DIOの父親に転生したけど幸福に生きてみせるぞ   作:紅乃 晴@小説アカ

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ジョースターとの出会い(1)

ジョナサン・ジョースターは苦渋を味わっていた。

 

本当の紳士になるために挑んだ戦いに完膚なきまで敗れ、痛めつけられ、貶められていたのだ。

 

哀れな少女とそれを蔑み、奪い笑う子供を見てジョナサンは我慢したりだとか、見過ごすことなど出来はしなかった。ノブリス・オブリージュ。持つ者の果たすべき使命に従って、ジョナサンは紳士として、女の子を貶める者たちへ戦いを挑んだ。

 

だが、結果はこのザマだ。貴族であることすら侮蔑される始末。だが、戦いに敗れたジョナサンに言い返す資格も、その格もありはしなかった。

 

耐え忍ぶジョナサンに唾を吐きかけたいじめっ子は、ヤブ医者の娘と蔑んだエリナ・ペンドルトンのおもちゃである女の子の人形を泥水へと放り投げようとした……その時だった。

 

「何をしているのかね?」

 

放り捨てようとしていたいじめっ子の手を、ゴツゴツとした大きな手が掴んでいた。いじめっ子は威勢の良いまま、掴み上げた男を見上げたが、その怒りに似た高揚感はすぐさま消え失せた。掴み上げていた男は山のように大きく、そして岩のように硬い。そんな威圧感に満ち溢れていた。

 

まさに巨漢。しかし無駄な肉はない。研ぎ澄まされた肉体がそこにあるように感じられるほど、その男の存在感は凄まじいものであった。

 

「は、離せよ!!」

 

我を取り戻したいじめっ子が手を振り払おうとするが、まるでそれが当然であるかのように動きはしなかった。あたかも自分の腕が見えない鎖で縛り上げられているような感覚だった。凄まじい力で固定されているような感覚だった。

 

「君は何をしようとしていた?そこの少年を2人がかりで倒した上に、その人形を泥水に捨てようとしていたのか?それはそこで泣いている少女のモノなのだろう?」

 

まるで全てを見ていたかのような言い草だった。だが、ジョナサンは不思議だった。今さっきまであんな偉丈夫はどこにも居なかった。自分がいじめっ子の2人に挑んだ時は確かにここには、泣いている少女と自分、そして相手の2人しかいなかったはずだ。あの男性は一体どこから現れたのか、不思議でしょうがなかった!!

 

「クソが!ジジイには関係ないだろ!その手を離せ!!ボケが!!」

 

あろうことか、いじめっ子は男の顔に唾を吐きかけた。なんて命知らずな行動なのだとジョナサンは内心で恐怖した。隣で卑しく笑う相手の仲間にもだ。あれは勇猛だとか、勇気だとかではない。

 

相手の力を見定めることもできない単なる無謀な行動だとジョナサンは理解していた。

 

すると、腕を掴んでいた男は空いた手で吐きかけられた唾を拭い、いじめっ子の手を離した。

 

「へっ、最初っから離して……」

 

腕が自由になったのも束の間だった。次の瞬間、いじめっ子の顔が乾いた破裂音と共に横へと跳ね上がった。隣で笑っていた仲間の顔が驚愕に染まる前に、その仲間の顔も横へと跳ね上がったのだ。

 

ジョナサンはややあって、唾を吐きかけられた偉丈夫が2人の顔を叩いたのだとようやく気づいた。いじめっ子は叩かれた頬を押さえて狼狽えながら叫んだ。

 

「お、大人のくせに子供に手をあげるなんて!!」

 

「都合のいい時だけ子供のふりをするならば、最初から悪事など行うんじゃあない!!」

 

いじめっ子の抗議を軽々と上回る声量で男は怒声を上げた。

 

「罰を与えずに子供に媚び、へつらうのが大人だというなら私は大人になど何ら未練などない!!そんなものは優しさとは言わない!!単なる自己満足に酔うゲス野郎だ!!」

 

