今回の話はほぼ本編と変わりません。
ご了承ください。
ちなみに元々あった第七話は、人造人間第六話に吸収されました。
英集少年院前。
そこに、虎杖たちは集まった。
後ろに立つのは、痩せ型の眼鏡をかけた黒スーツの男──伊地知潔高。
高専において、「補助監督」という立場に立つ男だ。
「我々の窓が呪胎を確認したのが三時間ほど前。避難誘導9割の時点で──」
伊地知の説明を真面目に聞く三人。
最も、一人は最初の窓という単語の意味が分からず、フリーズしているのだが。
ちなみに窓とは、術師ではない呪いが視認できる高専関係者のことだ。
「──呪胎が変態を遂げるタイプの場合、特級呪霊に相当する呪霊に成ると想定されます」
二人の表情が険しいものになる。
特級。
あの両面宿儺と同じ位に立つということは、並大抵の術者では到底敵わないということだ。
「・・・伊地知さん」
「なんでしょう、虎杖くん」
「俺、まだ特級とかイマイチ分かってないんだけど」
釘崎から痛い目線を送られる。
しかし、心の中でナイス!という声が聞こえたのでまあ良しとした。
「では、馬鹿でもわかるように説明しますか」
呪霊はその強さによって、五段階の級で区分されている
四級。最も弱い呪霊。人を殺傷するほどの能力はない。通常兵器が呪霊に有効であると仮定した場合、木製バットで余裕レベルだ。
三級。人を殺せる能力を持った呪霊。しかし、殺傷能力自体は低く、殺そうとしてもしばらく時間がかかるような呪霊がここに入る。拳銃があればまあ安心レベル。
二級(準二級)。人を簡単に殺傷できる能力がある呪霊。現実の生き物で言えば、大型のヒグマと同レベルといえば分かりやすいだろうか。散弾銃でギリイケるレベル。
一級(準一級)。人を大量虐殺できる能力がある呪霊。ティラノサウルスやトリケラトプスなどの恐竜と同レべ、もしくはそれ以上。戦車でも心細いレベル。
そして特級。町を一つ軽く消せる能力がある呪霊。なお、強さには上限が無く、宿儺もこれに属する。クラスター弾での絨毯爆撃でトントンのレベル。
「やっべえじゃん」
「本来は同等級の術師が当たるんだ。今回は五条先生とかな」
「へー。で、その五条先生は?」
「出張中。そもそもあの人は、あんな風にブラブラしてていい人じゃねぇんだ」
普段の態度から忘れそうになるが、五条は呪術師界において最強だ。
「この業界は人手不足が常。手に余る任務を請け負うことは多々あります」
「でも、流石に今回はヤバすぎね?」
「ええ、ですので今回は『絶対に戦わないこと』。君たちの任務は生存者の確認と救出であることを忘れずに」
正直な話、生きている確率はゼロに等しい。
伏黒の経験上、こういった救出任務の目的は『死体の回収』がほぼメインとなっている。
勿論、生存者を見たことがないわけではないが、しかし確率が低いのは事実だ。
しかも今回は特級が相手。
余程の幸運がなければ生き残ることはまず不可能だろう。
「あ、あの!あの!」
虎杖の後ろに張られていた立ち入り禁止のテープ。
それを破らんとする女性が一人いた。
「正は、息子は大丈夫なんでしょうか!?」
どうやらその女性は、在院者の保護者のようだった。
「何者かによって施設内に毒物が撒かれた可能性があります。・・・現時点でこれ以上のことは言えません」
「そんな・・・」
心に強く圧し掛かる、深い罪悪感。
たとえそれが、自分が原因ではないにしても、これから助けに行く者としての責任感に重みを与える。
「伏黒、釘崎」
「助けるぞ」
「当然」
「・・・」
四人が少年院の中へと進んでいく。
呪霊への警戒は最大限に高めていたが、しかし遭遇することはなく。
そして、寮の正面玄関へと辿り着いた。
「"帳"を下ろします。お気をつけて」
伊地知は片手で印を結ぶと、浅い息を吐いた。
『闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え』
天より中心。
そこに黒い液体が生まれる。
それは空というキャンバスに滲むように濃く広がっていき、周りを闇色に染めていった。
気付けば日は落ち、真夜中ながら建物自体は明るく見える、奇妙な状態になっていた。
