私は転生というものが大嫌いだ。   作:猫噛み

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 見切り発車とタグに書いていましたが、続きを作成するに当たって段々と考えが纏まってきました。
 書き上がったので、次話を投稿させて頂きます。


逆さまと言うか、対称的な話。

 私の物語を過去から語ると膨大な量になる。だからここでは、『私が、私を転生させた死神を殺したい』その事実だけを理解してもらえれば十分だ。正確には、過去を語るだけ無駄というのが理由なのだが。

 無駄な事など一切ないと知った口で語る人物がいるが、私はそれを否定させてもらう。生きてて無駄なことは、そもそもこの世に私という存在が誕生した事でもあると私は考えているからだ。

 

 無駄であり、無駄であるからこれ以上の話は蛇足だ。

 

 もしかしたら現在の話は過去の私にとって蛇足なのかもしれないが、それでも今の私にとってそうでないのだから語らせてもらう。

 五階建ての校舎の屋上から飛び降りた私の現状を。

 

 

□■□

 

 

 話は今朝の日の出に遡る。

 地上はまだ日の光が完全に届かず、まるで曇りの日の様に暗く、それでも空は唯ひたすらに明るいという不思議な時間。正確には、それは日の出直前とでもいうのだろうか、私は無人の国道の真ん中で天をおがんでいた。

 

 別に日の出を見に来た訳ではない、私は元々自然現象についてそこまで興味があるわけではないし、同時に感動を覚えることも今までの人生で一度も無かったと明言できよう。

 

 私は蛍川の河童の話と同様、西から昇り、東に沈む太陽を確認しに来たのだ。

 通常の太陽は地球の自転により、東から昇り、西に沈む(正確には少しのズレは存在するのだが)。これは何も太陽に限らず、一部の例外を除いてほとんどの天体が地球上から見たらそう見えるのだ。

=それらの常識的な理論が逆転する。そんな今回の噂の発生源は私が通う高校で地学の担当を勤める教師だ。

 

『西から日が昇り、東に沈む。そんな戯れ言が実在したとはな』

 

 妄言の様な教師としては些か常識を疑う独り言を、私は彼とすれ違う時に偶然耳にした。

 耳にしたからには確かめなければいけない。

 それがどれ程の常識外な事でも──、否、常識外だからこそ私は知らなければいけないのだ。

 

 空は青い。しかし地上は暗い。日の出まではそう時間が掛からないことは容易に理解ができた。

 時刻は四時二十八分。日の出までの時間は後一分だ。

 

 そういえば、先ほど私は自然に興味は無いと述べたが、一つ訂正点があることをここで言っておこう。

「私は自然に全く興味がない。それは私が自然そのものだからだ。」

 口から出た独り言は、答えてくれる人は誰もおらず虚しいものだ。もしかしたら噂の発生源である教師もこんな気持ちで呟いてたのかもしれない。

 

 ふと、気がつけば東の空が茜色に染まり始めた。

 どうやら噂は所詮噂と言うことか。これでは予め方位磁石と腕時計を持参していたのが馬鹿みたいだ。結局は無駄。わざわざ父の部屋から腕時計と方位磁石を盗み出したのが全て徒労に終わってしまった。

 帰ったら怒られるだろうか? いや、アイツの事だから、全てを無かったことに無視してしまうのが目に浮かぶ様にわかる。理解できてしまう。それほどアイツにとって私は興味がない対象であり、同時に私にとってもアイツは一切興味がないのだ。

 

「とりあえず、今回は諦めるか」

 通常の方法では西から上る太陽を拝むなど不可能なのは理解している。それが実現してしまえば、まるで逆さまの太陽の様に不安定な事柄が実現されることになるのだから。

 全ては逆転の発想から生まれると言う人がいるが、その人は逆転させて良いものと悪いものを理解しているのだろうか。まあ、こんな事の答えはわかりきっているのだが。

 幸いまだチャンスは沢山あるのだから気長に待とう。

 

 

■□■

 

 

「ねえ、あんたどこ見てるのよ」

 高校での昼休みの屋上、私の視線は上の空であった。

「何か喋ったら? ずっと無口なら何を考えてるか分からないわよ」

 無口というのは、なんとも私には似合わない言葉であると思う。そもそも私は口がよく回る人間であるし、元々回りからはお喋りと言われていたのだから。

「今日も、あなたはお昼を食べないの?」

「あんたにだけは言われたくないわー。お昼抜きはお互い様でしょ。それに私は前に話した通りダイエット中なの、目指せ理想体重五十キロよ」

 そもそも彼女の身長である160センチから考えると、標準体重が五十六キロなのだから別に五十キロにしなくても良いと思うのだが。まあ、本人は『六キロの壁が……』と呟きながら頑張っているので、なにも言わずそっとしてあげるのが吉かもしれないが。

