実は前回の後書きにて、ナナミンが出るよー的な予告をしましたが、文字数が驚異の一万二千文字を突破したので、ナナミン登場は次回に持ち越したいと思います。
読者の期待を裏切るような行為をしてしまい、まことに申し訳ありませんでした。
とまあ、真剣モードはさておき。
先日ゲームセンターにて1200円を代償に確保したナナミンフィギュアを開封したのですが、なんと組み立ての際にネクタイ部分がブチ折れました。おハーブ生えまくりですわ。
なので別のゲーセンで4000円を代償に新しいナナミンを仕入れました。
それもこれも全て真人が悪いです。
というわけで第20話です。
「魔法を?理由は・・・分からんでもないが・・」
「いや、見てる映画がハ〇ポタだから聞いたわけじゃないよ?」
画面に映るのは気色の悪いハゲと丸眼鏡が似合う青年。
ハゲは緑の光線を放ち、ソレと拮抗するように青年は赤の光線を放っている。
まさしくクライマックスであるが、しかし虎杖は見慣れたシーンなのか。若干目尻がたるんだ瞳を画面ではなく指輪に向けている。
「一応さ、必殺技っぽいのは持ってるよ?」
「逕庭拳のことか?」
「そうそれ」
逕庭拳は虎杖の尋常ではないフィジカルによって生まれたある意味レアな技である。
本来呪力を纏った拳で相手を殴ると、打撃と呪力は同時に相手に伝わる。
しかし虎杖の並外れたフィジカルによって繰り出された拳は、その呪力すらも置き去りにして相手を殴る。
そして呪力は遅れて相手に伝わるので、打撃と呪力による二連撃を相手に与えることが出来る。
偶然生まれた産物とはいえ、かなり優秀な技だとは思うのだが。
「でもさ、あれは必殺技というかパッシブじゃん?」
「まあ、言われてみればそうだが」
必殺技とは、極端に言えばロマン砲だ。
隙を見せる代わりに。何かを代償にする代わりに。一々技の名前を叫ばなければいけない代わりに。
高威力、高密度の攻撃を放ち、文字通り相手を必ず殺す。
それが一般的に呼ばれる必殺技だ。
「流石に領域展開とまでは行かないけどさ。俺もなんかこう、『はかいこうせん』とか『螺旋丸』とか『月牙天衝』とか『アルゼンチンバックブリーカー』とかさ。そういう必殺技が欲しいんだよ」
「色々とツッコミどころが多いな・・・だが確かに必殺技を持つこと自体は悪いことではない。いざという時の切り札にも、相手を混乱・困惑させるための一手として使うのも、相手の隙に確実に大ダメージを与えるためにも。軽視されがちではあるが、意外と有用手段は多い。尤も、使いこなさなければ意味はないのだがな」
と、誰でも楽々PK術に書かれていた気がする。
「しかし仮に魔法を覚えたとしても、扱うための魔力はどうするんだ?」
「マリョク?呪力で代用とかはできないの?」
「呪力で代用は・・・フム」
宿儺の指を取り込んだ呪霊は、自分の呪力を消費しユグドラシルの世界の力を扱うことが出来た。
その理由は定かではないが、恐らく指はアインズという特異点を孕んだことにより、膨大な呪力の他にアンデッドとしての特性を与えることも出来るようになったのではないかと推測される。
ならば虎杖にも、その資格はあるのではないだろうか。
しかし、疑問は幾つか残る。
ユグドラシルにおいて魔法を習得するには、レベルを上げるか課金をする必要がある。
しかしこの世界にはレベルも無ければ課金もない。つまるところ、アインズの知る方法では魔法を覚えることが出来ないということだ。
勿論
(虎杖が魔法を覚えるのは困難。というより無理に近いか。・・・いや、待てよ?)