「すげえ夜になってく!」
「"帳”今回は住宅地が近いからな。外から俺たちを隠す結界だ」
伏黒は両手を揃え、犬の影を作る。
「『玉犬』」
白毛の犬が一匹、影より生まれた。
額には逆三角形の文様が浮かび、ワンと一声鳴いた。
「呪いが近づいたらコイツが教えてくれる」
玉犬を後ろに携え、三人は塊となる。
「行くぞ」
虎杖は玄関に手をかけ、そして開いた。
中に広がるのは異質な空間だった。
廃ビルの壁からはパイプが突き抜け、空を蜘蛛の巣が如く張り巡らせている。
それが無限に続くという点さえ見なければ、世界の美しい光景の一つとして紹介されてもおかしくはなかっただろう。
問題は地面だ。
「骨・・・なんだこれ?」
地面を占める骨の山。
深さはそれほどでもないのか、足場としては安定していた。
だが、その溢れる骨の上に立つというその環境が、虎杖の精神を削っていく。
「二階建ての寮の中・・・だよな?」
「しゅ、趣味が悪いメゾットね!」
「・・・・」
突っ込みたくても突っ込むことが出来ない。
伏黒は眼前に広がる光景に圧倒されていた。
(呪力による生得領域の展開。地面に落ちている骨はただの飾りだとしても・・・こんなに大きい生得領域は初めて見た・・・)
生得領域の展開。
その時、伏黒の全身を予感が走った。
「扉は!!」
その声に驚き、虎杖たちも後ろを振り向いた。
しかし、既に扉は存在せず。
そこにはパイプと骨しかなかった。
「ドアがないんだけど!?」
「なんで?!私たちここから来たわよね!!!」
パニックになり思わず踊り出す二人。しかし伏黒は玉犬に「行けるか?」と聞く。
伏黒にしか分からない感覚の伝達により、その返事が返ってきた。
「大丈夫だ、コイツが匂いを覚えてる」
荒い呼吸をする玉犬がワンと鳴く。
「わしゃしゃしゃしゃしゃ!!!!」
「ジャーキーよ!!ありったけのジャーキーを持って来て!!」
「緊張感・・・」
呆れてため息を吐く伏黒。
「やっぱ伏黒は頼りになるな!!」
「・・・言うなら俺じゃなくコイツに言え」
釘崎が撫でている玉犬の首を撫でる。
尻尾がブンブンと横に揺れ、釘崎の脇腹にダメージを与えていく。
「でもオマエが呼んだじゃん?」
「まあな」
「お前のおかげで人が助けられるし、俺も助けられる。ありがとな」
「・・・・・・進もう」
何事もなかったかのように歩き出す伏黒。
「なんだよ、照れ隠しか?」
「そんなんじゃね──」
その時、振り返った伏黒の後ろに影が現れた。
「伏黒ッ!!避けろ!!!!」
「ッ!!!」
虎杖の叫びと共に、伏黒は前転する。
刹那、伏黒の頭があった場所に、白く薄い何かが通った。
剣か何かだろうか。
「ッフ!!!!」
後ろから追撃が来る気配を察知。
前転の勢いを殺さずに、スライディングへ移行する。
そのまま虎杖のもとへ駆けると、眼前の敵を見据えた。
「なによこいつら・・・!?」
「この感覚・・・虎杖!」
「ああ、あの時と同じだ」
全身から感じる、生命を嫉む者の気配。
あの死の騎士に似た感覚が、あの時の恐怖を蘇らせる。
片手に
空虚な双眼はこちらを見つめ、溶けた歯をカチカチと鳴らす。
その群れが今、目の前にごまんと並んでいた。
「呪いなのアレ?」
「呪いならコイツが気付くはずだ」
玉犬の尻尾が垂れ下がる。
虎杖のおかげで助かりはしたが、それよりも先に気付かなかった自分が情けないのだろう。
「ってことは術式?でもこの数の術式ってなると・・・本体やばくない?」
「呪力も桁違いってことか」
二人の顔が真剣なものに変わる。
傀儡操術と呼ばれる術式がある。
この術式は人形や屍に呪力を通すことにより、文字通り傀儡を作ることが出来る術式だ。
普通の術者では一体が限度とされている。
本人の術式の限界、膨大な呪力消費量、傀儡術式の範囲、そして並列思考の才能。
これらすべてを解決しない限り、傀儡術式による二体同時操作は不可能とされている。
だが、今目の前に広がるこの光景はどうか。
まるでそれぞれが意思を持ったかのように動き出し、虎杖たちにその刃を向けている。
(いや、それぞれを操っているわけではない?単純な命令を下しているだけか?)
