『ゆりキャン△』   作:ゼルダ・エルリッチ

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『リンとなでしこの、愛の河口湖キャンプ』

 

「1200円です。ありがとうございます」

 

 週末、いつもの本屋でのアルバイト。最後の客も帰って、バイト終わりの閉店の時間まで、あともう少し。後は、ざっと店内の棚を整理して、床を掃いて、といったいつもの流れだった。

 

「ん?」 

 

 店内を見回してたら、雑誌のコーナーにふと目が行く。アウトドア関係のムック本が並んでいて、その中の一冊の表紙に変なことが書いてあった。

 

『愛の河口湖キャンプ! 恋人たちのおすすめスポット♪』

 

 …………

 

「なんじゃこりゃ……」

 

 これ、アウトドアの本だよな。キャンプで愛って、どういうことだよ。

 

「くだらね」

 

 どうせ、おちゃらけた他愛の無い内容に決まってる。こんなモンに食いつくほど、私は落ちぶれちゃいないぜ、へっ。

 

 そのまま無視して通り過ぎようとしたけど、

 

 …………

 

 くそっ。何だか無性に気になる!

 

 客もいないし、ちょっとだけなら見てやってもいいか。そう思って、その本を手に取った。

 

 パラパラとページをめくる。河口湖でのキャンプ特集のページが組まれている。それだけなら、普通のキャンプ本と変わりなかったけど、

 

『河口湖周辺、恋人達の愛のスポット! 二人だけの甘い時間を過ごしてみませんか♪』

 

 取って付けたような見出しに続いて、「愛のスポット」とかいう場所がいくつか紹介されていた。

 

 

 愛のスポットその1

 

『新倉山浅間公園(あらくらやま せんげんこうえん)。

 

 展望台から見る五重の塔と富士山のコントラストは最高です!』 

 

 

 

 愛のスポットその2

 

『河口湖天上山公園。

 

 山影と夜景の幻想空間♪ 夜の富士山を眺めながら、ロマンチックな時間を過ごしてみては?』

 

 

 …………

 

 こんなことだろうと思ったぜ。

 

 適当に名所をデートスポットとして紹介してるだけじゃねーか。そりゃカップルで行けば、どんなトコでもロマンチックってことになるだろ。

 

 やれやれ、時間を無駄にしたな。溜め息ついて、本を閉じようとしたけど……、

 

「……さくや愛の鐘?」

 

 ページの隅っこの方に小さな写真が載っていて、短い記事が添えられていた。河口湖のほとりに設置された鐘で、恋人達がその鐘を鳴らすと、二人の愛が成就するというものらしい。あまり知られていない隠れたスポットらしく、それだけに、観光客が多く集まるというようなこともないそうだった。

 

 …………

 

 ……何だ、この気持ち。

 

 何だか妙に、心惹かれるじゃねーか。

 

 

 なでしこと二人で、この鐘を鳴らしてみたいかも……。

 

 想像したら、無性にそわそわしてきた。

 

 

 なでしこって、こういう迷信めいたものって好きなのかな? あまり話したことないけど。

 

 おみくじとかなら、すごい好きそうだけど……。

 

 …………

 

 

 ……まあ、でも。

 

 本を棚に戻して、思い直す。

 

「なでしこの場合、色気よりも、食い気って感じだけどな」

 

 思わず苦笑。

 

 ここは取り敢えず、保留にしとくか……。

 

 

 

 

 翌週。いつものように学校の図書室で、なでしこと過ごす。なでしこは部活やってるし、バイトも始めたし、なかなか一緒に帰ったりとか放課後に会ったりとかするのも、難しくなっていた。

 

 やっぱり、ちょっと寂しさはある。私はそんなに人とベタベタするのは好きじゃないけれど、なでしこと一緒にいると心が安らぐし、温かい気持ちになるし。

 

 ……自分でも、柄にもないとは思うけど。へっ。

 

 

「リンちゃん、聞いてる?」

 

「えっ?」

 

 いかん。つい、お留守になっちまった。

 

「もー、私が話してるのに、ボーっとしてちゃだめだよー」

 

「あ、うん。ごめん」

 

 そう言いながらも、そんななでしこにまた、見入ってしまう。

 

 

 ……オコ顔もかわいいぜ。このなでしこめ。

 

 

「それで、次のキャンプのことなんだけど……」

 