これまで考えていたのはあくまでユグドラシルの常識に過ぎない。
ならば転移先の、あの世界での魔法の習得方法はどうなのだろうか。
あの世界にはレベルも課金も存在しない。
いや、レベルに関しては見えないだけで実際は内面的に存在するかもしれないが。
だとしても魔法を習得するためのスペルリストが存在しないので、どちらにしろユグドラシルの魔法習得方法とは完全に異なるのだろう。
(あの世界での魔法の習得方法はどうなんだ?適当に祈っただけで覚えれるなんてことは無いだろうし・・・)
誰かに教わらなくとも魔法を使えるようになった者もいるらしいので、享受されて魔法を使えるようになるわけでもない。
その世界特有の魔法を覚えるための専用の魔導書のようなものもあるかもしれないが、しかしそのようなアイテムがあればアインズの耳に入っていないわけがない。
(こうなってくると、魔法という定義自体がよく分からなくなってくるな・・・しかし独学で魔法を覚えた者がいるってことは、虎杖にもそれが出来る可能性もあるということ)
「・・・試してみる価値はあるか」
しかしいきなり虎杖に「じゃあ早速魔法を撃ってみよう」という訳にもならない。
というか魔法を使えるのか自体まだ分かっていないのだし。
その確認という意味でもまずは魔法という存在に、感覚的に慣れさせた方がいいだろう。
「虎杖。少しだけ君の身体を貸してくれないか?」
「全然いいけど、なんで?」
「君に魔法を教えたいのは山々だが、現状分からないことが多くてな。取り敢えず君に魔法を使う才能があるのかを確認しておこうと思ってな」
「オッケー!そんじゃ体渡すよー」
身体の所有権を譲渡され、アインズの視界は虎杖のものへと変わる。
(・・・いや受け入れるの速すぎだろ・・・まあそっちの方が俺的にはいいんだけどさ)
将来虎杖は詐欺とかに引っかかりそうだなと適当に評価しながら。早速アイテムボックスから一枚の
刻まれている魔法はいわゆるバフ系の魔法だ。
机の上にそれを一枚置くと、体の所有権を虎杖に戻す。
その間たったの五秒。
あまりに早すぎたためか、虎杖も若干顔に困惑の色を示している。
「・・・え?もう終わったの?」
「ああ」
「早すぎ・・・というかこの机の上の紙何?なんか知らない文字が書かれてるけど」
「それを使って君に魔法の才能があるのかを調べるんだ。早速手をかざしてみてくれ」
「お、おう!」
手を古めかしい紙にかざす。
しかし当然というべきか、視覚的にも感覚的にもこれといった変化はない。
「アインズさんこれ不良品じゃない?」
「試すのはこれからだ。
「レッサー・・・ストレングス?」
「そうだ。しかしただ呟くだけじゃない。その紙の中にある力を己が身に投影するような感覚でだ」
「言ってる意味が分からないんデスケド・・・」
とにかく、言われた通りに考えてみる。
(紙の中に己が身を投影する・・・よく分からんけど、イメージイメージ・・・)
呪力を手に込め、紙に集中する。
「レッサーストレングス!」
しかし変化は見られない。
時々イメージの仕方を変えたり、目を閉じたりしてみるが、いずれも変化は見られなかった。
「なんか変化が無い気が。俺が気付いてないだけ?」
「・・・そういえば虎杖。レッサー・ストレングスの意味は分かるか?」
「いやなんも?ストレングスは何となく『力』とか『パワー』だってわかるけど・・・レッサーつったらパンダだし。つーか力とパワーって一緒じゃね?」
自分で自分に突っ込んでいると、何やら指輪からフムと一考する声が聞こえた。
「《
「つまり直訳すると『劣る力』ってこと?なにそれデバフ?」
「その逆だ。自分の筋力を増す魔法、つまりバフだ」
どうやらあのレッサーは魔法の質、レベルに関する意味だったらしい。
「へー。でもどうしてその説明を?」
「魔法を発動するには、その魔法に対する強いイメージが必要だ。炎ならば燃えるイメージを。水ならば濡れるイメージを。雷ならば痺れるイメージを。そのイメージを具現化させたのが魔法だからな」
「じゃあ俺は、自分の身体が強くなるイメージをすればいいってこと?」
「そういうことだ。説明が足りず、すまなかった」
「い、いやいや!アインズさんが謝罪する意味はないですって!」
アインズの謝罪を断りつつも、脳内のイメージを働かせる。
(自分の身体が強くなるイメージ・・・イメージ・・・筋肉を強化・・・)
ふと、全身の感覚が鋭く、冷たく、そして静かになる。
いわゆるゾーンと呼ばれる精神状態。極限の集中が心身を凍らせた結果、それ以外の景色が真っ白に染まる。
じっくりと自分のイメージを浸透させていく。
そして ──────小さく呟く。
「
───刹那。
新しい記憶が書き込まれていくかのような不快感。
同時に感じる巨大な何かと結びつくような幸福感。
魔法という存在が記憶に。常識に。知識に。
その全てに、違和感も無く刻み込まれていく。
感覚が身に纏わりつく。脳に絡みつく。骨に染み渡る。
その全ての過程を終えた、その先の精神に。
呪力によって生み出された、虎杖だけの魔法が生み出される。
同時に全身を稲妻のように駆け巡る、形を成した呪力の波動。
それと同時に脳に伝わる、全身の筋力が向上したという事実。
「これが・・・魔法・・・!?」
脈が浮き出た手の甲を眺めながら、全身の高揚を理性で抑える。
「まさか本当に魔法を使えるとは・・・」
「しかもなんか・・・魔法に関する知識?が頭に直接入って来たんですケド・・・」
「魔法に関する知識が直接・・・」
指輪からは暫くの間、悩むような唸り声が聞こえる。
その間に、軽くシャドーボクシングをしながら自分の身体の状態を見直してみる。
(確かに筋力が上がっているような?・・・・・・・アレ?)