先程の不意打ちの動きも、知性を感じるような動きでは無かった。
ただ目の前の敵に適当に剣を振ったかのような、乱雑な動き。
(使役していない可能性?なくはないが、ならばコイツらは何なんだ?床に落ちている白骨との違いは?そもそもなぜ武器を持っている?)
死の騎士と出会った時と同じ気配。
屍と化した体。
特級の周りでのみ発生する謎。
持っている武器。
骨だらけの生得領域。
その全てがピースとなって、伏黒の頭の中に集まっていく。
(・・・クソ!!!もう少しで形になりそうなんだが・・・)
思考の先に霧がかかり、それ以上の発想が出てこない。
「分かんねえ・・・」
「伏黒?どうした?」
我に返り、辺りの状況を見返した。
「すまん、考え事してた。それよりもどうする?倒せば特級に見つかるかもしれないが・・・」
「・・・でも、見た感じこいつら雑魚よね?」
嘗め腐った態度で釘崎が骸骨を見る。
スピード、パワー、耐久力、その全てが乏しいように見える。
先程の伏黒との攻防でも、虎杖の声があったとはいえ掠りもしていなかったのは骸骨の性能の低さが問題だろう。
それを見抜いた釘崎が勝ち誇ったような笑みをする。
「そうだよな。なんなら俺、素手でも行けそうよ」
倒すメリットとデメリット、逃げるメリットとデメリット。
それを交互に考え、結論を出す。
(どのみちこいつらを倒さないと、出口までかなり遠回りすることになる。それこそ特級に見つかる可能性も増えるな)
大きく息を吸い、そして覚悟を決める。
「・・・・・・ハア、あまり時間は掛けるなよ?特級に気付かれても面倒だ」
「あれー?今回は『絶対に戦わないこと』が任務じゃなかったっけー?伏黒くゥん?」
「『特級呪霊とは』が前についてないぞ。それに俺は病み上がりだからな。さっさと本番に慣れねえと」
伏黒が印を結び、大蛇を召喚する。
「へえ、意外にやる気あんじゃん」
釘崎が五寸釘を三本、指に挟むと金槌を軽く振る。
「俺もまだ体温まってないし、運動しねえとな」
虎杖が屠坐魔を構え、肩を回す。
三人の準備は万端。
「よし、それじゃ」
「行きますか!!」
◇■◇■◇
アインズと宿儺は虎杖の視界を通して、現在外で何が起こっているのかを見ていた。
結果は
「流石にこの程度の雑魚に負けることはないな」
『・・・脆いな。たかが蹴りの一つで体が散るとは』
虎杖のローキックにより下半身がブチ折れる骸骨。
そのシーンは見ていて実に爽快だった。
「肉という緩衝材がない分、打撃に弱いんだ。・・・あの蛇の尾で散る骸骨たちを見てみろ。一発で何十という骨が飛び散っているだろう」
大蛇のレベルは軽く見積もって25といったところだろうか。
このレベルであればレベル1のアンデッドを薙ぎ倒す程度は余裕だ。
「・・・それにしても、だ。なぜアンデッドが沸くんだ?私の前まで考えていた説では、宿儺の指がある場所にしかアンデッドは沸かないと思っていたのだが・・・」
『む?言ってなかったか?』
「ん?何がだ?」
『特級呪霊?だったか?ソイツは俺の指を持ってるぞ?』
初耳だ。
というか、指のこと自体そこまで有益な情報聞いていない気がするのだが。
(こいつ酒飲み過ぎて意識混濁してんじゃね?)
