Fate/All For ASINA 作:youyouyouyou
「こんばんは、お侍さん」
今宵、柳洞寺に訪れた客は、
白髪赤目の可憐な少女だった。
「わたしはイリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
見事なカテーシーで挨拶。高貴な身分が窺える。
「そしてこの子がバーサーカー」
少女の背後に現れたのは、巌のような大男。
狂戦士の名を冠しているにもかかわらず、静かに控えている。
「これはご丁寧に」
山門を守る侍は、恭しく頭を下げた。
「俺はアサシン。真名を葦名弦一郎と言う」
「へえ」
まさか真名を名乗られるとは思っていなかったイリヤスフィールは、
おもしろそうに笑う。
「真名を教えちゃって、よかったの?」
「お爺様ならともかく、俺など名前が残っていればいい方だ。こちらに不都合などない」
葦名弦一郎の逸話など、無い。何故なら、何も成すことができなかったから。
「お侍さんなのにアサシンなんだ」
「よく言われる。俺も現界するならセイバーが良かったが、セイバーと戦えると考えれば、悪くなはい」
「まだセイバーとは会ってないんだ。金髪の小柄な女騎士だけど、なかなか強いわよ」
「南蛮の騎士か。全身を金属鎧で覆っていると聞くが、厄介そうだが楽しみでもある」
和やかな会話が続く。アサシンの語りは柔らかく、口には笑みすら浮かんでいた。
「いや誰よ貴方」
キャスターが現る。
普段自分に見せる陰気な態度との、あまりの違いにツッコミを入れざるを得ない。
なんだコイツ。
「アサシン、貴方ロリコンだったの?」
「ふん」
笑止。貴様は何を言っているのだ。
生前、一国一城の主であり為政者であったアサシンにとって、子は宝であり、国の未来である。子を慈しむのは当然であり、
また、戦国の世を生きたアサシンにとって、イリヤスフィールは、あと1、2年もすれば結婚適齢期であり、今すぐ輿入れしたとしても、別段奇異ではない。
「イリヤスフィールは立派な淑女だ」
「流石アサシン。わかってるわね。そこのオバサンとは違うわ」
こいつら縊り殺してやろうか。
殺気のこもった目で睨みつけるキャスターから主をかばうように、バーサーカーが前に出た。
「チッ、とんでもない奴を召喚したわね」
ギリシャの英雄ヘラクレス。遠く離れた日本においてですら、その名を知らぬものは稀であろう。それがバーサーカーの正体である。
キャスターは生前、ヘラクレスと面識があった。ゆえにその規格外の性能を実感として知っている。
「けど、残念だったわね」
キャスターの体が浮き上がり、背後から無数の魔方陣が出現する。
「狂戦士が突破できるほど、わたしの神殿は甘くないわよ」
ヘラクレスは幾多の試練を乗り越え神に至った大英雄である。もし彼がその知恵と勇気と技量をもって挑んでくれば、神代の魔女をもってしても分が悪いとしか言えない。しかし、今の理性のない狂戦士に堕ちたヘラクレスなら、勝算は十分にあった。
イリヤスフィールは内心で舌打ちする。キャスターは龍脈の通る霊地に拠点を築き、また冬木市の不特定多数の人間から魔力を吸い上げていた。時間がたてばたつほどキャスターは強化されていく。ゆえに、早急に仕留めねばならず、威力偵察あわよくばそのまま殲滅するつもりで出陣したが、このキャスター、予想以上に厄介だ。
キャスターとして最上級であろうことに加え、アサシンまで従えている。バーサーカーならそうそう遅れはとるまいが、キャスターは搦め手に長ける。マスター狙いも当然してくるだろう。
撤退すべきか、そう警戒するイリヤスフィールだったが、ここでアサシンが前に出た。
「下がっていろ、キャスター」
「貴方じゃ勝てないわよ、アサシン」
キャスターが苛立ち気に言う。
「聖杯が欲しいんでしょう、だったら指示に従いなさい!」
「ただ聖杯を手に入れるだけでは意味がないのだ」
アサシンが太刀を構える。
「死闘を越えた先で手に入れて、初めて意味がある」
「■■■■■■!!!」
バーサーカーが吼える。
女達を置いてきぼりにして、男達は戦闘を開始した。
◇◇◇◇◇◇
バーサーカーが迫る。
その腕が振るうのは、岩より削り出された巨大な斧剣。
鳴り響く金属音。
斧剣と大太刀がぶつかり合い、火花が飛び散る。
「ぐうぅ!」
刀を取り落とすという無様を晒さなかったのは、侍としての意地か。
だがしかし、身体中を駆け巡った衝撃は、アサシンの体幹をただの一撃で削り取っていた。
バーサーカーの追撃。
死。
死が迫る。
「ぐおおぉ!」
崩れ切った体幹で、アサシンは辛うじで身体を浮かせた。
衝撃。
アサシンが飛ぶ。
木々が鳴る。
吹き飛ばされたアサシンは、山中の闇に消えていった。
「あはは、ホームラン♪」
「あの役立たず!」
イリヤスフィールが無邪気に笑い、キャスターが悪態を吐きながら構える。
バーサーカーは闇から目を逸らさない。
風切り音。飛来した矢をバーサーカーが弾く。
茂みから、アサシンが猛然と飛び出してきた。
駆ける。円の動き。翻弄しつつ攻める。
しかし、バーサーカーは巨躯ではあるが、決して鈍重ではない。
あっさりとアサシンを捉える。
吹き飛び転がりながら、衝撃を殺す。
膝立ちで弓三射。
バーサーカーの鋼の身体に弾かれる。信じられないことに、アサシンの強弓が刺さらない。
バーサーカーの叩きつけるような一撃。
横っ飛びで躱す。
(ブシの矜持ってやつかしら?)