 そうだった。それを話してたんだっけ。

 

 二人で今度、キャンプに行こうって話。

 

 なでしことは結局、四尾連湖での焼き肉キャンプ以来、まだ二人だけでキャンプに行ってなかった。ソロキャンやグルキャンもいいけど、やっぱり特別な間柄になれたわけだし、なでしこと二人でキャンプっていうのは、私としても……、嬉しいし。

 

「本栖湖とかどうかなと思って。ほら、リンちゃんと初めて会った所だし。良く考えたら、私まだ、本栖湖でキャンプしたことなかったんだよねー」

 

 本栖湖か。今の時期ならシーズンオフで貸し切り状態だから、二人で行くのに都合もいいし。

 

「うん、いいと思う。夜の富士山も綺麗だし」

 

「うん! すっごい綺麗だったよね! 私、今でも思い出して、感激しちゃってるよー。えへへ」

 

 本栖湖でのキャンプ……。

 

 カレー麺、二人で食べたよな。

 

 今にして思えば、あれが私となでしことのファーストコンタクトだった。あれが無かったら、なでしこと知り合えていなかったかもだし、そう思うと、やっぱり何だか感慨深いものがある。

 

 夜の富士山か……。

 

 ふと、この間見た雑誌のことが思い起こされる。

 

 恋人たちの愛のスポット……。

 

 曰く、河口湖天上山公園から見る、夜の富士山の眺めは凄いらしい。私は写真で見ただけだけど、その凄さはすごく伝わってきた。

 

 それに……、

 

 愛の鐘……。

 

 やっぱり、なでしこと一緒にその鐘を鳴らしてみたい……。その思いは、私の中で次第に大きさを増してきていた。

 

「あのさ、なでしこ」

 

「うん? なーに? リンちゃん」

 

「本栖湖もいいんだけど……、他にも、夜の富士山の眺めが凄い綺麗なトコがあるんだよ」 

 

「え!? ホント!? どこどこ?」

 

 目をキラキラさせて、めっちゃ食いついてくる。やっぱり富士山のことになると、なでしこは反応が凄い。

 

「河口湖の近くなんだけど、天上山公園ってトコ。夜景で有名なんだって」

 

「へえー! 見てみたいなー。河口湖って、私まだ行ったことないよー」 

 

「凄い綺麗なトコだよ。湖のほとりに、キャンプ場もあるし」

 

「ホント!? キャー! 私、河口湖キャンプ行きたいです!」 

 

 富士山で釣ったら、すぐこれか……。ふっ、バカな女だぜ。

 

「じゃあ、次の週末はどう? 河口湖。私、バイト無いし。なでしこは、バイトは?」 

 

 問題ないだろうと思ったけど、

 

「あー、うん……。バイトは、無いんだけど………」

 

 なでしこが言葉を濁す。どうした?

 

「実は、次の土日、綾ちゃんに遊びに来ないかって誘われてて、静岡の綾ちゃん家に行くことになってるんだよ。ごめん、まだ言ってなかった」

 

 思いもかけない、肩透かしを食らった気分だった。なでしこが静岡の友達の家に遊びに行くなんて、そんなにあることじゃないだろうし、気にすることでもないんだろうけど……。

 

「そうなんだ。じゃあ、しょうがないな」

 

 そう言いながらも、何だか色々考えてしまう。

 

 綾ちゃんか……。

 

 土岐綾乃。なでしこの静岡在住時代の、幼馴染。

 

 正月に、なでしこのお祖母ちゃん家で会ったけど、感じの良い子だったな。バイク乗り、って共通点もあるし。

 

「それでさ、良かったらなんだけど……」 

 

 なでしこが、もじもじして言ってくる。

 

「リンちゃんも、一緒に行かない? 綾ちゃん、リンちゃんのことも気に入ってて、一緒にバイク乗ったりしたいって言ってるんだよ」

 

 そういえば、綾ちゃんとそんな話、したな。いつか一緒にツーリング行こうって話も。

 

 でも、うーん……。

 

 少し落ち着いた後ならいいかもだけど、今は何ていうか……、なでしこと二人だけがいい……。

 

「いや……、やめとく。折角、昔の友達と会うんだし、ゆっくりしてきなよ」

 

 結局、私の口がそんな言葉を吐き出してしまう。綾ちゃんが悪いわけじゃないけど、今は何だか、なでしこの幼馴染と三人で一緒に遊んでいる私の姿が、どうしても想像できなかった。