ふと何か違和感を感じた。
振っている拳にではない。むしろ絶好調だ。
かといって新しい知識として刻まれた魔法に関することでもない。
違和感の正体は、感覚的に存在する呪力の奥底。
そこに突如として生まれた小さな空白だった。
(なんだこの穴・・・)
これまでの人生でも経験したことのない、形容しがたい感覚。
その感覚に困惑交じりの表情を浮かべていると、指輪からフムと声が漏れた。
「虎杖。恐らく君は今の経験を経て
「
「分かりやすく言えばそうだ。そしてその知識、能力を得たということは、魔法を覚えそして行使すること出来るということだ。虎杖。何か身体にこう、違和感みたいなものはないか?」
「違和感・・・」
それこそ、つい先ほど気付いたあの穴のことだろう。
「なんか体の奥?に空白っぽいのがあるっていうか・・・」
「空白か。その空白は恐らく新しい魔法を覚えるための穴だろうな」
「新しい魔法を?」
「そうだ。魔法の数は3000越え。その魔法の中から好きな魔法を・・・使えない魔法もあるが、覚えることが出来るぞ。尤も魔法を習得するその方法はよく分からないが」
「一番重要な部分抜けてるじゃん」
しかし習得方法に関しては、先程の魔法との邂逅により何となく理解出来ている。
(恐らく魔法を使う時と同じように、覚えたい魔法をイメージすればそれを覚えられるはず。でも覚えたい魔法っていってもどんなのがあるか分からないしなー・・・)
しかもその数はアインズ曰く3000強。
適当に想像してエグイ魔法を覚えてしまう可能性もある。
(アインズさんに聞いてみるか。でも3000とかいう膨大な数の魔法を覚えてんのかな?)
そんなまさか。
その数の魔法を覚えているわけがないだろう。
「魔法に関して聞きたいことがあれば私に聞くといい。若干薄れ気味ではあるが、ほぼ全ての魔法に関しての知識と名称は覚えているからな」
「えぇ・・・?」
どうやら心配する必要はないらしい。
それからというもの。
虎杖は映画そっちのけで、アインズから覚えるべき魔法に関する教授を受けた。
それは次の日の、朝日が水平線の奥から登り始める時刻まで続き。
そして虎杖は魔法を習得した。
『・・・うるさいなコイツら』
一方映画に集中していた宿儺は舌打ちを吐いていた。
◇■◇■◇
翌日。
虎杖は若干の傷が目立つ頬を叩きながら、軽くジャンプを繰り返す。
対して目の前に立つ五条は何食わぬ顔で平然と突っ立っていた。
「ふーん?いつにも増してやる気じゃん?」
「いつまでも負けてられないからね。・・・まあ勝てるとは思ってないケド」
「そうでもないさ。体術で言えば僕と五分とまでは行かないけど、十分戦えるラインには立ててるさ」
「それ褒めてるの?」
「全然」
手首足首をグルグルと回し、最後に深呼吸をすると、自信に満ちた顔で五条に向き直った。
「・・・逕庭拳、そんなに気に入ったの?」
「え?」
「いや、そんなに自信満々な顔してるからさ」
「気に入ったってか・・・まあ初めて覚えた技だしさ。そりゃあ気に入ってるけど」
「けど?」
「流石にこのままじゃいけないよな、とは思うよ」
「ほほう!」
確かに逕庭拳は偶然で生まれたものとはいえ、それなりに強力な技ではある。
だが実際は、呪力の扱いにまだ慣れていない、つまり未熟故に生まれた技術であるということだ。
いつまでもこれに頼っているようでは当然成長は出来ないだろう。
「そこまで考えているならよし!・・・さて、ルールはいつも通りね」
