フラットアウト   作:散髪どっこいしょ野郎

2 / 8
チームカノープスはありませんが四人は普通に仲良いです









シェイクダウン

トレセン学園内のカフェテリアにて、室内でありながら穴あきの帽子をかぶる姿が印象的なウマ娘と、小柄で青い髪をしたウマ娘が談笑を交わしていた。

 

 

「それでね、それでね!ターボにもやっとトレーナーがついたんだぞ!これでターボもトゥインクルシリーズで勝ちまくるんだ!」

 

「う、うん。よかったねターボ……。……でも、そのトレーナーさんって、その……大丈夫?なにかヘンなことされてない?」

 

「へ?なにが?」

 

 

青髪のウマ娘、ツインターボに問いかけるのは自称「普通」、マチカネタンホイザ。

 

彼女が心配していたのはツインターボに付くことになったトレーナーについてだ。その男はかなり目を引く出で立ちをしており、学園のウマ娘の中でも悪い意味で有名人。

 

学園のトレーナーは性別に関わらず必要最低限身なりは整えるもので、所謂「しょぼくれオヤジ」のような風貌の人間はそれこそツインターボのトレーナー以外いなかった。

 

うら若い中高生(少女)であるウマ娘達がそんな男に距離を置こうとするのは何もおかしいことではなく、この質問も至って真っ当なものだ。

 

 

「ん〜……よくわかんないけどターボのトレーナーは色々教えてくれるよ?走り方とかトレーニングとか────あ。あとベンキョーとか!」

 

「……そっか」

 

 

マチカネタンホイザはツインターボが「悪い大人」に騙されてしまうことを危惧していた。純粋な彼女のことだ。自らの名声やカネの為にウマ娘を使い潰すようなトレーナーにもひょいひょいついて行ってしまうことだろう。

 

しかしそれ以上の質問をすることははばかられてしまった。それも彼女の純粋さ故のものだ。

 

 

(今度ネイチャ辺りにも相談しよう)

 

 

浮き足立つツインターボを前に、マチカネタンホイザは一人決意を固めた。

 

 

 

時は遡ること二週間前。

 

 

 

「ねぇねぇ、オマエ、トレーナーでしょ!?」

 

「あ?」

 

 

普通の少女なら怖気付いて近づくことすら躊躇うであろう、ベンチに腰掛ける生気に欠けた男。彼女は一切の迷いなく彼に話しかけてみせた。

 

しかし返ってきたのはひび割れたような低い声。これだけでもそれなりに威圧感があるものなのだが、彼女は意に介さずに言葉を続ける。

 

 

「ターボのたんとーになってよ!ターボね、とにかく逃──「分かった」──え!?いいの!?」

 

「いいぞ。……ただその代わりにコレ、捨ててきてくれ」

 

 

話を最後まで聞かずに契約をアッサリと結んだ男が掲げたのはカラのペットボトル。彼にとっては契約を結ぶことよりもたった数十歩の距離にあるゴミ箱へ捨てに行くことの方が気だるく感じていたらしく。

 

 

「わかった!うおぉぉおー!ターボ全開ー!」

 

「……」

 

 

ひったくるような勢いでペットボトルを手に取り、少女は青い髪を翻してゴミ箱へ全力疾走していった。

 

腐ってもトレーナーということか、男は駆け出した彼女の脚へと視線を運ぶ。

 

 

「捨ててきたよ!それじゃあこれからどうするの!?」

 

「とりあえず明日っからだ。学園の方で色々手続きだのすることになるから授業終わったら……三女神像辺りに来い」

 

「わかった!」

 

 

話を聞くだけ聞くと少女はまた全力で走り出そうとして───

 

 

「おい待て。お前、名前は」

 

「え?……あ、そっか。───ツインターボ!」

 

 

それだけ言い残すとツインターボと名乗ったウマ娘はレース場の外へと走り去っていった。

 