 

「んー、そっかー。リンちゃんが一緒なら、綾ちゃんも喜ぶと思ったんだけどなー」

 

 なでしこも残念がる。折角誘ってくれたっていうのに、何だか悪い気がしてくる。だからちょっとだけ、取り繕った。

 

「また今度な。綾ちゃんとは、一緒にツーリング行こうって話もあるし、その時に会うことにするよ」

 

 先延ばしの約束ではあったけど、なでしこの方も、それで納得したみたいだった。

 

「分かった。じゃあ、お土産買ってくるね」

 

「うん」

 

 

 

 

「あ、私そろそろ部活いかなきゃ。またラインするね!」

 

「ああ、じゃあな」

 

 なでしこを見送って、ふうと大きな溜め息をつく。何だか、心にモヤモヤとした霧が掛かったみたいだった。

 

 なでしこ、綾ちゃんと遊びに行くのか……。

 

 …………

 

 まあ、なでしこには、なでしこの友達付き合いってものがあるんだし。

 

 しょうがないよな、うん。

 

 

 …………

 

 でも……、

 

 ……なんなんだ、この気持ちは。

 

 綾ちゃんは、なでしこのただの幼馴染のはずなのに。

 

 なでしこと二人で遊びに行くってだけで、何だか無性に……、なんというか……、

 

 

 胸が騒ぐ。

 

 

 …………

 

 ……焼きもち? 

 

 まさか。私がそんなこと……。

 

 …………

 

 

 ええい、静まれ、私の胸!

 

 

 ……何なんだ。本当に。

 

 

 

 

 それから、あっという間に週末。なでしこは静岡からライン送ると言ってきたけど、何だかそんな気持ちになれなくて、私の方から「それはいいよ」と断ってしまった。

 

「いいから気にしないで、ゆっくりしてきなよ」なんて言って平静を装ってはみたけれど、実際、私の心は、ざわざわと騒ぎっぱなしだった。

 

 

 夜になる。私は自分の部屋のベッドに、ごろんと身を投げ出していた。

 

 スマホを見る。なでしこからのラインは、来ていなかった。

 

 私が送らなくていいって言ったんだから、そりゃそうなんだけど。

 

 …………

 

 今頃なでしこ、どうしてるかな。

 

 綾ちゃんの家に行くって言ってたけど、綾ちゃんの家に泊まってるんだろうか。

 

 綾ちゃんの部屋で、一緒に寝るんだろうか。同じベッドで……。

 

 …………

 

 まさか、お風呂まで一緒とか? それはないだろうけど……。

 

 …………

 

 何なんだ、私。

 

 何だか、凄い、イライラしてる。

 

 

 イライライライライライライライライライラ……

 

 イライライライライライライライライライラ……!!

 

 

 ええい、くそ!

 

 そのまま、ダウン着込んでマフラー巻いて、家から飛び出す。

 

「リン? こんな時間にどこ行くの?」

 

 母さんに声をかけられる。

 

「その辺、走ってくるだけ。すぐ帰るよ」

 

「ちょっと、リン!」

 

 呼び止められるのも聞かずに、夜の中に当ても無くバイクを走らせた。

 

 

 真冬の冷気が、芯まで身体に突き刺さる。

 

 …………

 

「何やってんだ、私……」

 

 

 

 

 悶々とした週末を過ごして、ようやく月曜日。

 

 朝イチで、なでしこからラインが来る。

 

『お早うリンちゃん! 静岡のお土産買ってきたよ! また図書室でね!』『ラブラブ♪』

 

 やっぱりなでしこは、相変わらずだな。わけもわからずこんな気持ちになってる私のこと、分かってるんだろうか。

 

 …………

 

 このなでしこめ……。

 

 

 

「リンちゃん! 久しぶり!」

 

「二日会ってないだけだろ」

 

 図書室でようやくなでしこに対面。口ではそう言ったけど、私にはこの二日は、本当に長く感じられた。でもやっぱり、私の性格からして、そんなことは口には出せない。

 

 

 お土産もらって、静岡の話聞いて。

 

 なでしこは嬉しそうに話していたけど、私の頭には、そんな話もほとんど入ってこなかった。なでしこが誰かと楽しそうに遊んでた話なんて、正直、聞きたくなかったし。 

 