流石に失礼なのでそんなことは言えないが、しかし一言モノ申したい気分ではある。
「聞いていないぞそんなこと」
『まあよいではないか。それより貴様の説とやらを聞かせてくれないか?』
(コイツ、話を逸らしやがった!!)
そこまで怒ることではないにしろ、しかしモヤっとした感じがいまだに残っている。
しかし、聞かれたからには答えなければいけないだろう。
「・・・はあ。しょうがないな」
アインズは渋々説明した。
この世界にはアンデッドはいない。
正確には、"これまでは"アンデッドはいなかった。
その代わりに呪いというものが存在し、世界に蔓延っている。
アンデッドが発生したのはアインズが現れたのと同時期であり、またアンデッドが現れるのは宿儺の指の周りだけ。
つまり、アンデッドが生まれる原因には、宿儺(アインズ)が関わっているということになる。
流石にこれが全て偶然で重なっただけとは考えにくいし、何より生まれるアンデッドがユグドラシルと同じことなので、信憑性は極めて高いだろう。
では、なぜアンデッドが発生するのか。
ユグドラシルでも転移先の世界でも、アンデッドの発生条件は割と不鮮明なところがあった。
分かっているのは、
1.墓場や戦場などの、多くの死者がいる場所ではポップしやすい。
2.強いアンデッドの周りに使役という形でポップすることがある(プレイヤーであるアインズは例外)
3.アンデッドが一定以上集まるとレベルの高いアンデッドがポップすることがある。
ぐらいである。
ただ、これがこの世界で適応されるかと言えば、そうではない。
宿儺もそうだが、虎杖にもアイテムによるバフ効果やデバフ効果、回復効果は発動しなかった。
それはつまり異世界から持ち込まれた、この世界の理(常識)に反したものだからだ。
逆にアインズ自身にはバフ効果が発生するのは、異世界から来たアインズには意味がない、つまりこの世界の理が適用されないからだ。
アインズやあの時の死の騎士が呪霊を見ることが出来るのも、同じ理由だろう。
ならばなぜ、この世の理に反した存在であるアンデッドが、宿儺の指の周りにのみ発生するのか。
答えは至極簡単だ。
アインズが宿儺の生得領域の中にいるからだ。
アインズはこの世界にとって異端の存在、つまりは特異点だ。
そのアインズが混ざった宿儺の指という存在は、この世の理と異世界の理が入り混じった混沌。
しかも、よりにもよって中にいるのは、『呪いの王』と『不死者の王』。
宿儺の指の中で『呪い』と『アンデッド』が混じったのだ。
宿儺の指は常時呪力を発している。
それがアンデッドの発生条件と何かしら合致したことにより、宿儺の指からアンデッドが発生している。
「──というのが私の説だ」
『ふむ。途中でよく分からなくなったが・・・正しいのではないか?』
「適当だな・・・だが、原理はどうなのかは分からないが、大方の筋書きはあっているだろうな」
唯一分からないのは、なぜアインズがこの世界に来たのか、であるが。
(情報はかなり集めたつもりだけど、まだまだ足りないな。ピンポイントで分かるなんて奇跡はないだろうし・・・。ただ虎杖に受肉したのは幸運だったし、気長に待つしか・・・)
ふと、虎杖の状況が気になり外を見てみた。
すでに骸骨の8割は倒されており、あとは時間の問題だった。
「・・・そういえば、ここの呪霊が指を持っているという話だったが、何故分かったんだ?」
『感覚、としか言えんな』
「なら、今どこにいるかは分かるか?」
『・・・そうだな』
しばらく、宿儺は目を瞑った。
そして目を開けたころには、そこには残忍な笑みが浮かんでいた。
『近いな。小僧が進まんとする道の先にいる。運命か、それとも偶然か?』