 

「……ってか、あんた何してるのよ」

「何って逆立ちだよ?」

「いや、それがそもそもおかしいのよ。なんで屋上で逆立ちなんてしてんのよ」

「……?」

「いや何がおかしいの、って言うような顔されても……、下にマットも無くて危ないから逆立ちはやめなさい」

 危ないのなら、それは止めるが正解か。そういえば、過去の記憶にある彼の妹は何処でも逆立ちで移動していたが、それを危なげなくこなせるのは普通では考えられない運動神経の賜物なのだろう。

 今の私にはそんな運動神経など備わってなどいない。それどころか平均以下に成り下がったと言っても過言では無いほどだ。

 

「所で、あんたはなんで逆立ちなんてしたの?」

「逆転の発想を得ようと思って──」

「あんたはアホか。逆立ちで逆転するのは自分の体だけよ」

 やはり、逆立ちでは無理があったのだろう。自分が逆さまを向いたところで東と西の方角が変化することは決してないのだから。

 自分が西を認識してしまっている限り、西からの日の出は訪れない。同時に、自分が東を認識している限り、東からの日の入りは訪れないのだ。

 それこそ、人間の感覚を狂わす何かが必要なのだ。

 

「鏡もってない?」

「ん? 一応持ってるけど、あんた何に使うつもりなの?」

「逆転させる」

「……さっきの会話からなんとなく発想を逆転させる目的で使うのはわかるけど、あんた言葉が足りなさすぎでしょ。普通なら意味を理解できないわよ」

 そう愚痴りながらも渋々手鏡を渡してくれるのは、友人としては勿体ない程お人好しな人間だ。

 

「……ありがとう」

 

 鏡には私の顔が写っている。実物とは左右対称な私の顔が鏡越しに私の顔を覗いてきている。それは通常であれはなんの感想も抱かないものであるが、鏡の向こうには何かあると考えた瞬間、背筋に凍るような寒気が走る。

 鏡の向こうの私は何を考え、何を思って私を見ているのだろうか? もしかしたら左右対称的あるからして、私とは全く反対の事を考えているのかもしれない。それともどうだろう、上下は変化ないのだから私と同じことしか考えていない可能性もある。

 結局、私は鏡の向こうなんていう、有るか無いか分からない世界の事など知らないのだ。

 鏡の世界では左右が対象だ。ならば西からの日の出もあるいは可能か──

 

「──あんた何してるのよ!? 直接太陽を見たら駄目だって小学生の時習わなかったの? 鏡越しでもそれは同じよ!」

 きっと友人から見た私の顔は、下を向いてても鏡により反射した太陽の光で明るく見えていた事だろう。直後には友人から鏡を奪われたことが、何よりの証拠だ。

「そんな事するのなら、もう二度と鏡はかしません」

 彼女はそう言いながら私を一睨みした後、手鏡を鞄にしまう。

 

 鏡は世界的に何かしらの逸話を有している。それは良いことだったり、悪いことだったりと様々だが、そのどれもが一様に常識外であるという事が共通しているのだ。

 常識外、あり得ない世界に一番近いのが鏡である。

 

 しかし、よく考えれば鏡で方角の認識を狂わして西と東を逆転させるのは少し強引すぎたか。そもそも、左右対称であるならば、太陽の出入りする方角が逆転すると同時に東と西の方角も鏡内で逆転するのだから、結局の所一周回って無意味というものだ。

 無意味であり、徒労というものだ。もしかしたら、無意味どころか太陽光の直視によって目を傷付けるというデメリットだらけの行動だったのかもしれない。

 

 ──思考が行き詰まる。鏡の案に期待を持ちすぎて、これ以上の良い案が思い付かない。

「あんた物凄い渋った顔してるわよ。鏡を奪った事が嫌だったのだとしても、さすがにその顔は女の子としてどうなのよ」

 別に鏡を奪われた事はそこまで気にしていないのだが、どうやら彼女の認識としてはそうではないようだ。それにしても、私の顔は現在そこまでおかしいのだろうか? 目は口ほどにものを言うとよく聞くが、それなら目と口の両方を有している顔は本人の全てを物語っているのかもしれない。

 私の顔は、私の現在の心を写し出している。

 渋った顔は、別に鏡が取られたのが嫌だったからではない。思考に行き詰まり考え込んだ結果でもない。私は、その顔をした理由を一番理解していた。

 

「西から日が昇り、東に沈む。世界が逆転してしまったかのような戯れ言が実現してしまう」

「は? あんた何言ってんの。あんたがいくら不思議ちゃんキャラでもそんな独り言は私でも許容できないわよ」

 

 現在は昼時、日の入りまではまだ少し時間が余っていた。

 

 

