反町渚の希望と絶望   作:転寝

3 / 13
第2話「魔法少女と吸血鬼」

 亀が杖を渚の右肩に振り下ろす。

 意外にも俊敏だったその攻撃を躱しきれず、まともにくらった。杖は鉄で出来ていたらしく、肩の骨は呆気なく砕けた。

 激痛が渚を襲う。涙目になりながら歯を食いしばり、何とか立っていられる事が出来た。

 渚は右利きだが、右肩は今の攻撃で暫く使い物にならなくなった。魔法の杖を左手に持ち替え、魔力を溜める。

 先程から魔法の杖と表記しているが、渚がもつそれは魔法の杖というより魔法のバトンの方が近い。渚が何となく杖と呼んでいるだけである。

 その魔法の杖に溜めた魔力を放出すると、魔力の弾が亀に向かっていった。亀は吹き飛ばされ、畳敷きの床に激突。そのまま消滅した。

 ほぅ、と息をついてから、渚は後ろにいた老人の状態を確認する。どうやら意識を失っているだけの様だった。

 ここで魔女を倒せればいいのだが、先ずはこの老人を結界の外から出すのが先だ。渚は近くにあった襖を開けると、その先には似た様な和室があった。恐らく、この結界はこの様な和室で構成されているのだろう。

 いきなり引き摺り込まれた為、出口が何処にあるのか分からない。かと言って闇雲に進むのも危険だろう。使い魔が複数体現れたら対処出来るかどうかは怪しい。

 どうすればいいのだろう…そう思った時、襖の向こうに見える和室の襖がぶち破られ、赤い髪の少女が飛び込んできた。

 少女は黒いレザーアーマーを纏っている。ただし露出が少しばかり多く、臍や腕が露出している。下はズボンとブーツを履いており、巨大な斧を背負っていた。

 少女は渚を見ると少し驚いた様に目を見開いて、

 

「魔法少女!?あなた、どこから入ってきたの?」

「え、えっと…魔女の口づけを受けている人を見つけて…」

「ああ、結界に取り込まれたのね…」

 

 少女は納得した様に頷くと、少し考えてから渚に言った。

 

「…それじゃ、私がそのおじいさんをここから出してあげようか?」

「えっ?い、いいんですか?」

「勿論!私は普通に結界見つけてここまで来たから、出口分かるし…その代わり、ここの魔女を倒すのに協力してくれない?」

 

 渚は直ぐに頷いた。

 こちらとしては願ってもない好条件だ。老人さえここから脱出できれば、後は何とかなるだろう。

 少女は「決まりね」と笑顔で言ってから名乗る。

 

「私、藤野朱里(ふじのあかり)っていうの。よろしくね」

「わたしは反町渚といいます。えっと…よろしくお願いします!」

 

 渚が頭を下げると、朱里は「真面目だなぁ」と苦笑してから、渚に言った。

 

「私がおじいさんを担いでいくから、使い魔が出たら対処できる?」

「は、はい!やってみます!」

 

 渚の返答をきいて満足気に頷いた朱里は老人を軽々と担いだ。

 

「…それじゃあ、行こっか!」

 

 

 朱里は迷う事なく出口に辿り着き、一回結界から出て老人を地面に横たえた。

 携帯端末で救急車を呼び、老人を任せる事にした朱里に、渚は尊敬の念を覚えた。

 

「手馴れているんですね」

「慣れてるからね…反町さんは魔法少女になってからどのくらい経つの?」

「まだ二ヶ月くらいで…やっと魔女をひとりで倒す事が出来たくらいです」

「そうなんだ…でも、戦えるだけ凄いよ。私が魔法少女になった時、暫く戦えなかったから…」

 

 朱里は懐かしむ様に目を細めてから、渚の方を振り返った。

 

「それじゃ、結界に戻ろっか」

「わかりました」

 

 ふたりは再び結界内へと戻り、今度は最深部に向かっていった。

 

 

 朱里は次々に使い魔を倒していく。

 多少の攻撃をもろともせず、突貫して得物を振るう。服装も相まって、まるで中世の騎士の様だった。

 渚はというと、一体の使い魔に手こずってばかりだった。固有魔法である「幻覚」の魔法は強力で、それを応用すればどんどん倒していく事が可能ではあるのだが、如何せん渚自体の攻撃力が低い為、魔力を溜めないと倒せない。その為必然的に時間が掛かるのだ。