嗤う宿儺を横目に、アインズは助言すべきか考える。
(正直、助言しても意味ないんだよなあ。そもそもそれを伝えることを宿儺が許してくれるか分かんないけど・・・。虎杖のことは気に入ってるし、死んだら外からの情報は得られなくなる。デメリットもそれなりにはあるが・・・)
しかし、考えている間に虎杖たちが道に進みだした。
(・・・まあいいか。虎杖が死んだところで俺たちが死ぬわけじゃない)
奥に秘める感情を押し殺し、冷酷な判断を下した。
◇■◇■◇
「・・・惨い・・・」
目の前には一人の死体と、肉の塊が二つあった。
肉の塊には人の腕や顔らしき部分が混ざっており、そこから人の死体だということが分かった。
唯一原形を保っている死体も下半身は無くなっており、顔は悲痛に歪んでいた。
「・・・この人・・・」
原形を保っている死体が着ているジャージを引っ張ると、そこには『岡崎 正』と描かれていた。
「あの人の子供だ。この遺体持って帰るぞ」
「でもそんな状態じゃ・・・」
「顔はそんなにやられてない。それに、遺体もなしに『死にました』じゃ納得できないだろ」
伏黒が、遺体を運ぼうとする虎杖の首元を掴み、そして力強く引っ張った。
「あと二人の生死を確認しなきゃならん。その死体は置いてけ」
「振り返ったら来た道が無くなってる。後で戻る余裕はねえだろ」
「『後にしろ』じゃねえ『置いてけ』つってんだ。ただでさえ助ける気もない人間を、死体になってまで救う気は俺にはない」
掴まれた腕を振り払い、今度は虎杖が襟元を掴め上げた。
「どういう意味だ?」
これまでの虎杖からは想像もできないような、明確な怒りと敵意が溢れた言葉。
辺りの空気が重く、そして冷たくなる。
「ソイツは無免許運転で下校中の女児をはねてる」
「!!」
「オマエが助けた人間が、もし将来人を殺したらどうする」
「ッ!じゃあなんでオマエは俺を助けたんだよ!!」
伏黒は何も答えない。
「いい加減にしろ!!!」
それまで黙って二人の喧嘩を見ていた釘崎が声を荒げた。
「今はそんなことしてる場合じゃないでしょ!!もっと時と場所を弁え──」
その時、釘崎の足元に黒い沼が発生した。
釘崎の体が沈み、底なしの沼に取り込まれていく。
気付けば釘崎は消え、元の骨だけの地面に戻っていた。
「釘崎・・・?」
状況が理解できず、フリーズする二人。
伏黒の脳にようやく今の光景が染みたところで、バッと振り返る。
(呪いか!?なら玉犬が!!)
しかし、そこには玉犬の姿はなかった。
代わりに玉犬の生首が、白い壁にメリ込まれていた。
──不味い。
玉犬が反応しなかったのではなく、玉犬が反応できなかったことに気付き恐怖した。
もはや先程までの虎杖との会話は忘れ、今は生き残ることを最優先に考える。
「虎杖ッ!逃げるぞ!!!釘崎を探すのはそれからだ!!!」
『ぷくるるるるるるるるるるるるるるる』
白い皮膚に縦に並ぶ四つの丸い目。
指の先は骨が露出し黒く尖り、下半身は漆黒の布を纏い、歯茎が丸見えになるほど開いた大きな口には白い歯が並んでいた。
胸には空虚な穴が開いており、深淵のように黒い空間が広がっている。
また、胸を中心に肋骨をなぞるような文様が浮かんでおり、それが露出した背骨の突起まで伸びていた。
(間違いない・・・これが特級・・・)
その風格、オーラ、そして肌でも感じる呪力の荒波が、目の前の存在を特級だと教えてくれる。
二人の体の芯が凍り動くことをまるで受け付けようとしない。
(動かねえ・・・!!)
(動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け!!!!!!!)