「術式を発動させたら俺の勝ち、俺が動けなくなるまで痛めつけられたら負け。だよね?」
「うん」
つまるところ虎杖の勝利条件は、確実に五条にダメージが入りうる攻撃を繰り出すことである。
言うは易しだが、その難易度は一から十で言えば二十くらいはあるだろう。
そもそもだが、五条の体術は呪力・術式の付与等を無視しても全国トップレベルに極めている。
それに加えて六眼による洞察力と推察力。
もし仮に五条が無下限術式を持っていなかったとしても、その実力は一級術師にも引けを取らないだろう。
「・・・毎度のことながらかなりエグイよね」
「亀の甲羅背負って修行するよりかは全然マシでしょ」
「むしろそっちの方が俺的にはいい気がするんだけど。かめ〇め波覚えられるし」
閑話休題。
「それじゃ早速、戦ろうか?」
すると五条の雰囲気が一変。
それまでの優しい風は何処へ消え、最強という名の威圧が全身に襲い掛かってくる。
「応ッ」
しかし臆することはない。
感情の制御を映画鑑賞+二人との会話で相当に鍛えた虎杖にその程度の威圧では、湖面に波紋を立てるどころが揺らすことさへ出来ないだろう。
虎杖はボクサーのように双拳を前方に構える。
しかし両足の裏は完全に地に着いており、ステップを踏むことはない。
分かりやすく言えば手を完全に握り込んだ柔道の構え、と言ったところだろうか。
「・・・?」
五条はその構えを取る虎杖に、妙な違和感を持つ。
それは構えに対してではない。
その
(どうしてあんなに呪力を抑えてるんだ?節約なら分かるけど・・・それにしては込めなさすぎじゃない?)
虎杖の作戦が読めないまま、五条はじわじわと虎杖に近寄る。
構えは取っておらず、いわばハンドポケットの状態ではあるが、しかし慢心も油断もない。
(どう来るか・・・)
久方ぶりに熱い戦いになるか。
虎杖のことを過大評価しているつもりは無いが、それでも期待してしまう。
「そろそろ間合いだね」
「だけど、まだ俺は打たないよ」
「そりゃ奇遇だね。僕も打つ気はないよ」
じわじわと間合いを詰め、そして遂に二人の距離は一メートル弱まで近づいた。
耳を澄まさずとも相手の呼吸音が聞こえるほどの超近距離。
「・・・」
「・・・」
先に動いた方がやられる。
後に動いた方がやられる。
先の読み合いは無動へと至る。
「・・・」
「・・・」
「「・・・・・・」」
「───動く」
次の瞬間。目にも止まらぬ速さで五条の拳が虎杖の頬を掠めた。
ハンドポケットからの抜拳。そのあまりの練度のも脱帽ものだが、それよりも恐ろしいのはその拳を掠める程度で抑えることが出来た虎杖だろう。
常人であれば拳どころが打たれたことにすら気が付かないほどの速度なのだから。
避けた拳を左手で抑えつつ、右足で五条の脚を狙う。
だがそれをバックステップで避けると、逆に左手を握り返しそのまま反転。虎杖を地面に投げ落とそうとする。
虎杖はそれを受け身を取ることで防ぎ、体勢を瞬時に戻すと間髪入れずに五条を攻める。
右ジョブ。左ジョブ。肘打ち。裏拳。リバーブロー。前蹴り。
しかもこれら全ての攻撃は、逕庭拳による二段構えを兼ね備えている。
だがしかし、いずれも五条は完璧に受け流すと、前蹴りの際に生まれた隙に向かって逆に後ろ蹴りで悠仁の脇腹を突き刺した。
「ッが!?」
苦悶の表情を浮かべる中、更に畳み掛けるように。更に流れるように。拳による清流のようなコンボを決めていく。
(・・・守る箇所には最低限の呪力を篭めている。だがそれ以外には全く込めている様子はない。一体何を狙っているんだ?)
