「1200円です。ありがとうございます」
週末、いつもの本屋でのアルバイト。最後の客も帰って、バイト終わりの閉店の時間まで、あともう少し。後は、ざっと店内の棚を整理して、床を掃いて、といったいつもの流れだった。
「ん?」
店内を見回してたら、雑誌のコーナーにふと目が行く。アウトドア関係のムック本が並んでいて、その中の一冊の表紙に変なことが書いてあった。
『愛の河口湖キャンプ! 恋人たちのおすすめスポット♪』
…………
「なんじゃこりゃ……」
これ、アウトドアの本だよな。キャンプで愛って、どういうことだよ。
「くだらね」
どうせ、おちゃらけた他愛の無い内容に決まってる。こんなモンに食いつくほど、私は落ちぶれちゃいないぜ、へっ。
そのまま無視して通り過ぎようとしたけど、
…………
くそっ。何だか無性に気になる!
客もいないし、ちょっとだけなら見てやってもいいか。そう思って、その本を手に取った。
パラパラとページをめくる。河口湖でのキャンプ特集のページが組まれている。それだけなら、普通のキャンプ本と変わりなかったけど、
『河口湖周辺、恋人達の愛のスポット! 二人だけの甘い時間を過ごしてみませんか♪』
取って付けたような見出しに続いて、「愛のスポット」とかいう場所がいくつか紹介されていた。
愛のスポットその1
『新倉山浅間公園(あらくらやま せんげんこうえん)。
展望台から見る五重の塔と富士山のコントラストは最高です!』
愛のスポットその2
『河口湖天上山公園。
山影と夜景の幻想空間♪ 夜の富士山を眺めながら、ロマンチックな時間を過ごしてみては?』
…………
こんなことだろうと思ったぜ。
適当に名所をデートスポットとして紹介してるだけじゃねーか。そりゃカップルで行けば、どんなトコでもロマンチックってことになるだろ。
やれやれ、時間を無駄にしたな。溜め息ついて、本を閉じようとしたけど……、
「……さくや愛の鐘?」
ページの隅っこの方に小さな写真が載っていて、短い記事が添えられていた。河口湖のほとりに設置された鐘で、恋人達がその鐘を鳴らすと、二人の愛が成就するというものらしい。あまり知られていない隠れたスポットらしく、それだけに、観光客が多く集まるというようなこともないそうだった。
…………
……何だ、この気持ち。
何だか妙に、心惹かれるじゃねーか。
なでしこと二人で、この鐘を鳴らしてみたいかも……。
想像したら、無性にそわそわしてきた。
なでしこって、こういう迷信めいたものって好きなのかな? あまり話したことないけど。
おみくじとかなら、すごい好きそうだけど……。
…………
……まあ、でも。
本を棚に戻して、思い直す。
「なでしこの場合、色気よりも、食い気って感じだけどな」
思わず苦笑。
ここは取り敢えず、保留にしとくか……。
翌週。いつものように学校の図書室で、なでしこと過ごす。なでしこは部活やってるし、バイトも始めたし、なかなか一緒に帰ったりとか放課後に会ったりとかするのも、難しくなっていた。
やっぱり、ちょっと寂しさはある。私はそんなに人とベタベタするのは好きじゃないけれど、なでしこと一緒にいると心が安らぐし、温かい気持ちになるし。
……自分でも、柄にもないとは思うけど。へっ。
「リンちゃん、聞いてる?」
「えっ?」
いかん。つい、お留守になっちまった。
「もー、私が話してるのに、ボーっとしてちゃだめだよー」
「あ、うん。ごめん」
そう言いながらも、そんななでしこにまた、見入ってしまう。
……オコ顔もかわいいぜ。このなでしこめ。
「それで、次のキャンプのことなんだけど……」
そうだった。それを話してたんだっけ。
二人で今度、キャンプに行こうって話。
なでしことは結局、四尾連湖での焼き肉キャンプ以来、まだ二人だけでキャンプに行ってなかった。ソロキャンやグルキャンもいいけど、やっぱり特別な間柄になれたわけだし、なでしこと二人でキャンプっていうのは、私としても……、嬉しいし。
「本栖湖とかどうかなと思って。ほら、リンちゃんと初めて会った所だし。良く考えたら、私まだ、本栖湖でキャンプしたことなかったんだよねー」
本栖湖か。今の時期ならシーズンオフで貸し切り状態だから、二人で行くのに都合もいいし。
「うん、いいと思う。夜の富士山も綺麗だし」
