Fate/All For ASINA 作:youyouyouyou
柳洞寺の山門で、アーチャーは内心困惑していた。
この男は誰だ。
アーチャーの真名は、エミヤシロウ。此度の聖杯戦争のセイバーのマスターである衛宮士郎のあり得たかもしれない未来の姿である。
故にアーチャーは過去にこの第五次聖杯戦争を経験している。しかし、その経験の中に目の前の男はいなかった。
「イリヤスフィールは、セイバーは女騎士だと言っていた。ならばお前はアーチャーか」
男から
「そう言う貴様はアサシンだな」
「ああ。しかし、キャスターがさらってきた小僧は、セイバーのマスターのはずだ。それで何故、アーチャーが現れる」
「ここに居合わせたのは偶々だ。セイバーも直にくるだろう」
本心を隠し、アーチャーが答える。
「ふむ。ならばアーチャー。お前は通るがいい」
「なに?」
「セイバーとの死合いを邪魔されたくはない。それに、あの年増にも少しは働いてもらわねばな。英霊2騎が相手では流石に手に余る」
アーチャーは警戒を続けながらも、アサシンの隣を抜け、山門をくぐり境内へと進んでいった。
アーチャーの言ったように、セイバーは直ぐに現れた。
「貴様は…!」
「アサシンだ。ここを通りたくば押し通るがいい」
マスターをさらわれ、救出を急ぐセイバーに余裕はない。苛立ち気に睨みつけ、不可視の剣を構えた。
その立ち姿に、アサシンは笑みを浮かべる。
「ふっ、女か」
「愚弄するかアサシン。その代償、高くつくぞ」
「元よりそんなつもりは無い。俺の師も女だ。その師に似ていると感じたのよ」
容姿は似ていない。そもそも人種が違う。だが、身に纏う清廉で凜とした空気は、己の師とよく似ていた。
アサシンは予感していた。此度の聖杯戦争に、己の宿敵となる存在がいる予感。自分がセイバーではなく、アサシンとして呼ばれた理由。ならば、セイバーこそが、それではないのかと。
予感は正しかった。セイバーこそが、越えるべき壁だ。
アサシンが刀を構え、セイバーが襲い掛かった。
♢♢♢♢
セイバーの剣が迫る。
アサシンがそれを防ぐが、セイバーは矢継ぎ早に攻撃を繰り出す。
時間をかけるつもりなどない。一気に押し通る。
押されるアサシン。やりにくい。理由は明白。
剣身が、見えぬ。
把握できない間合いは、葦名流の骨子と言える「弾き」を困難なものにさせていた。
圧に負けて、大きく下がる。追うセイバー。苦し紛れの弓。セイバーは放たれた矢を弾く───
「!?」
大きくバランスを崩すセイバー。剣を杖代わりにし転倒を防ぐ。
セイバーが感じたのは、まるで鉄柱を撃ち込まれたかのような衝撃。途轍もない矢の威力。
ランサーには「矢除けの加護」。バーサーカーには
それぞれがアサシンの矢を無効化する能力を有していた故、牽制程度にしかならなかったが、ここで漸く真価を発揮した。
アサシンの持つ技能の中で、最も才があるのは間違いなく弓だろう。強者ひしめく葦名の地においても、こと弓においてアサシンに並ぶものはいなかった。
間合いが見切れぬ故、正面からの斬り合いは不利と理解したアサシンは戦い方を変える。
再び矢を放つ。
ステップで躱すセイバー。
その動きを予想していたアサシンは、躱した先へ猛然と迫り跳躍する。
空中で後ろ回し蹴りから勢いを殺さず振り下ろしの蹴り。
仙峯脚。
剣で防ぐセイバー。
本来の仙峯脚は着地後に回し蹴りに繋げるが、アサシンは別の技を混ぜる。
上からの蹴りを防いだことでガラ空きとなったセイバーの胴体に、槍のような蹴りが叩き込まれた。
仙峯脚は、かつて金で雇った僧兵が使っていた技。
槍足は、己が斬った内府方の忍、孤影衆が使ってきた技である。
生前、アサシンはこれらの技を修得してはいない。使えるようになったのは昨晩のこと。
召喚されてからのアサシンは、昼は己の記憶と向き合い、心中で死闘を重ね、夜は刀を振るい、心中より得た技術を身体に馴染ませた。
