一スレ目 裏 その1『自宅警備員をクビになる?』
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カーテンを閉め切り薄暗い室内、隙間から入る日の光で最低限午前中であることは分かる。
「お兄ちゃん、あのね。わ、わたし……」
カタカタとキーボードをたたく音と、声優の甘い声、決してそれは暗いイメージを持つものではないのだがこの部屋では暗さをさらに助長するBGMとなっている。
おそらく長い間空気の入れ替えさえしていないのだろう、この部屋の主のにおいが染みつきそれが、雰囲気をさらにどんよりしたものに変えている。
「ぐふ、ぐふふ……さくらたんぺろぺろ」
めったに使わないせいで劣化した声帯から、この世のものとは思えない醜い声が漏れる。
目を見開きパソコンの画面を食い入るように見つめる。
「は、は、はあ、はあ」
興奮が高まってきたのだろう、息が徐々に荒くなっていく。
カチ、カチ、とマウスをクリックし絵を進めていく、それにつれ片手が下に伸びていく。
「ふう……」
パソコンの横に置いてあるティッシュを数枚とり……丸めてゴミ箱に投げ捨てる。
ゴミ箱には山の様に用に丸められたティッシュが詰まっていて、投げられたティッシュははじかれ床に転がる。
「俺、何してるんだろ」
誰に言うでもなく口から声がもれでる。
薄暗い部屋で真昼間から画面の向こうを見つめ……本当に俺は何をやってるんだろう。
ふと、昨日丸めて捨てた手紙が目に入る。
母親が食事と一緒に部屋の前に置いていった手紙。
短く”もうあなたの面倒を見切れない”そう弱弱しい字で書かれた手紙。
「はぁ~」
深いため息が出る、うっすらと涙が浮かぶ。
このままじゃいけないことぐらい理解している、このままでいるつもりなんてみじんもない。
でもどうすればいいのか、何をすればいいのかがわからない。
働くってなんだ、働くには何をもってどこに行っけば、働くって何をするんだ、働くってどんな気分なんだ。
「わからない、怖い、やりたくない」
情けない男の声が、パソコンのファンのメロディーとともに部屋に寂しく響く。
辛いこと嫌なことから目をそらし生きてきた。
これからもそうやって生きていくだろう、そういう甘い見通しを立てていた。
でも、俺に都合よく世界はできていないらしい。
俺のこの生活もタイムリミットが迫っている。
来週父親が出張から帰ってくる。一年前に父と約束した”返ってくる前に仕事を見つけておく”と、俺は結局ハロワに行くことすらできなかった。
せいぜい就活サイトを眺めただけ、きっと家を追い出されるのだろう。
野生の動物は生きるすべを知らないものから容赦なく死んでいく、社会での生活のすべを知らない俺も両親の加護から離れ社会という野生に出たらきっと……
「でも、仕方ないのかもな」
あきらめたように少し寂しそうに、部屋の天井を見つめ言葉を漏らす。
こんなダメ人間、今まで生きてこれただけでも運がよかったのだろう。
最終学歴は高卒すらせずに中卒、もちろん職暦もなし、実家で親のすねをかじって生きる童貞ニート。
生きる価値なんてまるでない、自分で見ても反吐が出るようなくそ人間だ。
きっとここが日本じゃなければ、親がもう少し厳しかったら、俺は今頃社会の荒波にもまれおぼれ死んでいたことだろう。
せめて最後ぐらい自分から行動するべきだろう。
追い出される前に、自分から家を出る……
「さようなら、今までお世話になりました」
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ジーーーージーーーー
夜中の公園、うるさいぐらいのキリギリスの鳴き声が響き渡る。
「さ、寒い」
公園のベンチに一人寂しく座り、丸まって寒さから身を守る。
6月で夏が近いとはいえ夜は冷え込む、そんな当たり前のことを外になんて出ない男が知るはずがない。
もう夏が近いというのにこんなに冷えるのか、地球温暖化なんて嘘なんじゃないのか?
その場の感情に任せて家を出たのはいいが、何も持っていないせいでどうにもできない。
持っているのは契約のきれたsimの刺さったスマホと、野口様が数人しかいない財布のみ。
いまさら家には帰れない。
今頃、母と出張から返ってきた父で、俺がいなくなった喜びをかみしめているころだろう。
そんなところに帰る勇気はないし、一度帰ったら最後俺はまた家からでなくなる、間違いない。
きっと財布の中の野口様をすべて吐き出せばホテルに泊まれるのだろう、しかし考えなしの俺でもこの野口様が重要なことぐらいわかる。
これは俺の寿命と同義だ。
「やっぱ耐えるしかないのか」
この寒さに万年自宅警備員の体で耐えられるのか、かなり疑問が残るが耐えるしかないのだ。
ここで寝たらもう明日が来ないかもしれない、でもホテルで寝て無一文になった俺にも未来はない。
それにホテルを探して歩く元気すらもう残っていない。
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