『ゆりキャン△』   作:ゼルダ・エルリッチ

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『リンとなでしこのドッキリ遊園地デート』

 今日も放課後、図書委員の仕事で受付に座ってる。利用者なんて大して来ないし、私の方も一応居るだけみたいになってるけど、本に囲まれてここでダラダラ座ってるのはやっぱり居心地が良かった。

 

 それに、

 

「……ストーブあるし」

 

 机に顎を乗せてとろける。ストーブの熱がブンブン伝わってきて、何だか寝ちまいそうだ。

 

「あ、またダラダラしてる」

 

 急に声をかけられてちょっとビクッとなる。顔を上げて見てみたら、斉藤だった。

 

「何だ、斉藤か」

 

 ここん所、毎日のように来てるな。そんなに暇なのか。

 

「相変わらず暇そうだな、お前」

 

 積み上げた本を整理しながら言い放つ。一応、忙しくしてますよ、というアピールのつもり。

 

「暇じゃないよー。忙しい中、こうしてわざわざ愛しのリンに会いに来てやってるんだよー」

 

「そりゃどーも」

 

 相変わらず、こいつの言うことは胡散臭い。白々しいやつめ。

 

「ところで……」

 

 斉藤が急に私の前に回り込んで、顔を覗き込んでくる。何だ一体。

 

「最近、どうなの? なでしこちゃんとは」

 

 なでしこ?

 

「どうって、何が?」

 

 尋ねたら、妙な含み笑いで返された。

 

「ちゃんと、愛を育んでるー?」

 

 おい、何だそれは。

 

「何だ、愛を育むって」

 

 呆れ顔で言ってみたけど、斉藤は気に留めない。

 

「いやいや。二人でキャンプとかも行ってたじゃん。その後はどうなのかなーと」

 

 そういうことかよ。愛とか変なこと言いやがるから、まぎらわしい。

 

「あれからは、特に、どこも行ってないけど」

 

 一応、適当に応えておいたら、

 

「えー、だめだよそれじゃ。なでしこちゃん、誰かに取られちゃうよー」

 

「何言ってんだこのやろ」

 

 まったくこいつは。

 

「うふふ。なでしこちゃんかわいいよねー。リンの気持ちも分かるわー」

 

「黙れ」

 

 

 

 

「ところで、今度みんなで遊び行くことになったんだけど、リンも行くでしょ?」

 

「遊び? またキャンプか?」

 

「ううん。キャンプじゃないよ。皆で遊園地行こうって話になってね」

 

「……子供かよ」

 

「いいじゃん。楽しいよ、遊園地」

 

 遊園地……、私は昔から好きじゃなかった。騒がしくて。

 

「私はいいよ」

 

 突っぱねたら、

 

「えーだめだよ、リンが来ないと」

 

「騒がしいとこ嫌いなんだよ」

 

 悪いが、私は本当に行かないからな。

 

 本の山を手に取って、棚に戻そうとして立ち上がる。放っとけば、あきらめて帰るだろ。

 

 そう思っていたら、

 

「……なでしこちゃんも来ますぞー」

 

 後ろからなんかささやかれた。

 

「……何だよ、それ」

 

 振り返ったら、斉藤が「えっへっへ」と笑っている。

 

「せっかく皆で集まるのに、リンちゃん来ないなんてひどいよー、って、なでしこちゃん泣いちゃうかもよー」

 

「だから、子供か」

 

 高校生にもなって、そんな理由で泣くかよ。

 

「冷たいやつって思われてもいいの? 嫌われちゃうよー」

 

「いや、だから、そんなことは……」

 

 いくらなでしこでも……。

 

「リンちゃん、私のこと嫌いなんだ……。えーんえーん」

 

「やめろ」

 

 なでしこの真似すんな。

 

 

 

 

 でも……、うーん。なでしこなら、本当に思いかねないかも……。

 

 あいつ色々、私のこと気に留めてるみたいだし。 

 

 なでしこにあんまり冷たいやつだと思われるのも嫌だな……。

 

 うーん、うぐぐぐ……。

 

