DIOの父親に転生したけど幸福に生きてみせるぞ   作:紅乃 晴@小説アカ

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運命の夜のその後。

 

 

1867年からしばらく経った。

 

このダリオ・ブランドーこと俺は、運命の夜を境に人生を転落……することなく、順調に事業の拡大と波紋の修行に明け暮れる日々を過ごしていた。

 

まず企業についてだが、完全に父から受け継いだ事業体制は現代の企業方針に則り19世紀の資本企業では考えられないほどシステム化された営業方針を取っている。取締役をはじめ専務、部長、課長などの役職があり、それに応じた報酬を出している。無論、資本家間の賄賂や癒着、コネはあるが、そこまで規制すると彼らからの反感もあるのである程度は見逃している。

 

それを踏まえてもウチの会社の収入は大きいらしく、毎年新規雇用を行う際は何十倍にも膨れ上がった倍率を勝ち抜いてきた新入社員がやってくるほどだ。

 

アイルランドの根菜栽培もかなり手広くなり、じゃがいも疫病が終わる頃にはイギリス国内でも空前の根菜ブームが湧き上がっており、そこからはゆっくりと食卓に根菜のスープやキッシュなどが並ぶようになっていった。

 

さて、企業でも新たに着手していた蒸気機関のポンプ事業であるが、その動力源に目をつけた貴族からの提案で今まで人力で汲み上げてきた運河などの建設業にも起用されるようになり、19世紀のコンクリートの生成や、炭鉱などでの自動採掘、コンベアなど、思いつく限りの仕事に手を出していった結果、イギリス国内でも5本の指に入る大手ゼネコンへと膨れ上がっていた。

 

俺としては「ああすれば仕事になるんじゃない?」と資料と共に提案しただけだし、空いた時間はトンペティ師から教わった呼吸の鍛錬に充てていたので特に何かした実感はないのだが、なんだかんだと企業の代表として籍を置いている。個人的にはさっさと席を譲って悠々自適なリタイア生活を送りたいものだ。

 

さて、波紋の修行なのだが俺は五年間、チベットでの修行期間を経てトンペティ師と袂を別っていたりする。

 

別に喧嘩別れだとか破門だとかではなく、俺がトンペティ師……いや、波紋戦士の宿命を背負えないと断ったのが原因だ。

 

石仮面と柱の男。そしてエイジャの赤石の守護が波紋戦士に課せられる使命であるのだが、俺にも背負うものが多くあるし、生涯をそれに費やすつもりもなかった。

 

同門のダイアーやストレイツォ、そしてジョジョの師匠となるツェペリにも引き止められたのだが、俺は断腸の思いで彼らと道を違えたのだ。

 

無論、企業として援助をするという約束はしたし、今でも交流はある。チベット奥地にあった拠点を改装したり、このイギリスにも彼ら波紋使いの支部を設置したりもした。

 

その代わり、波紋の呼吸修行などで俺も世話にはなっているが。俺に取っては一に私生活で二に嫁、三に企業で四が波紋なのだ。

 

企業の運営と波紋の修行という二足の草鞋を履きつつも、俺はあの運命の夜から歩み続けてきたのだ。

 

そしてあの運命の夜からすぐあとに、妻のセシリアが身篭っているという報告を受けた。運命は変わることなく、1年後に俺は息子を授かることになったのだった。

 

 

 

 

 

 

今日も今日とて、ブランドー家が所有する会社は忙しく従業員が動き回っている。19世紀のイギリス。電話の普及も乏しい世の中で情報というものは握るだけで千財の価値があると言える。

 

この会社には電報部門というものがある。各協力会社や依頼主、飛び地であるアイルランド支部との連絡網を一手に引き受ける専門部署だ。そこからもたらされる金のなる情報を精査した秘書が俺の下へ書類をまとめて持ってくるのが朝の日課だった。

 

 

「ダリオ様、ブリッジウォーター運河の改造計画についてですが依頼主からは大筋合意を頂くことができました」

 

 

ブリッジウォーター運河。

 

これはイングランドにある運河であり、イギリスとの交易に欠かせない海運路となる水路だ。この水路、建設から時間が経つにつれて色々と問題が出て来る場所であり、イギリス政府内でもたびたび議論となる重要箇所でもあった。

 