その姿が見えなくなったのを確認してからようやく男は暮れかかった空の下を歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ツインターボを受け入れた理由なんてあってないようなものだ。トレーナーになってと言われたからトレーナーになっただけ。

 

普通、レースも見ずに契約を決めるなんて他の奴らが見たら卒倒するレベルの愚行だ。あの場で動く気力は無かったくせして三年間面倒を見るのを引き受けるというのも矛盾している。

 

いや────探す(スカウトする)気力が無かったのではなくて探すことに価値を感じられなかったんだ。どうせどんな奴を見ても辿る結果は見えている。そう考えただけで全てがバカバカしく思えて。

 

トレーナーを辞めされられるのは別によかった。当然のことだと思っていたしこの仕事に意味を見いだせなくなってしまったから。

 

そんなふうにしていくら御託を並べ立てようともこの歳になると貯蓄がどうであれ収入が無い生活というものがどうも不安なようで。目の前にぶら下がった食い扶持をみすみす逃す程グズにもなれなかった。

 

仮に一勝すらできずにトゥインクル・シリーズが終わり、俺の経歴に傷が付こうが心底どうでもいい。俺のトレーナーとしての評価なんぞ中央では既に地の底を這っているに違いないからだ。それに元々、泥にも栄誉にも散々塗れてきた。

 

そんなくだらない理由で担当してやっていける筈がない……と思っていたがどうやら俺は俺が思っていた以上にトレーナーとしての生き方が体に染み付いていたらしい。気づけばツインターボのこれからの方針を脳内で組み立てている自分がいた。

 

 

アイツ(ツインターボ)はとにかく逃げるウマ娘だった。戦略も何も知ったことかと、脇目も振らず逃げに徹する奴だった。

 

あの調子では下手に他の走り方をさせても逆効果だろう。理詰めでレースを攻略していくセンもアイツの普段の様子の前に消え失せた。どうやら勉強が苦手らしい。

 

アイツは一般的な逃げウマ娘と比べても大分個性的だ。スタートがそこまで上手くなく最初の一ハロンよりも一〜二ハロンの方がラップタイムが速い。体力の温存もすることなく初っ端から飛ばしに飛ばしまくり、最後には一杯になりながら走り切るという、なんとも変わった逃げの型だった。

 

特に戦略を練ってやる必要もない。好きなように走らせておけばいい。気にかけるべきはトレーニングや出走レースの予定組み、後は体調管理などのみ。こちら側としてもかなり都合のいい状態────だというのに。

 

 

「……なあおい。お前は本気で勝つつもりなのか」

 

「とーぜん!ターボが逃げ切って勝つ!」

 

 

ある日、不意にそんな質問をした。

 

バテバテになっても勝つことを疑わない、自分の在り方に自信を持つターボの姿がどうにも鼻について仕方なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさん……!」

 

「……どうも。駿川さん」

 

 

ツインターボが彼の担当ウマ娘になった後のこと。

 

トレセン学園理事長秘書、駿川たづなは自らの業務をいつも以上のスピードで終わらせた後に彼の元へ急いで姿を見せた。

 

 

「よかった……。担当の子、見つかったんですね!」

 

「あ〜……、その節はどうもご迷惑を」

 

「いえ、いいんです。それよりもトレーナーさんが辞めることにならなくて……本当によかった……」

 

 

男はバツが悪そうに顔を背ける。

 

彼と駿川たづなはかなり長い付き合いだった。彼女が理事長秘書になったその時から彼とは交流があり、時にはウマ娘について何時間も語り合ったこともあった。

 

男が腑抜けになった後も彼女はよく気にかけており、彼が選抜レースへスカウトに向かったのも彼女によるものが大きい。

 

 

「これからトレーニングがあるので。それでは」

 

「あ…………はい」

 

 

逃げるようにして男は立ち去った。その後ろ姿を彼女は曖昧な表情で見送る。

 

二人は何も特別な関係というわけではなかった。それでも友人として歳は離れていても仲は良好だった筈なのに。

 