虎杖の脳が、体に動くことを強制させる。
腰の屠坐魔を抜き取ると、その刃を呪霊に振り落とす。
「うあ”あ”あ”あ”あ”あ”ぁッッ!!!!!」
視界の端で、何かが旋回しながら宙へ浮いた。
それと同時に左手の手首より先の感覚がなくなり、左手が冷たく凍っていく。
「え?」
目線を左手に向ければ、ボタボタと溢れる血が見えた。
それと同時に実感する、感じたことのない強烈な痛み。
「ングゥウゥ!!!!!!」
左手を押さえ、対抗手段である屠坐魔を血眼で探す。
だが、それを見つけた頃には既に刃は真っ二つに折れていた。
「ハア、ハア、宿儺でもいい、アインズさんでもいい、聞こえてんだろ!!」
ベルトで左手を止血しながら、自分の心の中に問いかける。
するとその声に呼応するように、自分の頬に口が現れた。
『なんだ小僧?』
「俺に協力してくれ。・・・いや、して下さい!」
アインズがいること、そして自分がお願いする立場だということを思い出し、言葉を改める。
『なぜだ?』
「なぜって、見れば分かるだろ!!俺もお前も死にそうなんだぞ!!!」
『俺が死ぬ?馬鹿を言うな。貴様が死んだところで、切り分けた魂はまだ18残っている。たとえ器である貴様が死んだところで、俺もアインズも死にはしない』
唇から血が滲むほどに強く噛む。
『だが、俺も少しはソイツと楽しみたいからなあ?代わりたいのであれば勝手に代わればいいだろう』
「・・・そしたら、オマエは伏黒を最初に殺すだろ」
『当然だ。まずは横の
自分の左頬を強く睨みつける。
「させるわけねえだろ」
『だろうな。だが、俺に構っていて本当にいいのか?』
意識を目の前の特級に向けると、特級の頬が膨れ上がったところだった。
特級の口から、圧縮された呪力の弾が弾け飛ぶ。
命中率が低いのか、はたまた遊んでいるのかは分からないが、幸運にも弾は二人には当たらずにその間の地面を抉り削った。
「呪術じゃない。呪力を飛ばしただけだ」
「遊んでるってことか?」
「だな・・・虎杖?」
虎杖は伏黒の前に立つ。
「伏黒。釘崎探して領域ここから逃げろ。二人が出るまで俺が食い止める。出たら合図をし──」
「できるわけねえだろ!!しかもオマエ今片手なんだぞ!?」
「あいつは今楽しんでる。時間稼ぎなら俺でもできるさ」
それに応えるように特級は嗤う。
その目は喜悦に輝いており、手をワシワシと動かしている。
たしかにこの状態が続けば虎杖でも時間は稼げるかもしれない。
最も身の安全は保障されないが。
「ダメだ!!!」
「伏黒ッッ!!!!!!」
「頼む」
顔は蒼白。
汗も滝のように流れており、手も声も震えている。
片手もなければ武器もない。
時間を稼ぐなんて、絶対無理だ。
だが、どうやら覚悟はできているようだった。
これを揺らがすことは、今の伏黒には出来ないことだ。
「・・・クソ!!!」
伏黒は走り出し、玉犬で黒い犬を召喚する。
「釘崎を探せ!!!!」
呪霊との戦闘が5分ほど経過したころ・・・。
呪霊が下に纏っていた衣を剥がした。
黒い褌に骨のアクセをぶら下げ、膝から下は異常なまでに隆起した牙が生えていた。
足は指と同じで黒く染まっており、足指の先は鋭くなっていた。
「てゅるるるるるるるるるるるるる」
「動きやすくなりましたってか」
(ダメージは・・・やっぱなさそうだな。呪力の使い方なんて分かんねえから当然か。でも、それでいい。今はもっと時間を稼い──)
見えない衝撃波が呪霊を中心に爆発し、虎杖の全身を叩いた。
痛みをこらえる暇もなく、そのまま吹っ飛ぶと壁へ激突した。
(な、んだよ今の・・・??)