「うん! すっごい綺麗だったよね! 私、今でも思い出して、感激しちゃってるよー。えへへ」
本栖湖でのキャンプ……。
カレー麺、二人で食べたよな。
今にして思えば、あれが私となでしことのファーストコンタクトだった。あれが無かったら、なでしこと知り合えていなかったかもだし、そう思うと、やっぱり何だか感慨深いものがある。
夜の富士山か……。
ふと、この間見た雑誌のことが思い起こされる。
恋人たちの愛のスポット……。
曰く、河口湖天上山公園から見る、夜の富士山の眺めは凄いらしい。私は写真で見ただけだけど、その凄さはすごく伝わってきた。
それに……、
愛の鐘……。
やっぱり、なでしこと一緒にその鐘を鳴らしてみたい……。その思いは、私の中で次第に大きさを増してきていた。
「あのさ、なでしこ」
「うん? なーに? リンちゃん」
「本栖湖もいいんだけど……、他にも、夜の富士山の眺めが凄い綺麗なトコがあるんだよ」
「え!? ホント!? どこどこ?」
目をキラキラさせて、めっちゃ食いついてくる。やっぱり富士山のことになると、なでしこは反応が凄い。
「河口湖の近くなんだけど、天上山公園ってトコ。夜景で有名なんだって」
「へえー! 見てみたいなー。河口湖って、私まだ行ったことないよー」
「凄い綺麗なトコだよ。湖のほとりに、キャンプ場もあるし」
「ホント!? キャー! 私、河口湖キャンプ行きたいです!」
富士山で釣ったら、すぐこれか……。ふっ、バカな女だぜ。
「じゃあ、次の週末はどう? 河口湖。私、バイト無いし。なでしこは、バイトは?」
問題ないだろうと思ったけど、
「あー、うん……。バイトは、無いんだけど………」
なでしこが言葉を濁す。どうした?
「実は、次の土日、綾ちゃんに遊びに来ないかって誘われてて、静岡の綾ちゃん家に行くことになってるんだよ。ごめん、まだ言ってなかった」
思いもかけない、肩透かしを食らった気分だった。なでしこが静岡の友達の家に遊びに行くなんて、そんなにあることじゃないだろうし、気にすることでもないんだろうけど……。
「そうなんだ。じゃあ、しょうがないな」
そう言いながらも、何だか色々考えてしまう。
綾ちゃんか……。
土岐綾乃。なでしこの静岡在住時代の、幼馴染。
正月に、なでしこのお祖母ちゃん家で会ったけど、感じの良い子だったな。バイク乗り、って共通点もあるし。
「それでさ、良かったらなんだけど……」
なでしこが、もじもじして言ってくる。
「リンちゃんも、一緒に行かない? 綾ちゃん、リンちゃんのことも気に入ってて、一緒にバイク乗ったりしたいって言ってるんだよ」
そういえば、綾ちゃんとそんな話、したな。いつか一緒にツーリング行こうって話も。
でも、うーん……。
少し落ち着いた後ならいいかもだけど、今は何ていうか……、なでしこと二人だけがいい……。
「いや……、やめとく。折角、昔の友達と会うんだし、ゆっくりしてきなよ」
結局、私の口がそんな言葉を吐き出してしまう。綾ちゃんが悪いわけじゃないけど、今は何だか、なでしこの幼馴染と三人で一緒に遊んでいる私の姿が、どうしても想像できなかった。
「んー、そっかー。リンちゃんが一緒なら、綾ちゃんも喜ぶと思ったんだけどなー」
なでしこも残念がる。折角誘ってくれたっていうのに、何だか悪い気がしてくる。だからちょっとだけ、取り繕った。
「また今度な。綾ちゃんとは、一緒にツーリング行こうって話もあるし、その時に会うことにするよ」
先延ばしの約束ではあったけど、なでしこの方も、それで納得したみたいだった。
「分かった。じゃあ、お土産買ってくるね」
「うん」
「あ、私そろそろ部活いかなきゃ。またラインするね!」
「ああ、じゃあな」
なでしこを見送って、ふうと大きな溜め息をつく。何だか、心にモヤモヤとした霧が掛かったみたいだった。
なでしこ、綾ちゃんと遊びに行くのか……。
…………
まあ、なでしこには、なでしこの友達付き合いってものがあるんだし。
しょうがないよな、うん。
…………
でも……、
……なんなんだ、この気持ちは。
綾ちゃんは、なでしこのただの幼馴染のはずなのに。
なでしこと二人で遊びに行くってだけで、何だか無性に……、なんというか……、
胸が騒ぐ。
…………
……焼きもち?
まさか。私がそんなこと……。
…………
ええい、静まれ、私の胸!