「さあ、どうするどうするー?」

 

 ……このやろ、楽しんでやがるな。

 

「…………」 

 

 うぐぐ……。

 

 あー、もう。何でこうなるんだ。

 

「わーかった、行くよ。行けばいいんだろ」

 

 結局、観念させられてしまう。

 

「そうこなくっちゃー。うふふふ」

 

 満面の笑顔しやがって。計算してやがったな、こいつ。 

 

「じゃあ、私帰るねー。詳細は後で連絡するから。楽しみにしてるよー、リン」

 

「やかまし」

 

 言うだけ言ったら、斉藤はさっさと帰ってしまった。

 

 まったく……。人で遊びやがって。

 

 

 

 

 そんなこんなで図書室から出て、帰宅。さっきのことを考えて、何だか気が重い。

 

 一人歩いてたら、

 

 ヴ~~ヴ~~

 

「ん?」

 

 スマホを取り出す。

 

「なでしこか……」

 

 見てみると、

 

『リンちゃんありがとう!! 遊園地、一緒に行ってくれて!!』

 

 早速メッセージが来た。斉藤に聞いたんだな。斉藤のやつ、やること早えー。

 

『すっごい楽しみにしてるよ!! ワンワン!!』

 

 犬のスタンプ付きの、いつものテンション。まったく、なでしこらしいぜ。

 

『うい』

 

 それだけ返しとく。まあ、私としては乗り気じゃないし。 

 

 でも……。

 

 なでしこが一緒なら、それもいいかも。

 

 そんなことを考えて、少しだけ気分が高揚する。

 

 ここはもうちょっと、返事しとくか。

 

『私も、楽しみにしてるよ』

 

 送信。

 

 ふう、と息をついて、再び歩き出す。

 

 なんか、こういうのもいいかもしれないな。

 

 少しだけ、足取りも軽くなった。

 

 

 

 

 そして、当日朝。なでしこに、斉藤、大垣、犬山さん、五人で出かけるので、最寄の身延駅に集合する。事前に連絡は取り合っているし、それで間違いないはずだった。けど……。

 

 なんか、なでしこしかいないんだけど……。

 

 言い出しっぺの斉藤すら来ない。みんな遅れてるのか?

 

「みんな、どうしたのかな? 遅いね」

 

 なでしこがスマホ見ながらそわそわしている。集合時間を10分過ぎても誰も来ないのは、どうしたわけだ?

 

 なんて思ってたら、

 

 ヴ~~ヴ~~

 

 ヴ~~ヴ~~

 

 スマホが鳴って、メッセージが次々と。

 

『ごめん。なんか、行けなくなっちゃった~♪』(斉藤)

 

『悪い。急用が入っちまったぜ♪』(大垣)

 

『すまん。都合悪なったわ~♪』(犬山さん) 

 

 な、なんだこれ!? こんなにタイミング良く、三人同時に断わりメッセージが来るか?

 

 しかもみんな、なんかノリ軽いし……。

 

「なんか、みんな来られないって言ってるんだけど……」

 

 なでしこにスマホ見せたら、

 

「こっちも、おんなじメッセージ……」

 

 なでしこにも同じメッセージが届いたらしい。

 

 こ、これは、まさか?

 

 何となく嫌な予感がし始める。そうしたら、

 

 ヴ~~ヴ~~。またメッセージが。

 

『なでしこちゃんと、ゆっくり楽しんで来てね♪ うふふふ♪』

 

 さ、斉藤……。ま、まさか……。

 

 

 あんにゃろ~~!! はめやがったな!!

 

  

 他の二人も、グルか!

 

 許すまじ!! 斉藤!!