イリヤスフィールは、何度も吹き飛ばされ無様に転がりながらも、果敢に攻めるアサシンを見る。
その姿は、滑稽で哀れだが、同時に可愛くもあり、何故だか亡き父の姿が思い出され、胸が締め付けられた。
しかし、イリヤスフィールは勘違いしている。
この男は武士の矜持など疾うの昔に捨てている。
正面から挑むのは、必要だと思ったからだ。
これも葦名の為。
弾く。弾く。転がりながら躱す。弓で牽制。また弾く。
イリヤスフィールは息を呑む。
バーサーカーとの力の差は歴然だったはずだ。
現に最初は一撃で崩されていた。
それが今や、アサシンは正面から打ち合っている。
アサシンの心中に浮かぶのは、隻腕の狼。御子の忍。
アサシンのかつての宿敵は、「弾き」の技術に特化していた。
相手の動きを覚え、読み、弾いて崩し、一瞬の隙を突いて仕留める忍の技。
強者との戦いの記憶は、確かにアサシンの糧となった。
「何をしてるの、バーサーカー!」
イリヤスフィールの激が飛ぶ。
認めよう。確かにアサシンは、技量に優れた強者だ。
だが、そんな小細工を正面から叩き潰すのが、己のサーヴァントだったはずだ。
バーサーカーの力はこんなものではない。
「蹂躙しなさい、バーサーカー!」
「■■■■■■!!!」
バーサーカーが猛る。
「ちいぃ!」
後方へ跳びながら、三連の矢。効かないのは分かっている。進撃を僅かでも妨げれば。
「■■■■■■!!!」
「おおおおおお!!!」
バーサーカーの斧剣と、アサシンの渾身の唐竹割がぶつかり合う。
宙を舞うアサシン。空中で体制を整え、着地───した所に、バーサーカーの横薙ぎの一撃が叩き込まれた。
「やった!」
歓声を上げるイリヤスフィール。
否。当たってなど、いない。
吹き飛ばされたのは兜のみ。
地に臥す虎の如く身を屈め、かろうじで躱している。
身体をひねりながら下段。
バーサーカーは即座に飛びすさる。
遠心力で柄を滑らせ、際をもって間合いを伸ばす。
それでも届かぬと肩を外し、鞭のように振りぬいた。
刃がバーサーカーの脛を薙ぐ。
人であれば勝負ありの一撃。
だがこれは、英霊同士の対決。
決定打にはならぬ、が、
「バーサーカー!?」
バーサーカーが膝をついていた。
傷口からは禍々しい瘴気が漂っている。
異常。考えられる原因はひとつ。
まずい!
イリヤスフィールがそう思ったとき、アサシンは宝具を構えていた。
宝具はその真名を叫ぶことで、力を解放する。
アサシンの持つ大太刀。その名は───
「奥義・不死斬り」
「戻りなさい、バーサーカー!」
刀身以上に伸びた漆黒の斬撃が、バーサーカーのいた空間を薙ぐ。
だが既に、バーサーカーはそこにはいない。
令呪。
マスターが持つ、サーヴァントに対する絶対的命令権。
それはブーストとしても使用できる。
イリヤスフィールの命令により、バーサーカーは空間を跳躍し、彼女の傍まで転移した。
イリヤスフィールは憎々しげに、アサシンを睨む。
このサーヴァントは、バーサーカーの天敵だ。
バーサーカーの宝具は
対するアサシンの宝具は「不死斬り」。死なぬものを、殺す刀。
アサシンの宝具は、バーサーカーを一太刀で殺し得る。
今にして思えば、バーサーカーの攻めが温かったのは、本能的にアサシンの刃を警戒したからか。
「帰る」
故にイリヤスフィールは、撤退を決めた。
忌々しいことだが、バーサーカーでは、キャスターの神殿を攻略するのは困難だ。
「イリヤスフィール。夜は冷える。風邪を引かぬように、暖かくして眠るといい」
去る少女に、侍が声をかける。
「ふーんだ!ゲンイチロウのバカー!!」
天敵がそんな言葉をかけるものだから、少女はぷりぷり怒りながら走り去った。
◇◇◇◇◇◇
「よくやったわ、アサシン」
キャスターが上機嫌に声を上げる。
アサシンはふぅと息をつくと、どかりと胡坐をかいた。
「この場で仕留めきれなかったのは残念だけど、令呪を消費させたのは大きいわ」
撃退できたのは相性が良かっただけにすぎない。バーサーカーは己より遙か格上の
「これで貴方が自由に動ければ、作戦の幅がもっと広がったのだけど」
アサシンは山門の周辺から離れられない。山門には、アサシンの故郷である葦名の杉が使われており、それが現界の媒介となっていた。
「知るか。これは貴様の不手際だろう」
「はあ!?わたしの術式は完璧だったわ!」
キャスターが如何に自分の魔術が優れているか滔々と説明するが、そんなことアサシンは知らぬ。
「年増は話が長いから困る」
そういえば、エマも小言を言い始めると長かったなどと考えていると、プルプル震えていたキャスターが憤怒の形相を浮かべる。
「このロリコン侍ぃーー!!!」
柳洞寺に絶叫が谺した。
【宝具】
『不死斬り』
ランク:B
種別:対人宝具
黒い諸刃の大太刀。その名の通り死なぬものを殺す刀。不死の力を持つものに特攻ダメージを与える。より強く念を込めることで、威力、射程が上昇し、一時的にAランク相当に上がる。
とある世界線のカルデアには、ロリサーヴァントを侍らせ、これも葦名の為とのたまうロリコン侍がいたと言う。
次回、「第二次聖杯問答」