……何なんだ。本当に。
それから、あっという間に週末。なでしこは静岡からライン送ると言ってきたけど、何だかそんな気持ちになれなくて、私の方から「それはいいよ」と断ってしまった。
「いいから気にしないで、ゆっくりしてきなよ」なんて言って平静を装ってはみたけれど、実際、私の心は、ざわざわと騒ぎっぱなしだった。
夜になる。私は自分の部屋のベッドに、ごろんと身を投げ出していた。
スマホを見る。なでしこからのラインは、来ていなかった。
私が送らなくていいって言ったんだから、そりゃそうなんだけど。
…………
今頃なでしこ、どうしてるかな。
綾ちゃんの家に行くって言ってたけど、綾ちゃんの家に泊まってるんだろうか。
綾ちゃんの部屋で、一緒に寝るんだろうか。同じベッドで……。
…………
まさか、お風呂まで一緒とか? それはないだろうけど……。
…………
何なんだ、私。
何だか、凄い、イライラしてる。
イライライライライライライライライライラ……
イライライライライライライライライライラ……!!
ええい、くそ!
そのまま、ダウン着込んでマフラー巻いて、家から飛び出す。
「リン? こんな時間にどこ行くの?」
母さんに声をかけられる。
「その辺、走ってくるだけ。すぐ帰るよ」
「ちょっと、リン!」
呼び止められるのも聞かずに、夜の中に当ても無くバイクを走らせた。
真冬の冷気が、芯まで身体に突き刺さる。
…………
「何やってんだ、私……」
悶々とした週末を過ごして、ようやく月曜日。
朝イチで、なでしこからラインが来る。
『お早うリンちゃん! 静岡のお土産買ってきたよ! また図書室でね!』『ラブラブ♪』
やっぱりなでしこは、相変わらずだな。わけもわからずこんな気持ちになってる私のこと、分かってるんだろうか。
…………
このなでしこめ……。
「リンちゃん! 久しぶり!」
「二日会ってないだけだろ」
図書室でようやくなでしこに対面。口ではそう言ったけど、私にはこの二日は、本当に長く感じられた。でもやっぱり、私の性格からして、そんなことは口には出せない。
お土産もらって、静岡の話聞いて。
なでしこは嬉しそうに話していたけど、私の頭には、そんな話もほとんど入ってこなかった。なでしこが誰かと楽しそうに遊んでた話なんて、正直、聞きたくなかったし。
私って、こんなに嫉妬深かったのか……。ちょっと、自分で自分が嫌になってくる……。
「それでね、リンちゃん」
なでしこが急に、私の方に近寄って言ってくる。
「綾ちゃん、山梨でのキャンプに興味持ってて。それで、今度の土日に一緒にキャンプしないかって、誘われちゃって」
今度の土日に、キャンプ……。
二週連続で、なでしこ、綾ちゃんに誘われたのか……。
考えれば考えるほど、また心がざわざわしてくる。
分かってはいたけれど、気持ちがイライラして、どうしようもなかった。
「それで、リンちゃんも一緒に行かないかって、誘われたんだけど……」
「私は行かない」
冷たく言い放つ。
「行って来たら? 二人で」
うわー、うわー、
私、超感じ悪い!
こんなのダメだと分かってる。でも……、
自分でも、気持ちが全然、抑えられなかった。くっそー。
そんなとき、
「リンちゃん」
なでしこが、私の手を握って言ってくる。私は少し、ドキッとしてしまう。
「私、綾ちゃんとのキャンプは、断ってきたんだよ」
「……え?」
なでしこが、もじもじして顔を赤らめる。
「だって私、今度のキャンプはリンちゃんと二人で行くって、決めてたから。私はやっぱり、リンちゃんがいいですっ!」
「なでしこ……」
何だよ……。
やっぱりなでしこは、なでしこのままだった……。
そんなことは分かってたはずなのに。
何だか一人で、バカみたいだ、私……。
「ごめん、なでしこ……。私、一人で勝手に、焼きもち焼いちゃってて……」
うなだれて、なでしこに謝る。何だか今は、それ以外の言葉は何も出てこなかった。
「ううん。私の方こそ、ごめんね。私、リンちゃんの気持ち、きちんと考えてなかった」
謝らないでくれ。
なでしこは悪くない。悪くないのに……。
「リンちゃん!」
腐りそうになっていたら、なでしこが私の顔を覗き込みながら、満面の笑顔で言ってくる。
「これからも、二人でいっぱいキャンプしようね! えへへへ」
私の心が、なでしこの温かさに包まれていく。
無邪気な笑顔に癒されながら、私も小さく、言葉を返した。
「……うん」
結局、綾ちゃんには私の方からお詫びのメッセージを送っておいた。ホント、綾ちゃんには悪いことしちゃったし。
でも……、
『全然いいよ! なでしこのこと、末永くよろしくね。いつでも力になるから☆』
返ってきたメッセージが、何か気になるんだけど……。
なでしこに見せて聞いてみたら、
「あー、私、綾ちゃんにリンちゃんのことばっかり話してたから……」
え!? 私達のこと、綾ちゃんに話したのか?