しかし何を狙おうと、このまま押し潰せば問題はない。
段々と態勢が崩れ始めた虎杖に、渾身の一撃を与えるべく右足を引いた。
(悪いね悠仁)
心の中で真心のこもっていない適当な謝罪を済ませると、虎杖の鳩尾に目掛け前蹴りをブッ放す。
虎杖には避けることも防ぐことも出来ない一撃。
決まった。
終わった。
勝った。
その完結した事実の余韻に浸ろうと、思考が戦闘を放棄した───
「《
───だがその前に、虎杖の姿が消えた。
「何!?」
「《
続く言葉は背後から。
拳で牽制しつつ振り返れば、全身に闘気を漲らせ、既に拳を五条に向け放つ虎杖がいた。
『───と、ここまで魔法に関して長く話してきたが。正直これまで話してきた魔法は、まるで君に向いているとは思えない。魔力・・・呪力の消費量にその効果が似合っていないとも思われるからな。そもそもレベル1だから攻撃魔法覚えても威力低いだろうし』
『え?!じゃあこの時間何だったの!?』
『君に魔法の才能が目覚めたのは確かだし、選ぶのは君の自由だと思っていたんだがな。よく考えてみれば、君は魔法で戦うというよりかは拳でぶん殴るほうが好きだろう?』
『好きというか、それしか能がないって言うか・・・でも、確かに魔法を攻撃にばっかり振る訳にもいかないしね。例えばこう、身体を治癒させる魔法とかを覚えたり』
『そういうことだ。コスパの悪い魔法をいくらか覚えて遠中距離の攻撃方法を増やすよりも、前線で戦う機会が多いのなら回復やバフに魔法を振った方がいい』
『そりゃそうか』
『ということで、私は君に《
『デクスタリティ・・・』
『俊敏性。詰まるところスピードだな』
『スピードか・・・』
『足の速度が上がればその分戦闘時の回転率も上がる。それに攻撃を回避しやすくなる。呪力の消費量もかなり少ないだろうしな』
『・・・おっし!そんじゃその魔法に決めた!』
『いいのか?私が言っておいてなんだが、これ以上魔法が覚えられなくなるかもしれないぞ?』
『俺回復するってタチでもないしさ。それにバフはいくらあっても腐らないじゃん?』
『・・・フフ、なるほど確かにな』
「ぐッ!」
流石にこの至近距離で受け流す、避けることは不可能。
ギリギリで腕を滑り込ませると、さらに自分の脚で後ろへ吹っ飛ぶことにより威力を半減させる。
受け止めることを躊躇うほどの深い一撃。
流石に骨にまで到達するほどの威力ではないが、しかし五条に相当の衝撃を与えたのは事実。
思わずホウと感心の息を吐いてしまう。
「やるねえ。それアインズから学んだの?」
「まあ大体はね!」
迫りながら、虎杖は肺から空気を全て抜く。
「フウゥーーッ・・・」
虎杖本来のフィジカル。
呪力による身体能力の増強。
逕庭拳による二段構え。
魔法による筋力と移動速度の強化。
そしてさらに肺から酸素を無くすことによる、無呼吸での連続運動。
これらにより更に密度の高い連撃を仕掛けることが出来るようになる。
(一気に攻めるつもりか!)
五条はそれまでの前傾姿勢を変えた。
両手を前に揃え、脚を前後に構える。
いわゆる空手の前羽の構えであるが、それよりも柔らかい印象を受ける。五条が自分好みにアレンジした完全受け身の構えである。
体術面において後手に回ったことのない五条が、初めて完全に受けに回った。
攻め落とすのは極めて困難だろうが、逆に言えばそれだけ虎杖のことを警戒しているということだ。
「さあ来い!」
五条の言の葉に切り込むように、虎杖の連撃が放たれる。
先程の攻めとはまるで別人のような、荒れ狂う打撃の嵐。
その全てを手のひらで受け流しながら、避けながら、防ぎながら。
濁流を浄化するように、五条は着々と攻撃を見切っていく。
傍から見れば五条有利に見えるかもしれない。
しかしこの場にいる全員は、その攻防がまさに均衡状態の際に立っていることを知っている。
(攻撃を見切るので精一杯。気を抜いたらソッコー決められちゃうかもね)
(息が苦しい・・・でも呼吸をしたらその瞬間に狙われるだろうし、なんとか一撃でも入れたい・・・!)
