何とか今週中に完成したので投稿します。
今回は非常識な話ではありません。妙な話題はなく、ただひたすらに現実を突きつけていくだけです。
私にとって現実とはそれはつまり今である。何もなく、何も起こらない今こそが現実である。
現実は非情だと述べた人物がいるが、私にとっての現実は何者にも左右されない優しさがある。非常識とは違い非情ではないのだから。
「空を見なさい。一人の鳥が飛んでいます。それは貴方です。では、私の声を聞いて空を見上げたのは誰でしょう?」
「……話を聞いていますか?」
答えは簡単。あくまで鳥が見えているのは問いただした『私』だけ、貴方は私の声を聞いて何もない自分の上空を見上げた鳥に過ぎないという事です。
この場では鳥が人間の言葉を理解できるかという問は受け付けません、それなら答えは円満になるのだから。
それにしても、私にとって私とは何であろうか。
私は私。そんな答えではまず納得できない。第三者の視点では、鳥に対して貴方と言いながら話しかけているおかしな人間にしか見えないのは把握出来る。しかし、私が私を見た時どう思うかは別だ。私はおかしくはない。私は鳥に話しかけたからといって、狂っている訳では無い。
私は変わらず私なのだから、それは理解している。
ならば、私が私を見た時の解はドッペルゲンガーと考える、が第一回答だ。
これは私が私に対しての回答と似通っている部分が多いのも確かだ。私は自分を認めていないし、そもそも私は自身が複数いても納得できる。
「……これで何回目ですか? 貴女は人の話を耳に入れてるのか先生は不安になります」
話の脱線といえば大きな話の脱線だ。私のドッペルゲンガーがどうか以前に、もともとに問いは『私にとっての私』、つまりは面接などで良くある自分自身を問いただす質問だ。ならば物理的に自身を視覚するドッペルゲンガーという回答はお門違いも甚だしいしのだ。ならば正しい解は何だと聞かれたとしたら、答えられないのが結果である。
「この前だって貴女は出入り禁止の屋上からの飛び降りをした所でしょう。それなのにもう一回入るなんてどういう了見ですか?」
意識を思考の海から現実へ移す。
「……貴方は誰ですか?」
どこかのオフィスを連想させる様な大量の机と、その上に置かれたこれまた大量の書類が目立つ空調の効いた部屋。目の前には幸の薄そうな二十代後半位の若い男性がいた。
「……ッ! 貴女、それを本気で言ってるのですか?」
「ここは何処ですか? 私は今から『鬼のいない鬼ごっこ』について調べなければいけないのですが……」
絶句。その言葉がよく似合うほど男性の目は見開かれ、口が開きっぱなしになっている。さてはて、私は先の言葉で何か男性を驚愕させるような発言をしただろうか。いや、よく考えたらしていたかもしれない。私が可笑しな言動をしていないと何故か自分自身で確信が持てない。きっと、この部分が私が自分を認めない一つの要因でもあるのだろう。
「此処は、貴女が通う高校の職員室ですよ」
なんという失言だ。この回答は私が悪い事になってしまうではないか。
普通、自身の通う高校の職員室の内装を忘れるなど、あってのならないことだ。まあ、一つ弁解するなら、私は人生で一度も高校の職員室を拝んだことが無いということだろうか。一度も見たことのない場所の内装を覚えておけというほうが無理難題だ。とはいえ、ここまで興味のなかった職員室もいざこの目で拝んでみると、意外とあっけないものである。あっけなくて溜息が出てくるほどだ。
しかし今回で、いかに私が現実に興味がないかが理解できた。興味がなく、関心がない。非現実を追い続けるあまり無頓着もいいところだ。ただし、以降もこのスタイルを変更する気は全く無いのだが。
私にとって結局現実とは口では優しいといっても、その全容は無関心を貫くことのできる回避可能イベントでしかないのだから。
◆◆◆
「私が訳のわからない狂言を吐いてしまい申し訳ありません。それに再度屋上への侵入は深く反省しております。誠に申し訳ありませんでした、田名部先生」
戻ったと表現していいのか僕には判断できない。一応、彼女の担任として、親御さんから聞くなどして彼女の事は理解しているつもりでいたが、いざそれに直面してしまうと理解が全然及んでいなかったのを自覚してしまう。
『娘の精神は本当に不安定なのです。どうか、先生も彼女を支えてやってください』
彼女の母親の言葉が脳裏をよぎる。
支えていく、本当にそんなことが僕なんかに可能なのだろうか? 現状でも彼女への理解が及んでいなかった自分に動揺していたのに、僕ができるとでもいうだろうか?