もうあの頃みたいにたづなさんとは呼んでくれないのか、一体何故あんな状態になってしまったのか。

 

それは駿川たづなにも推し量ることはできない問題だった。

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、そこは『三』じゃなくて『酸』だ」

 

「うへぇ〜……」

 

 

トレーナー室にて男とツインターボが行っていたのは体を鍛えることでもレースの知識を蓄えることでもなく、

 

 

「────あぁグシャグシャにするな。ちゃんと消しゴム使って消せ」

 

「うぅぅ〜……!ベンキョーなんてやだ〜……」

 

 

一般的な中学教養の勉強だった。

 

ツインターボは学業成績があまり芳しくなく、補習などで時間を取られてはトレーニングどころではないという理由で彼女のトレーナーが勉強に付き合うことになっていた。トレセン学園は中高一貫なためにその辺りはやや厳しめだ。

 

 

「──────よし。今日はこんなところでいいだろ。外行くぞ」

 

「や、やっと終わったぁ〜……」

 

 

グルグルと目を回して立ち上がるツインターボ。男は彼女に歩調を合わせてゆっくりとトレーニング場へ向かっていった。

 

 

「……どうでしょう。今のところ普通の(かた)に見えますが」

「やっぱり気のせいだって。ターボもなんかされてる感じはしないし。……確かにあの人はちょっと怖いけど」

「むむむ……」

 

 

そんな二人を陰から三つの視線が射抜いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

初の正式なレース、メイクデビュー戦。

 

調整は済んでいた。アイツの調子も程よく乗っていたこともあり、他のウマ娘よりも小柄な身でありながら逃げに逃げて一着を取った。俺がアイツのレースを見るのはこれが初めてだった。

 

 

「いいか、とにかくハナに立て。それ以外特に考える必要はない」

 

「はなにたつ?……?」

 

「…………とにかく逃げろってことだ」

 

「うん!わかった!」

 

 

とにかくそれだけしか言わなかった。楽だと思ったのは事実だが別に手を抜くつもりはなかった。

 

俺の怠慢で選手が負けるようなことがあったら俺は多分しばらく引きずる。自分の面倒な性格はここに来てから嫌という程思い知らされた。

 

だからどんな奴が担当だろうと責任は果たす。やれることはできるだけやるつもりだが、特に期待はしない。それが今の、俺というトレーナーの姿だった。

 

 

ターボのレースはかなり特徴的だった。それからも勝つ時は大逃げを決めて勝利、負ける時は惨敗。

 

逃げに有利な福島レース場とはいえGⅢの重賞、ラジオたんぱ賞も逃げ切りその独特な走り方からかなりのファンを獲得した。

 

基本的にアイツが勝てそうなレース以外は出走させる気はなかった。今まで受け持ってきた奴らもずっとそうしてきた。

 

 

だったら何故、俺は有マに出走させたのか。

 

 

GⅡのセントライト記念、GⅢの福島記念を二着という好成績に収めて浮き立っていたのか。

 

違う。多少なりとも調子に乗っていたとしても俺はそこまで夢想家(ロマンチスト)じゃない。ターボに有マを勝ち抜くまでの実力は無いことは知り尽くしていた筈なんだ。

 

 

初のGⅠでボロ負けしてもターボは挫折する様子は見せなかった。

 

 

「……今度こそターボが勝つ!ぜったいぜったいターボが勝ーつ!」

 

 

……ああ。

 

同じような奴らを何度も見てきた。

 

コイツと同じように何度苦渋辛酸を舐めされられようと諦めようとせずに立ち上がり続けて努力し続けて────────何も成せずに終わっていった奴らを。

 

そうだ。結局ツインターボも()()()()と変わらない。変わった走り方だろうがそれで特別になれはしない。

 

だから、そうだ。

 

俺ができることは最初から一つだけだ。

 

コイツに合ったレース以外は走らせない。

 

コイツ()の夢は叶わない。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。