 私って、こんなに嫉妬深かったのか……。ちょっと、自分で自分が嫌になってくる……。

 

「それでね、リンちゃん」

 

 なでしこが急に、私の方に近寄って言ってくる。

 

「綾ちゃん、山梨でのキャンプに興味持ってて。それで、今度の土日に一緒にキャンプしないかって、誘われちゃって」

 

 今度の土日に、キャンプ……。

 

 二週連続で、なでしこ、綾ちゃんに誘われたのか……。

 

 考えれば考えるほど、また心がざわざわしてくる。

 

 分かってはいたけれど、気持ちがイライラして、どうしようもなかった。

 

「それで、リンちゃんも一緒に行かないかって、誘われたんだけど……」

 

「私は行かない」

 

 冷たく言い放つ。

 

「行って来たら? 二人で」

 

 うわー、うわー、

 

 私、超感じ悪い!

 

 

 こんなのダメだと分かってる。でも……、

 

 自分でも、気持ちが全然、抑えられなかった。くっそー。

 

 そんなとき、

 

「リンちゃん」

 

 なでしこが、私の手を握って言ってくる。私は少し、ドキッとしてしまう。

 

「私、綾ちゃんとのキャンプは、断ってきたんだよ」

 

「……え?」

 

 なでしこが、もじもじして顔を赤らめる。

 

「だって私、今度のキャンプはリンちゃんと二人で行くって、決めてたから。私はやっぱり、リンちゃんがいいですっ!」

 

「なでしこ……」 

 

 

 何だよ……。

 

 

 やっぱりなでしこは、なでしこのままだった……。

 

 そんなことは分かってたはずなのに。

 

 

 何だか一人で、バカみたいだ、私……。

 

 

「ごめん、なでしこ……。私、一人で勝手に、焼きもち焼いちゃってて……」

 

 うなだれて、なでしこに謝る。何だか今は、それ以外の言葉は何も出てこなかった。

 

「ううん。私の方こそ、ごめんね。私、リンちゃんの気持ち、きちんと考えてなかった」

 

 謝らないでくれ。

 

 なでしこは悪くない。悪くないのに……。

 

「リンちゃん!」

 

 腐りそうになっていたら、なでしこが私の顔を覗き込みながら、満面の笑顔で言ってくる。

 

 

「これからも、二人でいっぱいキャンプしようね! えへへへ」

 

 

 私の心が、なでしこの温かさに包まれていく。

 

 無邪気な笑顔に癒されながら、私も小さく、言葉を返した。

 

「……うん」

 

 

 

 

 結局、綾ちゃんには私の方からお詫びのメッセージを送っておいた。ホント、綾ちゃんには悪いことしちゃったし。 

 

 でも……、

 

『全然いいよ! なでしこのこと、末永くよろしくね。いつでも力になるから☆』 

 

 返ってきたメッセージが、何か気になるんだけど……。

 

 なでしこに見せて聞いてみたら、

 

「あー、私、綾ちゃんにリンちゃんのことばっかり話してたから……」

 

 え!? 私達のこと、綾ちゃんに話したのか?

 

「まさか、話したのか? 私達のこと……」

 

 尋ねたら、

 

「ううん。話してはいないんだけど……、多分、気付いちゃってるかも。綾ちゃん、勘いいし」

 

 なでしこが気まずそうに、「あはは」と笑う。

 

 …………

 

 おいマジか。

 

 

 なんかホント、色々ごめん、綾ちゃん……。

 

 

 

 

「つーーいたーー!!」

 

 そして土曜日。私となでしこは、そろって河口湖に到着。

 

 なんだかんだあったけど、まあ、結果オーライということで、自分を納得させる。

 

「じゃあ、明日の昼に迎え来るから。リンちゃんに迷惑かけるんじゃないわよ」

 

「分かってるよー」

 

 桜さんが車に乗り込んで、走り去っていく。四尾連湖の時と同様に、今回も桜さんが送ってくれるというので、私も甘えることにした。私一人なら原付で来られたけど、なでしこは電車で来ないといけないし。電車だと凄い遠回りになるし。

 

「ふおおお! 見て見てリンちゃん! 富士山富士山! キャー!」

 

「分かった分かった」 

 

 早速なでしこが反応する。いつものやり取り。やっぱり何か、落ち着くな。

 