生前のアサシンは、当主として滅亡の危機が迫る国を救おうと駆けずり回っていた。
その仕事は控え目に言って激務であり、薬師からはこのままでは過労死すると再三忠告を受けていた。
皮肉なことに、死んで英霊となったことで、己の剣と向き合い、修練を重ねる余裕が生まれた。
アサシンは徐々に、生前より強くなりつつある。
セイバーは焦る。
できれば速攻で仕留めたかったが、目の前のサーヴァントは甘くはない。
手札が多い。それだけ警戒し意識を裂かなくてはいけない。
アサシンが跳躍し、矢を三連射。休む間を与えない。
ローリングで躱す。
アサシンがまた跳ぶ。
刀か。弓か。蹴りか。
刀。渾身の振り下ろし。
防ぐが、衝撃が身体を貫く。反撃にでれない。
アサシンは着地と同時に身体を捻り、刀を構える。
突き。
セイバーは横に跳んで逃げるが、アサシンが跳ねるように追いすがる。
アサシンは舞いながら連撃を繰り出す。
奥義・浮き舟渡り。
火花が刃鳴散らす。
セイバーに傷一つ着いてはいない。全てを防いでいる。
だが、体幹が崩れていることをアサシンは見逃さなかった。
アサシンの手がぬっと伸び、セイバーの顔面を鷲掴む。
視界が塞がれたことで、セイバーに動揺が走る。その刹那の間に、セイバーの足下の感覚が消えた。柔。
セイバーの後頭部が石段に叩きつけられ、意識が一瞬飛ぶ。
アサシンが太刀を逆手に持ち、振り下ろした。
「舐めるなぁ!!」
「ぬぅ!?」
スキル「魔力放出」。
セイバーから放出された魔力の奔流が、アサシンを押し上げ、身体が宙に浮く。
「
足が地から離れ避けれぬアサシンに、渾身の風のハンマーが叩きつけられた。
「があぁ!!」
石段を下から上に転げ上がるという、稀有な経験をするアサシン。
セイバーは呼吸を整え、頭から流れる血を拭った。
アサシンも腕を押さえながら、よろよろと立ち上がる。
「やるな。セイバー」
優勢だった戦況が、ただの一撃でひっくり返された。
「貴方の方こそ」
セイバーの顔に、もう焦りはない。開き直った。
マスターの無事に気を取られては、彼には勝てない。
もちろん心配ではあるが、キャスターが主を殺せるだけの時間はとうに経っている。しかし、主とのパスは未だ健在。ならば、キャスターにとってイレギュラーが起こったということ。己のマスターを信じる。衛宮士郎はタフな男なのだ。
それにセイバーはどうしても目の前の男と話しがしたかった。
「俺とお前は似ているな」
刃を交えるということは、時に百の言葉を交わすより互いのことを理解し合うことがある。アサシンは、この女騎士が自分とよく似ていると、理由もなしに感じていた。
そして、より直感に優れるセイバーは更に深いところまで理解する。
「アサシン。貴方も王だったのですね」
「この小さな島国の更に小さな領土故、王などといささか大袈裟だが、葦名という国の長であったことは事実だ」
「だが、その国は…」
「滅んだ。故に俺は、やり直しを望む。お前も同じか?」
セイバーはうなずく。
そして簡潔に語った。選定の剣を引き抜いて王になり、侵略者と戦い、内乱により滅ぶまでを。
「たとえ私が過去に戻り、やり直したとしても、私では国を救えない。ならば、私が王になったこと自体が間違いだったのだ。だから私は選定のやり直しを望む」
前回の聖杯戦争で王達と語り合った時、彼女の願いは否定された。お前は王ではない。その願いは間違っていると。
故に彼女は聞かずにはいられない。己と同じ境遇にある王に。
「私の願いは間違っているのでしょうか?」
その答えは───
「セイバー、お前は間違ってなどいない。お前の願いは正しい」
肯定の言葉が、彼女の傷ついた心に染みわたる。
「救われるべきは国であり、民だ。その為に王が全てを捧げるのは当然のこと」
そう!その通りだ!