 

 

 

 

「どうしたの? リンちゃん」

 

「いや、なんでも……」

 

 斉藤のやろう、あとでぶっ飛ばしてやる。

 

 と、それはさておき……。

 

 今は、この状況を考えないとな。

 

「えーと……、どうする? 遊園地。やめとこうか?」

 

 私としては、もっと他の所の方が良かったし。遊園地に、二人だけで行くというのも……。

 

 でも、

 

「えー、せっかくなんだから、二人で行こうよ」

 

 なでしこは乗り気の様子。やれやれ、しょうがない。

 

「じゃあ、行くか……」

 

 とぼとぼ歩き始めたら、

 

「リンちゃんっ」

 

 なでしこが腕に抱き着いてくる。

 

「私、リンちゃんと一緒に行くの、すっごい楽しみにしてたんだ~。えへへへ」

 

 そんな笑顔見せられちゃ、何にも言えないな……。

 

「……私も。行こっか」

 

「うん! えへへへ」

 

 

 

 

 そのまま、目的地行きのバスが出ている駅まで電車移動。目指すのは山梨の一大テーマパークの一つ、富士ぴゅーアイランドだった。車やバイクなら直接向かえるんだけど、今日はどっちも使えなかったし。

 

「そう言えば、リンちゃんと一緒に電車乗るのって、初めてだね」

 

 言われてみれば、確かにそうだった。私は電車はほとんど乗らない。原付乗る前は自転車でどこでも行ってたし、原付免許取ってからは尚更だった。

 

「まあ、原付あるし」

 

 ガタゴトと揺られながら、ちょっとまったりしてしまう。自分で運転しなくていい乗り物だと、なんか脱力しちまうな。桜さんの車に乗った時もそうだった。

 

「いいなあリンちゃんは。バイク乗れて」

 

 なでしこが、はぁ、と溜め息ついて言ってくる。

 

「私もやっぱり、免許取ろうかな……」

 

 前にもそんなこと言ってたけど、それはやめとけ。

 

「やめとけ、危ないから」

 

 口に出したら、なでしこは「ぶー」と不満そうだった。

 

「でも私、リンちゃんと一緒にツーリングとか行ってみたいんだよ」

 

 え……? 

 

「二人で走ったら、素敵だと思わない?」

 

 それは……。確かに。

 

 なでしこと二人で、ツーリングか……。

 

「……私、そのうち小型二輪免許取る予定だから。そしたら、二人乗りもできるよ」

 

「二人乗り?」

 

 なでしこが食いつく。

 

「バイク二台で走るのって、色々大変だし。二人乗りなら、楽だし」

 

 思い付きの提案だったけど、なでしこは凄い嬉しそうだった。

 

「いいね、それ!! 絶対乗せてね!! えへへへー、リンちゃんと二人乗りかぁ」

 

 なんか想像して、にへらーと笑ってる。

 

 やれやれ。こんなに反応されちゃうと、面倒見ないわけにもいかないか。 

 

 なでしこと二人乗りか……。

 

「…………」

 

 免許取る計画、急ごうかな……。

 

 

 

 

「つーーいたーー!!」

 

 ようやく到着。週末で人気テーマパークというだけあって、やっぱり人手が凄い。ちょっと、げんなりしたけど、よく見るおなじみのアトラクションの数々を前にして、私も何だか楽しい気分になってきた。

 

 それに……、なでしこと一緒だし。

 

 隣を見れば、そびえる富士山を眺めて、なでしこがはしゃぎ回っている。富士ぴゅーアイランドという名前だけあって、その眺望は凄かった。地上50メートルの高さの展望台まであるらしい。これは、なでしこに付き合って昇るの、必至だな。

 

「リンちゃん!! 観覧車があるよ!!」

 

「分かった分かった」

 

 なでしこが私の腕を引っ張っていく。何だか子供と一緒に来ているみたいだ。でもまあ、悪い気はしない。私としても、童心に帰れるような気がして。

 

「ふおおおお~~!! 見て見てリンちゃん!! 富士山富士山っ!!」

 

 観覧車からの眺めは一際凄くて、富士山が手に取るようだった。天気が良かったのも好条件。

 

「ほんとなでしこは、富士山好きだな」

 

「えへへへ~」

 

 満面の笑顔を向けてくる。そんななでしこの顔見てると、何だかこっちまでホッとしてしまう。

 

「リンちゃん」

 

「え?」

 

 急に呼ばれて何かと思ってると、私の手をなでしこが引っ張った。

 

