Fate/All For ASINA 作:youyouyouyou
「答えは得た」
朝日に照らされながら、アーチャーが消えていく。
「大丈夫だよ、遠坂。俺も、これから頑張っていくから」
その姿を見て、捨てた筈の迷いがセイバーに生まれていた。
アーチャーは答えを得た。
己の過去は、あの時生まれた想いは決して間違いではないと。
ならセイバーの人生は、国を救うため駆け抜けた日々は───
「帰ろう、遠坂」
衛宮士郎が遠坂凛に答えをかける。
そうだ。帰ろう。
此度の聖杯戦争は終わった。
これから遠坂凛のサーヴァントとして、彼女等に寄り添い、答えを探していけばいい。
「ん?雷?」
衛宮士郎が空を見上げる。
いつの間にか空は曇り、遠雷が聞こえる。
空が光った。
「え?」
男が、立っていた。
上半身裸の、袴を履いた男。
その身体は血まみれ傷だらけであり、両腕は黒く焼け焦げている。
背には大弓、手には大太刀。
「アサシン・・・」
セイバーが呆然とつぶやく。
凛と士郎が警戒し、構える。
「アサシン。もう聖杯戦争は終わったわ。これ以上の戦いは無意味よ」
凛がそう告げるが、アサシンはただセイバーだけを見ている。
「リン、彼にそのような言葉は通じない」
セイバーはそう言って前に出た。
「巴流 葦名弦一郎」
アサシン、否、葦名弦一郎が名乗りを上げる。
「アーサー・ペンドラゴン、いや、ただのアルトリアだ」
アルトリアも名乗る。
サーヴァントセイバーでは無く、騎士王でも無く、一人の剣士として、彼女は戦う。
「いくぞ、アルトリア!!」
弦一郎が叫ぶ。
最後の戦いが始まる。
♢♢♢♢
「いくぞ、アルトリア!!」
弦一郎が一直線に駆け、跳ぶ。
砲弾のように飛翔しながら、全体重を乗せた突き。
その気迫、その速さ。並みの英霊なら呑まれ、為す術もなく貫かれるだろう一撃。
それをアルトリアは見切り、切っ先を踏みつけることで封じた。
アルトリアの反撃。
弦一郎は身をよじって躱そうとするが避けきれず、その身を切り裂かれる。
よろめき下がる弦一郎に、アルトリアの追撃が迫る。
弾く。
だが、アルトリアの攻撃は止まらない。二連。
弾き、更に強く弾く。
葦名流 登り鯉。
その襲い来る剣を、見事に弾き返す様、滝を登る鯉の如し。
強く弾いた力を殺さず、流れを変え、苛烈に振り下ろす。
葦名流 下り鯉。
しかし、弦一郎の刃は届かない。
アルトリアは後ろへ飛び、躱す。
「アルトリアァ!!」
弦一郎が走り、迫る。
突如、アルトリアの視界から、弦一郎が消えた。
下。
低い、地を這うような下段。
弦一郎の視界から、アルトリアが消える。
上。
アルトリアは跳躍し、弦一郎を飛び越え、回転しながら、その背中を斬った。
「踏み躙らせは・・・せぬぞ・・・!」
だが、弦一郎は倒れない。
雄叫びを上げながら、戦闘を続行する。
「どうして・・・」
思わず、遠坂凛がつぶやく。
どうしてここまで戦える。
満身創痍の弦一郎と傷一つないアルトリア。
もはや勝敗は明らかだ。
それに、勝ったとしても、聖杯はない。
願いは叶わないというのに。
遠坂凛の脳裏に浮かぶのは、ある日の夕暮れの放課後。
跳べないバーを越えようと、ずっと高跳びを繰り返していた少年の姿。
衛宮士郎は歯を食いしばり、拳を握り締めながら、戦いを見守っている。
「はあああぁ!!」
弦一郎が叫び、放つ。
巴流 奥義・浮き舟渡り。
流れるような動きの中に荒々しさの混じった連撃。
同時に奏でられる美しい金属音。
恐るべきはアルトリア、その剣の才。
弦一郎との戦いの中で、その弾きの技法を盗み、迫り来る連撃を、全て完璧に弾いて見せた。
止まらない弦一郎は追撃の突きを放つが、その切っ先は踏み躙られる。
更に斬りかかろうとして、弦一郎の膝ががくんと落ちた。
体幹の限界。
その隙をアルトリアは逃さない。