 それでも必死に使い魔を倒していき、気付けば最深部まで来ていた。

 襖を開けると、そこは今までより広い部屋だった。天井から杖がぶら下がっているのは変わらないが、室内にいるのは今までのような亀では無かった。

 四足歩行の巨大な亀(つまり普通の亀)が浮遊しており、その上に人の形をした何かが乗っていた。よく見ると、ソイツが無数の杖で構成されているのが分かった。

 イメージとしては浦島太郎が近いだろう。だが、ヒトガタもどきには顔のパーツが無く、手に持っているのは奇妙に歪曲した樫の杖だった。

 

「コイツが魔女ね…反町さん、行けるかしら?」

「は、はい!頑張ります!」

 

 渚と朱里は得物を構える。

 それと同時に魔女が動き出した。

 亀が滑らかに移動し、ヒトガタもどきが樫の杖を振り上げる。

 渚の頭を目掛けて振り下ろされたそれを横に転がる事で回避し、予め溜めておいた魔力を解き放つ。

 魔力の弾が魔女に直撃。

 だが、少し怯んだだけ。

 その後ろから朱里が斧を振り下ろすが、これもあまり効いた様子はない。

 

(硬い…!)

 

 朱里はがむしゃらに斧を振り回し、渚はひたすら魔力の弾を放つ。

 それでも堪えた様子は無かった。

 魔女が接近してくる。

 今度は横に薙いできた。

 咄嗟にしゃがんで回避。

 魔女はそのまま回転する。所謂(いわゆる)回転斬りの要領で辺りを薙ぎ払っていた。

 朱里はそれを避け切れられず、咄嗟に斧で受け止める。

 ダメージこそ無かったものの、後方に吹き飛ばされた。

 

「藤野さん!」

「私は大丈夫!」

 

 朱里は壁に激突し、顔を顰めながらも直ぐに体勢を立て直した。

 魔女はまだ回転している。

 しゃがめば当たらないが、立ち上がった瞬間にスイングされるのは確実だった。

 魔女の回転数が増える。

 荒々しい風が巻き起こり、渚の躰は斜め上へと浮き上がった。

 

(しまっ…)

 

 魔女の狙いに気付いた時にはもう遅い。

 勢いよく振られた杖が脇腹を直撃し、息が出来なくなる。

 そのまま振り切り、渚の躰は横へと吹き飛ばされた。

 壁に激突し、躰が軋む。

 口から少量の血を零し、渚はズルズルとへたりこんだ。

 

(…だめ、たたなきゃ…)

 

 立ち上がらないと、やられる。

 そう思っていても立つ事が出来ない。

 何気なく脇腹を見ると、その理由が分かった。

 脇腹が削ぎ取られていて、血が溢れている。

 痛みは不思議と無い。だが、立ち上がる事は出来ない。

 自然と意識が遠のいていく。

 魔女がこちらに接近してくるのが見えた。

 ああ、多分、あの杖でわたしの頭を割るつもりなんだろうな。

 それが分かっていても、もう駄目だった。

 

(…ごめんなさい、朱里さん)

 

 約束を守れなかった。

 自分はただの役立たずだった。

 それが…とても悔しい。

 魔女が杖を振り上げる。

 一瞬の後、それは渚の頭を割り、中身をぶちまけさせる筈だった。

 

 予期していた痛みは中々やってこない。

 薄れる意識を必死に保ち、目の前の光景を見る。

 

「…藤野さん」

 

 朱里が杖を受け止めていた。

 魔女の力が強いらしく、どんどん押されそうになる。

 それでも朱里は歯を食いしばりながら踏ん張っていた。

 

「…ダメだよ、反町さん。こんな所で諦めちゃダメ」

 

 朱里は額に汗を浮かべながら、ニヤリと笑ってみせた。

 

「私の目の前で、人は死なせない…!」

 

 ―瞬間、朱里は斧を思い切り横に振った。

 力づくの誘導により魔女の攻撃が逸れる。

 

「…ごめん反町さん。ちょっと血を貰うね」

「えっ…?」

 

 朱里は未だ溢れている渚の血を手ですくい取り、飲み干した。

 

「ふ、藤野さん!?何を…」

「…美味しいね、反町さんの血。これで、私は…アタシ(・・・)はまともに戦える」

 

 朱里は口の周りについた血を舌で舐めとる。

 そして犬歯を剥き出しにした醜悪な顔で魔女を睨み付けた。

 