訳も分からず立ち上がろうとするが、呪霊がその隙を逃すはずもなく。
呪力を込めたパンチが虎杖の腹に直撃した。
「がぁはっあぁッ……」
壁を突き抜け、巨大なダムのような場所に飛ばされる。
「んんぷるるるるりりりりりり!!」
呪霊が腕をクロスさせ、先程と同じバリアを飛ばす。
今度は虎杖を確実に殺すための、甚振るためではない本気のバリアだった。
虎杖はそれに対し、どうにかバリアを防ごうと両腕を広げて押し止めようとする。
「ぐっううぅ・・・!!!」
次第に指の先が焼け消えていき、その痛みが全身を駆け巡っていく。
涙が止まらず、しかしそれでも踏ん張り続ける。
「う"う"う"う"う"う"う"う"!!!!!」
痛い。苦しい。辛い。嫌だ。逃げたい。死にたくない。生きたい。
なぜ自分がこんな目に遭わなくてはいけないのか。
あの時、俺が指を食べなければ。
あの時、祖父の遺言を聞かなければ。
あの時、覚悟なんて決めなければ。
あの時、逃げだしていれば。
あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。あの時──。
(止めろッ!!考えるなッッ!!!考えるなッッッ!!!!!!)
「あ"あっあ"あ"ああ"!!!!!!!」
呪霊はバリアを止め、壁に背中を預ける
跡形もなく潰す気だったのだが、原形が残っていることに驚き、そして嗤った。
この
しかし、その玩具がピクリと動いた。
「・・・自惚れてた」
死体だと思ってたのだが、まだ動けるらしい。
「俺は自分のことを強いって、死に方ぐらい選べるって思ってた」
虎杖は立ち上がり、自分の手に目を落とす。
ボロボロな手だ。
もはや痛みを感じないレベルにまで達しており、指をうまく握りこめない。
「でも違う。俺は弱い」
深く息を吸う。
肺に痛みが走り、口から血が噴き出るが、もはやそんなことは関係なかった。
「あ"あ"ーーー!!!死にたくねえ!!辛いし苦しいし逃げたいし死にたくない!!嫌だ嫌だ嫌だ!!!!」
弱音をすべて吐き出し、感情を爆発させる。
怒りが。悲しみが。苦しみが。悔しさが。
負の感情が爆発し、五臓六腑を滾らせる。
(強くなきゃ死に方も死に様も死に時も選べない。生きることなんか以ての外だ。
・・・それでも──)
それでも、この死が正しかったと言えるように。
拳に全ての思いを、渾身の呪力を宿らせる。
「う"お"お"お"お"お"!!!!!!!」
しかし、その思いは届かず。
呪霊の両手によって、意図も容易く止められてしまった。
「クソッ!!」
「ちゅりゅりゅるるるる」
「アオォーーーーーオオン!!!」
オオカミの遠吠え。
どこからともなく響くソレに、虎杖は確信した。
(この鳴き声は・・・伏黒の合図・・・!!!!)
気付いたと同時に、虎杖の意識は心中の奥へと潜っていった。
呪霊は、その時初めて恐怖した。
目の前の青年から放たれた、あまりの威圧感と、そして呪力。
それが自分が宿すものと同等の、むしろそれ以上の禍々しい気配が、爆発したのだ。
顔に文様が浮かび、四つの眼が開眼する。
吐息を一つ吐くと、首を回した。
『つくづく、忌々しい小僧だ』
オリジナル要素・・・
1.趣味の悪いメゾット
宿儺の指(付録にアインズが付いてる)を取り込んだ結果、領域の中にアンデッド要素が付与されました。
アンデッド要素ってなんだよ
2.骸骨
武器はポップした時についでに持ってました。マ〇クラと同じっすね
3.傀儡呪法
単行本の方だと傀儡呪法使うの一人しかいないんよなあ。なので設定は適当。
ちなみに『くぐつ』か『かいらい』かどっちで読んでますか?私は隻狼やってた頃から『くぐつ』って読んでました
4.アンデッドが生まれる理由
語彙力低いのは多めに見てください。
脳内では答えが出来ているのに、その途中式の説明が出来ないのと同じっすね。(適当)
5.釘崎の行方
本編と変わらず。
6.特級の服装
アンデッドに浸食されたバージョンを書きたかったけど、語彙力が無かったので適当に記載。
7.つくいま小僧
別のセリフにしたかったけど、そのままの方がかっこよかった
というわけで第七話です。
次回の投稿はちょっと遅めになるかも。
バトル多めだし、ケンガンアシュ〇と〇ンガンオメガ読んで勉強しますわ。
あと誤字等ありがとうございます。