アルトリアの剣が、弦一郎の腹を貫いた。
「ごふ」
弦一郎が吐血するも、
「ぐおお・・・!!」
血反吐を撒き散らしながら、アルトリアを押しのける。
剣が引き抜かれ、腹から血が溢れ出すのにも構わず、前に出て渾身の力で刀を振り下ろす。
金属音。
刀と剣が激しくぶつかり合い、至近距離で二人の視線が交差する。
互いに弾かれたように離れ、再び交錯。
弦一郎の刀は空を斬り、アルトリアの剣は弦一郎の心臓を、霊核を貫いた。
剣を引き抜くアルトリア。
「あし・・・な・・・」
そう漏らしながら、弦一郎が崩れ落ちる。
「まだだ!」
弦一郎が食いしばり、踏みとどまった。
「嘘だろ!?」
「どうして死なないのよ!?」
衛宮士郎と遠坂凛が驚愕の声を上げる。
雷鳴が轟く。
雷雲はいよいよ真上に迫り、迸る稲妻が弦一郎を青白く幽鬼のように照らした。
弦一郎の眼が赤く光る。
「ゲンイチロウ・・・」
アルトリアが痛ましいものを見るように、顔を顰めた。
弦一郎がアルトリアに語った過去の中に死なぬ秘密がある。
スキル「疑似不死」。
弦一郎は生前、不死の力を求め、神が溶けると言う源の水の最も濃い澱を飲んだ。
霊核を貫かれ霊基に傷が入っても、現界の媒介となる山門を失っても未だ消えない理由がそれである。
「やむを得ません」
アルトリアが聖剣に魔力を込める。
宝具解放。
弦一郎を完全に仕留めるにはこれしか無い。
「ダメよ、セイバー!」
凛が止める。
既に二度アルトリアは宝具を放っている。聖杯のバックアップがなくなった今、三発目を放ったら、確実に消滅してしまうだろう。
「申し訳ありません。リン、シロウ」
出来れば彼女達の行く末を見届けたかった。
たが、アルトリアの直感が告げる。
弦一郎はまだ、奥の手を見せていないと。
「はあああぁ!」
聖剣から眩い輝きが放たれる。
「させるかぁッ!!」
弦一郎が跳躍し弓を構える。高い。
そこに、雷が落ちた。
なんという不運。
否、雷は弦一郎がつがえる矢に集まり、激しく放電する。
これぞ巴流の秘伝。弦一郎の奥の手。
巴の雷。
雷の矢が放たれた。
飛来する雷の矢。
直撃するその瞬間、アルトリアは跳躍しながら、聖剣で矢を受け止めた。
聖剣に雷が宿る。
アルトリアの直感。それは最早、未来予知にも近い。
あのまま、地に足を着けたままでは、雷は剣から身体へと移り、アルトリアの肉体を焼き、感電させながら、地面へと流れただろう。
初見の技に、最適解を示した。
そして、雷は返杯される。
雷返し。
跳ね返された雷を、弦一郎は跳び上がりながら受け止めた。
二度目の大跳躍。
ああ、アルトリア。
お前ならば、返してくると思っていた。
我が師、巴に匹敵、あるいは超えるかも知れない宿敵よ。
お前を超えて、俺は翔ぶ。
「喰らえェッ!!」
雷返し返し。
それを、アルトリアは跳び上がりながら受け止めた。
「馬鹿な・・・」
弦一郎は驚愕する。
一度ならまだ分かる。
アルトリア程の才。初見で秘伝を破ることも不可能ではないだろう。
だが、破り、返した技が更に破られるなど、どうして予想できるのだ!
アルトリアは未来予知じみた直感で予測した訳ではない。
雷を返した時、アルトリアの直感は勝利を確信させた。
だが、理性がそれに疑問を呈した。
アルトリアは弦一郎の覚悟と執念を知っている。
彼ならこちらの確信を超えて来るのではないかと。
果たしてそれは実を結び、アルトリアに二度目の大跳躍を成功させた。
「これで終わりだ!!」
アルトリアが放つ。
雷返し返し返し。
弦一郎は呆然と、アルトリアを見上げる。
跳べ。
本能が告げる。
跳ばなければ、敗れると。
たが、弦一郎の足は地面に縫いつけられたように離れない。
跳べ。
アルトリアが上で、弦一郎が下。
今の位置関係が、二人の差の示している。
アルトリアは、弦一郎には決して届かぬ高みにいる。
跳べ!