(フム。虎杖の勝ち目は低いが、しかしそれはあくまで五条の捌き方次第。フェイントや寸止めを繰り返し揺さぶりをかければあるいは)
(それまで息が持てばの話だがな)
アインズの言う通り、虎杖の攻撃は徐々に巧みにフェイントを混ぜるようになっていき、それまでのスピード感に慣れていた五条はその度々に引っかかりかけていた。
「まさかスピードとパワーがほんの少し上がるだけでここまで追いつめられるとはね。流石だよ悠仁」
「・・・・・・」
「じゃあ僕もそろそろ───
──────本気出そうかな?」
五条の身体にほんの少しばかりの呪力が込められる。
その瞬間、虎杖の鳩尾に鋭い衝撃が走った。
衝撃の正体はただの前蹴り。
しかし虎杖の胴体が完全にがら空きになる隙を縫った一撃。
そして先程は避けられてしまったために入れることのできなかった一撃。
元から何も入っていなかった肺から、さらに絞り出るように空気が吐き出る。
ソレと同時に肺に大量の空気が戻り、思わず咳き込んでしまう。
「ゴホッ!ガハッ!」
「辛そうだね。でも止めないよ?」
しかしだからといって攻撃を止める五条ではない。
やり返しと言わんばかりの連撃を今度は五条が仕掛け始める。
しかも虎杖と同じく無呼吸でだ。
当然虎杖にそれを受け止める余力も気力も残っていない。
「クッソ!!」
虎杖は思わず悪態をついてしまう。
それもそうだ。
これまでは順調に攻めれていたのに。
たった一瞬でその立場は逆転し、今では受け流すどころが守ることすら出来ていない。
これで完全に勝利は決まった。
しかし未だ疑問は残る。
(・・・何故、
最初から最後までずっと感じていた疑問。
確かに五条を攻めるときは呪力を使い身体能力を底上げしていた。
しかしそれも微々たる量であり、全てを使い切るほどの勢いも無ければ、むしろ使っているのかどうか怪しいレベル。
今だってそうだ。
確かに攻撃から身を守るために全身に呪力を張り巡らせてはいるが、しかしそれでも使用量は少なくしている。
(何に対して残しているんだ?ここから逆転の目途があると?)
しかしどちらにせよ、攻撃の手を緩めることはない。
逆転の手があるのならば、それを使う前に潰せばいいだけだ。
五条の右拳はついに、虎杖の顎に直撃した。
クリーンヒット、とまでは行かないものの、しかし意識を削ぐには十分な一撃。
「ッ!?」
その隙を逃さぬよう、左足を踏み込み、腰を全力で入れる。
そして引き絞った右拳に遠心力も乗せると、顔面目掛けて一気に抜き放つ。
狙いは確実。
速度も万全。
ただし威力は少し控えめ。
空気を穿ち音すら断ち切る拳は、そのまま虎杖の顔面へと──────。
『でもさ。やっぱり必殺技は欲しいよね』
『・・・ああ、そういえばそんな話だったな。しかし必殺技と言っても、君自身が強くならない限りは攻撃魔法を覚えてもあまり強くないと思うぞ。精々が気を引くための松明の代わりになるかどうか』
『ちなみに今俺が・・・例えば
『そうだな・・・人間と同等の耐久力を持つ呪霊であれば一撃で倒せる。しかしそれ以上となると、倒すどころがマトモなダメージを与えることが出来るかすら分からない。といった具合だろうか』
『ええー・・・そんじゃあさ、他に威力を上げる方法とかないの?』
『他に威力を?』
『必殺技ってさ、リスクを承知でみたいなところあるじゃん?傷ついた時にしか使えないとか、全エネルギーを使うとかさ。そういうのを支払う代わりに───みたいなことは出来ないのかなって』
『・・・どうだろうな。こちらの世界ではそのような技術はなかったはずだが』
『だよねー』
『・・・・・・いや?少し待て』
『へ?もしかしてなんかそれっぽい技あるの!?』
『いや違う。ただ私の推測通りならば・・・
・・・威力を底上げできるかもしれない』
虎杖の右手が突如として燦燦と輝き始める。
それは炎。
純粋なる輝きの塊。
その名も──────
「《
本来であれば虎杖が撃つ火球など、五条にダメージを与えられるほどの威力を持つことはない。
しかしながら、この世にはなんとも都合の良い、
