ネタ:オビトの姉になりまして   作:詩乃.

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注意:原作であまり描写のない部分なので、好き勝手に妄想して書いています。


父という忍、嫌な予感

 ひゅうひゅうと風が吹く。木々がザワザワと音を立てていた。

 

(――空気が重い)

 

 燕の飛ぶ高さも低い。雲の切れ間は一応あるものの、空模様は曇天に近かった。今日も一雨きそうだ。

 ここ数日、雨が続いていた。地面は湿り、少し足が取られそうだな、なんて感想を抱く。

 そろり、と忍び足で玄関に向かい、置いてある風呂敷を手に取り、サンダルを履いていると、後ろから声がかかった。

 

「――ねえちゃん? きょうもいくの?

 きょうは、アカデミーはやすみだったろ……」

 

 昼寝から半分覚醒し、目をこすりながら欠伸するオビトが、此方に向かってきた。あー、起きちゃったか。

 私の手元にある風呂敷を見つけ、オビトは途端に膨れっ面になる。

 

「………。……あーあ、つまんねェ。

 ねーちゃんも“てつだい”にいっちまう。オレだけ”また”おいてけぼりかよ!

 ……とうちゃんも、さいきんは、かえってくるのはおせーし、あさにはいねェしよ…」

 

 父も、今日も早くから不在だ。ここのところ、朝には、弁当だけが残されており、私もオビトも殆ど父と会えていない。

 冷蔵庫の中身が変わっていたり、知らない洗濯物が増えていたりはするので、少なくとも家に顔は出しているようだ。一度、オビトと一緒に父が帰るまで深夜まで起きていたら怒られ、それ以後は私もオビトもある程度の時間になったら寝るようにしていた。

 

 つまるところ、オビトは寂しいのだ。父も姉も不在となると、家にいるのは祖母とオビトの二人だけになってしまう。

 この世界の子は肉体、精神的に早熟な所もあり、三歳くらいだと公園程度なら一人で遊びに行くのを許可されるが、ここ数日は雨続きでそれも無くなっていた。忍者学校(アカデミー)にまだ入学していないオビトは、家の中に閉じ込められて間違いなく鬱憤が溜まっている。

 娯楽らしい娯楽も、今の木の葉隠れの里にはない。祖母も遊んでくれている様だが、流石に何日も二人だと飽きるようだ。

 

(……仕方ない)

 

 本当は昼寝中にこっそり行くつもりだったのだが、予定変更だ。

 ちょいちょい、とオビトを呼ぶ。そして、人差し指で、そのへの字の唇をつつき、視線を合わせた。

 少し潤んでいる瞳を見つけ、泣き虫は相変わらずだな、と苦笑いしてしまう。――よし。

 

「――帰ったら、オビトに姉さんの時間をあげる。

 だから、これはオビトの宿題ね。姉さんが帰ったら、一緒に何して遊ぶか、きちんと考えておくこと!」

「!」

 

 いい子でお祖母ちゃんの言う事聞くように、と釘を刺す事も忘れない。

 瞳を輝かせたオビトは、私の首に勢いよく抱き着いた。慌てて支える。

 

「ほんとほんと? そういってシュクダイあったとか、あとでいわねーよな?」

「言わない言わない。もう終わっているもの」

「マジで!? さっすがねえちゃん!」

 

 顔色を明るくしたオビトに釣られ、少し気分が上向きになる。

 

「よーしィ! じゃあ、ちゃっちゃとやって、ぱーっと、はやくかえってきてよ!

 まってるからな、ねーちゃん! オトコのヤクソクだぞ!」

「ふふ、――うん。約束ね」

 

 誰から聞いて覚えたのか、いっちょ前にそんな事を言うオビトに笑ってしまう。最近は、家の中でよりも、公園で友達と遊ぶことが増えてきているし、その時の友達(彼等、彼女等)からだろうか。

 小さくて、それでも修行の胼胝(たこ)が出来始めた柔らかい手と小指を絡める。指切りをして、その癖毛を撫でて私も立ち上がった。

 

「姉さんも、早く帰れるように頑張るね。

 じゃあ、行ってくるから、――お留守番は任せたよオビト隊長!