「本当は見せたくなかったんだけどなぁ…緊急事態だし、仕方ないか」

 

 反町さん、そこで休んでて―そう言って朱里は魔女に向けて突貫した。その表情は生き生きとしており、得物である斧は朱く輝いていた。

 魔女に到る寸前で高く跳躍し、体重を載せた一撃を放つ。

 魔女は杖で受け止めるが…斧は杖をいとも簡単にへし折り、そのまま魔女の躰を両断した。

 魔女が乗る亀ごとぶった斬るという豪快な一撃に、渚はダメージを忘れて目を丸くする。

 朱里は痙攣する魔女から斧を引き抜くと、今度は魔女を滅多斬りにした。

 型などない、荒々しい攻撃…だがそれは魔女の躰を刳り、一方的に蹂躙していく。

 三十秒ほどそうしていただろうか。気付くと魔女は血溜まりになっており、その中にグリーフシードが落ちていた。

 魔女の返り血が朱里の白い肌を汚す。朱里は恍惚の表情を浮かべ、斧を振って血を払い落とした。

 悪魔の様な戦いぶりという評価がピッタリ当てはまる戦闘を目の前にして、渚はただ呆然とへたり込む事しか出来なかった。

 

 

 結界が解除されると同時に渚は意識を失った。

 傷は治りつつあるものの、血を多く出し過ぎたらしい。

 老人を乗せた救急車は行ってしまったが、朱里は再び救急車を呼び、待つ間にグリーフシードによる浄化を行った。

 救急隊員に(嘘の)事情を説明し、救急車に同乗する。病院に到着した頃には渚は意識を取り戻していて、傷もほぼ塞がっていた。

 結局、簡単な処置を受けて帰される事になり、渚と朱里は病院を出た。

 

「いつの間にかすっかり昼だね…今から学校行くの面倒だなぁ」

 

 朱里は携帯端末の時計を見てそうぼやく。ちなみに、変身後は掛けていなかったメガネを掛けていた。

 

「反町さんはどうするの?その制服…冬天(ふゆぞら)中のだよね?」

「はい…流石に休む訳にもいかないので、午後から登校しようと思います」

 

 渚がそう言うと、朱里は「真面目だね」と感心したように渚を見てから、

 

「でも、無理しないでね」

 

 心配そうな表情になってそう言った。

 

「大丈夫です。あの…色々ありがとうございました」

「こちらこそ。また一緒に戦えるといいね」

「はい!ぜひ、また!」

 

 渚は微笑むと、学校へ向かう為に歩き去っていった。

 その様子を朱里がぼんやり見ていると、「珍しいね」と足元から声がした。

 

「キュゥべえか…どうしたの、こんな所で」

「それはこちらのセリフだよ。君は陽ヶ鳴(ひがなき)の魔法少女のはずだけど」

「別にいいじゃん」

 

 朱里は素っ気なく言う。

 陽ヶ鳴というのはこの街―冬天市の隣にある市の事である。ちなみに冬天市に隣接している街にはもうひとつ、見滝原(みたきはら)市が挙げられる。

 

「早く戻った方がいいんじゃないのかい?『吸血鬼』が陽ヶ鳴にいないとなると増長する魔法少女が出てくる可能性もあるし」

(うるさ)いなぁ。あとその呼び方やめてよ」

 

 「吸血鬼」というのは朱里の二つ名だった。陽ヶ鳴では悪い意味で有名だったが、渚はそれを知らなかったらしい。

 その事に安堵しつつ、渚が自分の事を知ったらどうなるかを考えて暗澹たる気持ちになった。

 

(……考えても、仕方ないか)

 

 無理矢理そう思い、朱里は歩き出す。

 行く宛てなどは―特に無かったのだけれど。




キャラクター紹介②
藤野朱里
中学三年生。事故に逢い大怪我をした際に「血が欲しい」という願いでキュゥべえと契約して魔法少女になった。「吸血鬼」という二つ名を持つ。
外見は優等生の様だが、性格は意外と適当。
武器は大斧。衣装はレザーアーマーで、ソウルジェムは腕輪に変化する。シンボルは狼の頭部。
固有魔法は「吸血」
血を摂取する事で戦闘に特化した躰に変化する魔法。人格も若干変わる。ただし自分の血では効果は無い。

見た目のイメージ(Picrewの「量産めーかー」で製作)

【挿絵表示】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。