そこで水路の水位調整を自動化するため、我が社が保有する小型水蒸気ポンプを敷設し、溜池に水を排出する計画が去年から計画されていたのだ。

 

イギリス政府との会議の中、予算の申請や利権を持つ貴族たちの取り分、その他の必要経費諸々の試算をし、あーでもないこーでもないと貴族や政府関係者と幾度も協議した結果、ようやく妥協点を見つけて工事に取り掛かれる目処が立った案件でもある。

 

 

「その件に関してはディオに任せようと思っている」

 

「ディオ様にですか?」

 

 

俺の言葉に秘書は少し顔を顰めた。まぁ当然だろう。俺が言うのは子供に会社の今後を左右するようなプロジェクトを任せると言う意味に等しいのだから。

 

ディオ・ブランドー。

 

運命に沿って、俺ことダリオ・ブランドーとセシリア・ブランドーの間に生まれた男の子であり、今は12歳という年齢になる。

 

秘書の懸念もわかるのだが、それ以上に俺には確信めいた思いがあったのだ。

 

 

「アイツは優秀だし勤勉だ。そろそろプロジェクトを任せて上に立つ者の責任というものを学ばせても良いだろう」

 

「大丈夫でしょうか?」

 

 

心配性なのか、単にディオに任せるのが不安なのか。どちらでもいいが秘書の物言いでは俺も大概に破天荒な行動を起こしているから反論はできまい。

 

なにせ10代に根菜の栽培を行うために父から農地を買い取ったし、今売れている小型水蒸気ポンプも20代前に技師との悪ノリで開発したような代物だし。

 

 

「ハッ、ではその通りに」

 

 

一礼して出て行く秘書を見送って、俺は自身の執務室から通じる書斎へと目を向けた。

 

 

「聞いた通りだ、ディオ」

 

 

言葉を待ってから書斎の扉が開くと、そこには本をパタリと閉じたディオが立っていた。その姿は原作開始時と相違なく。身なりは生活水準相応になってはいるが顔つきはアニメや原作まんまのイケメンであった。

 

うむ、このイケメンの要素はどこからきたのか……セシリアは俺に似ていると言っているがそんな気がまったくしないし、どちらかというとセシリア似ではないだろうか?

 

 

「本気ですか?父さん」

 

 

くだらないことを考えている俺に、息子であるディオはそう言った。

 

 

「本気じゃなかったらそんなことを言わんさ。お前は私の後継になる者だ。経験はするに越したことはない」

 

 

これがプロジェクトの大まかな計画書だ、と俺と会社の企画部、そして相手側の意向を聞き入れながら3日徹夜で作り上げたプロジェクトのシートをディオに見せると、彼は膨大な情報から必要なものだけ抜きとっていく。

 

 

「……プロジェクトとしては、運河の水量調整用の水蒸気ポンプの増設ですか」

 

「あぁ、地質調査はすでに済んでいるが下手をすれば河川の氾濫もあり得る。ことは慎重に運ばねばならない。故に私が最も信頼を置くディオに任せる」

 

 

信頼、その言葉にディオの顔が少し変化した。すぐにその変化は無くなるが俺は彼の父親だ。そのような僅かな変化を見逃すことはない。だがあえて気付かないふりをした。〝そうやって〟ディオを育ててきたのだ。

 

 

「信頼……ですか」

 

「あぁ、同時に期待もしているぞ?」

 

 

反復するように言うディオに本心で語る。すると彼もにこやかに笑って姿勢を正した礼を俺に向けた。

 

 

「お任せください、父さん。ブランドーの名にかけてプロジェクトを完遂させてみせましょう」

 

「よろしく頼むぞ、ディオ。あと母さんに今日も遅くなると伝えておいておくれ」

 

「わかったよ、父さん」

 

 

言葉を交わし終えてディオが執務室をあとにする。彼の気配が遠ざかるのを確認してから、俺は小さく息をついた。

 

無意識に波紋の呼吸をしてしまっていたのだ。自分の息子であるディオの底知れない野望の片鱗を見たその時から。俺は……息子を、ディオを恐れている。頭ではそうでないと拒絶しながらも体は正直だった。

 

稀に波紋の素質を受け継いで子が生まれると言う話もあって期待はしたが、ディオは波紋の素質を引き継がずに生まれてきた。呼吸からして、彼は波紋を会得することはできない。そう運命に定められているように思えた。