□■□

 

 

 授業というものに関心が無い人間は何処の学校にも一定数存在し、私もその内の一人であると明言しておこう。しかし、同時に勉学が嫌いではないとも述べておく。

 そもそも、転生者である私にとってある程度の勉学は既に見知ったものであり、少しの差違は存在しようと覚え直せばいい範囲である。その誤差さえ修正してしまえば私にとって授業とは一回見聞きしたものであり、理解していることを聞くという無意味極まりない行動に成り下がってしまうのだ。

 無意味であり、むしろ授業を受ける間の時間を失うというだけあって不利益である。

 

「君は何時まで此処に居る気だい?」

 

 それなら、私は保健室で自習をしている方が時間の有効活用といえるだろう。

 

「君は健康体そのものだというのに、何時までも居座れたら此方としても困るのだよ」

 そう言う保健室の先生の顔は、何故か私の良く見知ったものと違っていた。

 

「親御さんのお迎えも来ているのだ。早く退院したまえ」

 

 此処は私の良く見知った保健室ではない。此処は俗に言う病院というやつだ。病院であり、白衣を着た目の前人物は医者というやつか。

 気が付いたら私は病院にいた。

 

「私は何で病院にいるの?」

 

 独り言。ただの自分の疑問を口に出したものであり、別に誰かに聞かせるために発した言葉ではない。あえて言うなら、自分に聞かせるために発した言葉ということか。

 

 その独り言を聞いた医者の目が見開かれる。

 

「それ、本気で言ってるのかい?」

「貴方は私が何故此処にいるのか知っているのですか?」

 

 一瞬の沈黙。まるで、医者は深く考え込むかのように一瞬の黙り込み、考えが纏まったのか口を開く。

 

「君は、丁度一週間前の夕方に校舎の屋上から落ちたのだよ」

 

 正直に話している。しかしその顔を良く見ていたら医者は何かを隠して話しているのは明白であった。

 隠しているのならわざわざ暴こうとはしない。それ以上に重要なことを私は思い出したのだから。

 

 屋上から落ちた。その言葉は私の脳内を埋め尽くす。

 

 最後の記憶は友人と話した時、『あなたのキャラでもその独り言は許容できない』と述べられたところだ。しかし、あの後何があったのかは大まかだが、予想がつく。

 

 私は東に沈む太陽を確かめようとしていたのだ。

 

 渡り鳥が方位磁石を所有していないにも関わらず、方角を見失わずに長距離を渡ることができるのは、地球の磁気を感じる事ができる磁覚という感覚が備わっているからだ。

 磁気を感じる。つまりは方角を理解できる力だ。それが殆ど退化してしまったとはいえ、微弱ながら人間にも備わっているのだという。

 

 ならば、その感覚を狂わせてしまえばどうだろう。

 

 太陽の光で視覚を狂わすことが可能であるのなら、あるいは麻酔を打って感覚を麻痺させることが可能であるならば、体を破壊して東と西を判別する磁覚を反転させることも可能であろう。

 

 私はそれを実行したまでであり、現状を鑑みるに目論みは失敗したのだろう。結局、私は行動に移す前後の記憶を失ったのみで、得られたものは何もなかった。

 

 

■□■

 

 

「私、帰ります」

「ああ、そうかい。待ち合いで親御さんが待っているからね」

 

 最後に一礼して、医者を置いて病室から出る。

 

 それにしても、病院食が味が薄いと世間ではよく聞くが、私はそうは思わい。正直、栄養管理下の中で限界まで美味しく作ろうといているのが理解できる努力の賜物であった。病院によっては変化するかもしれないが、最低でも私が今回入院した病院の食事は、病院食だから不味いという理論からは外れていた。

 

 そう考えれば、小学生の時に良く食べていた給食というものも栄養管理がなされた上で、あの美味しさを保っていたのだ。考えれば考える程、決められた栄養価の中で美味しい食事を作成する彼ら彼女らに頭が上がらない。

 

 今日のママのご飯はなんだろう?

 

 

□■□

 

 

 後日、地学の先生に聞いた話であるが、地球は大昔N極とS極が逆転する地磁気逆転という現象が良く発生していたという。N極とS極が逆転してしまえば今の方位磁石では北は下に、南は上へと逆転する。つまり必然的に東と西の方角も逆転してしまうという事であり、その時代では『西から日が昇り、東に沈む』という戯れ言が実現してしまうわけだ。

 理解してしまえば呆気ない。命を掛けてまで確かめたのはなんだったんだというような幕引きだった。




 屋上から飛び降りたシーンを記載していないのには一応理由があります。
 後、補足ですが作中で『逆さまの太陽の様に不安定』とキャラが思考中に述べていましたが、その理由としてはタロットカードの逆位置の太陽を連想しています。

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