 家とお祖母ちゃんをしっかり守るのだぞ!」

「がってんしょうち!」

 

 元気いっぱいの声を背中に受けながら、私は家を出て行った。

 

 

 

 手にする風呂敷をひっくり返さないように両手に持ちながら、タタタ、と里の中を駆けていく。時折見る、うちはの親戚に挨拶をしながら、私は数か所立ち寄りつつ、まずは商店街を目指していた。

 

 五歳の誕生日後少しして。私は自分から頼んで、父や祖母の簡単な仕事を手伝わせて貰っていた。

 大分曖昧になってはきていたが、成人前後くらいまでは前世の記憶があるのだ。肉体的には五歳という年齢ではあるものの、家でオビトと遊んで、家事手伝いしているだけは、何となく気が引けた。――それに。

 

(放課後まで同級生(同年代)と遊ぶのはしんどかったしな……)

 

 ぶっちゃけ忍者学校だけでお腹いっぱいだ。別に彼らが嫌いな訳ではないが、幼少期特有のハイテンションに合わせるのはやはり面倒くさい。一部、ギャーギャー突っかかってくるヤツもいるし、かえって気疲れしてしまうのだ。

 

 ――それに。例え遊ばないにしても、皆で学校の課題をやるのもしんどかった。学んでいる内容が内容だからだ。

 

 何を目的にこのカリキュラムが組まれているか。それを薄々察してしまうから、余計に辛い。

 性質変化などの忍術基礎や、各国の情報などの社会情勢はまだいい。手裏剣術なども、体育みたいでそこまで拒否感はない。ただ、忍組手や人の殺し方、情報の引き出し方、拷問方法や耐性の付け方、精神訓練――そういった、忍らしいことを、同級生と学んでいくのは、好きではなかった。それを習熟していってしまう同期も、自分を見ていくのも。

 

(…………)

 

 過去配布されていた教科書と比較すると、飛び級組(私たち)や、私と同年代の教科書は明らかに薄い。削られているのは、一般教養に加え、倫理、道徳面といった教育だった。

 これが示すことは間違いない。――戦が、近いのだ。

 

 父の不在も増えている。父の服から、血の臭いがする事も。

 端的に言えば不安だった。同年代の子とつるんでいても、ふっと、心に影が差すのだ。だから、何か、したかった。

 

 言動もある程度落ち着いており、年齢以上にしっかりしているように見えたのだろう。父も思う所があったのか、うちはの族長様に掛け合ってくれた結果、限定的に手伝いの許可が下りた。不定期ではあるが、学校後にあたる夕方の時間が、お手伝いの時間だ。

 

 主に内容は、下忍のDランク任務相当――荷物の運搬、簡単な伝言が殆どだ。弁当みたいなものから、巻物、苦無(クナイ)や起爆札などの武器(物騒な物)まで、西へ東へ持って走った。流石に忍者学校生ということも配慮してか、場所は里内に限定され、主に届け先はほぼ親族(うちは一族)だ。

 

(カルラさんに巻物、レッカさんこの風呂敷。――あとは、マジか。父さん当ての小包だ)

 

 届け先のメモに目を通した後、申、亥、寅と印を結び、小さな火遁でメモを燃やす。

 手伝って解ったことだが、流石は第三次忍界大戦直前。じわじわと里外任務が増え始めていた。同時にA、Bランクの長期任務数も、死者と共に増えてきていた。里への任務達成の報告後、直ぐに、次の任務へととんぼ返りする忍もちらほら出てきている。勿論のこと、うちは一族も次々と里外にいる時間が増えてきており、それに合わせ、届け物の頻度も上がってきていた。

 

 ここで意外に思ったのが、“うちは一族”の、苦無や手裏剣といった忍具の消耗の激しさだ。写輪眼の開眼こそ一部の者だけだが、基本的に二系統以上のチャクラを扱える高スペックな我が一族。幻術適性の高い者も多く、身の内に宿すチャクラ量も決して少ない訳ではない。故に、忍術や幻術で華麗に戦場を乗り切っているのかと思いきや、――うちは一族は、体術や手裏剣術にこそ力を入れる一族だった。

 そして、思い出す。原作でもサスケが結構手裏剣術を駆使して戦っていたな、と。

 

