DIOの父親に転生したけど幸福に生きてみせるぞ   作:紅乃 晴@小説アカ

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運命に立ち向かう道を突き進む

 

 

チベット。

 

南はヒマラヤ山脈、北は崑崙山脈、そして東に邛崍山脈が連なる自然の要塞で築き上げられた土地であり、その要塞内で育まれた文化はイギリスなどの大国とは違ったものであった!!

 

かつては地球の秘境として数々の謎に包まれていたこの地に、一人の男が今挑もうとしていた!!

 

 

 

 

何も言わずにバカンスだと言って飛び出してきたダリオ・ブランドーこと俺は、今まさにチベットのヌー川をさかのぼった奥地に聳える山に挑んでいた。

 

目的はただ一つ。

 

波紋呼吸法を学ぶためである。

 

波紋呼吸法とはチベットを発祥として伝えられる秘術であり、東洋では仙道とも呼ばれる特殊な呼吸法で人体学にアプローチした学問の一つであると俺は考えている。

 

特殊な呼吸法により、体を流れる血液の流れをコントロールして血中で波紋を起こし、太陽光の波と同じ波長の生命エネルギーを生み出す。

 

この波紋を流すことを波紋疾走(オーバードライブ)といい、用途は攻撃から治癒法、果ては肉体の老化を遅らせるなどと言った様々な使い方が存在している。

 

そして何よりも、太陽と同じ波を生み出す波紋呼吸は、普通の攻撃では倒せない吸血鬼や屍生人を浄化することができる。

 

 

作中、ツェペリ師の師匠であるトンペティ老師がチベットからダイアーとストレイツォを供にしてイギリスにやってきた話がある。

 

だから、俺はチベットのヌー川をさかのぼって波紋を学びにイギリスからこの地へとやってきたのだ。

 

波紋の呼吸を学ぶ。それは並大抵のことではないだろう。素質があり、そして長きにわたる修行の末に身につけられる技術だ。

 

現に、チベット郊外でようやく聞けた波紋呼吸法を伝授する地域の場所だが、そこの門を叩く前に特殊な花を見つけなければならないと教えてもらった。

 

彼は青白い花を渡してきた。

 

その花は摘んでいるというのに枯れていない。その花内部にエネルギーを蓄えている。それが波紋の全てに通じている、と。

 

門を叩く前に、その花を見つけなければ波紋を知る者には決して会えない。ましてや波紋呼吸を学ぶなど絶対的に不可能だ!!

 

この時のために、幼い頃から鍛えてきたつもりでもあるし、重労働も率先してやってきたので原作のダリオのようなデブっ腹ではなく、完全に引き締められた肉体となっている。骨格的にはディオのようで、ちゃんと鍛えていればこのような肉体を手にすることができていたのだ。

 

だが、その試練は俺の想像など遥かに超えていた。

 

青白い花を探してすでに一週間。

 

食料は尽き、体力も限界。崖を越えようとした際に一瞬の気の緩みで手が滑り落下し、左肩が完全に折れてしまっているのがわかる。体も心もすでにボロボロだった。

 

……正直に言えば、俺に波紋の素質があるかなんてわからないし、10年も20年も修行に明け暮れるほど時間的な余裕もない。

 

そもそも、そんなことをしなくても良いのではないかという思いも僅かにあった。ブランドー家は原作のように衰退せず、俺も路頭に迷って貧困に陥っているわけでもない。仕事も忙しいほどにあるし、蓄えもある程度はできた。綺麗なブロンドの髪をした気立てのいい女性とも出会うことが出来た。面影があるからして、おそらく彼女がディオの母になる女性なのだろう。

 

捨てるには多くのものを持ち過ぎていた。いっそ抱えたまま、来るかどうかもわからない運命など気にしないで生きていくという選択もあったはずだ……。

 

 

だが!

 

それに甘んじれば何も変わらないという焦りが俺にはあった!!

 

言葉ではない!心で理解できるような強烈な焦りが俺を突き動かしてきたのだ!

 

アイルランドでの根菜の栽培や、水洗式トイレで得た金という資金は、そのために使うべきだと俺の心が叫んでいた!!