完全に相手の2人は腰を抜かしている。まるでゆらめく怒りのオーラが男から立ち上っているかのようにジョナサンには見えた。そう思えるほどに男の怒りが、2人を圧倒していたのだ。

 

「善悪すらもわからないお前たち子供を、悪さをした者を叱らずして何が大人か! そんな人間に価値などない! そんな人間が大人と言うのなら、誰が間違っているお前たち子供を目覚めさせるのだ!!」

 

その怒りの声に、いじめっ子の2人は普段から味わった怒りや叱りとは違った何かを本能的に感じていた。

 

八つ当たりや憂さ晴らし。普段味わう大人からの折檻はそんな感情が入り混じった怒りであり、2人は子供ながらそんな不純物が混ざった怒りを明確に感じ取っていた。故に、彼らは大人に怒りを覚えた。大人に対して敬意を払わなくなった。そうして、自分たちより弱き者を見下すようになったのだ。

 

だが、目の前の偉丈夫からの怒りに、そんな不純物など存在しなかった。純粋なる怒り。彼らの行いを咎めるためだけの怒りがそこにあった。彼は、彼らの愚かな行いに怒り、叱責したのだ。

 

罰とは憎しみの心から与えるのではないっ!その者の未来をより良いものにするために与えるのだ!!

 

彼は言葉にはしない。だが、2人は……そしてそれを見ていたジョナサンやエリナは本能的に理解したのだ。彼の怒りの本質を。怒りの中にある彼の優しさを!!

 

「ご、ごめんなさいぃい……」

 

気がつけば、いじめっ子の2人は涙を流していた。己の行いが恥ずかしくなったのもある。だが、その優しい怒りを目の当たりにして、2人は初めて自分の犯した過ちに気づき、涙したのだ。

 

男は泣きじゃくるいじめっ子の2人の前へと腰を下ろし、その大きな手で2人の頭を優しく撫でた。

 

「子供はよく遊び、よく食べ、よく寝る。そして学ぶのだ。誰かに優しくできる心や大切さを。誰かの痛みに寄り添える尊さをな」

 

優しさがそこにあった。贔屓などではない。純粋な慈悲と優しさがそこにあったことに、ジョナサンは衝撃を受けた。まるで頭が巨大な丸太で叩かれたような衝撃だった。

 

(し、紳士だ……この人は紛れもない紳士ッ!僕が憧れる人の在り方そのものだ!)

 

自分の目指す理想がそこにいたのだ。ジョナサンはただ黙って、その男を見つめることしかできなかった。彼は2人のいじめっ子を立ち上がらせて家へと帰らせた。なんと2人はエリナとジョナサンに謝ってから去っていった。さきほどまでの粗暴さは一切消えていた。

 

「君がこの人形を取り戻そうとしたのだね?」

 

ハッと、声をかけられた男を見つめる。ジョナサンに微笑むその男の手には、エリナの大切な人形があった。ジョナサンは差し出された人形を受け取り言い淀む。

 

「は、はい……いえ、僕は……」

 

とたん、自分が情けなくなった。何もできず、ただいじめっ子2人にいいように嬲られただけの自分に、今目の前にいる紳士は眩しすぎたのだ。だが、男はジョナサンの肩に手を置き、微笑みを向けた。

 

「誰かの痛みに寄り添い、そのために身をなげうってでも助けに入れる精神は、君の大切な大切な宝だ。大事にしたまえ」

 

その言葉に、ジョナサンは伏せていた顔を上げた。若きジョナサンの中にある黄金の精神を彼は的確に見抜いていた。彼は傍に置いてあった大きめの鞄を持ち上げると、ハットを被って土手を上がっていく。

 

あ、あの!!そう言ってジョナサンは彼を呼び止めた。

 

「あ、貴方の名前は……!?」

 