 

 

 河口湖のほとりのキャンプ場にチェックインして、しばし、まったり。河口湖周辺にはキャンプ場が点在しているけど、なでしこが湖畔のすぐそばがいいというので、湖畔沿いのオールドブリッヂキャンプ場を選択。キャンプ場としては老舗で、何と言うか、昭和レトロ感が漂う落ち着いたキャンプ場だった。

 

 それに、私としても、この場所は都合が良かった。なぜなら……、

 

 さくや愛の鐘。

 

 あの鐘があるのは河口湖の湖畔だったし、ここからなら、湖畔沿いに歩いていけばすぐに辿り着ける。それに、天上山公園にも近かったし、これ以上ないというほどのロケーションだろう。

 

「すっごい綺麗な湖だね。来て良かった」

 

「うん。私も」

 

 高台のベンチに二人で座って、湖を眺める。周囲を山々に囲まれた、静かな湖。湖面には遊覧船やボートが浮かび、そして右手には、河口湖大橋の白い姿が、湖に映えている。

 

 

「それでさ、このあと、ちょっと、二人で行ってみたい所があるんだけど」 

 

 少し経ってから、話を切り出す。

 

「行ってみたい所? どこどこ?」

 

「うん。湖沿いに、ちょっと歩いてったトコ」 

 

 先に説明しちゃったら面白みに欠けるような気がして、直前まで黙ってることにする。

 

 なでしこの驚く顔、見たいし。

 

 

 

 二人で並んで、湖畔沿いに歩く。湖畔には遊歩道が伸びていて、何と言うか、ロマンチックな雰囲気だった。ちょっと恥ずい……。

 

「リンちゃん」 

 

 なでしこがそう言って、私の手を握る。

 

「えへへへ」

 

 そのまま二人、手を繋いで歩いた。

 

 

 やっぱ、恥ずいな……。

 

 私の顔が、次第に熱を帯びていく。

 

 

 

 

「ここだよ」

 

 ついに、愛の鐘に到着。到着といっても、湖畔のちょっとした広場に、鐘がぽつんと立っているだけだった。茶色のUの字型の石のアーチの下に、金色に光る鐘が下がっている。

 

「さくや、愛の鐘……?」 

 

 なでしこが石碑を眺めてつぶやく。石碑には、『1つ鳴らすと愛が実って、2つ鳴らすと願いが叶う』、と書いてあった。

 

「うん。雑誌で、この鐘のこと知ってさ。その……、なでしこと一緒に、鳴らしてみたいと思ったから……」

 

 恥ずかしかったけど、頑張って告げた。ちょっと、なでしこから視線を逸らしてしまう。やっぱり、こういうのは私の柄じゃないな……。

 

 そしたら、

 

「リンちゃん!」

 

 なでしこが、私に抱き着いてくる。

 

「リンちゃん、大好き……。えへへへ」

 

 …………

 

「……私も」

 

 

 今がシーズンオフで良かった。ちょっとそう思う。

 

 周りには私達以外、誰もいなかったから。

 

 さすがに人前じゃ、こんなことできないしな……。

 

 

 そして二人で、鐘を鳴らす。

 

 1回目の鐘を鳴らした後、

 

「リンちゃんといつまでも一緒にいられますように」

 

 なでしこがそう言って、二人で2回目の鐘を鳴らした。

 

 

 

 

 念願も叶って、二人でキャンプ場に戻る。今度は夜、天上山公園で夜の富士山と夜景を見に行く予定だった。

 

 でも、その前に、まずは夕飯。

 

「今日はリンちゃんと二人で、食べたいものがありますっ!」

 

 なでしこが張り切って、そう叫ぶ。何だと思っていると、

 

「じゃーん!」

 

 なでしこがリュックから、何かを取り出した。

 

「……カレー麺?」

 

 それは、なでしこと二人で食べた、最初のキャンプ飯。

 

「うん! リンちゃんとこうして、カ、カッポーさん、になれたことだし……、今日のキャンプは、それから初めてのキャンプなんだし……、だから私、リンちゃんと二人で、これがどうしても食べたかったんだよ!」

 

 なでしこがそう言って、「えへへへ」と笑う。その笑顔に、私も思わず口元を緩ませる。

 

 ……なでしこらしいな。

 

 

 

 二人でカレー麺をすする。何だかいつにも増して、身体がポカポカとしてくる。

 