 

故に、俺はこのチベットにやってきた。来るべき、己の運命と向き合うための準備をするために。

 

きっとここで俺の進退がわかる。

 

道を切り開き、己が進むべき道を荒野に示すか。それか立ち止まって酒に溺れるあのようなゲス野郎に朽ち果ててゆくのか!!

 

気がつけば俺は歩き始めていた。途方のない高原を歩き、山を越え、谷を越える。

 

そしてついに、見つけたのだ!!青白い色鮮やかな花を!!その花を一つ摘んだところで、俺の意識は遠のいた。

 

限界を超えて歩き続けてきた。手足も力が入らない。ばたりと青白い花畑に倒れた俺は、青く遠く映るチベットの空をぼんやりと見上げる。

 

意識が薄れゆく中、ふと視界に誰かが映ったような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ。なかなかに鍛え甲斐のある青年のようだ」

 

 

その声で俺は目が覚めた。知らない天井だとかテンプレ台詞を吐く前に起き上がる。簡易的な木枠で作られた寝具の上に寝ていた俺を、焚き火を囲む漢が驚いた様子で見ていた。

 

 

「いやはや、あと1日は寝込んでいるかと思っていたが……」

 

 

戦闘装束に身を包む男。ま、間違いない。彼こそ……俺が探し求めていた……。

 

 

「よくぞ、あの試練を生き抜いてみせた!!」

 

 

パウっ!!という声と共に俺の横隔膜に男の小指が突き刺さる。うぐげぇえー!!悶える声と共に肺から空気が吐き出されてゆく。まるで五分間吐き出し続けるような感覚。覚醒していた意識が再びぐらついたが意地でなんとか意識をつなぎ止めた。

 

 

「ほほう、これに意識を失わずに耐えるとは……ますます見どころがある男よ」

 

 

味わったことのない感覚。と、同時に俺の体に変化が起こっていた。

 

崖から落ちた時に砕けた肩がメキメキと音を立てて修復を始めたのだ。だが痛みはない。身体の中で起こる不可思議な現象に戸惑っていると、目の前にいる漢はふむ、と満足そうにつぶやいた。

 

 

「素質はあるようだな?して、何故に君は波紋呼吸法を学ぼうというのだ?」

 

 

彼は名乗らず、俺にそう問いかけてきた。

 

 

「……はぁ……はぁ……ッ。自らの運命に立ち向かうため……です……!!」

 

「ほう、その運命とは何かな?」

 

「……血統。己の運命の上に生まれてくる子を悪の道に染まらせないために」

 

 

そして、自分自身の道を切り開くために俺は波紋を学ぶべくここにきたのだ。

 

 

「……君は、まさに負の極地。君の歩む道の先には必ず巨悪が待っておる。それは避けようのない真実だ。だが、それでも抗おうというのか?」

 

 

ふと、成長したディオの姿が過ぎる。

 

興味なさげに俺を肩口から覗き見て、唾を吐き捨てて去ってゆく。やがてディオは、人を辞め、人を超え、そして時すらも止める存在となる。

 

それを変えることなど、世界の理を変えることと同義だと彼は言った。変えようと思うことがおこがましい望みなのだと。

 

それでも。

 

 

「俺は、運命を変えるために、ここにきたのです!!」

 

 

そう答えると、波紋の戦士はニヤリと笑みを浮かべて応えた。

 

 

「よかろう、ならば……このトンペティが君に運命に抗う力を授けよう。だが忘れるな。君が向かう真実は変わらないということを……!!」

 

 

 

 

 

 

ブランドー家から失踪したダリオは、5年という月日が流れたのちに、突如として姿を現したのだ!!

 

彼は自身の会社が親族に乗っ取られていることなど気にもしないで、そのカリスマ性と再び時代の先見をした発想で企業を強めていった!!

 

やがて彼は、資本家の令嬢と籍を持つことになり、その伴侶をとても大事にしたそうだ。

 

そして時は流れ……時代は、1867年。

 

運命の夜がやってきたのだった!!

 

 

 

 

 

 

 


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