 

彼は生まれながらにして悪党。いつか、スピードワゴンが言った言葉はその通りだった。生まれついての悪党に、育った環境など関係ないと。うまく隠してはいるが、あの張り付いた笑顔の裏には高すぎる理想と大きすぎる野望が眠っている。

 

言葉ではなく、本能や心に語りかけてくるほどの大きさの……。

 

だが、ディオ。それではお前は何も変わらない。運命という道の中で朽ち果てる宿命から逃れることはできない。そして俺自身も……。

 

故に、その悪の性質を俺は変えなければならない。生まれながらにして悪だというなら、その資質が向かう先を変えるしかない。

 

故に、彼は学ばなければならない。手に入れるために奪う、力で支配するという悪のあり方ではない。その本質に目を向けるべきなのだと。

 

奪うのではなく納得させて手放させることが本質なんだ、ディオ。

 

それをわかる時がお前が運命に定められた道から立ち上がる瞬間なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

ディオ・ブランドーは冷静さを顔に貼り付けながら心は怒り狂っていた。父であるダリオから頼まれた仕事の書類を片手に自分の自室に入ると同時、ディオは持っていた資料を床にぶちまけたのだ!!

 

 

「このディオに舐めた仕事を押し付けやがって……!!」

 

 

何がプロジェクトだ!地質調査はもちろん、すでに河川の氾濫を予測した設置地域のリストすら上がっているではないか!全てが父、ダリオの思い描いた図のとおりに記されている。そこに自分の意思など関係ない。

 

書かれていることを書かれている通りに進めれば、その手段が最善手になるように仕組まれているのだ!そんなものに期待?信頼だと?笑わせるな!!

 

 

「こんな仕事の取りまとめなど、そこらに転がっているガキの使いでも出来るものだ!!」

 

 

内容としては、数億規模の投資が動くプロジェクト。イギリス王家からの要請もある一大プロジェクトであり、今後の社運も関わってくることに変わりはない。だからこそ、ディオはその全てをひとりの力で成し遂げたかったのだ!!

 

 

「その全ては奴の培ってきた全てで賄われているものだ!俺の影響力など微塵もありはしない!!」

 

 

そこに自分の意思などない!与えられたものばかりだ!敷かれたレールに乗り喜ぶほど、このディオは甘っちょろい人間じゃあないのだ!

 

自分の生まれは恵まれているということは自覚している。優しい母も、厳格ながら自分を信頼してくれる父もいる。2人とも、このディオを信じてくれている。それが無性に、虫唾が走るのだ!!

 

だからこそ、ディオはすでに決意していた。

 

 

「全てを上回る。人脈も、金も、知識も全て!!父を上回り、奪ってやる!!」

 

 

与えられた物などに意味なんてない。奪い取らなければ、父を超えたことにはならない!!その決意こそが、ディオの本質であり、彼が生まれながらにして悪だという性質を物語っていた。

 

 

「……ひとまず仕事は進めなければならない」

 

 

はらわたが煮え繰り返る思いだが、任された以上このディオに失敗という文字は存在しない。完璧になし得てこそ、それに相応しい存在として認識されるのだ。何もしないでダダをこねる事こそ、そこらにいるクソガキと何ら変わらないのだから。

 

 

「しかし……この地域は運河の利権関係も絡んでくる話になる。ふむ……ここの利権はジョースター家が握っているのか」

 

 

利権者リストの中に見つけたのは、イギリスの名門貴族である一族の名だった。

 

ジョースター家。

 

その名をディオは聞いたことがある。確かこの貴族は父が命の恩人なのだとか。それ以来、なにかと交流があり、このブリッジウォーター運河の施工企業について口利きを政府にしてくれたのがジョースター家だとも。

 

その名を見つめて、ディオは小さく笑みを浮かべた。

 

 

「ふふふ。面白い、手始めにこの貴族を手中に収め……ゆくゆくは父をも超える人脈と資産を築いてみせるぞ……!!」

 

 

原作とはかけ離れながら、運命は非情にもディオとジョナサンを深く結びつけていたのだ。やがてディオはプロジェクトを任され、その利権貴族との顔合わせの際に、運命的な出会いをした!!

 

 

「君がディオ・ブランドーだね」

 

「そういう君は……ジョナサン・ジョースター」

 

 

 

 

 

 


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