「まさか、話したのか? 私達のこと……」
尋ねたら、
「ううん。話してはいないんだけど……、多分、気付いちゃってるかも。綾ちゃん、勘いいし」
なでしこが気まずそうに、「あはは」と笑う。
…………
おいマジか。
なんかホント、色々ごめん、綾ちゃん……。
「つーーいたーー!!」
そして土曜日。私となでしこは、そろって河口湖に到着。
なんだかんだあったけど、まあ、結果オーライということで、自分を納得させる。
「じゃあ、明日の昼に迎え来るから。リンちゃんに迷惑かけるんじゃないわよ」
「分かってるよー」
桜さんが車に乗り込んで、走り去っていく。四尾連湖の時と同様に、今回も桜さんが送ってくれるというので、私も甘えることにした。私一人なら原付で来られたけど、なでしこは電車で来ないといけないし。電車だと凄い遠回りになるし。
「ふおおお! 見て見てリンちゃん! 富士山富士山! キャー!」
「分かった分かった」
早速なでしこが反応する。いつものやり取り。やっぱり何か、落ち着くな。
河口湖のほとりのキャンプ場にチェックインして、しばし、まったり。河口湖周辺にはキャンプ場が点在しているけど、なでしこが湖畔のすぐそばがいいというので、湖畔沿いのオールドブリッヂキャンプ場を選択。キャンプ場としては老舗で、何と言うか、昭和レトロ感が漂う落ち着いたキャンプ場だった。
それに、私としても、この場所は都合が良かった。なぜなら……、
さくや愛の鐘。
あの鐘があるのは河口湖の湖畔だったし、ここからなら、湖畔沿いに歩いていけばすぐに辿り着ける。それに、天上山公園にも近かったし、これ以上ないというほどのロケーションだろう。
「すっごい綺麗な湖だね。来て良かった」
「うん。私も」
高台のベンチに二人で座って、湖を眺める。周囲を山々に囲まれた、静かな湖。湖面には遊覧船やボートが浮かび、そして右手には、河口湖大橋の白い姿が、湖に映えている。
「それでさ、このあと、ちょっと、二人で行ってみたい所があるんだけど」
少し経ってから、話を切り出す。
「行ってみたい所? どこどこ?」
「うん。湖沿いに、ちょっと歩いてったトコ」
先に説明しちゃったら面白みに欠けるような気がして、直前まで黙ってることにする。
なでしこの驚く顔、見たいし。
二人で並んで、湖畔沿いに歩く。湖畔には遊歩道が伸びていて、何と言うか、ロマンチックな雰囲気だった。ちょっと恥ずい……。
「リンちゃん」
なでしこがそう言って、私の手を握る。
「えへへへ」
そのまま二人、手を繋いで歩いた。
やっぱ、恥ずいな……。
私の顔が、次第に熱を帯びていく。
「ここだよ」
ついに、愛の鐘に到着。到着といっても、湖畔のちょっとした広場に、鐘がぽつんと立っているだけだった。茶色のUの字型の石のアーチの下に、金色に光る鐘が下がっている。
「さくや、愛の鐘……?」
なでしこが石碑を眺めてつぶやく。石碑には、『1つ鳴らすと愛が実って、2つ鳴らすと願いが叶う』、と書いてあった。
「うん。雑誌で、この鐘のこと知ってさ。その……、なでしこと一緒に、鳴らしてみたいと思ったから……」
恥ずかしかったけど、頑張って告げた。ちょっと、なでしこから視線を逸らしてしまう。やっぱり、こういうのは私の柄じゃないな……。
そしたら、
「リンちゃん!」
なでしこが、私に抱き着いてくる。
「リンちゃん、大好き……。えへへへ」
…………
「……私も」
今がシーズンオフで良かった。ちょっとそう思う。
周りには私達以外、誰もいなかったから。
さすがに人前じゃ、こんなことできないしな……。
そして二人で、鐘を鳴らす。
1回目の鐘を鳴らした後、
「リンちゃんといつまでも一緒にいられますように」
なでしこがそう言って、二人で2回目の鐘を鳴らした。
念願も叶って、二人でキャンプ場に戻る。今度は夜、天上山公園で夜の富士山と夜景を見に行く予定だった。
でも、その前に、まずは夕飯。
「今日はリンちゃんと二人で、食べたいものがありますっ!」
なでしこが張り切って、そう叫ぶ。何だと思っていると、
「じゃーん!」
なでしこがリュックから、何かを取り出した。
