反町渚の希望と絶望   作:転寝

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今回のみ、原作キャラが登場するお話となります。


第6話「見滝原での出来事」

 見滝原市は冬天市に隣接する市でありながら、冬天市とは比べ物にならない程の規模を誇る近未来都市である。

 いつもこの街に来ると、自分の住む街との格差を思い知らされる渚だったが、今はそんな事よりも朱里の方が大事だ。

 キュゥべえの誘導により広い街を駆け回り、時間を掛けて辿り着いたのは郊外にある廃工場だった。

 見滝原にもこんな場所があったんだという感想を抱きながら、敷地内に入る。すると鉄くずが散乱している中に私服姿の朱里がいるのを見つけた。

 

「朱里さん!」

「あ、渚ちゃん!ごめんね、いきなり呼び出して…」

 

 朱里は渚を見つけると手を振った。渚が見る限りは何処にも外傷はないようで、ほっとする。

 

「いえ、大丈夫です。それより朱里さん、大丈夫ですか?強い魔女に襲われたんじゃ…」

「強い魔女…?いや、違うよ。魔法少女を紹介しようと思ってさ」

「へ?」

 

 どうやら渚は勘違いをしていた様だった。顔が赤くなるが、勘違いだけで済んだのは良かったといえるだろう。

 渚が俯いていると、「その子が藤野さんのお友達?」という声がした。知らない声だった。

 顔を上げると、朱里の隣に金髪の少女が立っていた。縦ロールが特徴的なその少女は、渚を見ると微笑み、名乗った。

 

「初めまして…よね。私は(ともえ)マミ、見滝原の魔法少女よ」

「わ、わたしは反町渚といいます。えっと…巴さんは朱里さんのお知り合いですか?」

 

 渚がきくと、少女―巴マミは朱里と顔を見合わせてから、「そうね、たまに一緒に戦ってるわ」と言った。

 

「巴さんは見滝原だし、私は陽ヶ鳴の魔法少女だから機会は少ないけどね。この人は私が知る限り最強の魔法少女で、たまに指導を受けているんだ」

「最強の魔法少女…」

 

 渚にとっては、朱里はとても強い魔法少女だ。そんな朱里を超える魔法少女とは…なんだか想像がつかない。

 

「最強なんて…私はまだまだよ」

「謙遜しちゃって…巴さんものすごく強いじゃん」

 

 おちょくる様な口調ではあったが、真面目に言っているらしい。

 

「私が死んじゃったらこの人を頼るといいよ」

「縁起でもないこと言わないでくださいよ…」

 

 渚はそう言ったが、本当は朱里の気持ちを分かっていた。

 魔法少女はいつ死ぬかも分からない。もし、渚を置いて自分が先に死んでしまったら、マミを頼れと…そう言っているのだろう。

 

「そうよ藤野さん。死ぬなんて、簡単に言っちゃ駄目」

 

 マミも朱里を説得する様にそう言う。それをきいた朱里は表情を真剣なものに変えた。

 

「…巴さんも知っているんでしょ。ここ最近、冬天市に出現している魔女の事」

「慈母の魔女の事?でもあの魔女は人を襲わないけれど…」

「でも、危険だよ。巴さんが取り逃したくらいだし、放っておく事は―」

 

 朱里がそう言いかけた瞬間、躰に電流が走る様な奇妙な感覚を覚え、ソウルジェムの指輪が熱くなった。魔女の魔力反応だ。

 

「近いわね」

「ちょうどいい。渚ちゃん、巴さんの戦い方を見ておいて」

 

 戦士の目になったマミと朱里が魔力反応のあった場所へと向かう為に走り出す。渚もそれを追い掛けた。

 先程のふたりの会話にあった「慈母の魔女」という言葉が、何故か頭の隅にこびり付いていた。

 

 

 結界を見つけ、変身してから中に入る。

 結界の中には湿原が広がっていた。その中にはゴミを人型に固めた様な使い魔がうろついていて、形容し難い悪臭が鼻を着いた。

 

「うっ…なにこの匂い」

「鼻をつまんでも臭ってきます…」

「あまり長居はしたくないわね…」

 