「リンちゃんも、こっち座ろうよ。よく見えるよ」

 

「え、いや……」

 

 戸惑っていると、

 

「いいからいいから」

 

 結局、なでしこの隣に連れて行かれた。狭い空間だったし、それなりに密接することになる。

 

「ね? よく見えるでしょ」

 

「う、うん」

 

 って、今はそれより、なでしことの距離が……。

 

 なんか、甘い香りがするし。いい匂い。

 

 これは……、ちょっとまずい……。

 

「なんか私達、こんな所で二人きりって、ラブラブカップルさんみたいだね」

 

 お、おい、いきなり何を……。

 

「きゃー! 恥ずかしい! なんちゃって!」

 

「……おい」

 

 冗談かよ……。驚かせるな。

 

 でも、ちょっとがっかりしている自分がいるのはどういうわけだ。

 

「…………」

 

 何なんだ、一体……。

 

 

 

 

 それからいくつかソフトな乗り物に乗ったけど、やっぱり富士ぴゅーといったら絶叫コースター系は外せない。「カメハメハ」「FUJIWARA」「ええやんか」。あと、「悶絶迷宮」も有名だったけど、それはなでしこが絶対NG! とのことだったのでやめておく。私もちょっと、お化け系は嫌だし。以前、牛お化け見たし……。

 

 なでしこは絶叫コースター系もNGらしかったけど、せっかく来たんだし一つくらい乗っておこうか、ということになって、カメハメハを選択。まあ、一番どメジャーだし。

 

 コースターが動き出したあたりで、なでしこの顔が真っ青になる。でも、今更戻るわけにもいかない。

 

 それから……。

 

「ぎゃああああああああああ~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!」

 

「!!!!!!!!!!」

 

「!!!!!!」

 

 

 なでしこ昇天……。

 やっぱこうなったか……。

 

 

 

 

「お、おい、なでしこ。大丈夫か?」

 

 やっとコースターが止まって見てみると、なでしこが口を開けたまま昏睡状態だった。口から魂が抜けかかっている……。

 

「……あ、あはは……。だ、大丈夫ですぞ、リンちゃん……」

 

 これはダメだな……。

 

 

 

 

「とにかく、しばらく休め」

 

 木陰のベンチに座らせて、顔をパタパタ仰いでやる。無理するなって、まったく……。

 

「今、飲み物買ってくるから、待っとけ」

 

「ありがと……リンちゃん」

 

 自販機でジュース買って戻ったら、なでしこが一際ぐったりしている。大丈夫か!? と駆け寄ったら……、

 

「……寝てる」

 

 スースーと寝息を立てて、眠り込んでいた。困ったやつめ。

 

 放っとくわけにもいかないし、隣に座って様子を見る。起こそうかとも思ったけど、ここはしばらく休ませてやるか。

 

 そんなことを思ってたら、

 

「……リンちゃん……。大好き……」 

 

「え?」

 

 なでしこがそんなことを言って、私の肩に頭を寄せてきた。

 

「お、おい、なでしこ……!?」

 

 声をかけたけど、なでしこの反応は無い。

 

「…………」

 

 何だ、寝言かよ……。

 

 やれやれ。

 

 それにしても……、妙になでしこの言葉が気にかかる。

 

 なでしこのことだから、日頃のお礼みたいなつもりで言ったんだろうけど……。

 

「…………」

 

 ……何だ、このドキドキ感は……。

 

 思わず、周囲を見回す。

 

 それから、なでしこの顔を覗き込んでみる。 

 

 ……かわいい。 

 

 って、何を考えてるんだ私は。

 

 なでしことは、普通に友達のはずで……。

 

 邪念を振り払おうとしたけれど、頭とは裏腹に、視線はなでしこの口元に向いてしまう。

 

 ピンク色の、柔らかそうなくちびる。

 

 な、なんか……。やばい、やばい……。どうしたんだ、私。

 

 多分、斉藤が変なことをけしかけてきたせいだ。そのせいで、変に意識しちゃってるだけで……。

 

「…………」

 

 もう一度、辺りをキョロキョロ見る。この場所は木に隠れていて、周囲からは良く見えない。ここなら、ちょっとくらいは……。

 

 私の口が、なでしこの方へ吸い寄せられていく。

 

 こ、こんなのはダメだ。分かっているけど、でも……、

 

 り、理性が……。

 

 くちびるを寄せる。なでしこの息が、私の口にかかって……。

 

 もうちょっと……、あと、もう少しで……、なでしこと……。

 

「……あれ……? リンちゃん……?」

 

 

 びっくううう!!!