「……カレー麺?」
それは、なでしこと二人で食べた、最初のキャンプ飯。
「うん! リンちゃんとこうして、カ、カッポーさん、になれたことだし……、今日のキャンプは、それから初めてのキャンプなんだし……、だから私、リンちゃんと二人で、これがどうしても食べたかったんだよ!」
なでしこがそう言って、「えへへへ」と笑う。その笑顔に、私も思わず口元を緩ませる。
……なでしこらしいな。
二人でカレー麺をすする。何だかいつにも増して、身体がポカポカとしてくる。
それは多分、なでしこの想いが一緒に入っているから。
「おいひいね、リンちゃん」
「うん」
……本当に。
夕食後、日没を待って、二人で天上山公園へ。夜景で有名なだけあって、シーズンオフでも結構人が来ていた。
ちなみに、カレー麺の後、なでしこはまた何か色々作って食ってたけど。やっぱカレー麺だけじゃ足りなかったらしい……。私は取りあえずブイヤベースだけもらっといたけど、あんまり動くとカレーが出そうだ……。
「リンちゃんリンちゃん! ロープウェイがあるよ!」
ふもとから展望台まで、ロープウェイで行けるらしい。でも、そんなに距離も無かったし、途中で色々見どころもあるみたいだから、歩いて登ることにする。なでしこはちょっと渋ってたけど、折角の夜景だし、展望台に着く前にロープウェイから見ちゃったらつまらないし。
「私、まだ見ないよー」
展望台に着くと、なでしこがそう言って両目を覆って進んでいく。当然、危なっかしいので私が支えて歩くことになる。やれやれ。
「もういいぞ」
合図すると、なでしこが目から手を離す。そして、
「ふおおおおお!!! すっごーい!!!」
予想通りの反応。やっぱこの光景見たら、そうなるよな。
展望台からの眺めは、何というか、凄すぎだった。
夜空をバックに、黒い富士山の勇士が際立っている。
眼下には、黄色とオレンジの光に彩られた、鮮やかな夜景の海……。
それは私がこれまでに見てきた夜景の中でも、一番と言っていいくらいの光景だった。
「綺麗だね! リンちゃん!」
「うん、凄いな」
二人で肩を寄せ合って、しばし見入る。
…………
富士山とカレー麺が取り持った仲か……。
そんなことを思って、隣のなでしこを見る。
ちょっとおかしな出会いだったけど、今にして思えば、それもいい思い出だな。
そんなことを考えてたら、なでしこがこちらを向いて言ってくる。
「私、山梨に引っ越してきて良かった。リンちゃんにも会えたし」
それは私のセリフだよ。なでしこ。
「私も。なでしこに出会えて良かった」
…………
「じゃあ、行くか」
充分堪能して、展望台を後にしようとした、そのとき。
「……え?」
広場の向こうに、何やら鐘のようなものが。
「天上の鐘……。縁結び、無病息災に効果あり……」
って、ここにも鐘、あったのかよ!
「なんか、ここにも鐘あった……」
顔をひきつらせて、なでしこの方を振り返る。
「そうみたいだね……」
なでしこも、苦笑いして気まずそうだった。
「折角だから、いっぱい鳴らしとこうよ」
「そうだな」
何かもうやけくそになって、二人で鐘を鳴らす。
これって、御利益的にはどうなんだ……?
……まあいいか。
…………
………
「どう? 楽しかった?」
帰り道、車に揺られながら、桜さんがなでしこに尋ねる。
「うん! すっごい良かったよ! 富士山も夜景も、すっごい綺麗だった!」
そう言って、なでしこが今度は、私の方を見て言ってくる。
「また行こうね! リンちゃん!」
なでしこと二人、顔を見合わせて笑い合う。
その手は、膝に掛けられたブランケットの下で、そっと繋がれていた。
愛の鐘の力……、なのかな? これも。
……まあいいや。
「なでしこ」
そんなことを考えてたら、私の口が自然と開く。
そのまま、心からの言葉をなでしこに送った。
「これからも……、よろしくな」
終わり☆
『おまけ』
静岡にて、帰るなでしこを見送った後の綾乃ちゃん。
「私もちょっと、なでしこのこと気になってたんだけどな……」
…………
「ま、しゃあないか。私じゃリンちゃんには、敵わないや」