 一部、二部でもサスケを筆頭に、穢土転生後のイタチが、対カカシ戦のオビトが手裏剣術を披露していた。物語が進むにつれ、ど派手な忍術合戦――最終的には尾獣やら何やら怪獣大合戦となって印象が薄くなっていたが、それは、うちは流手裏剣術と呼ばれるものだった。

 

 その名の示す通り、うちは流手裏剣術は、苦無、手裏剣を中心とした、鎖鎌、ワイヤーまでも含めた忍具操作に重点を置いた手裏剣術だ。一族の教えによると、手裏剣術は忍の基礎であり、習得するのはうちはの忍として当たり前であるとのこと。

 

 チャクラ切れ(イコール)死を意味するこの世では、どれだけこの基礎を習熟でき、応用できるかで生き残れるかが変わるらしい。――なんとなく、その教えは解る。チャクラ量が発展途上の、コントロールも未熟な子供も戦場に出ていくからだ。

 

 チャクラを練れば練るほど、体力は削られていく。どれだけチャクラ消費量を温存できるかは、特に幼い者、体力のないものに対して重要な点であった。だから、うちは一族は、一族の子どもに対し、忍術だけでなく、幼い頃から手裏剣術も教えこんでいた。火遁・豪火球の術――うちはの一人前への登竜門は、実はその上の段階だ。

 

 箸と同じ感覚で使えるようになりなさい、というのは祖母の言葉だ。私もオビトも、3歳の誕生日を迎えたその日から父親に教わりはじめ、既に私の手は、豆がつぶれ、そこそこ固くなってきていた。昔、風呂場で痛くて泣いたのもいい思い出だ。

 

 まあ、こんな感じで、幼い頃からの英才教育もあってか、“うちは”は一族として手裏剣術の水準が高い。個人用に調整した忍具を使う者も多く、一族お抱えの忍具職人も含め、購入ルートも様々だ。忍具の一部はあの空区(・・)からも購入しており、皆、ある程度の年齢になると、猫バアに顔を繋ぎに行くことが決められていた。

 

 忍具の選び方、扱い方、管理の仕方。それは、私でさえも、そこらの中忍には負けない自負がある。私でも、一族内では目立たないが、手裏剣術は、忍者学校(アカデミー)内では上級生込みでも上位陣と引けを取らないのだ。成績表を見た時の父のちょっと誇らしげな顔や、オビトの尊敬の目に、少し照れてしまったのもいい思い出だった。

 

 せんべい屋の前で合流し、カルラさんに巻物を渡す。そこから木の葉病院に向かい、療養中のレッカさんに風呂敷を届けた。荷が軽くなり、ふう、と一息つく。

 残るは小包、父への届け物で終了だ。今は“あ・うんの門”にいるとのレッカさんから情報を貰い、木ノ葉病院を出た。

 

(――――ん?)

 

 頬に冷たい感じがする。ポツリ、ポツリと雨雫が視界に入った。

 空を見上げると雲の切れ間がなくなっている。雨の匂いが濃くなってきた。

 

「…………」

 

 猫も軒下へと消え、店の一部が幟旗(のぼりばた)をおろし始めた。

 小包を極力濡らさないように抱え込むと、前方で何人かのチャクラを感じた。耳を(そばだ)てながら走ると、商店街でたむろする忍の声が入ってきた。

 

「サクモさんから火影様へ、鳶便(任務完了の報告)が届いたそうだ」

「流石だな。って言う事は、暗号班の解析も始まっているのか。少しでもいい情報があればいいが」

「期待は出きるだろう。それに、月光の奴はもう、先に里に着いたらしい」

「ほんとか? 流石、速いな…。捕虜を一人連れているんだろう?」

「最近の霧隠れの動向は、呪印のせいで敵から情報が入りづらいからな…。今は、どんな末端の情報でも欲しい所だ。俺たちにも召集は来そうか?」

「いや、まだだろう。里内には入っていないみたいだぞ……」

 

(“白い牙”からの鳶便、ね…)

 

『――前の中規模作戦、霧隠れとやりあったみたいだぜ』

『”木の葉の白い牙”が大手柄だったんでしょう?』

八面六臂(はちめんろっぴ)の活躍ってヤツ? すっげえよなー』

 