 渚と朱里は顔を(しか)めたが、マミは冷静に呟いてどこからともなくリボンを取り出し、二丁のマスケット銃に変えた。

 

(巴さん…すごい。リボンを銃に変えるなんて…)

 

 魔法少女になってから日が浅い渚の目から見ても、マミが魔力の扱いに慣れている事は分かった。

 

「ふたりは援護をお願い」

 

 マミはそう言うと、マスケット銃を構える。それと同時に使い魔がこちらを認識し、よたよたと歩いてきた。

 

「―さあ、始めましょうか」

 

 マミは不敵な笑みを浮かべ、そう呟いた。

 

 近付いてくる使い魔が倒れる。

 目にも止まらぬ早さで一体の使い魔を撃破したマミは、二丁のマスケット銃を操り次々と使い魔を倒していく。

 銃弾を撃ち尽くした銃は投げ捨て、直ぐに新しい銃を生成する。

 大雑把に狙いを定めているように見えて、その実精密な射撃を行っているマミに、渚は息を飲んだ。

 あまりにも圧倒的で…そして、美しい戦闘。

 数分もしないうちに、辺りの使い魔は全滅していた。

 渚と朱里の出番は、全く無かった。

 

 

 最後の使い魔を倒したマミはマスケット銃を手に持ったままこちらを向いて、「ひと仕事終わったわ」と微笑んだ。

 

「凄い…」

 

 渚は半ば呆然としながら呟いた。まさかこれ程までに圧倒的だとは…。

 

「…やっぱり、巴さんの戦闘は凄いね…華があるっていうかさ」

 

 朱里も感嘆の声をあげる。マミは「ありがとう」と微笑みを深くすると、結界の奥を見据えて呟いた。

 

「さあ、次に行きましょうか」

 

 

 結界の最深部は、何も無かった。

 地面が無数の蓮の葉で覆われているだけであり、使い魔すらいない。

 

「ここは本当に最深部なの…?」

 

 三人の心中を代弁して朱里が呟く。

 今までは魔女が鎮座していたのに、今回はそれがない。不気味といえば不気味だった。

 

「…気を付けて進みましょう」

 

 マミが呟き、蓮の葉を踏みつけて歩いていく。

 渚もそれを追おうとして、蓮の葉を踏みつけながら進んだ。

 何枚目かの葉っぱを踏みつけた時―突如躰がガクリと傾いた。

 バランスを崩したのかなと思い、足元を見る。そこで目にした光景に、渚は悲鳴を上げた。

 自分が踏んでいる蓮の葉がガバリと開き、自分の脚を呑み込まんとしている。葉には無数の牙が生えており、それが深々と渚の脚に突き刺さっていた。

 

「ま、まさかこれが魔女…!」

 

 藻掻くが、一向に抜け出せない。それどころかもがけばもがくほど呑み込まれていく。

 

「渚ちゃん!」

 

 朱里が駆け寄り、渚を引っ張りあげようとするが、魔女が中々離さない為に上手くいかない。先に行っていたマミもそれに気付き、リボンを用いて渚を引っ張りあげようとするが…牙が脚にくい込みすぎて、切断しかねない事を悟ると無理に引っ張る事が出来なかった。

 

「っぁ………」

 

 脚の痛みに渚が呻く。

 朱里は武器を用いて蓮の葉を切り刻もうとするが、いくら攻撃しても魔女は渚の脚を離さない。

 

「どうすれば…っ!」

 

 朱里が歯噛みする。冷静さを失い、思考が乱れていた。

 マミは素早く思考を巡らせ、朱里に言った。

 

「藤野さん、魔力を応用して魔女の意識を刈り取るのはどうかしら?」

「…あ」

 