彼女の事は親御さんから聞く限りとても優秀な—―それこそ昔は神童などと—―呼ばれる子でありながら、あらゆる常識の抜け落ちた危なっかしい子供であったらしい。
危なっかしく、直視できないトラウマをあらゆる所から持って帰ってくる子であったと、そして今では過去に持って帰ってきたトラウマで自身の身を傷つけ続ける狂気を孕み続ける子であると、彼女の母親は言っていた。
それなのに、その事を知っていて僕は彼女が屋上から飛び降りることを許してしまったのだ。
僕はそれを今でも後悔してもしきれない。これは全て僕の監督責任であるし、気配りの不十分でもある。
それでも僕は、彼女を助けたいし、力になりたいと想う。それなら今の僕は彼女に向けて何を発言するのが正解であろうか。
慰めか、それとも助言であろうか。
「……屋上への無断侵入は反省しているようだしもういいとして、何かあったら先生を頼りなさい」
結局、どこにでもいる様な最低教師のテンプレートな台詞しか僕の口から出てくることはなかった。
◇◇◇
チョー、マジダルいんやけど。
何もあそこまでしろとアタシも命令してないのにー、なんであんなことすんの? まあ、アタシも悪乗りしたけどー、何もあそこまでさせろとは言ってないしょーが。
それにしても何よアイツ等、結局ビビッて全部アタシに責任っていうの? そんなのひどくない? 今まで友達と思ってたのに裏切られた気分だわー。マジでウザいから後でアイツ等のメルアド消しとこ。
「にしても、なんでアタシがこんな目にあわないかんのマジで」
最初はアイツの教科書を隠したり、机の中に虫を入れたりのちょっかいだった。まあ、あん時はアタシもアイツも小学生やったし、いたずらも小学生程度やったんやけどな。ただ今ではそれが立派ないじめになるような事を平気でするようになったんや、エスカレートするアイツへの対応は止まるとかろをしらんとマジで大変やねん。
あの事がアイツの口から洩れたらアタシの人生もおしまいなんやけど。それまでにどうにかせいちゅうのは分かってんやけどなー……
それにアイツ等も逃げたところで結局同罪なんはかわらんのになー。それがわっかってんのかどうか、結局アイツ等はどうすんやろ?
「ホンマ、アタシって阿保の極みやな」
それもアタシだけに限った話ではないが、やっぱり阿保である周り引き寄せているのはアタシであり、そんなアタシは一番の阿保になってしまうのが結果論である。
□■□
死ねと他人に思ったことはどんな聖人君主であろうとも、一度は体験したことがあるだろう。そういう私も現在それを体験中だ。
正確には、私自身が死ねと思っているのではなく、思われているほうなのが。
「アンタのせいであたしの人生は滅茶苦茶になったんだからな!」
気がつけば私は廊下に出ており、目の前には何処の誰かとも分からない(恐らく同じ制服を着ていることから同学年の学生だろう)少女がいた。
「マジでアンタのせいなん理解してんの?」
被害妄想もいいところだ。
そもそもの話、私は目の前で何かを宣っている少女のことを知らない。それは話したことのないクラスメイトや道ですれ違った人等の知らない人ではなく、文字通り一切の接点がなく、目にするのも初めてという記憶に一切ないという意味での知らない人だ。知らないから、彼女の人生を滅茶苦茶にしたとか言われても訳が分からない。
今日はよく知らない人に絡まれることの多い日だ。
「申し訳ございませんが、私は貴女のことを一切存じ上げません。人違いではないでしょうか?」
「……ッ!」
一瞬彼女の瞳が見開かれる。このような行動に出た人間を見たのは二回目だ。最近は人の発言にいちいち驚くことが流行っているのだろうか。
「貴女、それでごまかすつもりか!?」
なるほど、彼女は私が人違い発言でこの場をやり過ごそうとしていると勘違いしているのか。それなら私の発言に驚いて目を見開いたのも納得できる。彼女目線では、あまりにも簡単すぎる嘘でごまかそうとしている私が滑稽に映ったのだろう。
「だから人違いと言っているでしょう? 私は貴女のことなど一切知りませんし、聞いたことありません」