アルトリアの返した雷が、ゆっくりと近づいて来る。
走馬灯という奴か?
脳裏に巴の姿が映る。
跳べ!
負けた。
今回はここまでだ。
だが、諦めぬ。
何度敗れようと、俺は───
ふざけるな!!
憤怒の炎が吹き荒れ、霊基から溢れる溶岩のような熱が身体を焦がしていく。
ここが分水嶺だ!
ここで負けを許容するなら、俺は永遠に負け続ける!
脳裏に映るのは巴の姿。
その跳躍は、高く。
手を伸ばしても届かぬ高みに!
届かせようと言うのなら!
跳べ!!
弦一郎は、跳んだ。
雷を受け、刀から身体に流れる刹那の間に、弦一郎は跳んだ。
その時、アルトリアに浮かんだ感情は、驚愕、感嘆、憧憬、嫉妬。
弦一郎の覚悟と執念は、国に対する想いはアルトリアを超える。
悔しいが認めるしかない。
だから、せめて剣では負けたくなかったのだ。
このまま終わる訳にはいかない。
勝利の道筋を模索する。
既に二度、大跳躍を果たしている。
筋力は限界に近い。
そして、魔力を練っている時間はない。
故に、今表層に残っている魔力を放出すると同時に、なけなしの筋力を振り絞り跳躍を果たす。
これらの思考は、順序立てで行われた訳ではない。
全ての思考は同時に展開し、次の瞬間には実行された。
アルトリアの三度目の跳躍。
アルトリアは勝利を確信し、そして絶句した。
弦一郎が、アルトリアの上にいた。
先に跳んだのは弦一郎で、後から跳んだのがアルトリア。
ならば、アルトリアが上になるのが道理。
否。
それはお互いの跳躍が同程度の場合。
弦一郎は跳んだ。翔んだのだ。
その跳躍は、一度目、二度目を越え、脳裏の巴よりも、高く。高く。
どうしようもない敗北を確信しながらアルトリアは、それでも足掻こうと魔力を練ろうとし───
「うおおおおぉ!!」
弦一郎が刀を振り下ろす。
雷返し返し返し返し。
雷と共に飛来した真空波が、アルトリアを斬った。
「───」
狙った訳ではない。
弦一郎はただ、全力で刀を振り下ろし、雷を返しただけだ。
だが、気づけば刃は飛んでいた。
アルトリアは呆然と、落ちていく。
「うわあああぁ!!」
打雷。
アルトリアの身体を雷が蹂躙し、地へと流れる。
感電し、動けぬアルトリアに、着地した弦一郎が終わりの太刀を放つ。
奥義・浮き舟渡り。
否。
巴流 秘伝・渦雲渡り。
斬撃の乱舞。その鋭過ぎる斬撃は無数の真空波を巻き起こす。
幼き日の弦一郎は源の渦を睨み付けていた。届かぬ高みを、ずっとずっと、睨み付けていた。
今、弦一郎は渦雲を斬り裂きながら、翔る。
渦雲を抜けた先にあるのは、桜。
神なる竜に捧げる舞。
巴流 秘伝・桜舞い。
跳び上がりながら放つ、三連の回転斬りが、アルトリアの首を刎ねた。
♢♢♢♢
敗れたアルトリアが消滅する。
遠坂凛と衛宮士郎は、ただ立ち尽くすのみ。
そして、弦一郎の身体も消えていく。
弦一郎は座へと戻っていく霊核に万感の意思を込める。
この戦いの記憶のほんの一欠片でいい。
座に刻まれた己に届くようにと。
やはり俺は間違ってはいなかった。
稀有なる強者との死闘を踏破することが、俺を高みへと至らせる。
まだ見ぬマスターよ。俺を呼ぶがいい。
いついかなる場所にも、俺は馳せ参じよう。
全ては、葦名の為に!
Fate/All For ASINA
完。
以上で完結になります。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。