 朱里が目を見開く。

 チューバの魔女と戦った際、朱里が野次馬の意識を刈り取る為に使用した方法を、魔女に向けてみる―マミの意図を察した朱里は、しかし上手くできるかどうか頭を悩ませる。

 魔女は一般人より魔力の波に対する耐性が強い。様々な修羅場をくぐり抜けてきたベテランなら別だが、朱里とマミがこの方法を試して上手くいくかどうかは賭けだ。

 それでも―やってみるしかない。

 朱里は意を決して頷く。マミは頷き返し、渚に「反町さん、防備を!」と言った。

 会話をきいていた渚は激痛で意識を飛ばしそうになりながらも、何とか防備を完了させる。

 瞬間、マミと朱里から魔力の波が放たれ、周囲にいるものの意識を刈り取った。

 渚は何とか耐えたが、それでも意識が持っていかれかけた。魔法少女も魔女と同様、魔力の波に対してはある程度の体勢があり、防備をすれば影響を受けない事も可能なのだが…それほど強烈だったという事だ。

 そして、魔女の方は―どうやら渚を捕らえるのに意識を注いでいたらしく、思わぬ所から攻撃を受けて気絶していた。

 魔女の牙は渚の脚から抜けている。朱里が渚を引っ張りあげると、渚は力なく地面に倒れ込んだ。

 

「藤野さん、私が合図したら高く跳んで!」

 

 マミが魔力を溜めながら朱里に言う。魔女が復活する前に片をつけるつもりなのだろう。

 朱里の返事を待たずして、マミは魔力を溜め終えた。

 

「今よ!」

 

 その声と共に朱里は渚を抱えて高く飛び上がる。

 マミも跳躍し、魔力を使用して大砲の様な巨大な銃を生み出す。

 そして、

 

「喰らいなさい…ティロ・フィナーレ!」

 

 轟音と共に放たれた一撃は魔女ごと辺りを燃やし尽くした。

 朱里はその威力に呆然とするほか無かった。

 

 

 幸い、渚の怪我は軽傷で済んだ。

 魔法少女ゆえの事か、あるいは別の理由があるのかは分からないが…とにかく、マミと朱里は安堵した。

 渚の怪我が癒えたのを待ってから、渚と朱里は帰る事にした。渚にマミを紹介するという目的は果たしたし、癒えているとはいえ傷を負った渚をこれ以上連れ回す訳にはいかないと朱里が判断した為だった。

 

「…ごめんなさい、私のせいで…」

「巴さんが悪いわけじゃないですよ…!それに、かっこよかったです」

 

 沈んだ声で言うマミに、渚はそんな事ないと首を横に振る。

 

「強くて、美しくて…わたしもあんな風になりたいです」

「…よく素面(しらふ)でそんなこと言えるね」

 

 無自覚に凄い事を言う渚に、朱里は尊敬するやら呆れるやらと言った表情を浮かべる。

 だが、マミは嬉しかったのか、「…ありがとう」と微笑んだ。

 

「私もまだまだだけど…何か出来る事があるなら力になるわ。反町さん、携帯持ってる?」

「実は持ってないんです…」

「私に連絡すれば渚ちゃんに伝わるようにするよ」

「ありがとう。藤野さんも何かあったら頼ってちょうだい」

「うん。巴さんもね」

 

 電車が来る前に駅に向かう為、渚と朱里はマミに別れを告げて歩き出した。

 マミはふたりの背中を見送った後、「…いるんでしょ、キュゥべえ」と呟く。

 

「どうしたんだい?」

 

 その声に応える様にキュゥべえが現れ、マミを見つめる。

 

「ききたい事があるの。慈母の魔女の事なんだけど」

「…あの魔女はもう見滝原にいない。キミが取り逃した後、冬天市に向かった筈だけど」

「それは分かっているわ。私がききたいのは別の事よ」

 

 マミはそこで軽く目を閉じ、思考を整理する。

 それから目を開け、キュゥべえに言った。

 

「取り逃したとはいえ、私はあの魔女と戦った事がある。だから、あの魔女の魔力パターンも把握しているわ」

「…それで?」

「今日、反町さんと一緒に戦った時…彼女の魔力パターンを掴んだの。だからこそきける事なのだけれど…」

 

 マミは険しい顔になり、その質問を口にした。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

「…………」

 

 その質問に、キュゥべえは答えなかった。

 マミには関係ないから、という事がひとつめの理由。

 もうひとつの理由は…今ここで答えなくともいずれ分かる事だったからだ。

 最も、マミがそれに関わるのかどうかは…キュゥべえにも分からないのだけれども。




見滝原が冬天市の隣というのは独自設定です。
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