しかし、私の返答がそれで変わることはない。私は彼女のことを知らない、結局答えはそれだけだ。
「だからアンタに──」
「それでも私の責任というなら証拠を出してください」
例えば私が彼女の人生を滅茶苦茶にする理由、例えば彼女の人生を滅茶苦茶にした者の名前。証拠さえ揃えば私が人違いであるというのは容易に証明されることだろう。
「……うっ────」
彼女の口籠る。一体どうしたというのだろう。体調でも悪い……というのは鈍感主人公の役割であり、私の役ではないか。ならばというもの、彼女の発言の籠りというのはもしも私が他人だった場合、情報が外部に漏れるのを恐れているのだろう。それなら彼女が現在焦っているのにも説明がつく。
「アンタがあんな事したせいで、アタシの地位がマジ底辺まで落ちてんやけど!」
「だから私は貴女のことを知りませんし、あんな事と言われてもわかりません」
「せやから、アンタがした行動がこっちまで飛び火してんや。別の誰かではなく、まさしくあんた自身の行動がや」
「ですから、何をしたのか教えていただかないとこちらも一切わかりません。一体どんな行動が貴女に害を及ぼしたのか教えていただいても宜しいでしょうか?」
「何かぐらいは分かるやろ。そんだけの事をしでかしてんやから知らんとは言わせへんで」
「ですから──」
会話の一方通行とはまさしくこの事を言うのであろう。私は他人であるから譲ることができない。対して相手は相手で、犯人は私と決め込んでるので譲れない。まるで精神年齢が幼い者同士の喧嘩のように、終わることのない会話は、私の気絶と共に幕を閉じた。
〇●〇
さてさてさて、物語の一話を締めくくるには些か強引ではあるが、私の権限としてそれは認めてもらいたいところだね。
だって誰も、あのまま話が進まないのは望んでいないだろう? かく言う私もそんな事は一切望んでない。そうだね、あの子の考えで言うなら、これは『健康体でも唐突に意識を失う』異常現象だろうか。異常現象の中の異常現象。今までのあの子が体験したのは、主人公が体験したかもしれないお膳立てに過ぎないのだ。
実際私はこんな早くに出てくる予定じゃなかったけど、出てきてしまったものはしょうがない。折角登場したのだし、何か情報でも落とすのがいいのかな? そうだねー、どこから語るか。あの子のことはあの子自身が語るとして、主人公の事でも語るか。
そういえば、あの子がまだ狂っていなかった時の口癖は『結局、私は物語に影響を与えることができない』だったけか。それはまさしくあの子の現状ーー否、一生を言い当ててるというものだ。主人公の存在に一切かかわることができず、影響を与えることの出来ない少女、それがあの子だ。
『僕の異世界転生はテンプレートすぎる』見る気の失せる様なタイトルの本を後ろに放り投げながら、私はあの子の現状を再度確かめる。
如何やら話し相手であった彼女があの子をわざわざ保健室まで運んであげたようだ。何だかんだ言って、流石は未来の異世界転生者、次期貴族の令嬢になるだけはある。まあ、暗躍系悪役令嬢だが、一応サブヒロインでもあるから良しとしよう。
物語が終了する前に述べておくが、私は自分から死神と名乗ったわけでない。確かにあの子曰く私は死を司り、生を弄ぶ存在だ。しかし、人によれば絶対悪を叩きつける私とて、元は人間だ。何も無い、それこそ現代日本に生まれたただ普通の人間だったのだ。
おっとそろそろ喋りすぎだったりするかな。これ以上の私の話はあの子の話とも密接に関わってくるからこのくらいで辞めておこうか。それに、私はそもそもこの物語では概念に近しい存在だ。概念が世界に手を出すなど、漫画家が自身の漫画の世界に手を加えるほどの暴虐な行動である。
またの機会が存在すれば私についてももっとはっきりと明確に語ることがあるかもしれない。その時はよろしく頼むよ。
あの子の事についてただ一つ、語れることがあるとするならば、それは『いくら世界が非常識でも、現在のあの子周りは常識だ』というくらいだろう。
続きはまだ描き始めてない上、リアルも結構忙しいので、続きの投稿には時間かかると思います。ただ、止める予定は一切ないので気長に待っていて貰えると嬉しいです。