 それは多分、なでしこの想いが一緒に入っているから。 

 

「おいひいね、リンちゃん」

 

「うん」

 

 ……本当に。

 

 

 

 

 夕食後、日没を待って、二人で天上山公園へ。夜景で有名なだけあって、シーズンオフでも結構人が来ていた。

 

 ちなみに、カレー麺の後、なでしこはまた何か色々作って食ってたけど。やっぱカレー麺だけじゃ足りなかったらしい……。私は取りあえずブイヤベースだけもらっといたけど、あんまり動くとカレーが出そうだ……。

 

 

「リンちゃんリンちゃん! ロープウェイがあるよ!」

 

 ふもとから展望台まで、ロープウェイで行けるらしい。でも、そんなに距離も無かったし、途中で色々見どころもあるみたいだから、歩いて登ることにする。なでしこはちょっと渋ってたけど、折角の夜景だし、展望台に着く前にロープウェイから見ちゃったらつまらないし。

 

 

「私、まだ見ないよー」

 

 展望台に着くと、なでしこがそう言って両目を覆って進んでいく。当然、危なっかしいので私が支えて歩くことになる。やれやれ。

 

 

「もういいぞ」

 

 合図すると、なでしこが目から手を離す。そして、

 

「ふおおおおお!!! すっごーい!!!」

 

 予想通りの反応。やっぱこの光景見たら、そうなるよな。

 

 

 展望台からの眺めは、何というか、凄すぎだった。

 

 夜空をバックに、黒い富士山の勇士が際立っている。

 

 眼下には、黄色とオレンジの光に彩られた、鮮やかな夜景の海……。

 

 それは私がこれまでに見てきた夜景の中でも、一番と言っていいくらいの光景だった。

 

 

「綺麗だね! リンちゃん!」

 

「うん、凄いな」

 

 二人で肩を寄せ合って、しばし見入る。

 

 …………

 

 富士山とカレー麺が取り持った仲か……。

 

 そんなことを思って、隣のなでしこを見る。

 

 ちょっとおかしな出会いだったけど、今にして思えば、それもいい思い出だな。

 

 

 そんなことを考えてたら、なでしこがこちらを向いて言ってくる。

 

「私、山梨に引っ越してきて良かった。リンちゃんにも会えたし」

 

 

 それは私のセリフだよ。なでしこ。

 

 

「私も。なでしこに出会えて良かった」

 

 

 

 

 …………

 

「じゃあ、行くか」  

 

 充分堪能して、展望台を後にしようとした、そのとき。

 

「……え?」

 

 広場の向こうに、何やら鐘のようなものが。

 

「天上の鐘……。縁結び、無病息災に効果あり……」

 

 って、ここにも鐘、あったのかよ!

 

「なんか、ここにも鐘あった……」

 

 顔をひきつらせて、なでしこの方を振り返る。

 

「そうみたいだね……」

 

 なでしこも、苦笑いして気まずそうだった。

 

 

「折角だから、いっぱい鳴らしとこうよ」

 

「そうだな」

 

 何かもうやけくそになって、二人で鐘を鳴らす。

 

 これって、御利益的にはどうなんだ……?

 

 ……まあいいか。

 

 

 …………

 

 ………

 

 

 

 

「どう? 楽しかった?」

 

 帰り道、車に揺られながら、桜さんがなでしこに尋ねる。

 

「うん! すっごい良かったよ! 富士山も夜景も、すっごい綺麗だった!」

 

 そう言って、なでしこが今度は、私の方を見て言ってくる。

 

「また行こうね! リンちゃん!」

 

 

 なでしこと二人、顔を見合わせて笑い合う。

 

 その手は、膝に掛けられたブランケットの下で、そっと繋がれていた。

 

 愛の鐘の力……、なのかな? これも。

 

 ……まあいいや。

 

 

「なでしこ」

 

 そんなことを考えてたら、私の口が自然と開く。

 

 そのまま、心からの言葉をなでしこに送った。

 

「これからも……、よろしくな」

 

 

 

                              終わり☆

 

 

 

 




『おまけ』

 
 静岡にて、帰るなでしこを見送った後の綾乃ちゃん。

「私もちょっと、なでしこのこと気になってたんだけどな……」

  …………

「ま、しゃあないか。私じゃリンちゃんには、敵わないや」

 
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