 

 

 死ぬほどびっくりして、のけ反った。

 

「ど、どうしたの?」

 

「い、いやっ!! 別にィ!!」

 

「??」

 

 そのまま笑ってごまかしたけど、なでしこは、いぶかしんだまま。

 

 やっぱ、これはまずかったな……。

 

 とりあえず、キスの最中に起きなくてよかった……。

 

 

 

 

 それから少したって、時刻的には昼飯の時間。なでしこの調子も悪そうだったし、食べるのはやめとこうかとも思ったけど、なでしこが大丈夫だというので園内のフードコートに行く。

 

「ふおおおお!! 見て見てリンちゃん!! フジヤマカレーだって!! きゃー!! 富士山桜豚丼に、フジヤマラーメンまで~~!!」

 

 ……おい。食欲全開じゃねーか……。

 

 

 

 それから、なでしこの希望の展望台に昇って、景色を堪能して。

 

 気付けばすっかりいい時間になってて、最後に、お土産ショップへ。

 

「見て見てリンちゃん!! リッチプディングだって!! きゃー!! カマンベールチーズケーキに、信玄餅まで~~!!」

 

 ……食い物ばっかじゃねーか……。

 

 

 

 

 そんなこんなで、帰路。何だか今日は、私も色々あって疲れた。

 

「えへへへ、楽しかったね、リンちゃん」

 

 バスに揺られて、なでしこが笑顔で言ってくる。なんか早速、お土産のケーキ食っとるけど。

 

「そうだな」

 

 私の方も、本音をこぼす。正直、遊園地なんて最初は嫌だったけど、来てみれば素直に楽しかったし。

 

「また来ようね、リンちゃん」

 

 誘ってきたけど、

 

「いや、今度は別な所で……」

 

 やっぱ私は、キャンプの方がいいや。

 

 

 

 

 バスから電車に乗り替えて、身延駅へ。私は原付で駅まで来たので、ここで降りることになる。なでしこの方は、ここから更に内船駅まで。

 

「じゃあ、またな、なでしこ」

 

「うん、またね」

 

 挨拶して、電車を降りる。そのまま、ホームに出た所で、

 

「あのっ、リンちゃん!」

 

「ん?」

 

 なでしこが駆け寄って来た。なんか、もじもじしてる。どうしたんだ、一体。

 

「なんか今日……、私、途中で起きちゃって、ごめんね、っていうか……」

 

 え……!?

 

 な、なんだそれ……? 起きちゃって、って、まさか、あのときのことか……?

 

「でも私、リンちゃんだったら、嫌じゃないよ」

 

 え? え?

 

「なんでもないよ! じゃあ、またね!!」

 

 混乱したままの私を置いて、そのまま走って戻っていってしまった……。

 

 次第に、なでしこの言葉の意味に気付く。

 

 ま、ま、まさか……。

 

 キスしようとしたこと、気付かれてた!?

 

 電車のドアが閉まって、走り出していく。 

 

 私はただ、呆然としてホームに立っていた。

 

「……これは……、まずい……」

 

 

 

 

 悶々とした気持ちを抱えたまま、月曜日。私は図書室のカウンターで、一人、呆けていた。

 

 ここ二日、頭からこの間のことが離れない。今日はもちろん、なでしこには会ってないし、あれからラインのやり取りなんかも全然無かった。いつもなら、また色々とメッセージとか送ってきそうだったけど。

 

 やばいな……、やっぱりちょっと、避けられてるのかも……。

 

 頭を抱える。やっぱり、やめとけばよかった。

 