その問いかけに、紳士は振り返りながら答えた。

 

「ブランドー。ダリオ・ブランドーだ、また会おう。少年」

 

それは間違いなく、若きジョナサンの心に深く刻み込まれた情景となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波紋の修行の一環で、馬車でジョースター家に向かうディオと別れて徒歩でイギリスのロンドンから郊外にあるジョースター家までやってきた俺ことダリオ・ブランドー。

 

トンペティ師から与えられた試練で、息を吐き続け、吸い続ける呼吸でフルマラソンをしたが流石に疲れた。ロンドンから二つほど山を踏破して休憩がてら小川に向かう道中で、いじめっ子2人に良いようにやられる少年を見つけた。

 

あれって、ジョナサン・ジョースターじゃない?しかも第一話の冒頭部分の。咄嗟に体が動いて、人形を泥水へと捨てようとするいじめっ子の手を掴んだんだけど、そのいじめっ子の態度がまぁ悪いこと悪いこと。悪びれる様子もなく、俺に向かって唾を吐きかけてくる始末だ。

 

思わずいたずらをしたディオにするようなテンションで叱ってしまったが、いじめっ子2人は号泣。慌ててフォローを入れたので大事には至らなかったが、波紋の呼吸修行の影響か、かなり威圧感があるようで参った。

 

呆然とするジョナサンに、エリナ嬢の人形を渡して土手を上がろうとしたが、去り際に名前を聞かれて思わず答えてしまった。

 

カッコよくクールに去ったつもりだけどこの後多分ジョースター邸で再会するんだろうなぁ。そんなことを考えながら小川で口を潤して汗を拭い、一呼吸でジョースター邸へと向かう。

 

「久しぶりですな、ブランドー殿」

 

「ジョースター卿もご健勝で何よりです」

 

門を叩いて使用人に連れられて中に入るとジョースター卿が出迎えてくれて、力強く握手を交わす。

 

あの夜からジョースター卿とは何度か会う機会があった。それこそ貴族のパーティーや会社関係で。ジョースター邸の最新式水洗トイレを施工したのも俺の指示だったりする。

 

「今回の件、確か運河の再改造でしたな?」

 

「ええ、河川の氾濫を防ぐためでもあります」

 

ディオに任せる案件はジョースター家が管理する利権地域の作業となる。現地の住人や施工の際の作業員はジョースター卿が懇意にしている業者などが起用される予定だ。

 

「あなたは常に、イギリス国を思う行動を取っていられる。その誠意に私は全霊をもってお答えしよう」

 

「ありがとうございます。ジョースター卿」

 

屋敷内に案内されながらそんなやりとりをする中、俺は壁にかけられている仮面を見つめた。

 

「あの仮面は、ジョースター家の家宝でしたかな?」

 

「ええ、亡き妻が残した大切な形見でもあります」

 

悲しげな目をして答えてくれるジョースター卿。その目を見て、俺はどうしてもあの仮面をどうにかすることはできなかった。

 

石仮面。

 

ジョジョの物語に深く関わるそのアイテムは、正直に言えば今すぐにでも破壊するべき代物なのだろう。だが、運命はことごとくその想いを無碍にさせてきた。

 

あの仮面を破壊すれば、あらゆるものが崩壊する。そんな懸念が俺の中で渦巻いていて仕方ないのだ。

 

これもまた、運命と宿命の業なのか?あの仮面を破壊した先に待つ破滅。それは取り返しのつかない事態に陥るのだろう。それはツェペリやトンペティ師も感じている。だからこそ、この仮面の所在を知りながらも彼らは静観していたのだ。

 

あの仮面の本性が現れるその日まで。

 

ふと、敷地内に馬車が止まる音が聞こえた。

 

開け放たれた馬車の扉からシャン、と飛び降りたのは……屋敷から馬車でジョースター邸へとやってきたディオであった。

 

 

 

 

 


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