『魔法に縛りを掛ける?』
『そうだ。具体的には───』
「
拳は虎杖に当たる
その眼は負けを認めた者の瞳。
「こりゃ一本取られたね」
五条の囁きは業火と共に消えた。
◇■◇■◇
「いやー、凄いね悠仁!まさか僕に勝つなんてさ!」
「この状況見てそう言える?」
「ルール的にはちゃんと君の勝ちだよ?」
「まあ・・・そりゃそうなんだろうけどさ。なんか納得いかないというか」
焼け焦げた臭いが充満する部屋の中。
怪我だらけのまま床に突っ伏す虎杖と、無傷で地面に胡坐をかく五条。
確かに傍から見れば五条の完全圧勝に見えるかもしれないが、しかし結果はその真逆。
五条は虎杖の火球を回避するために、術式を使った。
呪力切れで倒れているとはいえ、その事実に変わりはない。
「でもさ。なんか俺卑怯じゃない?アインズさんから色々と教わってさ、それで五条先生に勝つって。なんか自分の本当の力じゃないっていうか」
「それでも勝ったのは君さ。それに呪力を温存しながら戦えていたのは、それこそ紛れもない悠仁自身の実力じゃないの」
「それは・・・確かにそうかもしれないけど。でもあの時も
「・・・まあ自分の実力を認めろとは言わないけどさ。もうちょっと自信持った方がいいと思うよ?」
「・・・」
「それにさ。そんな言い訳みたいに謙遜してたら、負けた僕が惨めに見えちゃうじゃん」
「それは!そんなことは!!」
「じゃあこれ以上自分のことを卑下するのは禁止ね。分かったかい?」
「・・・分かった!」
なんとも綺麗に言いくるめられた虎杖。
しかしその顔は実に清々しく輝いていた。
「でも結構ダメダメだった部分もあるから。とりあえず当分はそこを治す様に努力しよっか!」
しかしその天真爛漫な表情もすぐに沈んだ。
「体術に関してはこれといって指摘する部分はないね。強いて言えばスピードが足りないかなって感じ。守りも呪力を控えめにしてる割には中々しっかりしてたね。問題はやっぱりあの呪力管理の方法に関してだね。呪力管理は言わずもがな、守りと攻めに込める呪力量があまりに少なすぎること。最後のあの一撃のことを念頭に置きすぎて他が結構中途半端になってたかな。モノホンの呪霊相手だったら間違いなく序盤の方で轢き殺されてた。呪力の消費量もエグイし、あくまでアレは切り札だからね。使うことを前提に考えずにワンチャンレベルで考えておいた方がいいかも。とりあえず呪力量の底上げを最優先にして、あとは実戦投入で慣れていく。今のところこんな感じかな」
「は、はあ・・・って、え?実戦投入??」
適当に相槌を打とうと首を曲げかけるが、しかし今聞き捨てならない言葉を聞いた気がした。
「本当は二週間後ぐらいを予定してたんだけどね。今の君を見る感じもう実戦に送ってもいいかなってさ」
「まさか俺一人で、とか言わないよね?」
「流石にそこまで鬼じゃないよ。信頼できる後輩に君のことを託そうと思う」
「後輩・・・?」
「そ。ちゃんとマトモな人だから安心していいよ」
「五条先生が言うと、なんか信用できないなあ・・・」
「ハハ、悠仁は面白いこというね。次は術式ありで戦おうよ」
「ちょ、冗談ですって!」
さて、と五条は重い腰を持ち上げる。
「そんじゃ、今日はゆっくり休んでよ。明日からまた呪力操作、もとい底上げをしてくから。そのつもりでヨロぴく!」
「おう!」
スマホをポケットから取り出し、件の後輩と思しき者と連絡を取りながら、部屋から姿を消した五条。
その後姿を見届けた後。
「実戦か。・・・これでやっと、アイツらと肩並べれたってことか・・・でも、もっと強くならねえと。少なくとも、目の前にある命だけでも救えるぐらいには。強くなろう」
小さく呟いたその後。
虎杖はその静かな空間の中で、深い寝息を立てていた。
・物理特化魔法使い虎杖悠仁
ユグドラシルで言えば、レベル10の修行僧とレベル1の魔法詠唱者を修めているといった感じ。
最も悠仁にユグドラシルの常識は通用していないので、これからどれほど強くなるのか見ものである。byアインズ
特にオチも無く終了。
次回は確実にナナミンが登場するので、ご期待ください。