「悩める子羊ちゃんかなー」

 

 声をかけられて、ビクッとなる。

 

「さ、斉藤!」

 

 見上げれば、いつものごとく斉藤だった。もちろん斉藤には、あれから散々文句を言ってやった。だけどこいつは相変わらずで、一向に反省した様子はない。こんにゃろー。

 

「何しに来た?」

 

 非難の目線を向ける。だけど、斉藤は嬉しそうな顔をして言うばかり。

 

「聞きましたぞ。なでしこちゃんと、だいぶ、ご親密になれたそうで」

 

「なっ!!」

 

 まさか、なでしこから聞いたのか? 一体どこまで聞いたんだ?

 

「何だそれ。どこまで聞いたんだ?」

 

 恐る恐る聞いてみる。でも、

 

「さて、どこまででしょう?」

 

 斉藤は「うふふ」と笑って、そのまま行ってしまった。

 

「おい、待て」

 

 問い詰めようとして慌てて後を追いかけたら、

 

 うわっ!

 

「な、なでしこ!?」

 

 図書室の入り口で、なでしこに鉢合わせた。

 

 

 

 

「リンちゃん? どうしたの?」

 

 なでしこが不思議そうに聞いてくる。あ、あれ……? 何だか、いつもと様子が同じだ。

 

「いや、別に……」

 

 何だか気恥ずかしくなって、そのままカウンターに戻る。なんか、なでしこの顔を見づらい感じだったし……。

 

「ここ、あったかいよねー。野クルの部室とは大違い」

 

 なでしこが椅子に座って、まったりし始める。へらー、っと笑ってて、いつものなでしこだった。

 

「そういえば私、こないだのお土産、もうみんな食べちゃったよ~。お姉ちゃんに、食べ過ぎだって怒られちゃって~。なははは」

 

「食い過ぎだろ」

 

 普通の会話。……あれ? 何だ、この普通感は……?

 

 ひょっとして、この間の電車でのやり取りって、キスのことじゃなくて、何か別の話題だったのか? 私の勘違い?

 

 そうなのかも……。うん、きっとそうだ。

 

 なでしこは、何か私にお礼みたいなことを言いたかっただけだったんだろう。私、変に意識し過ぎてたから。

 

 なんだ……。よかった。

 

 ホッと胸をなでおろす。

 

 あれは私としても、ちょっとアレだったし……。

 

「あ、私、そろそろ部活行くねー」

 

 安心していたら、なでしこが席を立つ。斉藤のこととか色々聞きたいこともあったけど、まあ、それは追々にしておくか。

 

「うん。じゃあな」

 

 見送って、本を手にして眺め始める。

 

 そのとき、

 

「あ、リンちゃんリンちゃん。私、ちょっと、リンちゃんにあげたいものがあるんだよ」

 

 なでしこが急に戻ってきて言ってきた。

 

「あげたいもの?」

 

 何だ? 一体。

 

「ちょっとだけ、向こうむいててくれる?」

 

 何だとは思ったけど、言われるままに反対側を向く。

 

 そしたら、

 

 なでしこが回り込んできて、私の口に、

 

 

 ちゅっ……。

 

 

 え? え? え? 

 

 えええ~~~~!!!!

 

「じゃあね、リンちゃん!!」

 

 なでしこが顔を真っ赤にして、そのまま走っていってしまった……。

 

 その瞬間、全てを理解する。

 

 やっぱりなでしこ、気付いてたんだ……。

 

 現実を突きつけられて、思わずのけ反る。

 

 こ、こ、これは……。

 

 まずい……。

 

 気が付けば、私の顔も沸騰したように熱を帯びていた。

 

「なんか私……、もう、戻れないかも……」

 

 くちびるに残るなでしこの熱量を感じながら、一人、つぶやいて、机に頭を突っ伏した。 

 

 

                          終わり♪

 

 

 

 『おまけ』

 

 そんな様子を向かいの校舎から双眼鏡で覗き見してた鳥羽先生。

 

 「若いっていいわね。うふふふ♪」

 

 

 

 

 

 

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