた。

 

 見なかったことにしよう。ま、まあサプライズじゃなくなっても、とっても嬉しいことに違いはないし。

 

 そんなことを考えながら、キャルはそっと雑誌を閉じた。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 その後もデートを続け、キャルとユウキは愛の広場で沈む夕日を眺めていた。

 

 ユウキと繋いでいる手に力を込めながら、そっと寄り添う。

 最近は外で、あまり人目を気にせずにユウキと手を繋げるようになった。ユウキに対しての想いが以前よりもさらに強くなっているというのもあるし、少しだけ素直になれるようになったという理由もある。

 

「好き……」

 

 こうしてロマンチックな場所で、沈む夕日を二人きりで見ていると、思わずそんなことを言ってしまった。

 思えば、一番初めにユウキに想いを伝えた時も、ほとんど勢いだったか。未だに言える時と言えない時がある。こういったロマンチックな雰囲気なら、流れに身を任せて言えるのだが、好きと言いたくても言えないときも少なくない。

 けれど、そう遠くない未来、もっと当たり前のように好きだと伝えられるようになる気がする。

 

 ユウキは、そんなキャルの言葉に答えるように、頭を撫でてくれた。

 

「キャルちゃんちょっといい?」

「なあに?」

 

 撫でてくれているユウキの手に、キャルは自分から頭を擦りよせながら聞き返す。キャルの甘え切った声色に、ユウキはしばらく撫で続けた。

 しばらくしてから、ユウキは優しくキャルを離して、荷物の中から何かを取り出した。

 

「本当はみんなと一緒に、キャルちゃんの誕生日会で渡そうと思ってたんだけど。お誕生日おめでとう、キャルちゃん」

 

 ユウキが取り出したのは、包装された縦長の箱。

「あ、ありがと。開けていいの?」

「うん」

 

 なるべく丁寧に包装を剥がして、箱から中身を取り出す。

 ネックレスだ。

 猫のシルエットが、ハートの形を作っているとても可愛らしいもの。小さい赤い宝石が、夕日に照らされて眩しく輝いた。

 

「嬉しい……」

 

 自然とそんな言葉がこぼれた。アクセサリーをくれるらしいとは知ってしまった時は、嬉しさが半減するのではなんて不安になってしまったが、そんな事はなかった。

 

「ユウキ! ありがとね。その、とっても大切にするから」

 

 嬉しくて、幸せで、どうにかなってしまいそうだったが、まずはお礼を言うことにした。

 ユウキも、キャルに負けないのではないかと言うほどに嬉しそうに、

 

「喜んでもらえてよかった」

「あ! ね、ねえ! さっそく着けて?」

 

 キャルはユウキにネックレスを手渡して、背を向ける。そっとユウキの腕が回されて、留め具にしばらく苦心していたようだが、無事にネックレスはキャルの首へ。

 

「可愛い……ねぇ、どう? 可愛い?」

「うん」

「……ちゃんと可愛いって言いなさいよ」

「可愛い」

「うん……」

 

 キャルはもう一度ユウキに寄り添う。

 

「プレゼント、本当にうれしいわ。あんたから……こんなに一杯貰ってもいいのかしら」

「もっといくらでも」

「ほんとに? あたしは手加減苦手だからね? いくらでも要求してやるわ」

「でも、プレゼントはそれしか用意してなくて」

「あははっ、今のところはこれで充分。本当にありがとうね」

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 夜。美食殿のギルドハウスにて。

 キャルの誕生日を盛大に祝い、それぞれ自室へと戻り眠りについたころ。

 

「新しくこの子も仲間になるからね」

 

 一人で呟きながら、シェフィにプレゼントされたぬいぐるみを、ベッド周りのぬいぐるみたちの仲間に入れてやる。それから可愛がるように撫でた。

 先ほどお風呂に入るときに外しておいた大切なネックレスと、ぺコリーヌから送られたハンカチを、共にベッド横のチェストへしまう。

 コッコロからの贈り物は手作りの入浴剤で、先ほど使った。何回分も渡されたが、きっと最後の一回分は使えずに取っておくことになりそうだ。

 

 ぬいぐるみを抱くようにしてベッドに寝転がったときに、部屋の扉がノックされた。返事を待たずにユウキが入ってきた。

 

「ユウキ? どうかした? 一緒に寝たいの?」

 

 キャルはベッドの上で身体をずらして、もう一人分のスペースを空けてやる。

 だが、ユウキはぼうっと立ち尽くしたまま動かない。

 

「? どうしたのよ? ほら、おいで」

 そこまで言われて、ようやくユウキはベッドまで近づいてきた。

 

「えっとキャルちゃん……今日はネックレスしか用意してなかったから。他にプレゼントできる物が無くて」

「『しか』って……とっても、嬉しかったわよ?」

「みんながキャルちゃんにプレゼント渡してるの見たら、もっとあげたくなったから。プレゼント……」

 

 先ほど誕生日会で、美食殿のみんながキャルにプレゼントを渡してくれたわけだが、その時のことを言っているのだろう。その時ユウキからのプレゼントはなかったわけだが、それは当然、先にユウキがプレゼントをくれていたからだ。

 そこでふとキャルは気が付いた。プレゼントを渡したくなったというユウキが、手ぶらで部屋にやってきた理由は――

 

「あんたまさか、『プレゼントは自分』を実践しているんじゃないでしょうね?」

「! すごい! よくわかったね」

「…………」

 

 キャルは呆れてモノも言えない。

 ユウキはと言うと、本当に自分をプレゼントにするつもりらしく、キャルが何か言うのを待っているようだった。

 

「……まあいいわ、ほら、来なさい」

「うん」

 

 ベッドに上がってきたユウキを、思いっきり抱きしめると、ユウキも抱き返してくれる。

 

「あんたはとっくにあたしのモノなんだから、プレゼントにはならないわよ? だから、行動で示さなきゃいけないの」

「行動……?」

「ほら、考えなさい」

「えっと……」

「時間切れよ。大丈夫、あたしがどうすればいいか教えてあげるから。いつもみたいにね」

 

 そろそろ日付が変わってしまいそうだ。

 だが、我が儘なキャルは、まだ誕生日を終わらせるつもりはない。

 

「さっきも言ったけど…………あたし、手加減苦手だから」




 続きはウェブで。
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