 オレもはやく戦場に行きたいぜ、と話していた、忍者学校(アカデミー)での会話を思い出す。

 つい先日、草隠れの里の北西に位置する“雨泉竹の湿地帯”で、中規模の戦闘があったのだ。里内に公開されている情報としては、木の葉隠れの上忍4人小隊と、霧隠れの中忍上忍の混合中隊が三日三晩死闘を繰り広げたとのことだ。

 その激しい戦いは、“木の葉の白い牙(はたけサクモ)”の活躍によって木の葉隠れ(此方側)の勝利で終わったようだった。その上、敵忍数名を生け捕り(・・・・)にし、しかもその内の一人は上忍だったという成果は、木の葉隠れの指揮を大いに上げた。

 最近の霧隠れは、前線配置の忍には特別な理由がない限り、死体が残らない様に(・・・・・・・・)呪印を施しているそうだ。私は穢土転生対策じゃないかと睨んでいるのだが――とりわけ、対木ノ葉隠れの際はそれを徹底している様で、今回の成果は上層部も歓喜の悲鳴を上げていた。

 

 知らせを聞いた上層部はすぐさま、拷問部隊を編制し、湿地帯へと派遣。今は、霧隠れの上忍の持つ情報は粗方抜き終わり、残りの中忍二人をどうするか、という段階らしい。その内の一人は幻術耐性が強く、上層部は、手が空いている幻術の専門家(エキスパート)の招集をかけたとの事だった。もう一人の中忍は別の部隊が編制されるようだ。

 

(伝令、それに“サクモ”さん……。

 今回父さんが招集された(呼ばれた)タイミングに、届け出先が“あ・うんの門”……。

 父さん、――今回の件に関わっているのか)

 

 走りながら、父を想う。

 家では基本的に、修行の時以外は、私とオビトと遊びながら、穏やかに笑っている人だ。確かに、組手や手裏剣術だけでなく忍術、幻術方面まで、幅広く修行をつけて貰っていたが、――父さんがどういう忍で、どういう任務についているかまでは、私は知らなかったし、守秘義務もあってか、父も特に語ろうとはしなかった。

 

 父について知っている事は4つだけ。写輪眼開眼者であること、上忍であること、警備隊所属であること、――その割に警備隊から出向という形で、里内の色んな任務に就いているらしいということ。それくらいだ。

 

(…………)

 

 父は頭が切れない訳ではないが、写輪眼持ちで警備隊所属(うちは一族)だ。味方の書いた暗号解析(暗号班としての仕事)よりは、幻術要員として呼ばれている方が、可能性としては高い気がする。術の解析やチャクラの判別は写輪眼の十八番(おはこ)だし、いざとなった時に一工程(目を合わせる)だけで相手を眠らせられるからだ。

 

 最近、父がどこか遠くを見つめている事が増えた。娘の目というバイアスはあるものの、父の性格は、かなり穏やかで善性に寄った――言い換えれば忍にあまり向いていない類の人だった。刃物を人に向けるより、料理や盆栽している方がずっと性根に合っているだろう。

 

『ホノカ。――オビトのこと、頼むな』

 

 父は、ちゃんと元気だろうか。

 ぐ、っと手に力がこもる。小包内で忍具がぶつかり、かちゃっと不満そうに音がなった。――慌てて持ち直して一息つく。

 何かという訳ではないが、ここ数日ずっと胸騒ぎがしていた。

 

 ピリッと肌を刺激する感じとともに、父だけでなく、複数人のチャクラを捉えた。目的地はすぐそこだ。走る速度を上げていく。

 

(――――あ、)

 

 サアアアアア。小雨が段々本降りになり始めた。

 顔を顰める。まだチャクラ操作が上手くない私は、泥の道を走るのに結構体力を取られてしまうのだ。それに、雨だと身体も冷えて、風邪をひく可能性が高い。例え忍として鍛えていても、5歳という年齢の身体は、体力的な意味でまだまだ脆かった。

 

 はあ、と溜息をつく。

 急ごう。早く、父の元へ。そう思い、駆けて行った。

 

 

 ――そう。私は知らなかった。

 いや、知ってはいたのか。でも、理解はしていなかった。

 

 

 日常(幸せ)が壊れてしまうのは、一瞬だってことを。

 

 力が無いものは、泣くことしか出来ないことを。

 

 

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