「そして、全てを捧げても救えぬのなら、救える者に王を譲る。お前の言葉は全て正しい」
その言葉に、セイバーは救われた。
「俺も生前、そうした」
「え───?」
「戦続きで葦名は疲弊し、侵略者は虎視眈々と隙を伺っている。もはや真面な方法では国は救えぬ。だから外法に手を染め、不死の力を求めた」
息を呑むセイバー。
「だが、それすらも成せなかった俺は、自らを生贄にし、冥府より祖父を呼び戻した。葦名初代当主、剣聖 葦名一心をな」
なんという覚悟か。
「それでも葦名は滅びた。お祖父様をもってしても、葦名は救えなかった」
「ならアサシン。貴方は何故やり直しを望む!?」
問わずにはいられない。
「過去に戻ったとして、貴方は国を救えるのですか!?」
「過去に戻ったとして、俺はまた何も成せないだろう。葦名は滅びる」
「それに何の意味がある!」
「一度で駄目なら、もう一度やり直せばいい。それでも駄目なら更にやり直す。百回、千回、万回。何度でもだ。」
セイバーは、絶句する。
「勝算はある。聖杯戦争だ。相対するのはいずれも劣らぬ強者ばかりよ。これを勝ち抜き、その記憶を持って過去へと戻る。これを繰り返せば、戦いの記憶は蓄積される。それを糧に、俺は誰も届かぬ高みへと上る。その暁に、今度こそ俺は葦名を救えるだろう」
戦慄。それはどれほどの地獄か。
幾千、幾万も国の滅びを見るなどと、自分には到底耐えられない。
「さあ、続きをしようか、セイバー。俺の糧となれ」
アサシンが刀を構える。
まずい。
セイバーはアサシンの覚悟に呑まれている。
このままでは、勝てない。
その時、上から少年が転がり落ちてきた。
「シロウ!?」
それはセイバーのマスター。
慌てて抱き止める。
その背中には深い傷を負っていた。
山門から現れるアーチャー。
両手には短剣。
誰がやったかは明らか。
アーチャーを睨みつけるセイバー。
たが、今はマスターの治療を優先させねばならない。
傷は深い。
アサシンがセイバーから背を向け、アーチャーと対峙する。
「邪魔立てするか、侍」
「行け、セイバー。」
「感謝します、アサシン。決着は必ず」
去ろうとするセイバーに、アサシンが背を向けたまま声をかける。
「迷うなよ、セイバー。迷えば、敗れるぞ」
セイバーは無言で頷き、去った。
「貴様、セイバーに何を話した?」
どこか苛立ち混じりに、アーチャーが問う。
「お前には関係のないことだ」
「イリヤスフィールのことも知っているようだな、どういう関係だ!?」
イリヤスフィールとは聖杯を手にいれる上で、敵対的関係にはあるが、アサシンは彼女を斬る気はない。ならば敵とまでは言えず、しかし味方でも友でもなく、強いて言うなら、
「娘のようなものか」
あんな娘が欲しかった。
最も娘どころか、嫁をもらう余裕すら微塵もなかったが。
「戯け、アサシン戯けぇ!!!」
なんかいきなりガチギレするアーチャー。
ふむ。
「なんだか知らんがとにかく良し」
本気で来るなら、是非も無し。
「来い。アーチャー」
「アサシン死ねぇ!!」
この晩、柳洞寺に雷が落ちた。
♢♢♢♢
アサシンが大の字になって、倒れている。
上半身は裸であり、その身体は傷だらけだ。
「ねえ、生きてる?」
隣にキャスターが現れる。
現界しているのだから、生きてるに決まっている。
返事をするのも億劫なので無視して、
目をつむったまま余韻に浸る。
アーチャーとの戦いは最終的に弓の撃ち合いとなり、痛み分けで終わった。
アーチャーの弓は爆発し、アサシンを吹き飛ばし、
アサシンの雷の矢は、アーチャーの肉を焼いた。
アーチャーが撤退したことで決着はつかなかったが、アーチャーもまた強者であった。
先日、戦ったライダーは直ぐに撤退してしまった為、手応えは感じなかったが、彼女は騎乗していなかった。ならば、その実力は十分の一も見せてはいるまい。
これで全てのサーヴァントと相対したことになる。
いずれも己以上の強者ばかりだ。
たが山門から動けぬ以上、全ての敵と決着をつけるのは難しいだろう。
ならば、狙いを一人に定める。
そうなると、やはりセイバーだ。
己の師、巴に似た女騎士。
彼女との決着を望みながら、
アサシンは先程の戦いを反芻し続けた。
おいキャスター、脇腹をつつくな。
『巴の雷』
ランク:B
種別:対人宝具
雷雲を呼び、武器に雷を纏わせ放つ巴流の秘伝。地に足を着けた状態でこの技を受けると、打雷状態になり、ダメージと麻痺のバッドステータスが発生する。雷雲を呼び寄せるまで時間がかかり戦闘開始すぐには使えない。
次回、「黄金と漆黒」